◇◆ 摩耶、一息つく ◆◇
ふぅ――。
アタシは椅子の背もたれに軽くもたれて、テーブルの上の“戦場跡”を眺める。
空っぽの皿たち。 ご飯粒ひとつ残ってない茶碗。 満足げに揺れるお腹(主に日振と大東)。
「ごちそうさまでしたーっ!」
「アタイも、ごちそうさまっ!」
「……ごちそうさまでした」
三人そろって手を合わせるその姿に、つい顔がほころんじまう。
「日振、何杯いった?」
「えっと……三杯!」
「アタイも三杯ーっ!」
「……二杯」
(……おまえら……めっちゃ食うな……)
アタシ、炊飯器の中が空っぽなの見て、地味にビビってんだけど!?
(おかわりしすぎだろ……! 子供って怖……)
日振がぽんぽんとお腹をさすって、
「もう、食べられないかもです……」
「アタイも……ぱんぱん……」
「……同なじく……」
(くっ……かわいい……でも炊いたごはん、ギリだった……!)
アタシは意地悪く、ちょっと口角を上げて言ってみる。
「そっか~。じゃあ、デザートは……無理だな?」
――瞬間!
「食べますっ!!」
「別腹っ!!」
「……必要です」
一斉に前のめり。さっきまで“もう動けない”とか言ってたやつ誰だよ。
「わかったわかった。片付けしたら出してやるから、リビング行ってろ」
って言ったら
「手伝います!」
即答、日振。
「アタイもー!」
「……お皿、下げます」
三人のやる気オーラ、すごい。
(ま、マジでええ子たち……っ)
「いや、おまえらはお客さん! 子供らしくしな! その分、あとでデザート堪能しろ!」
そう言いながらも、内心じゃ嬉しさでじわってるアタシ。 なんか……アタシ、大丈夫?
提督が立ち上がって、
「片付けるね」
「摩耶はスイーツの準備を――」
いつもとおんなじ優しい提督。アタシもいつものように
「ありがと、提督」
――ちゅっ。
無意識に、いつものクセで、提督のほっぺにキスしちゃった瞬間――
空気が、止まる。
振り返ったアタシの視線の先――
カウンターの向こうで固まってる三人娘。
口ぽかーん。 顔、真っ赤。
(……や、やっちまった……!!)
「ちゅう、した……」
「姉御、ちゅうしたっ!」
「……チュウした」
声、揃いすぎィ!!
「ち、違うっ! 今のは! アレだ、本当のチュウじゃない!」
(アタシ、何言ってんの!?)
「え? 本当のチュウってあるの?」
日振がキラキラした目で聞いてくる。
「それ、どんなの!?!?」
大東がめっちゃ前のめり。
「……じゃあ、今のは何チュウ……?」
昭南、おまえまで冷静にツッコむな!
「ほ、ほんとのチュウってのは……」
「ほんとのチュウってのはな……」
――あっ、これムリ。収拾つかない。どうしよ……
(アタシ、茹蛸になってる……)
「姉御……?」
「あっ……」
「……加賀さんに、聞きます……」
(気ぃ,使われてんのかアタシ……)
「はいはいはい! リビング行くぞ! 質問受付終了、終了っ! 移動ッ、解散ッ!」
「 はいもうこれ以上はナシ!」
(お願い……アタシのライフはゼロよ……)
「やったー!」
「姉御、スイーツ!」
「……スイーツ……」
(くそっ……こいつらの気配り……)
無理やり三人をリビングへ押し込んで、ようやく一息。
深呼吸。
(……気を取り直して、スイーツタイム、行くか)
トレイの上に、ちょっと可愛く盛り付けて、ミントとフルーツ、そして……
アイツらのお土産のクッキーも忘れない。
完璧。
……と、思ったら――
リビングから聞こえてきた。
「……姉御、なんか可愛かった……」
「アタイ、将来ケッコンカッコカリしたら、チュウしてもらうって決めた!」
「……されたら、どうする……?」
「姉御みたいに、顔まっかにすればOK!」
「それって……」
「女の子の正しいリアクション!」
(ちょっと待て、誰が教えてるの!? なんで盛り上がってんの!?)
アタシの乙女心にじわじわとダメージが……
そのタイミングで――
「……でも……摩耶の照れ顔、初めて見た気がする」
(おまえぇぇぇえええええええええ!!)
(オマエ、なに嬉しそうに微笑んでんたよ……)
「……こまったな……」
「こまってんのは、アタシだっつうの!!」
「え、なんで? 麻耶は嬉しそうだったけど……???」
(提督ーーーーーッ!!)
アタシは、深く、深く、ため息をつく。
(……スイーツ食べたら、忘れてくれんのかな……無理か……)