摩耶の鎮守府日記   作:ワタナベ提督の鎮守府

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摩耶、鳥海とのランチへ

◇◆ 摩耶、食堂に入る ◆◇

 

昼休み少し前。摩耶は制服姿で、食堂の入り口に立っていた。

 

鎮守府の食堂は、レトロな外観とは裏腹に、内装はちょっとおしゃれなカフェ。

 

木目のフロア、艦娘たちの声がにぎやかに響く空間。

 

天井からは、妖精さん謹製のエネルギー効率抜群なランプが柔らかく光を落としている。

 

鎮守府の食堂に足を踏み入れると、美味しそうなランチの香りが鼻腔をくすぐる。

 

(……腹減った)

 

摩耶は、ざっと室内を見渡す。

 

窓際には、外に面したカウンタータイプの席が並んでいる。

 

カフェ風の高い椅子と細長いテーブル。向こうには、昼の陽光が差し込む広い窓。

 

(あ、いた)

 

鳥海が、トレイを持ってその窓際席に向かっていた。対空戦闘で鍛えられた摩耶の目は、鳥海のトレイに乗っているのがイタリアンパスタの定食であることを即座に確認する。

 

(……って、その前を歩いてるの……ふーふとみとじゃねーか)

 

ふーふ(第二十二号海防艦)とみと(第三十号海防艦)が、二人で仲良くカレーライスの乗ったトレイを大事そうに持って、歩いている。

 

テーブルの前にたどり着くが、そこは椅子が高いテーブル――

 

(あー……またか……)

 

(椅子が低い席もあるのに……あいつら……)

 

上手く座れない様子。

トレイはちゃんと置けてるのに、肝心の椅子によじ登ろうと足をバタつかせている。

 

「ちょっと、ふーふ、座んなさいよー」 「む、無理だよぉ、足ちょっと届かないの……」

 

(可愛いな、おい)

 

そんな微笑ましいやりとりをよそに、カウンターテーブルにトレイを置いた鳥海は、自然な動きで二人の後ろにまわる。

まずはふーふを、次にみとを、後ろから優しく抱き上げて椅子に座らせる。

 

「あ、ありがと、鳥海さん……」

 

「うんっ! ありがとうございまーすっ!」

 

鳥海はいつもの委員長スマイルで、

 

「ううん、大丈夫よ。よく持てたね、こぼさず偉いね!」

 

(……お前……アタシに圧かけてくる時と、別人すぎねーか……?)

 

摩耶はそっと目を細めた。

 

(アタシが三番艦で、鳥海が四番艦だよな? な? 上下関係どうなってんの?)

 

◇◆ 摩耶、昼ごはんをオーダーする ◆◇

 

厨房前に立つと、当番の足柄がエプロン姿でこちらに気づいた。

 

「摩耶、足柄さんのカツカレーいっとく? 今日のカツ、完璧よ!」

 

「焼き魚定食で……」

 

「えー? いいの? 今日のカツ、妖精さんが衣の配合を最適化してくれたのよ?」

 

(なんだよその謎技術……)

 

背後では、サブ担当の駆逐艦たち――綾波、敷波、長波、朝霜が慌ただしく厨房を動き回っていた。

 

(……この食堂、なんか地味に戦闘力高ぇな……)

 

摩耶は笑いながら首を横に振る。

 

「今日は魚の気分なの!!」

 

「了解〜、焼きたてでお届けよ!」

 

焼き魚定食のトレイを受け取って、再び食堂を見渡す。

 

カウンターの奥に視線をやると――

 

鳥海は、フォークを手に取るでもなく、外を眺めるでもなく――

 

摩耶の方を見ていた。

 

目が合う。

 

(……うわっ)

 

鳥海は何も言わず、ほんのわずかだけ顎を引いた。

 

無言の「こっち来て」――あの絶妙な上から目線の合図だ。

 

(……なんだよ……)

 

摩耶は内心でうめきつつ、トレーを持って窓際の席へと歩き出す。

 

◇◆ 摩耶、謎の敗北感 ◆◇

 

なんとなく重い足取りで、鳥海の元へ向かう。

 

メガネのレンズの奥、窓から差し込む昼の柔らかな光が反射して、知的な瞳がきらりと光る。

 

(こいつ、やっぱ超美人……)

 

(しかも超頭いいし、超優しいし、超委員長だし……)

 

(戦闘も……まあ、対空はアタシの方が……)

 

(でも……勝てそうなとこひとつもねぇ……)

 

摩耶の足取りが、さらに重くなる。

 

(……勝てるとこ、ない……マジで、ない……)

 

と、その時。脳内にふと蘇る記憶。

 

――ある日のロッカールーム。

 

「なあ鳥海、たまには逆に着てみよーぜ」

 

「……えっ?」

 

「ほら、アタシの制服ちょっと貸すからさ、鳥海のも貸してみ。な? 面白そうだろ?」

 

「……えっ?」

 

イタズラ半分、好奇心半分で、鳥海の制服を着てみたとき、

 

「……胸、きついんだけど……」

 

余計な一言をボソッとつぶやいた摩耶。

 

(あのときの鳥海……すげー不機嫌だったな……)

 

摩耶、こっそりニヤリ。

 

(ふっ……あの時の戦い、勝ったのはアタシだ)

 

そんなどうでもいい部分で、なぜか勝ち誇る残念な姉。

 

◇◆ 摩耶、着席 ◆◇

 

カウンター席に到着し、焼き魚定食のトレイをテーブルに置く。

鳥海の隣に、腰掛ける。

 

鳥海は、穏やかな口調でぽつり。

 

「摩耶、もう少し嬉しそうな顔してもいいんじゃない?」

 

「……い、いーだろ、べつに……」

 

(ああもう……なんでこいつ、いっつも……)

 

顔を背けながら、頬をかく摩耶。

その動作が、どこか子供っぽくて――

 

鳥海の口元が、ふっと優しく綻んだ。

 

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