◇◆目的海域へ向かう航路◆◇
太陽はすでに昇りきり、穏やかな潮風が、ほんのりと温もりを含んで肌を撫でていく。
摩耶のすぐ後ろでは、日振、大東、昭南の三人が、それぞれ訓練の復習を口にしながら並走している。
摩耶は、静かに胸元のネックレスを指先で撫でた。
提督のイニシャル「R」の宝飾が、陽の光を受けてわずかに揺れている。
(“護る”ってのは、口で言うほど簡単なことじゃねぇ……でも――)
(それが、いまのアタシの役目だ)
――その時。
「ピピピピ……!!」
耳をつんざく警報音。
摩耶の電探が、異常を捉える。
「っ……!?」
(これは――偵察機じゃねぇ……!)
複数の高出力シグナル。
(艦爆……!? 一機や二機じゃねぇ……!)
摩耶は索敵範囲を最大まで拡げる。
次の瞬間――視界の端に、急降下してくる影。
「日振! 大東! 昭南! 緊急回避行動、開始!!」
鋭い一喝に、三人は即座に反応する。
「えっ!? まさか――」(日振)
「敵機……!? そんな……!」(大東)
「……っ!」(昭南)
緊迫した空気を切り裂くように、鎮守府からの通信が飛び込んでくる。
◇◆大淀からの緊急通信◆◇
『摩耶さん、緊急です。すぐに帰投してください!』
「なにがあった!?」
『敵の機動部隊がそちらの海域に接近中です!』
(大淀が焦ってる……ってことは……結構やばいんだな)
『鎮守府からも基地航空隊と救援艦を発進させましたが、到達にはまだ時間がかかります。摩耶さん、海防艦たちを連れて、直ちに帰還してください!』
「……了解!!」
摩耶は即座に反転、鋭く舵を切る。
「全艦、最大船速! 鎮守府まで一直線だ!! アタシに続け!!」
白波を蹴立て、摩耶が先頭に立つ。
その背後に、日振、大東、昭南の三隻が続く。
(絶対に……絶対に連れて帰る!)
摩耶は何度も振り返り、後ろを確認する。
海防艦たちは、懸命についてきている――でも、その小さな艦影はあまりにも心もとない。
(こいつらの練度と装備じゃ……空からの攻撃に耐えきれねぇ)
(アタシが……アタシが護るしかねぇ!!)
◇◆母港への帰還――迫る影◆◇
「敵機、後方より接近中!」(昭南)
その報告に、摩耶は即座に空を仰ぐ。
ヒュゥゥゥゥゥン――!!
「っ!! 全員、伏せろ!!!」
轟音。
爆煙が海を割り、轟きが胸を打つ。
高く上がる水柱が、四隻の進路を乱す。
(――くそっ、もう来てやがった!!)
「止まるんじゃねぇ!! アタシが全部、撃ち落とす!!」
摩耶は叫びながら、5inch連装両用砲の角度を調整する。
(……今だけはアトランタに感謝しとく!)
「撃てぇっ!!」
ドォォォン!!
空を埋め尽くすような弾幕。
編隊を組んで迫る敵艦爆に、摩耶の砲火が炸裂する。
(一機……二機……っ! でも、まだ……!)
数は減らない。圧倒的に、多すぎる。
摩耶は、ちらと後ろを見る。
(このまま逃げるだけじゃ護りきれねぇ……)
決意が、瞳の奥に宿る。
「全艦、隊列を変える!! これよりアタシがしんがりを務める!!」
「えっ!?」(日振)
「姉御……っ!」(大東)
「……摩耶さん……」(昭南)
「命令だ!! 全員、アタシの前に出ろ!! いいから、黙って!!」
摩耶はぐっと後方へ下がり、海防艦たちの背中を見つめる。
(……アタシに当たってもいい。沈まなきゃ、それでいい)
(代わりに――コイツらだけは絶対に、生きて帰す!!)
◇◆摩耶、咆哮◆◇
「全員、生きて帰るんだ!! わかったな!!」
「っ、はい!!」(日振)
「姉御……絶対に!」(大東)
「……帰る!!」(昭南)
摩耶は、ネックレスを握りしめた。
(コイツらを護ってくれ……提督……)
だから。
「よしっ! 無事に帰ったら……アタシんち来い!」
「えっ……?」(日振)
「ちょっ!?」(大東)
「…………」(昭南)
摩耶は、それでもニカッと笑う。
「明日から、提督と一緒に住むんだ。ちゃんと片付いたら、呼んでやる!」
「だから!! 絶対に沈むなっ!!」
その言葉は、命令というより――祈り。
驚いたように見つめていた海防艦たちは、やがて強く頷いた。
「……絶対に、帰ります!!」(日振)
「約束だぜぇ、摩耶の姉御!!」(大東)
「……全員で、生きて帰る」(昭南)
三つの声が、摩耶の背中に重なってくる。
敵機はまだ迫っている。だが――
(あと少し――)
(提督が待ってるアタシたちの鎮守府まで……!)