◇◆ デパートの入口からランジェリーショップへ ◆◇
「さあ、摩耶。せっかく来たんだから、楽しまなきゃね♪」
愛宕の明るい声が響く。
摩耶はデパートの煌びやかなランジェリーショップの前で、一歩足を止めた。
目の前には、美しくディスプレイされた下着の数々――繊細なレースのブラ、柔らかなシルクのスリップ、可憐なリボンが飾られたセットアップ。
(……い、今更だけどさ。アタシ、本当にここに入って大丈夫なのか?)
緊張に満ちた摩耶の心の声は、姉たちにはしっかりと伝わっていた。
しかし、高雄も愛宕も、そのことを口にはしない。
「ええ。摩耶にぴったりなものを見つけましょう。」
高雄は自然な微笑みを浮かべながら、摩耶の背を押した。
摩耶は心の中で小さく悲鳴を上げながら、姉たちに連れられてランジェリーショップの扉をくぐった。
◇◆ まずは「選ぶ」ことを知る ◆◇
店内に入ると、明るく品のある雰囲気の店員がすぐに気付き、微笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ。あら、高雄様と愛宕様!」
そして、ふと摩耶に視線を向ける。
「……もしかして、妹さん?」
「ええ、摩耶よ。」
高雄が軽く頷く。
「私たち、あまり似ていないって言われることもあるけれど、姉妹なの。」
店員は、納得したように微笑んだ。
「なるほど。確かに雰囲気は違いますが……」
優雅に言葉を紡ぎながら、摩耶を改めて見つめる。
「でも、姉妹でいらっしゃると聞いて納得しました。摩耶様も、とても洗練された魅力をお持ちですもの。」
愛宕がすかさず口を挟む。
「でしょ~? 3人で歩いてるとね、よく『美人姉妹ですね~!』って言われるのよ♪」
「それ、自分で言うか!」
摩耶の心の中で即ツッコミが入る。
実際、高雄と愛宕は「優雅で美しい姉妹」という印象を持たれることが多い。
そこにスポーティーな摩耶が加わると、華やかさとはまた違った "活発で元気な三姉妹" という雰囲気になるらしい。
しかし摩耶としては――
(でも……美人姉妹って言われること、多いかも……)
言われてみれば、3人で並んでいるとよく視線を感じることがある。
「美人姉妹ですね」と声をかけられたことも、一度や二度ではない。
(いや、アタシはそっち側の認識なかったけど……そういうこと?)
摩耶の中で、ほんの少しだけ意識が変わり始める。
◇◆ 高雄と愛宕、ランジェリーを選ぶ ◆◇
愛宕がさっそく自分の下着を選び始める。
「うーん、このデザインも素敵だけど、こっちのレースも可愛いのよねぇ♪」
摩耶は、その姿を不思議そうに見つめた。
(え、そんなに楽しそうに選ぶもんなのか……?)
(ランジェリーって、こういうふうに選ぶものなのか……?)
摩耶の脳内に、少しずつ「選ぶ」という行為が芽生えていく。
◇◆ 愛宕の「さりげないアシスト」 ◆◇
摩耶が、店内のディスプレイに並ぶランジェリーを見つめていたとき――
「ん〜、これ良さそうだから、試着してみてもいい?」
愛宕が、店員に向かってそう声をかけた。
それは、何気ないやり取りに見えた。
だが、高雄はすぐに気付く。
(愛宕……摩耶のために、わざと聞いたわね)
店員もまた、すぐに察した。
愛宕ほどの知識と経験があれば、試着のルールなど当然知っているはず。
それでも "あえて" 聞いたのは――
「摩耶に、試着の仕方を自然に学ばせるため。」
店員は、その意図を理解しつつ、自然な口調で応じる。
「もちろんです。試着の際は、お肌に直接触れないようにパッドをお使いいただく形になります。」
摩耶は、何気なくそれを聞く。
"へぇ、そうなんだ" という程度の認識。
しかし、店員の次の言葉に、彼女の意識が変わる。
「それと、着けたときのシルエットやフィット感を確認するのがポイントですね。
鏡の前でラインを確かめると、より選びやすくなりますよ。」
(そ、そうなのか……?)
摩耶は、思わず鏡の中の自分をちらっと見た。
今まで、下着を"着ける"ことは考えたことがあっても、"どう見えるか"を意識したことはなかった。
(……アタシ、今までそんなこと考えたことなかったな。)
◇◆ 摩耶、ついに「試着してみよう」と思う ◆◇
(……まぁ、一回くらい、試してみるか?)
摩耶は、自分の中に "ちょっとワクワクする気持ち" が生まれているのを感じた。
(どんな感じなのか、確かめてみるのも悪くねぇか……?)
目の前には、繊細なレースや上品なデザインのランジェリーが並ぶ。
今まで意識したことのなかった世界が、ほんの少しだけ近づいた気がした。
そんな中、ふと隣で高雄の穏やかな声が聞こえる。
「摩耶も、気になったものがあったら見てみてね。」
"選んでいい"――そう言われた気がした。
摩耶は はっと する。
(アタシも……選んでいいんだな……)
そう思うと、胸の奥にじんわりと温かい感覚が広がる。
自然と、口元に小さな笑みが浮かんだ。
これまで自分には関係ないと思っていたものが、少しだけ "自分ごと" に変わった瞬間だった。
◇◆ 摩耶、"初めての選択" に足を踏み出す ◆◇
戸惑いながらも、摩耶は試しに一歩、ブラが並ぶ棚の前へ近づいた。
ふと自分の胸元に目をやり――思わず固まる。
(……アタシ、今着てるのって、いつものヨレヨレのやつじゃん。)
姉二人が選んでいる 美しいランジェリー を見た後では、
自分が今まで着ていたものが、まるで別世界のものに思えた。
そして、摩耶は ゆっくりと手を伸ばす。
心の中で、小さく呟く。
「……新しいの、買ってみるか?」
それは、"誰かのために" ではなく――
"自分のために選ぶ" という、初めての一歩 だった。
摩耶は、初めてのランジェリー選びに向けて、一歩を踏み出した――。