摩耶の鎮守府日記   作:ワタナベ提督の鎮守府

79 / 96
【日常 #02】日振型の逆襲/襲来編
摩耶、日振型と演習


◇◆ 演習 ◆◇

波は静かに凪ぎ、演習海域を穏やかな風が吹き抜けていく。

 

三つの小さな身体が同時にほっと揺れた――戦闘終了の合図とともに。

日振、大東、昭南――緊張で張りつめていた心が、少しだけほどけていく。

 

今日の演習、旗艦は摩耶。

四人の艦隊。

 

ただそれだけで、三人の鼓動は、朝からずっと速かった。

 

摩耶がケッコン指環をしていることには、とうに気づいていた。

でも、言い出せなかった。

 

記憶を失っていた摩耶に、それをどう受け止めてもらえるか分からなくて。

 

――もしかして、あの出撃のせい?

 

そんなふうに、自分たちを責めた時期もあった。

 

だけど今日。

 

摩耶は、演習の先頭に立ち、的確に指示を出し、誰よりも頼もしく――

そして、なにより、優しかった。

 

その背中が、ずっと変わらずにそこにあってくれることが、嬉しくて仕方なかった。

 

海面を吹き抜ける風に髪を揺らしながら、摩耶がふいに振り返る。

 

くっきりとした瞳に、ふわっとあたたかな光が宿っていた。

 

「おつかれ、チビども。今日、よかったじゃん」

 

少しぶっきらぼうだけど、ちゃんと優しい、摩耶の声。

 

三人は揃って、「はいっ!」と元気に返事をする。

 

そして、その次の瞬間――

 

摩耶が、少しだけ頬をかいて目をそらし、どこか照れくさそうに言った。

 

「……なぁ。今度の休み、アタシん家、来ない?」

 

 

 

◇◆ 招待 ◆◇

「え……“家”って……」

 

「……あの、“姉御の”……?」

 

「……」

 

三人の目が、一斉に点になる。

 

日振の眉が困ったように下がり、大東は目を瞬かせすぎて瞬きが間に合ってない。

昭南は、くるりと摩耶を見たまま、口が「へ」の字のまま止まっている。

 

摩耶は、ふっと口元を緩めて、小さくうなずいた。

 

「あの後、長く入渠しちゃったし……なんか、色々あったけど……前に言ったじゃん。来いって」

 

言いながら、ほんの少し耳が赤い。

 

「お見舞いに来てくれたのも……覚えてる……ありがと……」

 

三人の肩が、ぴくりと揺れた。

 

はにかんだ声。だからこそ伝わる。

 

「だからさ。遊びに来いよ。ご飯もスイーツも、ちゃんと用意しとくからさ」

 

「提督も、遊んでやるって言ってたぜ」

 

(摩耶さん……!)

 

日振の瞳がうるむ。

 

その場の空気が、ゆっくりと色を変えていく。

 

大東は、涙を見せまいと背をくるりと向ける。

 

昭南は、唇をぎゅっと噛みしめて、手を握りしめたまま。

 

摩耶は、そんな三人の様子を見て、ふっとしゃがみこむ。

 

膝をついて、同じ目線。

 

「お前ら、ホントいい子だよな」

 

にっと、照れたように笑ってくれる。

 

 

 

◇◆ 約束 ◆◇

「じゃあ……じゃあっ!」

 

ぽろりと涙がこぼれる前に、日振がぱっと顔を上げて、まっすぐに摩耶を見る。

 

「摩耶さんのご飯、いっぱい食べてもいいですか!?」

 

「うんと食え!」

 

摩耶の笑顔に、三人の表情が一気にぱぁっと明るくなる。

 

「絶対行きます! スイーツ楽しみにしてます!」

 

「お、お邪魔するぜ姉御!」

 

「大東が、食器割らないように、ちゃんと見張ります……!」

 

「そこ信じろよっ!」

 

摩耶のツッコミに、三人の顔がまたくすくすと笑顔になる。

 

手を差し出す摩耶。

その上に、小さな手が順番に重なる。

 

震える指先は、きっと、照れくささと嬉しさのせい。

 

でも、そのぬくもりが、なによりも正直な気持ち。

 

「姉御、絶対……約束ですからね!」

 

「何回でも行く! 洗い物でも掃除でも、なんでもする!」

 

「……楽しみにしてます……!」

 

三人が、両手でぎゅっと摩耶の手を包み込む。

 

摩耶は目を細めて、そのぬくもりをしっかりと握り返した。

 

「おう、待ってる!」

 

三人の瞳が、また少しうるんだ。

 

でも――今度は、もう泣かない。

 

今度は、笑顔で、約束の扉を開けられる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。