超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~ 作:蛮野ゲリラ
昼食を済ませた後、昼休み前よりもどこかぐったりと疲れた様子のマサムネと別れ、教室へ向かおうとしていたその途中だった。
「……ハル」
廊下の片隅から、風のように透き通る声が俺を呼び止める。振り返ると、そこには銀髪の少女――タマネが静かに立っていた。
普段あまり自分から積極的に声をかけてくるタイプではないタマネが、俺をわざわざ呼び止めるなんて珍しい。
「俺に用か、タマネ?」
軽く首を傾げて尋ねると、タマネは小さく頷いた。
「屋上で話したいことがある。少しだけ――付き合って」
それだけを告げると、彼女は言葉の続きを待つことなく踵を返し、階段の方へ歩き出した。その背中はまるで「ついて来い」と言わんばかりで、拒否権など初めから存在しないかのようだ。仕方なく俺もその後を追った。
***
屋上にたどり着くと、タマネは風が吹き抜ける中央付近に静かにたたずんでいた。手すりにもたれることなく、背筋を伸ばして立つ彼女は、どこか一枚の絵画のように美しい。
今日は昨日と違って適度に風が吹いているせいか、銀髪が時折ふわりと舞い上がる。その光景に一瞬目を奪われそうになるが、そんな俺の様子には気づいていないのか、タマネは少し雲がかった空をじっと見つめていた。
「……黎明院マホと逢沢キワミには会った?」
マホとキワミ……?
「ああ、話したぞ」
「そう」
タマネは短く返すと、ゆっくりと俺の方へ歩み寄る。そして、俺の前まで来ると、彼女は制服のポケットからビー玉サイズの青い水晶を取り出した。
「これ……持ってて」
タマネは手のひらにその水晶を乗せ、俺に差し出してきた。
「なんだこれは?」
おそらく普通のビー玉ではなく、『異能』による産物だろう。しかし、タマネは何も言わず、ただ俺の目をじっと見つめたまま、手のひらを差し出し続けている。
口数が少ないのはタマネの性格だから理解してるけど、少しぐらいは教えてくれたっていいだろうに……。
《調べますか?》
……いや、大丈夫。
タマネなら危ないものを渡したりはしないだろう。ありがとうコッコさん。
俺は水晶を受け取ることにした。その表面はひんやりとしていて、手に馴染むような感覚がある。
「……あ、タマネちょっといいか?」
受け取った水晶をポケットにしまいながら、ふと頭をよぎった疑問を彼女にぶつけることにした。
「……?」
タマネは軽く首を傾げる。
昼食中にマサムネに言われた『お前とマホちゃんって、やっぱ付き合ってんの?』という言葉。マサムネはどういうことか、そのことについてタマネの名前も出していた。
相手はタマネだし、変なことは言われないだろうから訊いてみよう。
「……えっとな、お前から見て俺はどんな風に見える……?」
うおっ、口にしてみたけど思っていた以上に恥ずかしい! なんか口説いてみるみたいで気色悪ぃ。
「……。――バカ」
「え」
「無口、目つきが悪い、表情が硬い、闇のオーラ」
「エッ」
ちょ、ちょっと待って、今俺が話してる相手ってタマネだよね? 明鏡止水・無毒無害で有名なタマネさんですよね……?
「単純、マイペース、妙に頑固、鈍感、バカ、鈍感、バカ」
……ぐすっ。ちょっと泣いていいですか……? いやもう泣いてるけど。
「――ってマホが言っていた」
アイツかい!? そりゃまぁ、黎明院家で幼いころから英才教育を受けていたマホから見たら、俺なんて欠点の穴だらけだろうな! 俺はてっきりタマネが俺のことをそう感じているのかと思って焦ったよ……。
《しかし、的確ですね。私も50個ぐらい追加しましょうか。まずは、コミュ症、ぼっち、自意識過剰、ネガティブ、勘違い野郎――》
もういいから! これ以上言われたら本気で泣くからね! 一日中泣いてコッコさんを困らせてやるから!
《ムッツリスケベ、独り言が激しい、無駄にこだわりが強い、友達いない歴=年齢+15》
おい、いい加減にしろよ! いくら温厚な俺でも本気で怒るからな!……すいませんもう許してくださいっ。何でもしますから!
俺がコッコさんの追撃を止めようと必死になっていると――目の前に、タマネの綺麗な顔があった。
「……! どうかしたか、タマネ?」
なぜタマネは機械みたいに無口なのに、こうも距離感が近いのだろう。
女性への免疫がまるでない俺の心臓は、ドキドキと無駄に大きな音を立て始める。
だが――次の瞬間、今度はまた別の意味で俺の心臓は大きく跳ね上がった。
「ハル、気をつけて。あなたは――狙われている」
「――――」
「あなたの周りに邪悪な気配が漂っている。それは、普通の人間には気づけないほど静かに、でも確実に近づいてきている」
あまりに突然の警告に、俺は言葉を失う。
だが、タマネはそれ以上何も言わず、静かに背を向けて歩き出した。彼女が立っていた場所には微かな風の残り香が漂い、気づいた時にはその姿はもうどこにもなかった。
一体何が起きているのか。何もわからないまま、俺はただその場に立ち尽くしていた。