◇◆ 摩耶、お風呂上がりの準備 ◆◇
シャワーの水滴が肌を伝い、浴室の温かい空気がほんのりと揺れる。
摩耶は、湯気がこもる浴室の中で、ポタポタと滴る髪を手でかき上げた。
(……さて、と)
浴室扉を少し開けて,手を差し込む。
浴室扉のハンガーにかけておいたバスタオルを引き寄せ、ザッと頭にかぶせる。
ゴシゴシ、ワシャワシャ。
適当に髪の水気を吸わせながら、肩に落ちる雫をぬぐう。
次に体を拭こうとして――ふと気づく。
(……いや、髪こんな濡れたままだと、バスタオルびちゃびちゃになんじゃん)
一瞬で「アホの子」な行動をしかけたことを自覚、静かに手を止める。
「……気を取り直してっと」
今度は、濡れた髪をまとめ、バスタオルでしっかり水分を取る。
(……この辺、ちゃんとしないと、あとで乾かすの大変だし……)
タオル越しにギュッと髪を絞った後、ようやく「タオル巻きモード」に移行。
バスタオルを身体にきっちり巻き付け、端を胸元にビシッと留める。
(もう慣れたもんだぜ……)
ビシッと決まったバスタオルを確認し、摩耶は浴室の扉に手をかけた。
◇◆ 摩耶、髪を乾かすか悩む ◆◇
「ふぅ……」
浴室のドアを開け、暖かい空気がスッと抜ける。
鏡に映る自分の姿を見て、摩耶は軽く髪を揺らした。
(……髪、乾かさねぇと……)
そう呟いて、ふと眉をひそめる。
(……そっか、アタシ、さっき……)
シャワーに入る前――
「髪乾かしてあげるから、上がったら呼んでね!」
提督はそう言ってくれた。
なのに――
「今日はいい……」
摩耶は、ぶっきらぼうにそう返してしまった。
(……あああああああ!!!!!)
お風呂に入る前の自分を全力でぶん殴りたくなる。
(何言ってんだよアタシ!? 乾かしてもらうの、大好きなくせに!!)
思い出すのは、提督の優しい手。
温かい風がふわっと広がる感覚。
頭皮をマッサージするような、あの心地よい指の動き――。
(……うぅぅぅ……)
ほんのり顔が赤くなる。
(髪乾かしてもらってると、なんか心がぽかぽかしてくんのに……)
でも、もう言っちゃったし。
ここで「やっぱ乾かして」なんて言うのも、なんか負けた気がするし。←誰に?
(くっそ……アタシのバカ……)
そんな風に悶々と考え込んでいると――
◇◆ 提督、絶妙なタイミングで登場 ◆◇
ガチャッ
「摩耶、髪どうする?」
(え!?)
扉の隙間から、ひょこっと顔を出す提督。
何だかいたずらな笑顔.
あまりに自然な流れすぎて、摩耶は一瞬思考が停止した。
(い、今のアタシの気持ち、読まれてた……!?)
めちゃくちゃ笑顔になりかけるが、寸前でストップ。
(あ、あぶねぇ……!!)
すんでのところで「ツン」を発動。
顔の筋肉を総動員し、仏頂面をつくる。
「……別に、乾かさなくても……」
言った瞬間、"本能"と"プライド"が全力で戦う。
(でも…………)
(いやいや、ここでデレたら負けだろ!?)←誰に?
(……けど……っ!)
脳内会議の結果、苦し紛れに超「ツン」な発言をひねり出す。
「……いい……でも……」
提督が「ん?」と首を傾げる。
摩耶は一瞬、言うか言わないかで葛藤し――
「……提督がどうしても乾かしたいって言うなら……」
(何言ってんだアタシィィィィ!!!!???)
頭の中で悶絶するも、もう言ってしまったものは取り消せない。
提督は微笑みながら「そっか」と言い、優しく摩耶の手を取った。
(あ、やば、触れられただけで心臓やべぇ……)
そのまま洗面台の前にある籐椅子に、ちょこんと座らされる摩耶。
提督は自然な動作でドライヤーを手に取り、コードを伸ばす。
背後から、柔らかなタオルがそっと頭にかぶせられる摩耶。
(あっ…………)
優しくポンポンと押さえるように水気を取られ、思わず身じろぐ。
(くっそ……提督……優しすぎる……)
(……こっちは「やらせてあげる」って言ったんだぞ……?)
「ん、摩耶、ちょっと前かがみになって」
「……うっ……うん……///」
タオル越しにそっと髪に触れる指先、髪がふわっと持ち上げるような感触。
(っ……!)
摩耶の喉奥が、ふいに震えた。
いつもの、優しい提督の手。
心地よい指の動き。
髪をふわりと梳く優しい感触。
(……ほんと、なんでさっき「今日はいい」とか言っちまったんだろ……)
この、あたたかな手を。
アタシのために動いてくれる、この手を……
「バスタオル、ずれないようにね」
「っ……!?」
ドキッとする言葉に、一気に現実に引き戻される。
「わ、分かってるって!!///」
バスタオルをぎゅっと押さえ、思わず肩をすくめる。
(ちょ、ちょっと待て……! 意識させるようなこと言うな!)
提督は気にする様子もなく、タオルを丁寧に外し、ドライヤーを持ち直した。
ピッ――
スイッチが入る。
「摩耶、こっち向いて」
「……うん……」
いつも通りの、何気ない言葉。
けれど、ほんの少しだけ。
その声が、いつもより優しいように感じる――。