超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~   作:蛮野ゲリラ

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兄より優れた妹しか存在しねえ!!

 

 ムートちゃんのデカさにビビりまくっていた俺であったが、どうやら彼(もしかしたら彼女?)は俺のことを覚えていたらしく、しかも懐かれていたようで、口に含まれてブンブンと振り回されるという感激のお出迎えをされていた。

 喉の奥から漏れる熱い息、バキバキと軋む骨の音を体感して――ほんっと『無限防御』を選んでよかったと思ったね。

 

 それで俺は今、寮の自室でくつろいでいた。

 寮に到着したのが午後6時頃。荷解きやら整理を終えた今は午後7時――つまり夜だ。

 俺は机にスマホを置き、すぐ傍で正座をする。

 

「すぅー……はぁー……」

 

 ゆっくりと深呼吸をして、緊張で全身に高まっている熱を冷まそうとする。じめじめと滲み出てくる手汗が煩わしい。

 ……そう、マホと昼頃に(一方的に)結んだ(結ばされた)約束を果たすため、俺は今から数年ぶりにマホと電話をする。

 家族以外との電話なんて久しぶりすぎるため、事前に心の準備をしているというわけだ。じゃなきゃ体と心がもたないからな。

 

 よし……準備はオーケーだ。いつでもいける。

 

 俺は息を止めて、スマホを凝視する。

 ……しかし、数秒経っても、数分経っても電話は鳴らない。

 まだ鳴らないのか。……それとも、もしかしてマホにとっての夜というのは午後9時ぐらいだというのだろうか。もし、そうであったならば――

 プルルルルルルル――

「はい、もしもし。アカツキ高校一年の現実アオハルです」

 

 神速の速さで通話に出た俺は、完璧な対応をする。若干食い気味だなんて言われるかもしれないが、おそらく問題はないだろう。

 ……しかし、少しは落ち着いた方が良いかもしれない。せっかちな男は嫌われるってどこかのネットの記事にあった気がする。

 俺は一回息を吐いて、マホの声を聞こうと――

『……お兄様、失礼ですが、いつもそんな風に電話に出ていらっしゃるのですか?』

 俺は無言で通話を切った。そして、床に手を着いて頭を叩きつける。

 電話の相手は妹だった。 正確には俺のことを『クソ兄貴』呼ばわりしないほうの妹だ。

 

 ……やべぇ、死にてえ。

 

 なに妹相手にワンコールで出てんだよ俺。なんで電話する前に画面で相手の名前を見なかったんだよ俺! つーか電話で自己紹介とかキモすぎるんだけど俺ぇ……!

 

 プルルルルルルルル! ……相手は妹だ。

 

「はい……」

『あの、お兄様、どうして電話を切ったのですか?』

「はい……」

『――『アオハル』くん、どうかしたんですか?』

「名前で呼ぶのはやめろ、マナ」

『うふふ、ごめんなさい。お兄様』

 

 この同じ遺伝子から生まれたとは到底思えない上品な口調は、我が現実家(うつつみけ)のお嬢様担当の『現実マナ』である。

 もう一人のクソ生意気担当の『現実ミア』とは双子であり、マナは姉である。とはいえ二人ともかなり仲が良く、姉妹の意識というものはほとんどない。除け者にされている兄は寂しいぞよ。

 

 そんなマナだが、ミアと一緒にアカツキ学園中等部に通っている。なぜ、あの口の悪い妹がいるのに、こんなに上品な口調なのかというと、たしかきっかけは……そう、マホに何かのパーティーに連れて行ってもらったことだった気がする。

 

 それ以来、彼女の中で色々と心境の変化があったらしく、言葉遣いが丁寧になり、振る舞いが大人びるようになった。

 そして、時折俺のことを名前で呼ぶようになった。

 

 普通なら名前で呼ばれるのは何ともないはずなんだが、マナからそう呼ばれるのは、なぜか背筋がぞわぞわする。多分妹だからなんだろうけど……。

 てか、俺もそのパーティーに行った覚えがあるが、特に何か印象に残るようなことはなかった気がする。

 

「それで、何の用だ」

『あ、えっと……』

 

 俺が率直にそう尋ねると、マナは何やら言葉に詰まっている。なんだよお前から電話かけてきたくせに、どうしたんだ?

 

『――――マナ? もしかして今クソ兄貴と電話してる? ちょうどいいや、貸して』

『えっ。あっ、ミアちゃん!』

 

 聞き覚えのある声が聞こえてきて、その後で電話越しにゴソゴソと物音がする。

 

『クソ兄貴、聞こえる?』

「ミアか。元気か?」

『ふふ、何言ってんの。まだ兄貴が引っ越ししてから一日も経ってないでしょ』

 

 そういえばそうか。なんか今日一日いろいろとあったから、もう何ヶ月も経った感覚になっていた。

 ミアはそのまま話を続ける。遠くでマナが何か言っている声が聞こえるが、内容までは聞き取れない。

 

『今日、マホ姉とは話した?』

「ああ、同じクラスだから話したよ」

『ふーん、そう。……同じクラスなんだ、今度会いに行こ』

 ああ、そういえばコイツ、マホのことを『マホ姉』って呼ぶくらい好きなんだっけか。俺のことは昔『お兄ちゃん』って懐いてたのに、今じゃ『クソ兄貴』呼びだけどな!

 

『じゃあ、タマネさんとキワミちゃんとは別のクラスなの?』

「ああ、そうだよ。一応話はしたけどな」

 

 そう、この妹たちはマホだけでなく、タマネやキワミとも仲がいい。

 タマネは頼れる先輩、キワミは親しみやすい年上の友達という感じだ。中学生の子どもに『ちゃん』付けで呼ばれるキワミちゃん、まじでキワミちゃん。

 

 まぁ妹たちは、前世の知識とコッコさんの力でインチキをしていた俺と違って、頭が良いから、キワミはともかく妹たちと同じく優秀だったタマネやマホと一緒に頭の良い話をしてたんだよな。……俺? 俺はそばでお茶をすすってましたよ。

 

『――もうっ、ミアちゃんスマホ返して! 今は私がお兄様と話してるの!』

『あっ、マナ!』

 

 またゴソゴソと物音がして、少し喧嘩している様子が伝わってくる。こいつら、ほんと仲いいな……。

 そして、どうやら折衷案としてスピーカーモードにしたようだ。マナとミアの声がはっきりと聞こえてくる。

 

『あっ、もしもしお兄様? ごめんなさい、ミアちゃんのせいで話せなくて』

『なによー。マナのケチ』

『もう、ミアちゃんは静かにしてて!』

「気にしなくていい。俺もミアと話したかったからな」

『えへへ。ほら、クソ兄貴もそう言ってるじゃん』

 

『――お兄様? あまりミアちゃんを甘やかさないでください。お兄様が何でも許すから、ミアちゃんが「クソ兄貴」なんてひどい言葉を使うんですよ?』

 

 あれ? なんか俺が責められてる? なんで?

 

『それとも、そっちのほうがお兄様の好みなんですか? あれですか「手がかかる子ほど可愛い」ってやつですか? ………私はお兄様が素直なほうが好きだと思ったから、そうしてるのに』

『ま、マナ? なんかクソ兄貴みたいな黒いオーラが出てるわよ……? ご、ごめんって。今度電話するときは邪魔しないから。ね? そんなに怒らないで? ――ねぇ、お兄ちゃんからもなんか言って!』

「おぉ……久しぶりに『お兄ちゃん』と呼んでくれたな」

『ば、ばかっ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!』

『――「クソ兄貴」、「バカ」――どうしてそんな酷い言葉をお兄様に言えるの? ……ねぇ? ミアちゃん? なんで?』

『あぁ、今度はあたしに矛先が向いたー!? ひぃぃ、クソ兄貴――お兄ちゃん助けてー!』

『……そうやって普段は酷いことばかり言ってるくせに、困ったときだけお兄様に助けてもらおうだなんて、ミアちゃんってそういうところ虫が良すぎるよね』

 

 なんか状況がどんどん悪化しているようだ。電話の向こうからは、追い詰めるマナの声と、半泣きのミアの声が聞こえてくる。

 

「マナ、落ち着け」

『しかし、お兄様っ! ミアちゃんの言葉遣いは直さないとダメです! それにお兄様がちゃんと叱らないからこうなってるんですから――もっと現実家の長男としての自覚をもってください!』

 

 うーむ、それを言われるとぐうの音も出ないな。我が妹ながら、なんてしっかりしてるんだ。

 

《マスターみたいな人が長男だなんて、家族にとっては最悪以外の何物でもありませんよね》

 

 おっと、これは普通に傷つく一言をいただきました。てか、キワミちゃんショックは回復したの?

 

《ええ、つい先ほど。分析の結果、キワミ様の身体能力は神のいたずらにより人間の限界値最大の資質と能力を与えられたものだと結論付けました》

 

 え、なにそれすげーバカっぽい。超高性能AIっていうけど所詮AIはAIってことかな。

 

《久々にかなりムカつきました。今日は寝られるとは思わないでくださいね、ずっと頭の中で騒ぎますから。……しかし、今は私との会話に興じるより、妹さんの相手をしたほうがいいのではないですか?》

 

 ん、そうだな。

 

『あっ――ご、ごめんなさい。お兄様は立派にマホ姉様と役目を果たしているのに……私はいったい何を言って……ぐすっ、ほんとうにごめんなさい……』

 

 あれ? なんかいつの間にかガチ泣きしてる。え、なんで?

 

「気にするな。お前が言っていることもたしかだ」

『え……?』

「俺はいつも失敗ばかりで、恥ずかしいところばかり見せている。今日だって友人を一人もつくれなかった。本当に恥じることばかりだ。お前らが俺をそう思うのも仕方ない」

『そんなこと……、お兄様は……、』

「だから、俺よりもずっと出来の良いお前たちがのびのびと成長していく姿を見ることが、兄として本当に嬉しいんだ」

 

 マナもミアもタイプは違えど人当たりが良く、友達も多い。それに異性にもめちゃくちゃモテてている。

 

 そして、彼女たちがすごければすごいほど、血縁関係にある俺もその影響を受けて、少しでも似たような成長を遂げられる可能性があるのだ!………うん、自分で言ってて悲しくなるね!

 

「まぁ、こんな出来の悪い兄に言われても嬉しくないだろうが」

『――そんなことありませんっ!』

 

 うおっ、びっくりした。急に大きな声を出されたので思わず体が跳ねた。

 ミアも『マナ? だ、大丈夫?』とうろたえている。

 しかし、マナはその勢いのまま、言葉を続けた。

 

『お兄様は本当にすごい人です。マホ姉様やタマネ様、キワミちゃんという世界でも有数の素晴らしい方々と親交を深めていますし、マホ姉様と一緒にとても大きな役目を果たしています』

 

 うーん、親交ね。それはどうなんだろうか。

 今日、彼女たちと話した感じだと『よっ友(絶対に友達ではない)』にはなってくれそうだが、それ以上の『友人』になってくれるかどうかは正直分からない。

 ……まぁ、俺が彼女たちを理解できていないことが最大の原因なんだが。

 

 しかし、先ほどからマナが言っている『役目』とはいったい何のことだろう。そして出てくるマホの名前……うーむ、何やら黎明院の陰謀の香りがする。

 そして、マナからみても、キワミちゃんはやはりキワミちゃんである。

 

『だから、そんなに自分を卑下しないでください。――お兄様は私たちの誇りなんです。ねっ、ミアちゃん?』

『……えっ!? え、ええ、そうね。……うん、そうよ! 流石ねクソ兄貴!』

 

 ……ほんとにそうか?

 マナの言葉には力が入っていたから、俺を慕ってくれているのはよくわかった。

 だが、クソ生意気なミアよ、お前はマナの圧にびびって、とりあえず便乗しているだけだろう。呼び方もまた『クソ兄貴』に戻ってるしよ。

 

 そうして、少し元気になったマナと、彼女のイエスマンと化したミアと話し、おそらく三十分くらい経った頃。

 

『そういや兄貴は今日から寮暮らしだけど、家近いから週末とかは帰ってくるの?』

「いや、しばらくはこっちにいるつもりだ」

 

 前世では一人暮らしなんてしたことがなかったから、家族には申し訳ないが、休みは一人を満喫させてもらうつもりだ。

 

『…………』

 

 すると、妹たちが急に静かになった。

 あれ? なんだか急に空気が重くなった気がする。あとなんか肌寒くなったな。

 

『……ふーん、そ』

『……帰ってこないんですか』

 

 ミアとマナは低い声色でそう言った。うわ、こういう時の妹たちは不機嫌になっていることが多いのを俺は知っている。

 そして兄としては最低かもしれないが、二人がかりで文句を言われると面倒なことこの上ない。

 

「じゃあ、そろそろ電話切るよ。明日の準備があるからな。部屋の片づけもあるし」

 

『……は?』

 

「じゃあな」

 

 面倒は御免なので、さっさと切らせてもらおう。

 俺は妹たちとの通話を終了し、長時間の会話疲れに一つため息を吐いた。

 しかし、どうして妹たちは不機嫌になったのだろう。俺は疑問に思いながら、

 

(そういえば、何か忘れているような……)

 

 ふとそんなことを思い出していた。すると――

 

 プルルルルルル!

 

 机に置いたスマホが振動を再び始めた。

 どうせ妹たちが、急に電話を切られたことに怒ってかけてきたんだろうと思い、スマホを手に取って。

 

「なんだ、まだ何か用があるのか?」

 

 そんな若干冷たげな声を出した。続けて兄として毅然とした態度を取ろうと――

 

『ふーん……約束破りのくせに、そんな反応するんだ』

「え」

 

 口調はたしかにミアと似ているが、それよりもさらにトゲがあるような、そんな冷たい雰囲気。まさか、電話の向こうにいる相手は――

 

「マホ……」

『何かしら、何度も電話したのに出なかった約束破りさん』

 

 そうでした。マホと夜に電話をする約束をしていたんでした。テヘペロ!

 

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