◇◆ 日振型が出港 ◆◇
朝からアタシは気合い入りまくりで、リビングとキッチンを何度も行ったり来たりしてた。
「……よし、ランチョンマットOK。カトラリーOK。スイーツの状態……完璧!」
冷蔵庫の中ではプリンがつやっと光ってて、焼きドーナツもラップの向こうで「準備万端です」って顔してる。ホイップもフルーツも、冷やしてあるお皿も完璧な温度。
時計を見ると――1100時、少し過ぎたとこ。
あいつらがくる予定は、1130時。
(ふふん……アタシ、やっぱ完璧……)
やり切った感に浸って、ソファに腰をおろそうとした瞬間――
ブーブーッ!
スマホがブブっと震える。画面には「大東」。
(……なんかあった!?)
慌てて通話に出ると、元気すぎる声。
『摩耶の姉御! これから鎮守府を出まーすっ!』
大東の弾ける声に、思わずアタシの口元が緩む。
『でもさ、三人だけで出かけるの、初めてだから…… ちょっと緊張してる……』
「そっか……。迷子になるなよ?」
『大丈夫ですっ! 多分……』
その曖昧な返事がすでにフラグなんだけど……!
「“多分”って言うな、“多分”って!」
背後から、クスクス笑う日振の声が聞こえる。
『えへへ……』
「気をつけて来いよ?」
『了解です! じゃあ最初のウェイポイント“鎮守府正門前”、通過しますっ!』
(……逐一報告してくんのか……?)
通話を切ってスマホを置いた瞬間、アタシの頼んだ仕事もひと段落して、新聞を読んでた提督が、こっちを見ながらクスクス笑ってる。
「摩耶、めっちゃ嬉しそう」
「そんなこと……ねえ!」
「うそ。今、ほっぺゆるんでた」
「してねぇってば!」
でも……まあ……否定しきれないってのが、悔しい。
◇◆ 報告、続々 ◆◇
ブーブーッ!
またスマホが震える。画面を見ると、今度は日振。
『摩耶さん! “商店街前” を通過しましたっ!』
「……細けぇな!」
『あっ、でもね、途中にあったパン屋さん、クリームパンが美味しそうでした!』
「だからって寄り道すんなよ!?」
昭南の声が、聞こえてくる。
『航路逸脱は許可されていません』
提督がクスッと笑いながら
「なんかさ、こんな風に報告入れてくるのって、まるで“ママに逐一連絡しないとダメ”って思ってる子供たちみたい」
「……ママって誰のことだよ」
耳までぽぉっと熱くなって、アタシはスマホで顔を隠す。なんなんだよ、もう!
◇◆ そしてまた報告 ◆◇
ブーブーッ!
大東だ……
『姉御! "横断歩道" を渡り終えましたっ!』
「いやもう、それ報告しなくていいから!」
「ちゃんと青だったんだろうな!?」
『はいっ! ピコピコ音が鳴ってる間に渡りました!』
「そうか、よかった……って、だから報告しなくていい!」
後ろで提督が声を押し殺して笑ってる。
でも、ちょっと心配だった。三人だけで街歩くの、たぶんほんとに初めてだし。
(まあ、昭南いるから、大丈夫だろ……)
◇◆ 昭南の報告、そして“疑惑” ◆◇
そして――最後は昭南から。
『新居までの航路、異常なし。現在位置からの推定到着時刻、約五分』
「……お、おぅ。了解」
昭南の声は相変わらず冷静だけど、ちょっとだけ嬉しそう……そんな気がした。
スマホをテーブルに置いたとき、提督がぼそっと呟いた。
「そういやさ……昭南って、加賀に似てるよね?」
「は? いきなり何言い出すんだよ」
「摩耶、なんか知ってる?」
でも、思い返すと……
たしかに落ち着いた雰囲気とか、無表情なところとか、言葉遣いとか――
(……そういや……結構、似てるかも……)
「そういやさぁ……駆逐の子から噂で聞いたことあるけど……じつは加賀さんの妹だとか、生き別れの娘だとか……」
「やっぱり……」
(提督、なに納得してんの! バカなの?)
「この前、演習終わった後、加賀に昭南の報告してもらったんだけど……」
「なんか最後に、『あの子とは遺伝子レベルのつながりを感じます』って呟いてた……」
「マジか!」
「しかも、大淀がさ……」
「加賀に『あの子の好きなお菓子って何かしら?』とか聞かれたって……」
「ちょ、待て待て……」
(いやいや……まさか加賀さんが、無表情でクッキー焼いて昭南に『……焼いたから食べなさい』とか……言うわけ……いや、想像しちまったし!)
(……………………)
あれ……アタシ、もしかして提督に……?
◇◆ あと、もうすぐ ◆◇
その時、
ブーブーッ!
スマホに昭南からの着信。
『摩耶さん……現在位置が不明……』
「はっ! もしかして……迷子?」
アタシは立ち上がる。
「その可能性、高いかも……」
なんだか湘南らしい返事に、アタシはつい笑っちまう。
「近くに、なんか見えない?」
「ん……青と白のコンビニが見える……」
あそこか…… 最後の角、曲がるの間違えたな……
「そこから動くなよ! すぐ行く!」
電話を切ると、提督が微笑みながら
「なんかママみたい……」
「ま、ママじゃねえっつの!!」
アタシはスマホ片手に、玄関にダッシュ……って、顔はちょっとがゆるんでたりする。