◇◆ 摩耶、バスタオルを意識する ◆◇
「ふぅ……。」
摩耶は脱衣所でタオルを手に取り、髪から滴る水滴を払いながら、目線を下げる。
下ろしたての「ヨレヨレではない」パンツ。
※ ただし、ものは「ヨレヨレ」のと一緒。
いつもなら、セールで買った使い古しのヨレヨレを適当に履くのがルーティンなのに……
なぜか今日は違った。
※ 新品だけど、ものは「ヨレヨレ」のと一緒。
(何故かじゃねぇよ、アタシ。これは明らかに高雄姉の影響だ……!!)
いつもなら、首からバスタオルを適当にかけ、腰に手を当てて、鏡の前で牛乳をゴクッと飲む。
しかし、今日は――
(バ、バスタオル、ちゃんと巻いてみっか……?)
※ バスタオルを巻いて髪を乾かしてからショーツを履くのが正しい順番だと摩耶が知るのはもう少し後の話
普段なら絶対にしないことを、この夜,摩耶は初めて試みる。
……が。
バスタオルを綺麗に巻くのは、思ったより難しかった。
「……あれっ?」
ギュッと巻いたと思ったらズルッと落ちそうになったり、逆にキツく巻きすぎて締め付けが強くなりすぎたり。
(こんなもん、サッと巻けば終わりじゃねぇの!? なんでこんなに手こずるんだよ!!)
と、後ろから――
「摩耶、大丈夫?」
「だ、大丈夫だ!!(←大丈夫ではない)」
そんな摩耶の様子を見て、提督がクスクス笑いながら手を差し伸べてきた。
「ほら、ちょっと貸してみ? こうして……っと。」
そう言いながら、提督は器用にバスタオルを整え、摩耶の胸元でピシッと留めてくれた。
(あ……やべぇ、嬉しい……!!)
心の中で妙なドキドキを感じるが、同時に脳内から強烈なツッコミが入る。
(そこを喜んでる場合じゃねぇだろ、アタシ!!!!)
◇◆ 摩耶、牛乳を拒否る ◆◇
バスタオルがちゃんと巻けたところで、提督が声をかける。
「牛乳、持ってくるね」
(おっ……いつもの流れなら、「おう、頼む!」で、腰に手を当てて『プハッ!』なんだけど……)
摩耶は一瞬、笑顔で頷きそうになった。
だが――
「……今日はいい。」(←ぎこちない返事)
「えっ?」
(や、やっべ、めっちゃ不自然だったか!?)
提督、バスタオルを巻いた摩耶を見て超嬉しそうなのを摩耶は察する。
(提督、内心メッチャ喜んでるのわかる……でも、アタシは気づいてないフリを貫く……!!)
脳内ツッコミ (無理してるのバレバレだぞ、摩耶……!!)
◇◆ ドライヤーの音と明日の話 ◆◇
摩耶は洗面台の鏡の前に座り、ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡越しに提督に話しかける。
「明日、高雄姉と出かけるんだ。」
「へぇ、姉妹でお出かけか。いいな。」
その言葉に、提督はとても嬉しそうな優しい笑顔を浮かべた。
(うっ……!! なんかこの笑顔眩しい……!! アタシ罪深い……!!)
提督は、こういう何気ないことをすごく喜んでくれる。
……が、それどころではない。
摩耶は、ランジェリーショップに行くことを言えないまま、曖昧に話を続ける。
「まあ……なんか、いろいろ買い物したりするだけだけどな……。」
その時、提督が思い出したように言った。
「そうだ。今日、昼間にさ……」
「?」
「この間行ったイタリアンの割引券が届いてたんだよ。」
「……あのイタリアン?」
摩耶と提督が初デートで行った店。
その後も何度も訪れ、オーナーや店員さんともすっかり仲良くなっていた。
「せっかくだし、明日、高雄と一緒にランチしてきなよ。」
「…………。」
(…………。)
(………………。)
(…………………えっ。)
◇◆ 摩耶、悟る(地獄への片道切符) ◆◇
(おい待て、これって――
「デパートの下着売り場」→「高雄姉との楽しいショッピングという名の試練」→「そしてイタリアンで優雅にランチという名の反省会」
(……地獄のフルコースじゃねぇか!!!!!)
◇◆ 摩耶の引きつった笑顔 ◆◇
摩耶、ぎこちない笑顔を浮かべながら返す。
「……た、高雄姉も喜びそうだな……。」(←明らかに声が震えている)
「だろ? 摩耶も楽しんでこいよ。」(←全く悪意のない純粋な笑顔)
(提督は何も知らねぇ……いや、知らないからこそ、よりタチが悪い……!!!)
「しかもさ、この割引券、3名様まで有効なんだよ(ニコっ)」
「…………。」
(3名様まで……? いやいや、アタシと高雄姉の二人で使えばいいじゃねぇか……。)
「そういえば、今日秘書官をやってくれた愛宕,明日は休みのはずだったな……」
「………………。」
(え、えええええええ!?!?)
「せっかくだし、愛宕も誘ったら?」
「…………!!」
◇◆ 摩耶、動揺MAX ◆◇
(愛宕姉も!?)
(待て待て待て待て待て!!!)
(デパートで高雄姉と二人だけでもアタシには試練なのに、愛宕姉も!?)
「そ、そ、そ、そうなの……?」(←めっちゃ動揺)
「ああ、確か愛宕、明日予定ないって言ってたから、声かけたら喜ぶと思うぞ。」
(いや、喜ぶと思うとかじゃなくて、こっちの問題なんだが!?)
「で、でも、愛宕姉も忙しいだろうしな……。」(←超しどろもどろ)
「え? いや、明日は予定ないって言ってたし。」(←純粋な疑問)
「そ、そうだけどさ!! なんていうか、その……!」
(クソッ!! これ以上話題を続けたら、流れで絶対に決定される!!)
「で、でもほら! 高雄姉と二人の姉妹水入らずの時間も大事じゃん!!」
「そうか? まあ、それなら無理にとは言わないけど……。」
(………………。)
(ふぅ……魚雷をギリギリ回避した……。)
……そう思った矢先、摩耶の脳内に、とてつもなく悪い予感が忍び込んできた。
(もうアタシの明日は決まったな……。)
地獄へのカウントダウンがスタート――。