◇◆ 摩耶、気づいてしまう ◆◇
鳥海の口元が、ふっと綻ぶ。
「もう……摩耶、可愛すぎ……」
それは、ほんの小さな呟きだった。
だけど――
摩耶の戦場で鍛えた鋭敏な聴覚は、その囁きをしっかりと拾っていた。
(……いま……鳥海、なんか言った?)
けれど、内容までははっきり聞き取れない。
(んん……? なんか……優しかったような……いや、まさか……)
鳥海はすでに、いつものクールな表情に戻っていた。
摩耶は聞き返すタイミングを逃し、モヤモヤを抱えたまま、箸を持ち直す。
(なんか妙に嬉しいような……でも、めっちゃ怖いような……)
その直感は、見事に当たることになる。
◇◆ 鳥海、再び尋問モード ◆◇
「で……試着は?」
静かで、有無を言わせぬ声色。
摩耶は箸を止め、ゆっくりと鳥海を見た。
「アタシがノリノリだったわけじゃなくてさ……高雄姉と愛宕姉に押し切られて……しょーがなく……」
「ふぅん……」
(うわっ……きたよ……例の“ふぅん”……!)
今日、すでに三度目。
摩耶の中で「鳥海のふぅん」は警報音として完全にインストールされた。
◇◆ 鳥海、核心に迫る ◆◇
「じゃあ……ショーツは?」
「ショッ……!?」
摩耶の肩が、ビクッと跳ねた。
「しょ、しょうがないから……試着……した……けど?」
言ってから、自分の言葉に疑問を感じる。
(あれ……アタシ、今なんか嘘ついた……?)
「へぇ……ショーツの試着って……できるんだっけ?」
「そ、そうそう……あー、いや、できなかったかも……?」
摩耶の目が泳ぐ。視線が定まらない。
(まずい……自分でも何言ってんのかわかんなくなってきた……!)
鳥海の声が少しだけ低くなる。
「ショーツって、試着できないでしょ?」
「うっ、うん……」
摩耶の箸がピタッと止まる。
「そ、それは……!」
「正直に話したらいいのに……」
冷静で落ち着いた、取調官の口調。
摩耶の脳裏に、警告音が鳴り響く。
(でたーっ! 超冷静な追い込みモードっ!!)
◇◆ 摩耶、自供する ◆◇
(だ、ダメだ……この目には勝てねぇ……!)
摩耶は観念して、ゆっくりとうつむいた。
「……家に帰ってから、白と黒……試着した……」
鳥海は、静かに目を細めて、少しだけ間を取る。
「……そういえば、黒は……Tバック、だったわね?」
「~~~~~~っっ!!!」
摩耶の顔が、湯気が出そうなほど真っ赤になる。
「……う、うん……」
(……ここでアタシが話したこと……全部……覚えてんのか……!!)
◇◆ 摩耶、なぜか反撃に出る ◆◇
ここで終わらないのが、摩耶。
羞恥の極みに達した脳が、なぜか反撃モードに突入する。
「で、でもな!?」
「鳥海は知らないかも知んないけど、Tバックって、すげぇんだぞ!!」
「……へぇ」
「だって、パンツはいても下着のラインがぜーんぜん見えねぇんだ!」
「……………………」
既に知っている。というか、私服ではTバックを愛用している鳥海。
「なんかこう……お尻がしゃんとするっていうか! 背筋が伸びるっていうか!」
「ふぅん……」
(あれっ、アタシ、またちょっと押してるかも!?)
摩耶の心に、根拠のない自信が芽生える。
「最初は変な感じだったけどさ……クセになる、かも?」
鳥海はほんの一瞬だけ目を見開いたが、すぐに小さく咳払いし、背筋を伸ばす。
◇◆ 鳥海、核心をつく ◆◇
「じゃあ……摩耶」
鳥海が、すっと摩耶に目を向ける。
「新しい下着……家で……ひとりファッションショーとか、した?」
「へっ……?」
「……鏡の前でポーズとったりとか?」
「な、なっ……なんで知ってんだよ!!」
鳥海の巧みな誘導に自爆する摩耶。
摩耶は顔を真っ赤にしながら立ち上がりかけるが、慌てて椅子に座り直す。
「ち、ちがっ……ちがうからなっ!?」
「ふぅん……」
鳥海の眼鏡が、ほんのり光を弾いた。
◇◆ 鳥海、ツンが崩れる一瞬 ◆◇
摩耶の混乱っぷりに、鳥海の口元がふっと緩む。
「……もう、摩耶ってば……」
ほんのわずかに頬が赤らみ、視線がテーブルの上に落ちる。
その仕草を見ながら――
(……怒ってんのか、喜んでんのか……)
摩耶は、ちょっと困ったような顔で箸を持ち直す。
(でも……なんか、鳥海らしいよな)
鳥海が摩耶に目を戻す。
そして、涼しい顔で、再び口を開いく。
「……続き、聞かせて?」
「うぉぉぉぉぉいっ!!!」