◇◆ 摩耶、メイクをする ◆◇
リビングの食器を片付け終えたあと、摩耶は寝室に戻り、姿見の横の小さなドレッサーに腰を下ろす。
窓から差し込む朝の光が、鏡越しにほんのりと頬を照らす。
鏡の中の、自分のすっぴん顔と向き合いながら――
「……よし、今日は『高雄バージョン』でいくか」
ぼそっと、そんな謎の宣言。
――摩耶には、裏メイク指導係がふたりいる。
ひとりは高雄。
「できる女メイク」の指南役。
もうひとりは愛宕。
「ふわかわメイク」のエキスパート。
最初は何が違うんだよって思ってたけど――
今では、鏡の前でちょっと悩む程度には、意識してる。
(今日は夜戦(意味深)明け……ってことは、高雄姉バージョンの日だな)←何故?
◇◆ 摩耶、化粧水と下地 ◆◇
まずは、軽く手のひらに化粧水を取り、ぱたぱたと肌になじませる。
冷たい感触に、ふっと目を細める。
「……ん」
続けて乳液を少しだけ。
丁寧に指先でのばしながら、肌を落ち着かせていく。
(ここまでで時間使いすぎると、高雄姉に『手際が悪い』って怒られんだよな……)
心の中でちょっとだけ笑って、それから、ベース下地をぽんぽんと頬と額にのせる。
スポンジで優しく叩き込んで――
「ナチュラルに、ナチュラルに……」
鏡に向かって、真顔で呪文のように呟いてしまうあたり、結構真剣。
◇◆ 摩耶、ファンデとチーク ◆◇
ファンデーションはリキッド。
ほんのり薄く、自然に肌を整えるだけでいい。
(……肌トラブル無し。っていうか……いつもより肌のハリよしっ!って感じ……?)
額・頬・あごに少量を置いて、スポンジでトントン叩き込む。
(高雄姉曰く、『自然な艶感が大事』らしい……)
そしてチーク。
平日メイクでは、入れる場所と濃さが勝負。
(ふんわり血色感だけにする。愛宕姉だったら、ここでもっとふわっと入れろって言ってきそうだけど……)
笑顔になったとき、頬がちょっと赤く見えるくらいにブラシで調整。
(うん、勤務顔になってきた)
◇◆ 摩耶、アイラインとリップ ◆◇
アイラインは焦げ茶。
目尻を少しだけ延ばして、自然に整える。
(跳ねさせねぇ……スッと、引きすぎないように……)
ちょっとだけ息を止めて――
「ふぅ……OK」
最後にリップ。
高雄姉直伝、「主張しすぎないピンクベージュ系」。
リップを薄くのせたあと、指先でぽんぽんとぼかして――完成。
◇◆ 摩耶、鏡の中の自分と向き合う ◆◇
(……できた)
鏡の中には、ほんのりピンクが差した頬と、自然な艶感のある肌。
どこか凛とした雰囲気のある自分が、そこにいる。
(……どうだ、高雄姉。今日のアタシ、イケてるか?)
ちょっとだけ誇らしげな気持ちになって――
(……てか、アイツ……気づくかな)
無意識に、唇を指で触れてしまう。
(別に、褒められたいとかじゃないけど……)
(ちょっとくらい、言われたら、嬉しいかも……なんて)
慌てて首を振って、立ち上がる。
さらりと髪をかき上げ――
鏡に向かって、ほんの一瞬だけ、微笑んでみせる。
(よし……出撃準備、完了だ)