◇◆ 何気ない会話、でも心は…… ◆◇
「摩耶、ドライヤー熱くない?」
提督の声に、摩耶はハッとする。
「ん……?」
ドライヤーの温風が、髪の根元から毛先へと丁寧に流れていく。提督の手が髪を優しくすくいながら、風を当てる位置を調整している。
「大丈夫?」
「……別に。平気」
摩耶は少しそっぽを向きながら、そっけなく答える。
(あー……アタシ……言い方、ちょっとツンすぎ?)
そう思いつつも、すぐに言い直すのはなんか悔しくて、黙ったままじっとドライヤーの風を受ける。
提督は「良かった……」と軽く返し、また黙々と乾かし続ける。
――しゅおおおお……
静かな風の音だけが、ゆるやかに時間を刻む。
摩耶はじっと鏡の中の自分を見つめる。
はじめて提督に髪を乾かしてもらったとき、妙に手際が良くて驚いたことを思い出す。
「……なあ」
ぼんやりとそんなことを思い出しながら、ふと口を開いた。
「提督ってさ……髪乾かすの……上手じゃん……」
提督はくすっと笑う。
「そう?」
(……別に……アタシが深く考えることじゃ……でも……)
「……ふん」
摩耶は拗ねたように横を向く。
◇◆ 蘇る記憶、あの甘い声 ◆◇
(なんか……)
提督の手が、ふわりと髪を持ち上げる。その優しい仕草に、摩耶の脳裏に昨日の夜戦(意味深)が鮮明に蘇る。
(や、やばい……)
(また思い出しちゃう……!!)
提督の低く優しい声が、脳裏に響く。
(『「行くよ……摩耶……』)
(『摩耶……行くよ……』だったっけ?)
(っ……!!//////)
ドクン、と胸が跳ねる。
あの声。
あの瞬間。
摩耶は思わず膝頭をギュッと閉じ、膝の上で手をぎゅっと握る。
「……摩耶?」
「っ! 何でもない!!」
「……?」
少し怪訝そうな提督を誤魔化すように、摩耶は無理やりそっぽを向く。
(……今の顔、絶対ヤバかった!!)
でも、思い出すのは止められない。
(『うん……来て……』)
(あああああ!!!!)
(アタシ、バカか!? なんで思い出してんだよ!!)
摩耶はじたばたしたくなるのを必死でこらえ、気づかれないように深呼吸した。
◇◆ 「ツン」から「デレ」、そして…… ◆◇
「ほら、もうちょっとだから、じっとして」
提督の落ち着いた声が、摩耶の思考を現実に引き戻す。
「……」
(……こいつ、ほんといつも通りだよな……)
摩耶はじっと目を伏せる。
(……優しい)
ほんの少し、こみ上げる何かを抑えながら、摩耶は小さく息をついた。
そして、そっと目を閉じる。
(……やっぱり……提督に髪乾かしてもらうの……)
ポカポカとした風と、提督の手の優しい感触が、摩耶の心をゆっくり溶かしていく。
◇◆ 仲直り、でもツンは忘れない ◆◇
「……乾いた!」
最後に髪全体を指でとかすようにして、提督がドライヤーのスイッチを切る。
「サラサラ!(ニコッ)」
摩耶はふわっとした髪を指で軽く梳かしながら、鏡の中の自分を見つめる。
(……うん……)
「ツン」を発動できない摩耶、鏡越しに提督を見上げる。
頑張れ!摩耶!
「摩耶……」
「ん……?」
「サラサラ!」
そう言って、提督は微笑む。
再び「ツン」を発動できない摩耶、今度は少し目を伏せる。
「……ん……」
提督の目が、ふわっと優しく細まる。
「…………」
静かな空気。
しっとりとした温もりが、二人を包み込む。
(……あー……)
(この感じ……照れる……)
摩耶は、視線を泳がせる。
(……やばい……かも……)
(ここで「ツン」を……)
摩耶はバッと立ち上がり、
「でも! べ、別に!…… アタシは!……」
と、頑張って「ツン」モードを発動させようとする。
提督はくすっと笑い、
「うん……」
と、優しく流す。
「ちょ、何だよ……それ……!」
(……あれ……アタシ……今……超幸せ……かも?)
口を噤む。
提督に、優しく抱き寄せられる摩耶。
摩耶は提督をそっと見上げ……そして……目を閉じる。