超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~   作:蛮野ゲリラ

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【速報】ぼっちの俺、異世界でモテる【すまんなお前らwww】

 

「わたしは――アオハルさまのことが好きです」

「…………………………………………………」

 

 えっ……歓迎会は?

 一瞬、頭の中が真っ白になる。耳元で静かに囁かれた彼女の言葉が、じんわりと胸の奥に響く。

 キラリちゃんはそのまま一歩下がり、顔を赤らめた。その表情は、まさに「恋する少女」という言葉が形になったようで、どこか愛らしく、そして眩しかった。

 俺が彼女の告白に言葉を返せずにいると、キラリちゃんはムッと頬を膨らませた。

 

「えぇ、女の子の一世一代の告白に無反応ってひっどぉーい!」

 

 いえ、表面に出てないだけで心臓バクバクですし、脳内はフル回転してます……じゃなくて、え、ガチ?

 

「その様子じゃ、全然気づいてなかったみたいですね」

 

 キラリちゃんは、意地悪な笑みを浮かべた。まるでイタズラが成功した子供のような顔だ。その無邪気さに、少しだけ俺の緊張もほぐれる。

 

「『デート』って言ったでしょ?」

 

 たしかに言っていたけど……それは歓迎会を準備するための方便だったんじゃないのか?

 

「お前は本当に……」

 

 俺が何か言おうとすると、キラリちゃんは俺を見上げながら、初めて買い物に誘ってきたときと同じ、ほんのり照れたような仕草で頷いた。

 

「ふふ、信じられないみたいですね?」

 

 固まっている俺に対してキラリちゃんは優しく微笑むと、さらに顔を近づける。彼女の瞳がまっすぐ俺を捉え、頬がわずかに赤く染まっているのがわかった。

 

「……これで信じてくれる?」

 

 キラリちゃんは頬をわずかに赤く染めて、俺の顔に近づける。

 

 え、ちょっ……。

 目の前に彼女の顔が迫ってくる。視界が狭まる。唇が触れそうな距離になった――そのとき。

 

 ――ポケットの中で携帯が突然鳴った。

 

 俺はこれ幸いと彼女と距離をとって背を向けつつ応答する。

 

『おう、アオハル、今少しいいか?』

 

 相手はマサムネだった。

 

「ああ、問題ない。むしろ助かった」

『助か……? まぁいいか。それよりお前、今何してる?」

 

 何してるって、そりゃあ。

 

「キラリとデートだ」

「デートぉ!? ははは、冗談でもお前の口からその言葉が出てくるとは思わなかったよ!」

 

 おい、それはどういう意味だ。俺はそんなに非モテに見えるかい。

 これでも女の子に告白されたばかりのモテ男なんだが(なお、イタズラの可能性が高い)。

 というか……

 

「放課後にキラリが俺を誘う場にお前もいただろう。あれに行ってる最中だよ」

 

 それにしても、このタイミングでのマサムネの電話。歓迎会の用意が終わったから来いよっていうやつかな。本当にナイスタイミングである。

 

「なぁ、アオハル」

「ああ」

 

 キラリちゃんに告白されたから一瞬、歓迎会なんて俺の勘違いかと思ったが、ちゃんとあるんだな。よかったよ。

 そんなことを考えて柄にもなくワクワクしていたときだった。

 

 

 

 

 

「——キラリって誰だ?」

 

 

 ………………は?

 

 あまりにも予想外の言葉に、思考が一瞬飛んだ。

 しかし、マサムネはまるで普通の会話を続けるように話を続ける。

 

「いや、キラリって誰かなぁって。名前からしてカワイイけど、もしかして俺の知り合いにいたか?」

 

「何を言って……キラリは……」

 

 俺は困惑しながら背後にいる少女のほうを振り返った。

 

 その瞬間――突然、空気を裂くような爆発音が響き、鋭い衝撃と共に、手元の携帯が弾き飛ばされた。

 

「――っ!?」

 

 カタカタと音を立てて地面を転がっていくスマホを見下ろすと、裏面の中央に丸い『弾痕』のような穴があった。

 呆然とする俺の視線が自然とスマホを撃ち抜いた方向――つまり、キラリのほうへ向かう。

 

「あらあら、ハズしちゃったわぁ」

 

 その場に立つ彼女の手には、紫色の装飾が施された奇妙な銃が握られていた。見慣れない形状だが、おそらく先ほどの一撃はあれによるものだろう。

 

 しかし、それよりも異常なのは――キラリの表情だった。

 

 薄く細められた目、ゆがんだ口元、頬に銃を当てて微笑むその姿。どこか愛らしい仕草のはずなのに、そこにはこれまで見たことがない不気味な妖艶さが漂っていた。俺の知っている朗らかなキラリちゃんとはまるで別人だ。

 

「キラリ……いったい何を……」

「フフ、良い表情。アナタのその困惑した顔を見たかったのよ」

 

 まるで嘲るように彼女は笑う。その声音には、どこか抑えきれない喜びが滲んでいた。

 何が起きている。まったく状況を理解できない。なぜ俺は今、告白された相手に銃を向けられている。なぜ、キラリちゃんは俺を殺そうとしている。

 

「ねぇ、アオハルさま――『川田キラリ』を知っているかしら」

「は……?」

 

 

「『川田キラリ』――15歳。女性。高校生。12月11日生まれ。血液型はAB型。身長は158.7cm、体重は45.2kg。平均体温は36.8度。瞬きの回数は1分間に平均23回。髪の毛の成長速度は1日あたり0.38mm。左目の視力は1.2、右目は1.1。歯並びは完璧だが、右上の犬歯が0.1mm他より出ている。出身地はアカツキの南方区域。現在は寮で生活している。家族構成は両親と弟が一人。平均起床時間は6時。平均就寝時間は11時30分。普段は自炊をしているが月に3回外食をしている。性格は一途、ちょっと妄想思考気味。人間関係の嗜好は狭く広く。趣味は読書。好きな食べ物はハンバーグ。嫌いな食べ物はカボチャ。将来の夢は学校の先生、きっかけは『彼』が授業がわからないと言っていたこと。今感じている課題は高校に転校してくると噂の『彼』にどうやって話しかけるか。最近の悩みは魔法の適性があることが分かったが魔法少女として活かすかどうか迷っていること。好きなタイプは不器用だけど優しい人」

 

 

 彼女の声は機械のように淡々としている。まるで説明書を読み上げているようだ。

 

 

「普段の口癖は相手が何らかのリアクションを示した際に『ふふ』と言う。癖として、髪を触る頻度は1時間に約8回。爪の長さは右手薬指が他より0.2ミリ長い。お風呂に入る際は必ず髪の毛から洗い始め、2分後に肩、さらに左腕へ移行。洗顔は終了時に3秒間鏡を見る習慣あり。好きな香りはフローラル系、特にローズに強い反応を示す。話し方の特徴として、相手に要望を伝える際は身体的動作を入れる癖を持つ。部屋のレイアウトは南向きの窓際に白いカーテン。ベッドは左側に配置。ベッドの下には取り出したことがない段ボール箱が二つ。棚の中には未開封のハンカチが14枚。日常の行動として、コンビニに入る際はまず冷たい飲み物を手に取り、3秒後に棚に戻す癖があり。買い物袋の持ち方は両手を使う場合が多いが、雨天時は片手で傘を持ちつつ右手に統一する傾向あり。笑う頻度は1日平均78回。特に学校終わりの一時間に増加。外出時の足の速さは分速72メートル、速足になる場合は85メートル。歩きながら髪を触るとき、右手の小指が耳たぶに触れる割合が83%。過去の失敗として、初めて『彼』に手紙を書こうとしたとき、文字が歪み、12回書き直しを繰り返した記録あり。平均筆記速度は1分間に22文字。文字の大きさは3ミリから4ミリの範囲で一定。使うペンの種類は黒のボールペン、インクの種類はジェルタイプを好む。消費速度は平均で3カ月に1本」

 

 

 その声には感情がない。あるのは、ただ淡々とした事実の羅列。だが、それが逆に異常な熱を帯びて感じられる。

 

 

「性的嗜好は至ってノーマル。ただし『彼』限定で、力任せに押し倒されたいという願望を抱いている。また、『彼』の手の体温を具体的な数値で覚えたいと感じたことが過去に4回。手の温度に執着する理由は、幼少期の一度きりの接触経験が原因。座右の銘は『継続は力なり』。しかし『彼』の言葉を受けたら、それに取って代わる可能性があると感じている。なお、好きな男性の髪型は短髪。好きな服装はシンプルなシャツとパンツスタイル。好きな笑顔は目尻が少し下がるもの。理想の告白シーンは夕日が見える場所で『好きです』と伝えられること。だが、それは現実にはならないと自覚している」

 

 

 そして、一拍の間を置いて彼女は、冷たくも愉悦に満ちた声で、最後にこう言い放った。

 

 

 

「好きな男性――現実アオハル。小学生時代に一目ぼれし、それ以来慕うようになる。彼の名を呼ぶときは『アオハルさま』と呼ぶ」

 

 

 

 なんだこれは……

 なんでさっきから『他人事』のように言っている……?

 

「安心して。これはすべて実在している『川田キラリ』の情報よ」

 

 実在している――だと?

 俺は思わず眉をひそめた。その目が彼女を疑うように細められると、彼女は楽しそうに肩を揺らして笑う。

 

「……どういう意味だ」

 

 全く理解できない状況、銃口を向けられているという危機。

 問いかけた俺の声には、微かに苛立ちが混ざっていた。けれど、彼女はそんな俺の心情をまるで意に介さない。

 彼女は冷ややかな笑みを浮かべ、静かに言った。

 

「この世のあらゆる存在は他者からの認知によってはじめて存在を証明される。それは人間だろうが神だろうが変わらない絶対的な真実」

 

 その声には、どこか酔いしれたような響きがあった。まるで演説でもしているかのように滑らかで、強い自信に満ちている。

 

「そして、他者の認識によって自分の存在が定義づけられる。人間は生まれた瞬間から『人間』であるわけじゃない。他者に『人間』だと認識されて初めてそうなるのよ」

 

 その言葉の一つひとつが耳に刺さるようだ。俺は無意識のうちに彼女を睨みつけていた。

 

「言っている意味が分からないが、キラリが実在しているということは、お前は『偽物』なのか?」

「さぁどうかしら? 今この場にいるのはアナタとワタシだけ。だから、もしアナタがワタシのことを『川田キラリ』ではない『何か』だと考えたら、それも一つの真実だわ」

 

 おい、やめてくれ。そういう哲学じみた思考は苦手なんだ。

 ダメだ。理解がまったく追いつかない。だが……もし、彼女が本物のキラリちゃんではないとしたら――。

 今まで彼女の顔を覚えていなかった俺が、キラリちゃんのことを間違えてしまっていたのはわかる――だが、どうして小学生の頃から親交があったであろうマサムネですら、目の前の彼女のことを『川田キラリ』だと思ったのか……。

 

 考えられる答えは一つ。

 

「ふふ、気づいたのね」

「……」

 

 俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、彼女は楽しそうに口元を歪めた。

 これが現実世界なら、ちょっと不気味なお話で済むだろう。

 しかし、ここはファンタジー要素が薄まりながらも確かに存在している超現実的な異世界だ。

 つまり……

 

「それがワタシの能力だからよ。――『認識改竄』とでも言うのかしらね」

 

 ――彼女の能力によって、俺たちの認識が書き換えられている。

 背筋がぞくりとする感覚に襲われた。ようやく状況が飲み込めた気がするが、それは同時に、彼女の得体の知れなさが際立つ結果でもあった。

 

「……何が目的だ?」

 

 俺は意図的に冷たい声を出した。このまま彼女に主導権を握られたままだと、ロクなことにならないことは確信していた。

 

「フフ、少しぐらい驚いてくれたっていいのに」

 

 彼女はわざとらしく肩をすくめる。

 

「そこまで教える義理はないんだけど。ま、いいわ」

 

 そこで言葉を切った彼女は、一拍置いてから軽く顎を持ち上げた。その仕草には妙な余裕があった。

 

「簡単に教えてあげる。――『世界征服』よ」

「……」

「驚愕、唖然、疑問という感じね。フフ。でも本当に言ってるのよ。ロマン溢れてるでしょ?」

 

 世界征服――前世でよく見たアニメやマンガでは腐るほど出てきた言葉だ。

 そして、ファンタジー世界で世界征服なんて大それたことを企む存在といえば『魔王』だが、その存在がとっくの昔にいなくなったこの異世界でも、まだ行われているというのか……?

 

「世界を征服するには、アカツキが邪魔なのよ。この国がなければワタシたちは一瞬で終わらせることができるのに」

「……」

「だから少しずつこの国を壊していっているのよ。そして、ワタシの計画はもう最終段階」

「計画だと?」

 

 俺の言葉を遮るように、彼女は一瞬だけ微笑み、その瞳に鋭い光を宿らせた。

 

「そう。このアカツキを守っているのは『魔法少女』よ。魔法少女がいなければ、アカツキは魔物によって滅ぼされている」

 

 彼女の静かな言葉に隠された残酷な真実。そんな話を平然と語るその表情に、ぞっとするほどの冷たさを感じた。

 

「なら簡単な話よね。――魔法少女を皆殺しにすればいい」

「……!」

 

 彼女の言葉が静寂を引き裂いた。その残酷な響きに、思わず喉が鳴る。

 

「さ、与太話はオシマイ」

 

 そう言って彼女は銃をこちらに向け直した。紫色の光が銃口に宿り、不気味に輝いている。

 

「ここまで話を聞かせてあげたのだから、もうわかるでしょう? ――アナタは今日ここで死ぬのよ」

 

 彼女の瞳は冷たく、微笑は残酷だった。

 

「でも安心して? あなたがいなくなっても『現実アオハル』の存在は消えないわ。だって、今度はワタシが『アナタ』になってあげるから」

「……!」

「ワタシの『認識改竄』ならそれができる。アナタがワタシを『川田キラリ』だと思っていたように、世界がワタシを『現実アオハル』だと思えば、そうなることだって可能なのよ」

 

 彼女は一歩前に進み、悪意に満ちた微笑みを浮かべる。

 

「それに、アナタのことはもう十分に理解したわ。いくつか不可解な点があるけれど、話し方も思考も癖もすべてコピーできるもの。不思議な人間性ね。見た目は威圧的で、誰も寄せ付けないのに――中身はとても臆病。人と関わりたいと思う一方で、自分に自信が持てていない。自己肯定感も低いし、ネガティブなのね」

 

 彼女の言葉に、胸の奥がひりつく。

 ぐうの音が出ないほどの正論。言い返そうにも、的を射ているだけに反論できない。

 

「ここまで他者と自分で評価が異なる人間というのも面白いわ。でも、明日からはワタシが『現実アオハル』。安心して、ちゃんとアナタの代わりにお友達をつくってあげるから」

 

 最後に穏やかな笑みを浮かべ、彼女は銃の引き金に手をかける。

 

「バイバイ、『名もない転校生』さん」

 

 銃口が光り、紫の輝きが俺の視界に迫る。衝撃を覚悟した瞬間――。

 

 

「――消えるのはアンタよ」

 

 

 突然、どこかから木を激しく揺らすほどの強風が吹きすさび、赤い閃光がキラリを横から弾き飛ばした。

 激しい衝撃音と共に、彼女の体は公園の入り口にある黄色のアーチに激突する。

 赤い閃光は次第にその形を変え、炎をまとう人影へと姿を変える。そこに現れたのは――桃色の髪を風にたなびかせた少女。

 

「遅くなったわね、アオハル」

 

 凛とした声。覚悟を宿した瞳。

 アカツキの守護者『魔法少女』の最強のエース――黎明院マホが立っていた。

 




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