超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~   作:蛮野ゲリラ

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異世界デートは突然に ~鈍感ぼっちを添えて~

 

 タマネと話してから昼休みが終わり、俺は午後の授業を受けていた。

 頭の片隅にタマネの言葉がチラついていたが、結局その違和感も授業の始まりと共に薄れていった。

 というのも、この異世界では特別な素質を持つ人間が非日常を体験する一方で、俺のようなただの一般人には前世と変わらない平凡な日常が用意されるのだ。

 

 だから『狙われている』といっても、どうせ命なんて物騒な話じゃなく、もっと日常的でくだらないことだろう。

 つーか、よく考えたらタマネって、あんな特殊な異能を使えるからか、時折電波ちゃんみたいな発言をすることが多いし、あの警告自体がただの勘違いなんてこともありえそうだ。

 

 そんな感じに俺は昼休みの記憶をすっぱりと切り捨て、先生にバレないようにあくびをしながら授業を受けるのであった。

 

 

 

 

「お――い……おーい、アオハル。おーい」

「…………ん」

 

 マサムネの声……? いけない、どうやら寝てしまっていたようだ。

 俺はおぼろげな意識のまま、前の席からこちらを覗き込んでいるマサムネに「ああ」と応える。(ちなみにマサムネは俺の一つ前の席である)

 教壇の方を見ると、いつの間にか先生の姿はなく、黒板もすっかり消されていた。

 

(やべ、五限目終わったのか……)

 

 やっちまった。転校してまだ二日目なのに授業中に爆睡とか……先生にバレてないならいいけど。

 頬をポリポリとかきながらそんなことを考えていると、マサムネが俺をじーっと見ていた。

 

「どうした?」

「いや、お前、帰らないのか? ――もう放課後だぞ?」

「…………」

 

 え、うそでしょ。六限目通り越して終礼からの放課後!? え、うそでしょお!?

 

「お前、五限目終わってから一切身動きしてなかったが――まさか寝てたとかじゃないよな?」

「そんなわけあるはずがないわけがないだろう」

「ま、そうだよな日直の起立の声に反応してたし……は? なんて?」

 

 やっべぇ……まさか、この俺ともあろう者がこんな失態を犯すとは。

 

《完全に二日連続の徹ゲー(徹夜でゲームの略)の影響ですね》

 

 それな。

 この異世界は科学技術が現実世界レベルなのに、ファンタジ―要素もあるからか、ゲームが前世のものとは少し毛色が違っていて飽きないんだよな。

 それに小学生の時はまだこの世界に慣れていなかったから、睡眠なんてほんと必要最低限しかとってなかったし、学校の授業も一字一句覚えようとしていたぐらいだった。そういう意味では俺もこの異世界での生活に余裕が出て来たってことだよな。……いや、慣れるまでに何年かかってんだっていう話だが。

 ……とりあえず、まぁ、やってしまったことはしょうがないので。

 

「帰るか……」

 

 俺はこちらをジロジロ見てくるマサムネを傍目に、持ち帰る荷物を片付け始めた。――その時だった。

 

「アオハルさま、ちょっと時間ありますかっ?」

 

 ドタバタと黒髪黒目の美少女――川田キラリちゃんが駆け寄ってきた。

 俺は持ち帰る荷物を全て入れた鞄を肩にかけて、「時間がある」という意味を込めて彼女に目を向けた。

 キラリちゃんは頷いて。

 

「この後、アオハルさまが暇だったらちょっと付き合ってもらえないかなって」

「時間はあるが……付き合うとは?」

「お・か・い・も・の――ですっ!」

 

 そう言ってウィンクをするキラリちゃん。えっ、かわいい……じゃなくて。

 女の子と二人でお出かけ……うーん、無理!

 

「悪いが俺は……」

 

「――ダメ、ですか……っ?」

 

 断ろうとした俺の言葉を遮るように、キラリちゃんが眉を下げて目をうるうるさせた。

 うっ、胸に痛みが……。

 俺みたいな陰キャは女の子に泣かれるとタジタジになり、自分も泣きたくなってしまうのである。

 そして、口下手な俺では彼女を納得させるような断り方ができない。ましてや、女の子とお出かけなんてしてしまったら緊張で心臓麻痺を起こしてしまうことは間違いないだろう。はい詰んだ。

 

「キラリ、悪いが俺はお前を楽しませるようなことはできない」

「あはは――会話に自信がないとか、そういうことですか?」

 

 はい、その通りでございます。俺のことがよくわかっていらっしゃる。

 

「ふふっ、小さい頃からアオハルさまのことを見ていましたから」

 

 見てた? あ、そっか。キラリちゃん小学校時代は同じクラスだって言ってたっけか。

 いや、よくこんな陰キャのことを覚えてたな。それともあれか、逆にぼっちすぎて目に入っちゃった的なやつか。

 

「ほら、今だって多分勘違いしていませんか?」

「そんなことは……」

「アオハルさまって鈍感ってよく言われませんか?」

「おぉ……ついさっき言われた」

「ふふふ、少しずつアオハルさまのことが分かってきました」

 

 思わず感嘆の声が漏れてしまった。

 すげぇ、エスパーだ……! モノホンのエスパーだ!

 

「きっとアオハルさまははっきり言わないと分からないんですよね? だから――言います」

 

 キラリちゃんは大きく一つ深呼吸をしてから、じっと俺の目を見据えた。その真剣な眼差しに、思わず固まってしまう。

 

「……わたしと、デートしよっ?」

 

 彼女の頬はほんのり赤く染まり、明るい笑顔が一層輝いて見える。恥ずかしそうにはにかむ姿が、まるで漫画の中のヒロインみたいだった。

 

「――――」

 

 ただし、そんな彼女の一言を、俺の脳みそが全く処理できなかったのは、もはや言うまでもないだろう。

 

(……でーと? デートってなんだっけ? 初めて聞く言葉だ。もしかして異世界で使われている言葉か。……いや、昔聞いたことがある、たしか交際前や交際中の二人が恋愛的な展開を期待して出かける行為のこと……いやでも、まさか――)

 

 この通り、俺の頭は完全にショートし、何も言えず固まっていた。

 一方で、俺とキラリちゃんのやり取りを興味深そうに眺めていたマサムネといえば。

 

「ほうほう……これはこれは、マホちゃんに報告せねばならんことですなぁ」

 

 と言いながらにやけ面で笑っていた。それと同時に馴染みのある人物の名前が出てきたことで俺の脳みそもようやく再起動した。

 

「なぜそこでマホが出る。昼休みの時にも言ったが俺とマホは」

「――友達じゃないんだろ。はいはい聞いた聞いた」

 

 なんか引っかかる言い方だけど、わかってるじゃん。

 

「うん、お前はスゴイ奴だけど鈍感だってことはよくわかったよ。お前とマホちゃんが友達じゃないね……うん、お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」

 

 ……? 何だその意味深な言い方。多分だけど、コイツ分かってないよね?

 

「あーあ、こりゃ本物の鈍感だ。マホちゃんも救われねえなぁ」

 

 そう言いながら、『ダメだこりゃ』とでも言いたげに両手を横に広げるマサムネ。……いやいや、どういう意味だよ。

 今の話とマホの関連性についてまったく理解できない俺は、ひとまずそれは置いといてキラリちゃんにデートのお誘いの返事をしようと――したが、

 

「えーっ! やっぱりアオハルさまってマホちゃんと仲良いのぉ!?」

 

 なぜか今度はキラリちゃんが盛り上がっていた。……いや、なんでやねん。

 

「別に俺はマホと――」

「あーっ! コイツとマホはだな!」

 

 俺が『マホと友達じゃない』と彼女に答えようとすると、突然、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がったマサムネが、俺の口を手で押さえた。そのまま勢いよく喋り始める。

 

「コイツとマホはな! 小学校の頃から超仲良しで、二人でいれば場所も時間も問わずに二人の世界を作るくらいだったんだよ! 一言も言葉を交わさないのに行動は息ピッタリで、以心伝心そのもの! 俺たちが口を挟む隙もなかったよ!」

 

 ……二人の世界ってなんだそりゃ。俺とマホはたまたま縁があって、一緒に過ごす時間が多かっただけだ。

 つーか、アイツの行動なんて俺に分かるわけがないし、こんな話をアイツに聞かせたら何て言われるか……まぁ罵倒されるのは確実だな。

 

「だからさ、中途半端な気持ちなら、アオハルを狙うのはやめた方がいいかもな。マホちゃんだけじゃなくて、コイツの周りにいるやつらもただモノじゃないし、コイツ自身もやばい奴だからな。まぁ、知ってるだろうけど」

 

 ねぇ、なんかさっきから言ってることひどくない?………泣くぞ? 表面では泣かんが、心の中では泣くぞ。いいのか?

 俺はマサムネに心の中で文句を言いながら、彼から話を聞いていたキラリちゃんに目をやる。

 まぁ何はともあれ、俺に女の子とデートなんて荷が重いからお断りさせてもらおう。

 そう考えていた――のだが、

 

「――へぇ、そうだったんだ」

 

 キラリちゃんは、顎に手を当てて考え込むように笑みを浮かべた。その目は少し見開かれ、口角がゆるやかに上がっている。まるで何か興味深い発見をしたような表情だ。

 

「――――」

 

 ……その笑顔にどこか違和感を覚える。偏見かもしれないけど、あの屈託のない笑顔の奥に、何か別の意味が込められているような……。

 俺がじっと彼女の様子をうかがっていると、彼女は俺の視線に気づき、目を細めてにこっと笑って――。

 

「とりあえず行こっ! ね、アオハルさまっ!」

「え」

 

 先ほどまでの微かな猜疑心はどこへやら、俺は突然の展開に驚きが隠せなかった。

 

「いや、俺は――」

 

 否定しようとした矢先、キラリちゃんが俺の手を握り、そのまま教室の外へと駆け出した。

 

「さぁ、出発出発っ!」

「エェ……」

 

 あまりの勢いに抵抗する余裕もなく、引きずられるように走らされる俺。

 後ろを振り返り、マサムネに助けを求める視線を送るが、アイツはニヤニヤ笑いながら手を振るだけだった……このやろう!

 

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