超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~   作:蛮野ゲリラ

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俺の『無限防御』、戦う前に無限ベンチ入りする

 

 ディーヴァの姿が見えなくなったのを確認し、俺はようやく安堵の息をついた。

 まぁ、すげー不穏なこと言ってたから安心してる暇なんてないんだろうけど。

 

「ありがとう、マホ。助かった」

 

 俺がそう言うと、マホは少しばつの悪そうな顔をした。

 

「……私こそよ。助けに入った側が助けられてたら格好がつかないわ」

 

 あら、珍しい。いつも勝気なマホさんが落ち込んでいらっしゃる。

 それだけ、彼女にとって今の状態は想定外だったのだろう。

 

「それにしても、どうしてここにきた?」

 

 マホは一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せた後、小さく息をついた。

 

「……追ってたからよ」

「? ああ、ディーヴァをか」

「……ええ」

 

 マホの返事は妙に歯切れが悪かった。

 だが、頭がよく、間も鋭い彼女のことだ。ただの偶然ではないのは明らかだろう。

 

「アンタは気づいていたかしら? ここ最近、アカツキは攻撃を受けていたのよ――それこそ、国家存亡の危機ってレベルでね」

「なんだと……?」

「昨日、電話で話した魔法少女誘拐事件の話、覚えてる?」

「ああ」

 

 最近、魔法少女が行方不明になっているという話か。

 

「昨日アンタと話してから改めて調べたのよ。そして分かった――魔法少女の行方不明は、1、2カ月前から起きていて、すでにおよそ30人が姿を消している」

「30……」

 

 ……30人!?

 流石に耳を疑った。というか、「1、2カ月前」って「ここ最近」じゃなくないか?

 

「そう、普通なら政府が隠しきれないほどの大問題。。でも、なぜか誰も騒がない。魔法少女の家族も、友人も……まるで『何も起きていない』かのように振る舞っている」

「……」

「私自身、そのことに何も気づかなかった。30人……それもアカツキの重要な戦力が行方不明になっているのに、それがただの『ありふれた事件の一つ』に見えていたのよ」

 

 寒気がした。全身から鳥肌が立つような感覚がする。

 

「きっとあのディーヴァって奴の力だったんでしょうね。『認識改竄(にんしきかいざん)』といったかしら……それがどれほどの影響を持っているのか……国か、下手したら世界全体なのか、どちらにせよふざけた能力だわ」

 

 改めてディーヴァの力の恐ろしさを感じた。

 思えば今ここにいる公園に誰一人いないのも、彼女の力が理由なのだろうか。

 

「――だから、アンタのおかげなのよ」

 

 ……?

 

「アンタが昨日、この事件が表沙汰になっていないことを疑問視してくれたでしょ。この事件について政府が情報統制をやっているという話は聞いてなかったから、私もそこに違和感を覚えたのよ。そうやって私の認識を正してくれたから、こうしてアカツキの危機に気づくことができた」

「……そうか」

「ええ。アンタがいなかったら、私はこの異変に気づけなかった」

 

 マホは力強くうなずく。

 

「他者の認識を操り、関係性どころかその人間に入れ替わることすらも可能な力――何らかの制約があるかもしれないけれど、少なくとも一つ弱点は見えた」

「弱点?」

「ええ、アイツの能力は術を受けた人間が改竄された認識に違和感を覚えた時に、効力を大きく落とす。それこそ私がアンタの言葉で魔法少女の行方不明事件の認識を取り戻したように」

 

 なるほど、たしかにそうだな。

 

「それと、さっきのアイツ自身への認識を変える力も最初は驚いたけれど、あれも時間が経てば効力もなくなっていった。おそらく次はすぐに解除できる。もう同じ手は食わないわ」

 

 ……すごいな。

 さっきまで俺は目の前の状況に対応するので手一杯だったのに、ここまで冷静に分析をしているのは流石としか言いようがない。

 これならディーヴァへの対処も大丈夫かもしれない。

 

 ――そう思った時だった。

 

《――緊急警報――緊急警報――》

 

 突如として、公園の静寂を切り裂く警報音が響き渡る。

 

《アカツキ学園より南方10km地点の上空より超大型モンスターが襲来。魔法少女は至急現場に向かい、撃退してください》

 

 この世界に来てから、何度も聞いた警報。

 思えば俺がこの世界に来て初めて聞こえた声もこれだった気がする。

 

「こいつは……」

「あの女が仕掛けてきたみたいね」

 

 マホが小さく息を吐き、冷ややかに言い放つ。その手にはすでに戦闘の気配が宿っていた。

 足元から立ち昇る魔力が空気を震わせる。今にも飛び立とうとする彼女の横顔には、迷いの欠片もなかった。

 

「なら俺も――」

 

「行く」と言いかけた瞬間。

 

「アンタは来なくていいわ」

 

 鋭く、しかしどこか優しく響く声が、俺の言葉を遮った。

 一瞬、俺は言葉を詰まらせたが反論しようとする。なんせ俺には『無限防御』がある。この力があれば俺も何か役に立てるかもしれない。

 

 しかし、マホは俺の考えを見透かしたように、微かに息を吐くと静かに言った。

 

「分かってるわ」

 

 その声は冷静で、だけどどこか柔らかかった。

 

「アンタは小さい頃から異常なぐらいに丈夫だったし……さっきのディーヴァの力も無効化していたみたいだしね」

「マホ……俺の力は……」

「――言わなくていいわよ」

 

 彼女は首を振って遮る。

 静かに告げるその声には、妙な温かみがあった。

 

「アンタがどんな力を持ってるかなんて、今さらどうでもいい。それよりも、私が言いたいのは――」

 

 マホは、俺を見つめた。

 

「――戦いたくないんでしょ?」

 

 その言葉に、胸が締めつけられた。

 

「アンタが争いごとや面倒ごとを嫌がってること……私は知ってるから」

 

 ……何も言い返せなかった。

 彼女の言うことが正しいということもあったが、何よりも、幼い頃から俺に無茶を要求し続けてきたマホが、こんな言葉を口にすることに動揺していた。

 

「アンタはきっと幼い頃の『約束』を守るために言ってくれたんでしょ? でも、もういいのよ」

 

 その笑顔が、胸に刺さる。

 

「アンタを私の家の役目に巻き込んだことは本当に申し訳ないと思ってる。でも大丈夫。もうアンタの助けは必要ない。私は強くなったから」

 

 彼女の言葉には、強い決意が込められていた。冷たい口調だが、彼女は本気で俺を巻き込みたくないと言っている。その気持ちが痛いほど伝わってきた。

 マホは静かに背を向ける。

 飛び立つ直前、ふと足を止め、俺を振り返った。

 

「最後に……」

 

 小さく呟き、目を伏せる。

 

「ごめんなさい……ここに来た本当の理由は、ディーヴァのことを知っていたからじゃない。……アンタを疑っていたからよ」

「……俺を?」

「ええ」

 

 マホの瞳に、微かな苦悩が浮かんでいた。

 

「ここ一、二か月前から、私の周囲に何か違和感があったの。その正体がまさかあの怪物の力だとは思ってなかったけど、何らかの攻撃を受けていると思ったわ」

「……」

「敵の狙いは『私』。そう考えると、何か私の周りで変化が起きると考えて警戒していた」

 

「そこで転校生の俺か……」

 

「そう。目立った変化といえば新学期の開始に伴うクラスの変更、それと転校生。アンタは私と幼い頃からの関係があるから、一番怪しかったのよ」

 

 それで怪しい俺の後をつけてたから、キラリちゃんに扮したディーヴァの襲撃に気づけたということか。

 そういえばマサムネも春休み前ぐらいからマホがピリピリしていたって言っていたが、これが理由だったのか。

 

「疑ってごめんなさい」

 

 マホはちらりと俺を見て、微笑んだ。その笑顔は、これまで俺が見てきたどんなものよりも穏やかで、そして儚かった。

 

「……本当によかった、あなたが――アオハルが敵じゃなくて」

 

「――――」

 

 心という器から溢れ出る想いをそのまま口にしたような、そんな一言が俺の胸を強く締めつけた。

 

 俺は知らない……こんな顔をするマホを。こんなに強い感情を見せるマホを。どうして俺に、これほど強い想いを向けてくれるのかが分からない。

 だからなのか『こんなにも深い感情が彼女にあったのか』と、場違いにもそんなことを考えてしまう。

 そう、俺はいつもそうだ。いつも自分が他人にどう見られているのかは気にしているのに、自分の中で相手との関係性を決めつける。

 

 ――マホが俺のことをどう思っているのか、真剣に考えたことはあっただろうか。

 

「大丈夫、私はこの国を護る黎明院マホよ。ちゃんと帰ってくるわ」

 

 そう言って微笑む彼女は、俺が知っている彼女よりも大人びていて、どこか遠くにいるようだった。

 風を受けて、マホが静かに飛び立つ。

 言葉が出ず、ただ見つめることしかできない。

 

「……っ」

 

 無意識に伸ばしていた手を、強く握りしめる。

 

 結局、俺は――その背中を見送ることしかできなかった。

 

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