◇◆ ドライヤーの音 ◆◇
風呂上がりのリビングに、ふわっとしたドライヤーの音が響いてる。
アタシはバスタオルをきゅっと巻いたまま、ソファに横座り。 昔は遠慮なくあぐらをかいてたけど――
なんか、最近は自然と横座り。
目を閉じて、髪にあたるあたたかな風を感じてる。
提督が後ろから、ドライヤーをゆっくり動かしながら、指先でやさしく髪を梳いてくれてる。
(……なんか、ちょっとくすぐったい……)
最初の頃はソワソワして落ち着かなかったのに、今じゃすっかり慣れて――
なんなら、ちょっとした“ごほうびタイム”みたいになってる。
言葉にするのは照れくさいけど、これってたぶん……
アタシ、今すごく“しあわせ”ってやつを感じてる。
「日振型の子たちってさ、普段どんな感じなの?」
ふと思いついて、背中越しに聞いてみる。
「みんな素直で可愛いよ」
「日振はしっかり者で世話焼き、大東は元気いっぱい。昭南は落ち着いてるけど、たまに見せる笑顔がすっごく可愛いんだ」
「へぇ……」
アタシの口元が、ふっとゆるむ。
提督が他の艦娘を褒めるのって、いつもならちょっとモヤッとするのに……
日振型の三人に限っては、なぜかそういうのがぜんぜんない。
「わかる、それ」って、つい相槌を打ちたくなる。
アタシが護った子たち――
それ以上に、あの子たちはどこかアタシの心と繋がってる気がする。
「明日、楽しんでくれるかなぁ……」
ぽつりとつぶやくと、提督が笑いながら答える。
「摩耶が作るご飯とスイーツ、絶対に大喜びだよ」
「……そ、そうかな」
“摩耶が作る”って言い方が、なんかくすぐったくて――
アタシは、頬がほんのりあたたかくなるのを感じた。
◇◆ 想像、ふくらむ ◆◇
日振型のことを考えてたら、ふと――
もうちょっと先のことまで、想像しちゃってた。
……子供、かぁ。
もし、アタシと提督の間に、子供ができたら――?
(って、なに考えてんだアタシ……)
でも、もう止まらない。
もし女の子だったら――
アタシの服の裾をきゅって掴んで、ちっちゃな声で「ママ、だっこ」って甘えてきたりして。
こけたら、泣きながら駆け寄ってきて、顔をアタシの膝にくっつけたりして。
(……や、やばい。想像だけで可愛い……)
でも、大きくなって、性格がアタシに似てきたりしたら――
口が悪くて、ツンツンしてて、気が強くて、でもほんとは超寂しがり屋で。
(あっ……ヤバいやつだ、それ)
好きな子にほど素直になれなくて、モヤモヤして……
やたら突っかかったりして……
こっそり手作りクッキー焼いて、袋詰めして――……
そんなとこ目撃したら、ラッピングのリボンが歪んでて、「べ、別にお前のためじゃねぇし!」とか言って――
「あっちいけババア!」
とか言いそう……
(ああもう、それ絶対アタシだろ……)
しかも、相手が提督みたいな天然で優しいタイプだったら、絶対振り回されるって!
(つーか、告白までに一年半かかるコースじゃね!?)
「……アタシに似たら、大変そうだな……」
ポツリとつぶやいたその瞬間、後ろから提督の声がする。
「ん? なにが?」
「べ、別に!? なんでもねぇってば!」
アタシは慌てて視線をそらす。
もしアタシに似た子が生まれたら――
不器用で、強がりで、でもほんとは繊細で。
自分の気持ちを伝えるのが苦手で、たまに泣いて、でもすぐに「泣いてねーし!」って言うような子。
でも、アタシはその子にちゃんと言ってあげたい。
「大丈夫だよ」って――
……そう言って、ぎゅって抱きしめてあげたい。
「……ふふっ」
「摩耶?」
「なんでもねぇっての!」
また強がっちゃったけど、たぶん……提督には、バレてる。
アタシが、未来のことを考えて、ちょっとポカポカしてるってこと――
ドライヤーの風が、ゆっくりと止まる。
提督の手が、そっと髪を撫でてくれる。 そのあたたかさが、胸の奥にじんわり広がっていく。
アタシは、ふわっとあったかくなった胸を、そっと撫でながら思った。
(……もし、本当にそんな日が来たら――)
(今度はアタシ、自分の気持ち……ちゃんと、伝えられるようになってたいな)
強がりじゃなくて、ちゃんと――
まっすぐな気持ちで、大切な人に、ちゃんと伝えられるように。