摩耶、反撃開始
◇◆ いくぞ、アタシ ◆◇
キッチンからダイニングテーブルを眺めると――
椅子に、ちょこんと並んで座ってる日振、大東、昭南の三人。
大人サイズの椅子に、ちょっと背伸びするみたいに座ってて。
踵が浮いてて、ぶらぶら揺れてる足も、妙にかわいい。
提督はお誕生日席に。もちろん、アタシの指示。
「そこだ!」って言ったら、素直に座ったのがちょっと面白かった。
「手伝うね」って言われたけど、今日ばかりはぜってー却下。
アタシが全部、自分の手でやりたいんだよ。
三人の視線が、アタシに向いてるのを感じる。
期待と、ちょっとだけ不安が混ざったその目に――
(よし、いくぞ、摩耶)
◇◆ ハンバーグ、届けっ! ◆◇
両手に持った皿を、そっとテーブルに。
日振と大東の前に並べたのは、アタシ特製のハンバーグプレート。
ふっくらジューシーなハンバーグの上に、とろけるチーズと半熟目玉焼き。
黄身はとろり、白身はカリッ。
デミグラスソースはコトコト煮込んだ、玉ねぎと赤ワインの甘みたっぷり仕上げ。
付け合わせは、にんじんのグラッセと、バターソテーのいんげん、
それから皮付きのじゃがいもをほくほくに蒸して、塩バターで。
スープはキャベツとベーコンのコンソメ。やさしい味。
白いごはんは、小さなお皿にによそって、ふっくら。
「……わぁ……!」
日振の目がぱあって輝く。
「アタイ……アタイ……」
大東が、なんか言おうとしてるけど、目がきらきらしすぎて、言葉が出てこないみたい。
その顔があまりにも真っすぐすぎて――アタシ、笑いそうになった。
◇◆ 昭南には和の心 ◆◇
次に、昭南の前に、木のお膳をそっと置く。
和食のお手本みたいな、幽庵焼き定食。
鯛の幽庵焼きは、皮目パリッと、中ふっくら。
ゆずの香りがふんわり広がる。味噌汁はなめこと豆腐。出汁は、丁寧にとった合わせ出汁。
ごはんは、白くてつややか。
昭南はしばらく黙ったあとに、一言。
「……いい香り……」
それだけでいい。その一言で、アタシの中がぽかぽかにあったかくなる。
提督にも、昭南と同じお膳。
この幽庵焼き、仕込みから焼きまで、ほんとに丁寧にやったんだからな。
◇◆ 摩耶の席も完成 ◆◇
自分の分は――
チビたちとおそろいのハンバーグプレート。
でも、パンで合わせた。ミルクたっぷりの、ふかふかのテーブルロール。朝焼いておいたやつ。
アタシの皿だけ、ちょっとだけ色が落ち着いたトーンのプレートにしてある。
……こういうの、地味にこだわっちゃう。
提督はお誕生日席、アタシは湘南の隣で提督側、向かいには日振と大東。
反撃準備、完了。
「よし、全員そろったな!」
声をかけると、三人がぴしっと背筋を伸ばして、両手を合わせる。
「「「いただきますっ!」」」
アタシと提督も、手を合わせる。
(あれ……)
(“いただきます”って、こんな……嬉しいもんだっけ?)
提督の方を見ると、提督も優しい目でアタシをみてる……
◇◆ 「なんかちがう」 ◆◇
昭南が、お箸を小さく動かして、ごはんをそっと口に運ぶ。
「……ふわ……」
ぽつりとこぼしたあと、そっと口元を手でおさえて。
「なんか……あったかい、っていうか……」
「アタイも! アタイもそれ思った!」
大東がすかさず手をあげて、フォークを小さく握ったまま、口をとがらせて考え込む。
「いつもと……ちょっと違う……」
「ちがう?」
日振も、ちょっとだけ顔を傾けて、小さく切り分けたハンバーグをフォークで口にはこんでいる。
「……鎮守府の食堂のごはんも、おいしいけど……」
「これ……“アタイたちのためだけ”に作ってくれた味がする……」
「……うん……」
昭南が、小さく頷きながら言ったその言葉が、なんかもう、直球すぎて……
(あたしのごはん、そんな風に思ってくれるんだ……)
日振が、フォークを両手で持ちながら、すごくゆっくり言った。
「摩耶さんのごはん……ほっこりする……」
「……心がふわぁってなる!」
「……そう、それ……」
「おうちごはんだ!」
(大東、オマエなにいってんだよ……アタシ、泣くぞ!)
◇◆ 胸の奥の、あたたかい場所 ◆◇
アタシは、黙ってそれを聞いてた。
三人とも、たぶん“家庭料理”って言葉も知らない……
けど、それでも、伝えようとしてくれてる。
自分たちのためだけに作られたごはん。
誰かが、心をこめて、自分のために作ってくれた、ってこと。
(……なんか、感じてくれてんのかな……)
アタシ、こんな風に胸の奥がふわぁっとするの、はじめてかも……
あったかくて。
でも、ちょっと泣きそうで。
でも、泣くのとはちょっと違って――
(……なにこれ……)
(これ、たぶん……)
(お母さんが子供にご飯食べさせるって、こんな感じなのかな……)
そんなこと考えてる自分に、ちょっと驚いてるけど、悪くないかも。
(……こいつらの可愛さとか、提督の天然とか……)
(アタシの心ばっか揺さぶってきやがって……ずるいよな……)
(アタシだって、できるんだぞ――って、見せてやる)
そう思って
「冷める前に、いっぱい食べな!」
って声をかけると、大東が、ちょっと申し訳なさそうな顔して
「姉御……ごはん、おかわり」
って返してきた。
なんか、すごい嬉しかった。
嬉しくて、ちょっと泣きそうだった。
アタシが作ったごはんを“もっと食べたい”って言ってくれる子がいるんだ。
(……また、作ってやろ)
心の中で、こっそり、そう思った。