◇◆ 摩耶、密談席に着席 ◆◇
摩耶が腰を下ろしたのは、カウンター席の一番奥。
窓に面したカウンターテーブルの端。昼の光が斜めから差し込み、鳥海のメガネのレンズがきらりと反射している。
(……な、なんだよ、この圧)
この席は、艦娘の間で“密談席”または“取り調べ席”と呼ばれているとか、いないとか。
摩耶も見たことがある。
扶桑と山城が、ここでしんみり話し込んでいたのを。
比叡が霧島に怒られていたのを。
夕張が明石に、妖精さんのサーバー増設について詰めていたのを。
(……アタシも、ついにここに座る日が来たのか……)
摩耶が焼き魚定食を前にして椅子に座ると、鳥海がちらりとこちらを見た。
「摩耶……」
第一声から、妙に静かな声。
摩耶、思わず背筋を伸ばす。
「はいっ!」
◇◆ 鳥海、末っ子モード発動 ◆◇
「……昨日、高雄姉さんと愛宕姉さんと、一緒におでかけしてたらしいじゃない?」
摩耶、思いきり箸を握ったまま固まる。
(うわ、来た!! そこからかーーっ!!)
「……あー……うん、行った」
「三人でランチ、素敵なお店だったみたいじゃない……」
「高雄姉さんと愛宕姉さんが立ち話しているの、聞いたわ」
(あああ……目が笑ってねぇ……!)
鳥海は、口調こそいつも通りだが、その声のトーンにほんのりと毒が混じっているように聞こえる。
「……えっと……たまたま予定が合っただけでさ……」
「私、誘われなかったけど?」
ぐさり。
「いや、別に、アレだよ? わざと声かけなかったとかじゃなくてさ?」
「ふぅん……」
(うぉぉぉぉぉ、ツンきたーーー!!)
鳥海のこの「ふぅん」、一番こわいやつ。
しかも、表情は笑顔のまま。つまり――本気で怒ってるやつ。
(ふーふとみとを優しく椅子に座らせてたのと同一人物かよ……)
◇◆ 摩耶、必死の言い訳モード ◆◇
「ち、違うんだよ? 高雄姉とたまたま休みが一緒だったから、出かけようって話になって……待ち合わせ場所に行ったら、なんか愛宕姉もいて……」
「へぇ〜、自然に三姉妹デートになっちゃったんだ……?」
「そう! そうそう! ……って、おい、言い方!!」
摩耶、思わずセルフツッコミ。
(なんでアタシ、妹にここまで気ぃ遣ってんだ……?)
鳥海は、じっと摩耶の目を見つめている。
その視線が、優しいようで、でもどこかツンツンしていて。
「私も……行きたかったな」
ぽつりと、寂しそうに呟いたその一言に――
摩耶の心臓が、キュッと締め付けられた。
◇◆ 摩耶、思わず謝罪 ◆◇
「……ごめん」
「え?」
「……悪かったよ。ちゃんと声かけりゃよかったなって、思ってる」
摩耶は頬をかきながら、ちょっと俯きがちに言う。
「アタシ、こういうの苦手なんだけどさ……お前が寂しい思いしたなら、ほんと、悪かった」
鳥海の目が、ほんの少しだけ見開かれた。
そして、その顔がすっと緩んで――
「……ありがと」
ふんわりと微笑む。
(あ……可愛いじゃねぇか、鳥海)
◇◆ 摩耶、うっかり口を滑らせる ◆◇
「……で? 昨日はどこ行ったの?」
「あー……えっと……最初に行ったのは……」
摩耶、ちょっと考える。
(どうする? いや、隠すほどのことじゃないしな……)
「……ランジェリーショップ」
「ラン……」
「……ジェリーショップ」
「……は?」
鳥海、固まる。
メガネの奥の目が、瞬間的に光を失う。
「摩耶が……ランジェリーショップ……あの……下着の?」
「おぅ……」
「なんで?」
「愛宕姉が新作出たからって、見に行きたいって……で、高雄姉が『摩耶も連れて行けば?』って……」
(ちょっと違うけど……嘘じゃない……よね?)
「えっ、さっきは高雄姉との待ち合わせって言ってなかった?」
(ぎゃああああ!!!)
「で……?」
「詳しく聞かせなさいよ。ぜ・ん・ぶ」
◇◆ 摩耶、完全尋問モード突入 ◆◇
(やっべ、地雷踏んだ……!!)
「おっ一昨日、演習終わってシャワー浴びた後に牛乳飲んでたら、高雄姉に怒られて……」
「牛乳飲んでただけで怒られる……? なにそれ、伏線?」
「高雄姉がアタシのパンツ見て……」
「あぁ……」←状況を完璧に理解した鳥海。
「で、一緒に下着買いくって、デパートに連れてかれて……」
「……あのさ、なんでそんなに興味あんだよ!」
「興味じゃなくて確認よ」
(いや、どう見ても興味津々だろが!!)
「で、何色? デザインは?? 試着は???」
なぜかたたみかける鳥海。
「ちょ、待て、落ち着け鳥海!!」
鳥海の眼鏡がキラリと光る。
「あっ……。“あの話”も、本当だったの?」
「え、なに、“あの話”って……?」
「“摩耶、試着室で激闘”って……高雄姉さんと愛宕姉さんが、雑談で言ってたわ……」
(こえぇぇぇぇ!!!)
◇◆ 姉妹の距離感 ◆◇
摩耶、顔を覆って頭を抱える。
「もうやだ……」
「……正直に話してくれたら……許してあげる」
「どこの尋問官だよ、マジで!!」
そう言いながらも――
そのやり取りの中で、どこか安心している自分がいた。
(……なんだかんだで、やっぱ鳥海は鳥海だな)
鳥海もまた、隣に座る摩耶の横顔をちらりと見て――
ほんの少しだけ、その唇の端が、優しげに綻んだ。