摩耶の鎮守府日記   作:ワタナベ提督の鎮守府

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【昔話 #01】喪失編
摩耶、出航


◇◆ 鎮守府・早朝 ◆◇

 

提督との新居での生活が始まる前日。

摩耶は、日振型三人と近海の警戒任務に出撃する。

 

比較的安全な海域――敵もほとんど現れず、たまに偵察機が飛来する程度。

だからこそ、訓練も兼ねて、練度の低い艦娘が実戦経験を積むのに適していた。

 

摩耶は小さく呟く。

 

「……とはいえ、海は何が起こるか分からねぇ」

 

("安全"って言われる場所でも、何かが起こることはある)

 

「よし、全員揃ったな。じゃあ、行くぞ!」

 

「はいっ、摩耶さん!」(日振は素直だ……)

 

「摩耶の姉御が一緒だから、なんだか安心だぜ♪」(お前は小さい頃のアタシか、大東……)

 

「……(無言で頷く)」(昭南ってやっぱり……加賀さんの……だったり?)

 

日振型の3人は、それぞれ性格が違うけれど、こうして見るとやっぱり可愛い。

(みんな体が小さくて、艦娘っていうより……娘? いや違う、妹みたいなんだよな)

 

(旗艦がアタシなのは、やっぱり対空戦闘に強いからってのもある……敵の強行偵察がきても、アタシがいればすぐに対処できる――)

 

「ま、安全とはいえ油断はすんなよ。何があるか分からねぇからな」

 

「了解ですっ!」

「おぅ!」

「……問題ない」

 

それぞれの返事を聞いて、摩耶は満足げにうなずく。

 

(今日はただの訓練みたいなもんだ。夜は提督と鳳翔さんの店で、一杯やる約束してるし――)

 

そう考えながら、摩耶は静かな朝の海へ出航する。

 

◇◆ 出撃――目的海域へ向かう航路 ◆◇

 

波は穏やかで、朝焼けに照らされた海がきらきらと光っている。

潮風が心地よく、海防艦たちもリラックスした様子だ。

 

「今日の海は穏やかですね!」

「このまま、何も起こらなければいいんだけどよぉ♪」

「……」

 

「まぁな。でも、任務中にのんびりしすぎんなよ?」

 

「はい♪」

「あいよ!」

「……」

 

微笑ましいやりとりの中で、一人だけ静かに併走する昭南。

 

(昭南って、クールで、加賀さんぽい……生き別れの娘って噂、本当かも……)

 

そんな昭南が、不意に視線を向けてくる。

 

「……摩耶さん」

 

「ん? どした?」

 

昭南は、じっと摩耶の首元を見ていた。

そこには、そっと輝く “R” のネックレス。

 

「それ……」

 

「ああ、これか?」

 

ネックレスを指でなぞる。

 

「アタシのお守り」

 

昭南はふっと目を細める。

 

「……そう」

 

その短い返事の中に、何かを感じる摩耶。

 

昭南の無口さには、どこか重みがある。

 

(この子、あんまり気持ち出さねぇけど……)

 

「なんだよ。そんなじーっと見て、なんか気になる?」

 

「……羨ましい」

 

(昭南、羨ましいとか思ったりすんのか……)

 

「……羨ましいってか?」

 

摩耶は、自然と笑みをこぼす。

 

「……私……戦うの……しなきゃいけないから……」

 

静かな海の上で、昭南の声は、小さいけれど強く響いた。

 

(そうか……昭南は、戦うの“使命”みたいに思ってんのか……)

 

(アタシは……護りたい、なのかな……)

 

「……へへ、そっか」

 

「でもよ、今は違うだろ?」

 

摩耶は、にっと笑って、昭南の肩をぽんと叩く。

 

「今は、日振や大東がいる。アタシもいるし……そんで、お前もここにいる」

「あたしたちで、みんなを護んないとな」

 

昭南は黙っている。

海風が吹き抜ける中、彼女の表情は――ほんの少しだけ、柔らかくなったように見えた。

 

「……摩耶さん……強いから……」

 

「おうよ! アタシは、戦って、護る。それが役目だからな!」

 

昭南が見せた、微かな微笑み。

それは、彼女なりの精一杯の気持ちの表現なのかもしれない。

 

摩耶は少し照れくさそうに、ネックレスを握る。

 

(アタシの “護る理由” の証)

 

(さぁ、今日の任務も、無事に終わらせて――)

 

(……新居での暮らしを、提督と明日から始めるんだ……)

 

摩耶は、進路の向こうを、まっすぐに見つめた。

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