◇◆ スイーツ準備中の耳 ◆◇
スイーツの盛り付けに集中しながらも、アタシの耳はリビングの方に自然と向いてる。
日振、大東、昭南がソファでくつろいでる気配と――日振の声。
「ねぇねぇ、大東、昭南~……ケッコンって、いいよね?」
(……は? け、結婚……?)
一瞬、手が止まる。心臓がドクン、って音がした気がした。
◇◆ キラキラ三姉妹 ◆◇
「うんうんっ! アタイもそう思う~! 摩耶さんと提督さんみたいに、一緒にご飯つくって、お皿洗って……すっごく楽しそうだったもん!」
「提督さん、摩耶さんのこと、すごーく大事にしてるって感じしたし!」
「ねーっ! アタイも、将来は好きな人と、こんなおうちで暮らしたいなぁ~!」
(……ちょ、ちょっと待て……アタシと提督って、そんな“理想の夫婦”みたいな空気出てたのか!?)
あー……やば……顔、あったかい…… 恥ずかしいっつーの!
◇◆ 昭南の“名言” ◆◇
そのとき、落ち着いた昭南の声が、ふわっと入ってきた。
「……ケッコン……」
言葉を選ぶみたいに、ゆっくりと続ける。
「一緒に暮らすって……とても特別なこと」
「楽しいだけじゃない……」
「すべてを受け入れる覚悟が、要るはず……」
(湘南,意味わかってそうで,ちょっと怖い……)
「それでも一緒にいたいと思える相手がいるなら……」
「きっと、幸せ……」
(ほんと,意味わかってんじゃないの……?)
「うんうんっ! わかる気がする~!」
「アタイも~!」
(おまえらは,わかってねぇだろ……)
(いや、まて、アタシが子どもっぽいだけか?)
でもさ――
こいつらがアタシたちの姿を見て、“ケッコンいいな”って思ってくれるの、なんか……悪くない。
◇◆ まさかの矛先 ◆◇
そんなことをぼんやり思ってたら、昭南が急にこっちを見てきた。
「摩耶さんは、どう思いますか?」
(はぁっ!?)
いきなり振られて、脳みそが空回りする。
「えっ、ええと……」
フライ返しを握りしめたけど、いま焼いてるもん何もないし!
日振と大東が、満面の笑みで近づいてくる。
「摩耶さん、ケッコンについてどう思いますか~?」
「姉御、やっぱり提督さんとのケッコン、楽しい?」
「なっ、なに言ってんだよおまえらっ!」
(顔が熱い……絶対赤くなってる!)
◇◆ 攻めの姉妹、沈む摩耶 ◆◇
「そ、そんなの……考えたことねぇしっ!」
「でもでも~、一緒に暮らすのって、楽しそうじゃん!」
「提督さんのこと、好きなんですね……」
(うぐっ……)
「……まぁ、その……一緒にいるのは、悪くはねぇけど……っ」
「摩耶さん、幸せそう……!」
「姉御……最高……!」
日振と大東、目が少し潤んでる?
「ちょっと! 泣くなってば!」
◇◆ ずるい人 ◆◇
わけのわからん流れに巻き込まれてたら――
提督が、すっとアタシの肩に手を添えてきた。
「摩耶が一緒にいてくれるだけで、毎日が幸せ」
(日振型三人がみてる前で、アタシに何言ってんだよ!)
優しい笑顔に、アタシは思わず目をそらしたら――
「ありがとう、摩耶」
そう言いながら、アタシのほっぺに、提督がそっとチュウしてきた。
(顔、真っ赤だよ…… 嬉しいよ…… 泣きそうだよ……)
◇◆ 作戦行動開始! ◆◇
日振型三人が、再び固まる。
アタシはこのベストタイミングに、チビ達に指示を出す。
「とりあえず、スイーツ出す準備、終わらせっぞ」
「お皿、並べます!」
「アタイ、トレイ持ってくるーっ!」
「……ドーナツ、整列させます」
(おまえら、マジで可愛いな……)
「提督、片づけ終わった?」
「うん。あとは任せといて」
◇◆ ふっと、想像がよぎる ◆◇
アタシはふっと息をついて、カウンターからリビングを見やる。
日振、大東、昭南、そして提督――
ちっこい背中が三つ、その隣に、でっかい背中――提督を見てたら、なんか胸がキュッとなった
(……アタシが“ママ”になったら、どんな感じなんだろ)
(似合わねぇって思ってたけど……案外、悪くないのかな……)
そんな想像が、ふいに頭をよぎって――
(……って、アタシ、なに考えてんだよ……)
(艦娘は赤ちゃんができないかもなのに……)
(……でも……想像しちまう……もし、そうなったら……)
(うん……それも……悪くないかも)
アタシは思わず、ちょっとだけ微笑んだ。