◇◆ 白い紙袋 ◆◇
ふと――アタシは気づいた。
日振、大東、昭南。
三人が、ちらちらと自分たちの荷物の方を見てる。
何か……タイミングをうかがってるような……
(……なんだ?)
「おい、お前ら……どした?」
声をかけると、三人はハッとして顔を見合わせ、それから一斉に立ち上がる。
ソファの近くに置いてあった、それぞれの小さなリュックやバッグのほうへ向かって――
その中から、日振がそっと紙袋を一つ、手に取った。
小さな、白い紙袋。
取っ手のところをきゅっと握るその手は、ほんの少し震えてるようにも見えた。
三人とも、顔がなんだか緊張してる。
目が合っただけでピシッと背筋を伸ばすし、視線も定まってない。
◇◆ 小さな贈りもの ◆◇
「……あの、摩耶さん」
日振が一歩前に出て、両手で小さな紙袋をアタシに差し出してくる。
「お、お土産……持ってきました……」
「はあっ!」
(――っ、これ……ヤバい……)
急に胸の奥がぎゅっとして、目の奥が熱くなる。
でも、ここで泣いたらダメ。アタシはそういうキャラじゃねぇし、ここは笑って受け取るとこだろ!
「な、なんだよ……おまえら……そんなの、気ぃ使わなくていいのに……でも、ありがとな!」
ちょっとだけ鼻声になったのをごまかしながら、紙袋を受け取る。
「……開けても、いい?」
三人はそろって小さく頷いた。
その仕草がまた、なんかもう、健気で可愛くて……涙腺に追い打ちかけてくる。
アタシはそっと袋の中を覗き込む。
中に入っているのは、透明な袋に入ったクッキー。
一つ一つ、ほんのり焼き色がついてて、形はちょっといびつだけど……どこかあったかい。
袋の口には、小さなピンク色のリボンが丁寧に結ばれてる。
「……これ……もしかして……おまえらが、作ったの?」
「はいっ!」
「おう!」
「……三人で、作った」
一斉に返ってきた返事に――危なかった……
完全に、涙腺ギリギリ。
でも、ギリでこらえた。
アタシのキャラじゃ……ないよね……
「……マジかよ……ありがとよ……ほんとに、な……」
ちょっとだけ鼻をすするけど、絶対に泣かない。
アタシは、ぐっと胸を張って笑った。
多分、ちょっとだけ、へんな顔だったかもしれないけど。
提督も後ろで微笑んでた、ってか、絶対目が潤んでたはず。
◇◆ 加賀さんと、クッキーの思い出 ◆◇
「……あのね」
昭南が、小さく口を開いた。
「……今日のお土産、どうしようって、三人で相談してたとき……前に、加賀さんが作ってくれたクッキー、思い出した……」
「えっ……」
(加賀さん、昭南にクッキー作ってあげてたのか……)
「三人で、加賀さんに……つくりかた、聞きに行った……」
その言葉に、日振と大東がこくこく頷く。
「そしたら、加賀さんが『一緒に作ります』って!」
日振が、ぱぁっと笑顔になって言った。
「昨日、空母寮のお台所で、みんなで作りました!」
「……でもさぁ……」
急に大東が手を上げる。
「……だいたい加賀さんが作ってくれた!」
「おまっ……言うなよそこは!!」
アタシが思わずツッコむと、大東は「えへへ」って頭をかいて笑った。
「でも、形はアタイたち三人でやった!」
「あと! 焼き上がったときに赤城さんが来て、『ちょっと味見』って言いながら食べてたら、加賀さんに『つまみ食い禁止です』って怒られてた」
(……赤城さん……ありすぎる……)
「で、そのあと、翔鶴さんと瑞鶴さんが通りがかって『何してるの?』って聞かれて……話したら『それならこれ使って』って、透明の袋とリボン、持ってきてくれた!」
「瑞鶴さんが……『アタシ、リボン結ぶの得意なんだ』って、結んでくれた……」
(もう……だめ……目が……目がぁ……)
限界だった。
でも、それでも泣きたくなくて、ぐっとこらえてたら――
◇◆ 摩耶、こらえる ◆◇
「摩耶さん、泣いてるの?」
心配そうに日振が聞いてきた。
「っ、泣いてねぇってば!!」
あわててそっぽを向いて、キッチンに向かう。
「――あーもう! こいつはな、デザートのときに一緒に食べるって決めたからな! アタシは、昼ご飯の準備すっから!」
そう言いながら、冷蔵庫の扉に手を掛けたところで、提督の声が背中から届く。
「手伝おっか?」
「提督はそこで、この子たちの相手してろ!!」
照れ隠しにちょっと強めの声でそう言って、
ちょっとだけ、背中で深呼吸して――
アタシは冷蔵庫のドアを、ばたんと開けた。