◇◆ 摩耶、ダイニングテーブルへ ◆◇
リビングに足を踏み入れると、カーテン越しの朝日がふんわりと差し込んでいた。
気持ちの良い光が、ダイニングテーブルの上の食事を柔らかく照らす。
ほかほかの白いご飯、湯気を立てる味噌汁、脂がのった鮭の塩焼き、大根おろしが添えられている。
そして、きっちりふたつ並んだ納豆のパック。
摩耶はそっと息を吐いた。
目を向けると、ダイニングチェアに座っている提督が、ニッコリと微笑んでいる。
「摩耶。朝ご飯、できてるよ」
「……う、うん……」
摩耶は少しぎこちなく返事をして、ダイニングテーブルへ向かう。
◇◆ 摩耶、横並びに動揺する ◆◇
四つのダイニングチェア――向かい合わせと横並び。
朝食は横並びを想定した配膳。
(……今日は横並びか……)
摩耶はほんの一瞬、動きを止める。
いつもなら向かい合わせのことが多い。
でも、昨夜の夜戦(カッコ意味深)のことを思い出すと、今朝はちょっと恥ずかしい……。
(……まあ、今日は……まあ、いっか……)
摩耶がそっと息を吐き、横並びの席に座ろうとした、その瞬間。
「……っ!」
提督が摩耶を見上げ――なんともいえない優しい笑顔を浮かべていた。
しかも、ニッコニコ。
(な、なんだよ……!?)
摩耶、若干身もだえ。
(な、なんで提督、そんなに嬉しそうにしてんの!?)
(……もしかして……アタシのコーデ……!?)
今朝の摩耶のコーデ。
ネイビーのスリムパンツに、ほんのりガーリーなアイボリーのブラウス。
動きやすくて、それでいて可愛い――提督が以前「可愛い」って褒めてくれたコーデ。
「……っ!」
摩耶は咄嗟に目をそらし、提督の横に座る。
(くそっ……なんか……なんか、恥ずかしい……!!)
(あ、あの顔……絶対アタシのコーデに気づいてる……!!)
落ち着かないまま、ふと提督に視線を向けた瞬間――
「摩耶、やっぱりそのコーデ、似合ってる」
「~~~~っっ!!???」
摩耶、反射的に首をすくめる。
案の定、提督は悪気なく――というか、超無意識にとどめを刺しにかかってきた。
提督が、ぼそっと呟く。
「……素顔の摩耶も可愛いな……」
「~~~~~~~~っっっ!!?????」
(ななななな、なんだとぉぉぉ!?!?!?!?)
摩耶、顔面沸騰。
(な、なにそれ!?!?!?!? ちょっ……まじで……えっ!? )
(いや意味は分かってる!でも口に出すなーっ!!)
「……っ!」
摩耶、握った箸をうっかり落としそうになり、咄嗟に手で押さえ込む。
動揺しすぎて、何も言えない。
「ん? どうした?」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
摩耶は全力で無言を貫く。
そっぽを向いて、ぐっと箸を握りしめる。
(……コイツ,アタシのことが好きすぎる……)
提督は気にも留めずに、穏やかな笑顔で納豆を混ぜている。
◇◆ 摩耶、提督の服装に気づく ◆◇
そんな提督を、摩耶は横目でちらりと見る。
ベージュのスリムジーンズ。ストレッチがかなり効いている。黒のTシャツの上に、シンプルな白シャツをジャケットのようにふわりと羽織っている。ボタンはカラフル。
(……って、あれ……)
摩耶、じっと見つめる。
(こ、これ……アタシが選んだやつじゃん……!?)
前に提督が「ちょっとカッコよくて、それでいて清潔感ある感じがいい」とか言ったのを思い出して、摩耶が選んでみたコーデ。
(……結構……イケてね……?)
無意識に、摩耶はゴクリと唾を飲む。
(……イケてるよな……ちょ、ちょっと……やばい……)
(アタシの提督……カッコよすぎるんだけど……)
頬がじわじわと熱くなっていく。
(……ち、違う違う!!)
(これはアタシのせいじゃない!!! これは……! これは服のせいだ!!)
◇◆ 摩耶、会話で自爆する ◆◇
摩耶はふと呟く。
「……今日は、並んでご飯なの?」
――その瞬間。
(……やべっ)
自ら地雷を踏んだことに気づく。
案の定、提督はふんわりと笑いながら、天然満開の口調で――
「ん? うん。今朝の摩耶、ちょっと恥ずかしそうな感じだったから、向かい合わせだと落ち着かないかなって」
「っっっ!!!??」
摩耶、全身に衝撃。
「それに、並ぶと距離近くていいじゃん?」
「~~~~っっ!!!」
(お、お前……!!! そういうことを、なんの気なしに言うなぁぁ!!!)
摩耶の顔がみるみるうちに赤くなる。
「でも……摩耶、今朝なんか恥ずかしいの?」←純粋な疑問
「~~~~~~っ!!!」
(そりゃ……昨日の夜戦(カッコ意味深)が激しかったからだろ!!!)
◇◆ 摩耶、話題を強引にそらす ◆◇
摩耶、目を泳がせながら、無理やり話題を逸らそうとする。
「……し、鮭、ひさしぶりだな!!」
裏返った声で思わず口走る。
「……昨日の朝ご飯も鮭だったけど……」
提督の純粋な疑問が、摩耶を直撃。
「……摩耶が、昨日鮭超旨いって喜んでたから……」
「~~~~~~~~っ!!」
(くそっ……アタシ……完全に負けてる……!!!)
◇◆ 摩耶、朝ご飯に翻弄される ◆◇
納豆のフィルムをはがそうとして、指がすべってしまう。
「あっ……」
提督が自然な動きで、手を伸ばす。
「貸して。……ほら、ちょっと待ってて」
パッと指先でフィルムを剥がし、たれとカラシをさっと混ぜる。
「はい、どうぞ」
「……ん。ありがと……」
素直に受け取りながらも、摩耶の心臓はやっぱりバクバクだった。
湯気の立ちのぼる味噌汁――
その湯気が、なんとなく“あの夜”のお風呂の湯気を思い出させて、また顔が火照る。
(……ちょ、ダメだアタシ……朝ご飯ひとつでこんなに振り回されてるとか……)
摩耶は、ごくごく普通の朝ご飯を前に、今日もまた思う。
(……アタシも……提督のこと好きすぎじゃね?……)