超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~   作:蛮野ゲリラ

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ずきゅんどきゅんと走り出す彼女に、ずきゅんどきゅんと俺の胸が(恐怖で)鳴る

 

 タマネと別れた俺は、教室に戻ったあと、少ししてから帰宅した。

 すぐに帰らなかった理由は簡単だ。マサムネやキラリと連絡先を交換したことで、「もしかして俺の歓迎会があるんじゃないか?」と淡い期待を抱いたからだ。

 

《つまり、誘われ待ちをしていたんですね》

 

 はい。――それで、まぁ結果はお察しの通り、誰にも誘われなかったんですけどね。てか誰一人として話しかけてすら来なかった。俺は泣いた。

 

 そんなこんなで高校生活の初日を終えた俺は、アカツキ学園の寮へ帰ってきた。

 リビングの液晶テレビ前にあるソファに体を預け、室内を見渡す。

 

 部屋には最初から設置されていた最低限の家電と、申し訳程度に置かれた観葉植物やインテリア。

 ……その奥には服や生活用品が詰まった大量のダンボールが積み上げられていた。うーん、荷解きがめんどくさい。

 

 とはいえ俺が住む部屋は一人部屋としては異常なまでに広かった。 本来は二、三人用の部屋だったらしいが、俺が転校生ということで急遽一人部屋に割り当てられたのだ。

 

 まぁ、俺のコミュ症という性質を考えると、転校の『せい』というより、『おかげ』と言ったほうが正しいかもしれない。

 

 この寮は高校生から入居可能で、俺の自宅はアカツキ学園からそれほど遠くないのだが、両親から「せっかくだから寮生活してみたらどうだ?」と勧められた。

 俺としては通学で十分だったのだが、返答する前に親の手により入寮が決まっていた。何してんのよパパ上、ママ上。

 

 ちなみに中等部に通う妹の一人からは「クソ兄貴だけずるい!」と文句を言っていたが、中学生のお子ちゃまはお(うち)からトコトコ登校してな。

 さて、学校の疲れを癒やそうと、俺が眠りに落ちかけていたその時――

 

 ピンポーン!

 

 玄関のチャイムが鳴った。……なんだよ、せっかくもう少しで寝そうだったのに。

 俺、なんか荷物頼んでたっけ?

 俺は眠い目をこすりながら玄関のドアを開けると。

 

「わぁー! やっぱりハルくんだぁ! ひさしぶりだねっ!」

「………」

 

 そこに立っていたのは、まったく予想外の人物だった。そして、声がデカすぎるせいで一瞬意識が飛びそうになる。

 

 目の前には、ぱあっと広がる花のような笑顔を見せる少女がいた。

 煌びやかなオレンジ色の短い髪と、黄水晶(シトリン)のような瞳。ほどよく日に焼けた健康的な肌と、無邪気な笑顔の奥から覗く八重歯が、野生的で元気いっぱいの雰囲気を醸し出している。

 

 彼女の名前は逢沢(あいざわ)キワミ。マホやタマネと同じく小学校時代の幼なじみだ。 それで、もう察しているだろうが『よっ友(知り合い以上友達未満)』候補最後の一人である。

 

「ああ。久しぶり――」

「ほんっと久しぶりの極みだよねーっ! ハルくんぎゅーっ!」

「げふっ」

 

 キワミは嬉しそうに笑顔を浮かべながら、俺に抱きついてきた。うへぇ……耳が痛い。俺の『無限防御』を貫いてきやがる。

 

「……キワミ。放せ」

「ええっ、久しぶりに会ったんだから、少しぐらいいいじゃん!」

 

 こんな感じで、キワミは非常にフランクな性格で、まさにスポーツ少女そのものだ。

 さきほどからキワミの髪からふわりと漂うシャンプーの香りに、女子に免疫のない俺は内心ドキドキが半端ではないが、持ち前の鉄仮面を駆使して平静を装う。

 俺は抵抗するキワミを引き離して、ドアを閉める。

 

「――って、、ちょっとなんで閉めるの!?」

 

 キワミはドアに足を引っかけて阻止した。……ちっ。

 

「俺は眠い。帰ってくれ」

「久しぶりに会った友達にそんなこと言う!? 酷いの極みだよっ!」

「近所迷惑になるから静かにしろ」

「こんなに時間に寮に帰ってるの、ぼっちなハルくんだけだから心配無用だよ!」

「――じゃあな」

「あぁ!? ごめんねっ、ハルくん許してぇ!」

「はぁ……」

 

 仕方なくドアを開け直し、キワミと向かい合う。

 彼女は俺の顔を見ると、ニカッと明るく笑った。

 

「ハルくんは、全っ然変わってないね!」

「……お前もな」

 

 彼女の言葉は、どうやら褒め言葉のつもりらしい。

 俺自身も、普段は無表情で硬い表情筋が、キワミを前にすると自然と緩んでいるのを感じる。

 

 キワミは打てば響く素直な反応を見せてくれるので、普段は事務的な会話しかできない俺も、ついついイジっちゃうのである。

 もっとも、彼女は誰に対してもこの距離感で接している。だから抱きつかれても俺は勘違いなんてしない………絶対にしないんだからねっ!

 

「それで、何の用だ?」

 

 俺が問いかけると、キワミは何やら得意げに胸を張り。

 

「ふふん、聞きたいんだぁ。じゃあそれ相応の――」

「じゃあな。気をつけて帰れよ」

「わぁああん、ごめんなさい! お話を聞いてくださぁい!」

 

 調子に乗る小娘に真面目に付き合う義理はない。

 が、どうしてもといった感じに泣きついてくるので、話を聞いてやることにする。

 キワミは目じりに溜まった涙を拭うと、もう一度切り出した。

 

「ちょっとね、ハルくんに学校に来てほしくございまして……」

「じゃあな」

「ええっ、言ってもダメなの!?」

 

 誰が好き好んで一度帰った学校にもう一度行きたがると思うんだよ。絶対にお断りだ。

 俺が断固拒否の姿勢を見せていると、キワミは何やら決意したような目つきになり。

 

「もういいや――無理やりでも連れて行くから!」

「エッ」

 

 突然、彼女は俺の腕を掴むと、そのまま玄関から引きずり出し――

 

「よい、しょっとぉ!」

 

 お姫様抱っこの体勢で俺を抱えた。そして、そのまま建物の廊下の手すりに足をかけ――って待て、ちょっと待て!

 

「おい、ここ七階だぞ。絶対に死ぬ――」

「いっくよーっ!!」

 

 キワミは俺の抗議を無視して、外に向かって跳び出した。

 ……ところで、このアカツキ学園の寮はマンションタイプの建物、いわゆる学生マンションというものなんだが、俺はその七階に住んでいる。

 つまり今、俺の視界には――駐車場、道路、そしてその向こうに広がるアカツキ学園の景色がばっちり映り込んでいるわけだ。

 

「わはははははっ! 風がつよーいっ!」

 

 キワミが笑顔で空中を駆け抜ける一方で。

 

(ぎゃあああああああああああああああああっっっ!! 風が強い!? 死ぬ!? 死ぬぅ!!)

 

 俺は心の中で絶叫を上げていた。表情筋は完全に死んで、今や干からびたミイラ状態だろう。 幸いなことに俺には『無限防御』があるので物理的な衝撃はないが、とはいえ精神的なダメージは全力で俺を襲ってくる。

 

「ふっ――」

 

 キワミは女の子らしい華奢な体つきにもかかわらず、軽やかに膝を折ってバランスよく着地すると再び駆けだした。一方の俺は、暴走ジェットコースターに乗せられているかのような焦燥感に支配され、胃の中のものをぶちまけそうになっていた。

 

(コッコさん、コッコさん! これ大丈夫だよね!? 『無限防御』ちゃんと発動してるよね!?)

 

《…………理解不能。なぜ彼女はこれほどの身体能力を…………いくら才能があったとしてもそれだけでは説明が…………》

 

(コッコさぁぁぁん!!)

 

 普段であれば俺の問いに間髪入れずに答えるコッコさんがエラーを起こしている。というかそれほどにキワミの動きがやばい。

 シュババババと陸上部どころか忍者も驚く高速ダッシュ(男子高校生を添えて)を繰りだし、空間を切り裂く勢いで駆け抜ける彼女の姿はまさに異次元だ。

 

 しかし、キワミはたしかに普通ではないものの、マホやタマネのような魔法や異能の使い手というわけではなく、この身体能力は純粋に『素』である……ひぇぇ。

 ビュンビュンとビルの間を通り抜け、アカツキ学園の中を駆け回り、ようやくキワミの足が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。

 

 そして、俺はというと――

 

「ねぇハルくん。――……死んでる」

「……死んではない」

 

 だが死にかけだっ! おのれキワミ、疑似ジェットコースター体験をさせやがってぇ。

 

「ほらハルくん見て見て!」

 

 放心状態から回復した俺は、彼女が指を差す方向に目を向けた。そこには、円形状の天井のない巨大な建物――コロシアムがあった。

 

「モンスターテイマー部か」

「うんっ! 懐かしいでしょ?」

「ああ」

 

 久しぶりに見るその光景に、最強コミュ症である俺の胸も少しだけ熱くなった。

 

 まぁ、それは置いといて。

 モンスターテイマー部とは、隣の元気少女――逢沢キワミが所属している部活動だ。

 

 アカツキ学園は基本的に、初等部・中等部・高等部でそれぞれ独立した部活があり、活動場所として体育館もしくはグラウンドが共用もしくは与えられているのだが、モンスターテイマー部では、他にはない特殊な活動と、そのために非常に大きなスペースを必要とするため、このコロシアムを丸ごと一つ使って活動するのである。

 

 また、部員数がとある事情により少ないため、他の部とは異なり小中高全学年が一緒に活動をする特別な部活だ。そのとある事情はというと――

 

「ほら! ハルくん、行こっ?」

 

 あ、ちょっと待って。まだ説明が終わって――。

 俺はキワミに手を引かれながらコロシアムの中に入っていくのだった。

 

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