摩耶の鎮守府日記   作:ワタナベ提督の鎮守府

54 / 96
摩耶、尋問される

◇◆ 摩耶、密談席に着席 ◆◇

摩耶が腰を下ろしたのは、カウンター席の一番奥。

 

窓に面したカウンターテーブルの端。昼の光が斜めから差し込み、鳥海のメガネのレンズがきらりと反射している。

 

(……な、なんだよ、この圧)

 

この席は、艦娘の間で“密談席”または“取り調べ席”と呼ばれているとか、いないとか。

 

摩耶も見たことがある。

扶桑と山城が、ここでしんみり話し込んでいたのを。

比叡が霧島に怒られていたのを。

夕張が明石に、妖精さんのサーバー増設について詰めていたのを。

 

(……アタシも、ついにここに座る日が来たのか……)

 

摩耶が焼き魚定食を前にして椅子に座ると、鳥海がちらりとこちらを見た。

 

「摩耶……」

 

第一声から、妙に静かな声。

 

摩耶、思わず背筋を伸ばす。

 

「はいっ!」

 

◇◆ 鳥海、末っ子モード発動 ◆◇

「……昨日、高雄姉さんと愛宕姉さんと、一緒におでかけしてたらしいじゃない?」

 

摩耶、思いきり箸を握ったまま固まる。

 

(うわ、来た!! そこからかーーっ!!)

 

「……あー……うん、行った」

 

「三人でランチ、素敵なお店だったみたいじゃない……」

 

「高雄姉さんと愛宕姉さんが立ち話しているの、聞いたわ」

 

(あああ……目が笑ってねぇ……!)

 

鳥海は、口調こそいつも通りだが、その声のトーンにほんのりと毒が混じっているように聞こえる。

 

「……えっと……たまたま予定が合っただけでさ……」

 

「私、誘われなかったけど?」

 

ぐさり。

 

「いや、別に、アレだよ? わざと声かけなかったとかじゃなくてさ?」

 

「ふぅん……」

 

(うぉぉぉぉぉ、ツンきたーーー!!)

 

鳥海のこの「ふぅん」、一番こわいやつ。

しかも、表情は笑顔のまま。つまり――本気で怒ってるやつ。

 

(ふーふとみとを優しく椅子に座らせてたのと同一人物かよ……)

 

◇◆ 摩耶、必死の言い訳モード ◆◇

「ち、違うんだよ? 高雄姉とたまたま休みが一緒だったから、出かけようって話になって……待ち合わせ場所に行ったら、なんか愛宕姉もいて……」

 

「へぇ〜、自然に三姉妹デートになっちゃったんだ……?」

 

「そう! そうそう! ……って、おい、言い方!!」

 

摩耶、思わずセルフツッコミ。

 

(なんでアタシ、妹にここまで気ぃ遣ってんだ……?)

 

鳥海は、じっと摩耶の目を見つめている。

 

その視線が、優しいようで、でもどこかツンツンしていて。

 

「私も……行きたかったな」

 

ぽつりと、寂しそうに呟いたその一言に――

 

摩耶の心臓が、キュッと締め付けられた。

 

◇◆ 摩耶、思わず謝罪 ◆◇

「……ごめん」

 

「え?」

 

「……悪かったよ。ちゃんと声かけりゃよかったなって、思ってる」

 

摩耶は頬をかきながら、ちょっと俯きがちに言う。

 

「アタシ、こういうの苦手なんだけどさ……お前が寂しい思いしたなら、ほんと、悪かった」

 

鳥海の目が、ほんの少しだけ見開かれた。

 

そして、その顔がすっと緩んで――

 

「……ありがと」

 

ふんわりと微笑む。

 

(あ……可愛いじゃねぇか、鳥海)

 

◇◆ 摩耶、うっかり口を滑らせる ◆◇

「……で? 昨日はどこ行ったの?」

 

「あー……えっと……最初に行ったのは……」

 

摩耶、ちょっと考える。

 

(どうする? いや、隠すほどのことじゃないしな……)

 

「……ランジェリーショップ」

 

「ラン……」

 

「……ジェリーショップ」

 

「……は?」

 

鳥海、固まる。

 

メガネの奥の目が、瞬間的に光を失う。

 

「摩耶が……ランジェリーショップ……あの……下着の?」

 

「おぅ……」

 

「なんで?」

 

「愛宕姉が新作出たからって、見に行きたいって……で、高雄姉が『摩耶も連れて行けば?』って……」

 

(ちょっと違うけど……嘘じゃない……よね?)

 

「えっ、さっきは高雄姉との待ち合わせって言ってなかった?」

 

(ぎゃああああ!!!)

 

「で……?」

 

「詳しく聞かせなさいよ。ぜ・ん・ぶ」

 

◇◆ 摩耶、完全尋問モード突入 ◆◇

(やっべ、地雷踏んだ……!!)

 

「おっ一昨日、演習終わってシャワー浴びた後に牛乳飲んでたら、高雄姉に怒られて……」

 

「牛乳飲んでただけで怒られる……? なにそれ、伏線?」

 

「高雄姉がアタシのパンツ見て……」

 

「あぁ……」←状況を完璧に理解した鳥海。

 

「で、一緒に下着買いくって、デパートに連れてかれて……」

 

「……あのさ、なんでそんなに興味あんだよ!」

 

「興味じゃなくて確認よ」

 

(いや、どう見ても興味津々だろが!!)

 

「で、何色? デザインは?? 試着は???」

 

なぜかたたみかける鳥海。

 

「ちょ、待て、落ち着け鳥海!!」

 

鳥海の眼鏡がキラリと光る。

 

「あっ……。“あの話”も、本当だったの?」

 

「え、なに、“あの話”って……?」

 

「“摩耶、試着室で激闘”って……高雄姉さんと愛宕姉さんが、雑談で言ってたわ……」

 

(こえぇぇぇぇ!!!)

 

◇◆ 姉妹の距離感 ◆◇

摩耶、顔を覆って頭を抱える。

 

「もうやだ……」

 

「……正直に話してくれたら……許してあげる」

 

「どこの尋問官だよ、マジで!!」

 

そう言いながらも――

 

そのやり取りの中で、どこか安心している自分がいた。

 

(……なんだかんだで、やっぱ鳥海は鳥海だな)

 

鳥海もまた、隣に座る摩耶の横顔をちらりと見て――

 

ほんの少しだけ、その唇の端が、優しげに綻んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。