◇◆ 新居に到着 ◆◇
時刻は1130時ちょうど。
アタシは玄関の前で「ピンポーン」とチャイムを鳴らした。
ちょっと待ってると、カチャリとドアが開いて――
「いらっしゃ!」
にっこり笑う私服姿の提督。
(アタシの提督、やっぱイケてる……って、違うわ!)
……と思ったのも束の間、背後の日振型三人が、一斉にぴたりと固まる。
「……?」
こっちを見上げる日振、大東、昭南。 顔には『???』って書いてあるような表情。
(あー……そっか。こいつら、制服姿の提督しか見たことないんだっけ)
たしかに、今日の提督は白シャツにベージュのカラーデニムで、髪もちょっと柔らかく見えて――
“いつもの提督”と違って、なんか、街で会ったらちょっとドキッとしそうな“普通のお兄さん”って感じ。
しかも、アタシのコーデ。
アタシは、ちょっとしゃがんで三人に声をかける。
「安心しな。変装してるわけでも別人でもなくて、本物の提督だからな」
「……そ、そうなんですね!」
日振がほっとしたように小さく頷いて、ほわっと笑った。
大東は「びっくりしたーっ!」と額をぽんっと叩いてて、昭南は……うん、無言だけど、眉の動きが「理解した」って顔になってた。
◇◆ ソファに着艦 ◆◇
「さ、はいってはいって」
提督、めちゃくちゃ嬉しそう。笑顔ゆるみすぎ。
靴を脱いでる三人の様子を見ながら、なんだかアタシまで嬉しくなる。
「ようこそ、我が家へってな」
アタシが軽口を叩くと、提督がすれ違いざまに、アタシの耳元でそっと囁いた。
「……可愛すぎる……」
「……だろ?」
アタシはニヤリとしながら返した。
たぶん、顔……ゆるみすぎてる。
リビングに入った三人は、部屋のあちこちをキョロキョロ。
(そりゃ、寮以外の家って初めてだろうしな……)
「はいはい、バッグ適当において…… そこ。ソファに着艦な」
「は、はい!」
三人がぽすんと座った瞬間、アタシは一瞬、息を呑んだ。
(……なにこの光景。ソファが尊い……)
日振は手を膝に乗せて背筋ぴん。
大東はふにゃっと笑いながら足をぶらぶらさせてるし、昭南は……相変わらず無表情だけど、座り方が妙に整ってる。
可愛すぎて、ソファごと保存したいレベル。
◇◆ ドリンクサーブ、全力で ◆◇
「お前ら、何か飲むか? 冷たいお茶もオレンジジュースもあるぜ」
アタシが冷蔵庫を開けながら振り返ると、提督も横から「アイスコーヒーもあるぞ」と補足してくれた。
「えっと……それじゃあ、オレンジジュースをお願いします!」
最初に手を挙げたのは日振。どこか遠慮がちだけど、目はきらきらしてる。
(素直で可愛いな……子供っぽいけど、似合いすぎて文句も出ねぇ)
「アタイもジュース!」
即答したのは大東。日振のを聞いて真似したっぽいけど、それもまたらしくて愛おしい。
「……冷たいお茶がいい……」
昭南はやっぱり、ひと味違うチョイス。
(ブレないな……でも、たぶん遠慮じゃなくて好みなんだろ)
「おっけー、ジュース二つとお茶ね。ちょっと待ってろよ」
アタシはグラスに、冷えたジュースとお茶を注ぎ、三人の前に出す。
「はいよ、お待たせ」
「ありがとうございまーす!」
日振と大東が笑顔で受け取って、ゴクゴク。
「冷たくて美味しいです!」
「ぷはぁ~、喉が潤う~!」
アタシ、もう頬が緩みっぱなし。
昭南は静かにお茶を口に含んで、グラスを置いたあと、ぽつり。
「……助かります……」
(不器用だけど、気持ちはこもってんだよな)
そんな様子を見てた提督が、ぽつりとアタシに聞いてくる。
「摩耶も何か飲む?」
「アタシは……うん、アイスコーヒー」
三人のキラキラに当てられつつ、提督から手渡されたグラスを手にしたまま――ちょっと笑った。
(悪くねぇ……)
◇◆ 摩耶、挟まれる ◆◇
――そのとき。
提督が、なんかソワソワし始めた。スマホ片手に、チラチラとアタシを見る。
「……何してんだ?」
「……写真、撮ってもいい?」
「おま……言えよ、もっと早く!」
(わかる,わかるよ提督!)
「並ばせるから、ちゃんと撮ってやれって!」
「……あ、いや……摩耶も一緒に……」
「……!」
不意を突かれて、アタシは一瞬硬直。
(ま、まぁ……まぁまぁ、悪くねぇ話だし!?)
「しょーがねぇな……ほら、おまえら、並べ並べ!」
そう言ってアタシが端に座ろうとすると――
「摩耶さんは真ん中です!」
ぴょんと跳ねるように大東が言って、アタシをソファの中央に押し込む。
右に日振、左に大東が、それぞれピタッと寄り添うように座る。
……そして、昭南。
無言で、するりとアタシの膝に――
「ちょ、昭南さん!? え、なに? 膝!? アタシの膝にちょこんって、ちょ、ちょこんて!!」
「ここが、いい……」
(こいつ……クールな顔して、攻めすぎだろ……)
◇◆ お膝、争奪戦 ◆◇
「アタイも摩耶さんの膝がいい~!」
「わ、私も!」
「……ここは譲れません」
(……って、昭南、おまえ加賀さんかよ……)
「はいはいはい、ストップ! アタシの膝は一人用! しょーがねぇ、順番だ、順番!!」
「「「やったー!!」」」
なんだこれ、天国か……
提督はというと――写真を撮りながらキュン死寸前な感じが伝わってくる。
「……ちゃんと、撮れよな」
アタシはそう言って、膝の上の昭南を軽く支えながら、右と左の肩に、ちょこんと温かい重みが寄りかかって――
アタシは、ふわっと、自然に笑ってた。