◇◆ 援軍の到着 ◆◇
空を裂くような咆哮が、頭上に轟く。
「っ……!?」
摩耶が顔を上げた刹那、視界の向こう――
銀の編隊が、太陽を背にして一斉に現れる。
鎮守府から出撃した基地航空隊。
「来た……!」
摩耶の口元に、安堵の息がこぼれる。
高速で突入してきた迎撃機の編隊は、まるで空そのものを味方に引き入れるように、次々と敵機へと襲いかかる。
空を走る曳光弾、撃ち落とされていく敵の艦爆、炎に包まれた機体が、火の玉となって海面へと墜ちていく。
空の色が、塗り替わっていく――
制空権が、完全にこちらのものになっていく。
「……助かった……!」
摩耶は、膝に手をつき、深く息を吐いた。
砲身は焦げつき、片脚には痛みと出血の鈍い感覚がある。
だが――まだ、立っている。
振り返る。
母港の方角へと、先行して全力で離脱する三隻の海防艦。
日振、大東、昭南。全員、無傷。
「止まんじゃねぇ!! 絶対に振り返るな!!」
彼女たちは、摩耶の叫びに応えるように、まっすぐ進み続ける。
(……護りきった)
(アタシ、やるじゃん……)
「……へへっ……上出来じゃねぇか、アタシ……」
かすかに笑いながらも、身体がぐらりと揺れた。
(もう少しだ……あと少しで、帰れる……)
(新居で、提督と暮らす。こいつら呼んで、笑って、飯食って……)
(……そんな、あったかい時間が、すぐそこに――)
◇◆ 突如、襲いかかる悪夢 ◆◇
「摩耶さんっ!!」
日振の悲鳴が、空気を裂く。
「敵艦爆……! まだ一機、残ってますっ!!」
「っ!?」
摩耶は即座に空を仰ぐ。
太陽を背に、燃えるような影が一つ――
深海棲艦の艦爆。最後の一機が、煙を引きながら急降下してくる。
一直線に、摩耶を狙って――!
(なんで……まだ残ってやがった……!?)
味方の迎撃機が反転し、狙いを定める。
だが、間に合わない。
敵機は巧みに機体を揺らしながら、摩耶の対空砲火を避け、爆弾を抱えたまま突っ込んでくる。
「ッらあああッ!! 落ちろッ!! 落ちろおおおッ!!」
摩耶は、残っていたすべての弾を撃ち尽くす。
5inch連装両用砲が火を噴き、激しい砲煙が視界を遮る。
敵機に命中。だが、落ちない。
(当たってんのに……なんでだよ……!!)
爆弾が、落ちてくる。
スローモーションのように、爆弾が接近してくるのが見える。
(……軌道は……アタシの真正面)
(――逃げられねぇ)
跳ねるように一歩、前へ出る。
◇◆ 衝撃 ◆◇
ドォォォォォォォン――ッ!!
世界が、反転した。
轟音。
爆風。
空が裂ける。
火の粉が、摩耶の全身を貫く。
(ッ……痛ってぇ……!!)
思考がぶれる。
熱と衝撃の中で、身体が宙に浮いく。
重力も、感覚も、すべてが曖昧になる。
耳が、聞こえない。
(……これ……やべぇな……)
◇◆ 摩耶、安堵 ◆◇
視界が揺れ、暗く、ぼやけていく。
摩耶は、仰向けに倒れながら、母港の方向を見る。
遠く、防衛ラインを越える三つの艦影。
日振、大東、昭南――全員、無事。
(――よし)
(アタシ、護った)
(ちゃんと、やり遂げた)
風が、髪をなでる。
(……これで、いい)
(もう……大丈夫)
摩耶は、自分の胸元へと、震える指を伸ばす。
傷だらけの指先が、「R」のネックレスをそっと撫でる。
(提督……)
(アタシの帰りを、きっと……)
唇が、微かに動く。
「……提督……」
涙が、そっと頬を伝う。
(声、聞きたいな……)
(抱きしめられたら……たぶん、泣いちまう)
(でも……)
(――もう)
まぶたが、重い。
世界が、ゆっくりと灰色に染まっていく。
最後に、摩耶は心の中でそっと呟いた。
(……提督……)
ネックレスを握ったまま――
摩耶は、静かに意識を手放す。