超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~ 作:蛮野ゲリラ
俺はアカツキ学園高等部――通称『アカツキ高校』一年A組の教室で、窓際に用意されていた席につき、帰宅の準備をしていた。
今日は俺の転校初日であると同時に始業式の日でもある。そのため授業は午前中で終了し、午後からは自由になる――はずなのだが、教室内には異様な静けさが漂っていた。
普通なら、午後の予定について友達同士で盛り上がる声が飛び交っているのが当たり前である。それなのに、クラスメイト達は黙々とカバンに荷物を詰め込んでいた……なして?
《一度も友人と遊びに行った経験がないマスターが友達付き合いで普通を語るのは違和感しかないですね》
はいそこうるさい。
余計な茶々を入れてくるコッコさんを無視しつつ、教室を見渡す。
このアカツキ学園では、小学校から高校までエスカレーター式で進学するのが一般的だ。国立校として有名で、生徒数は二万人近くを誇る。いわば超マンモス校だ。
まぁ、その規模ゆえに小学校から高校まで一度も顔を合わせることなく卒業する同級生がいるくらいだし、始業式のタイミングで外部から転校してくる生徒も一定数いる。俺もその一人だ。
とはいえ、生徒の中には少なくとも数人は顔なじみがいるはずだし、こういう始業式のタイミングでは友人たちとの再会を喜ぶ声や、クラス替えの感想などが飛び交うのが普通だと思っていたのだが……。
……俺? たしかに何人か小学校時代の顔見知りがいたけど、全く話したことがないから話しかけるなんてことはできませんでしたがそれが何か?
ていうか俺転校生なのに誰も話しかけてくれないんだが! 普通転校初日ってみんな転校生の席に集まって質問攻めにあったり、放課後に歓迎会みたいなのをやるもんじゃないの!?
《友人がいないマスターが友達付き合いで普通を語るのは(以下略)》
ええいうるさい黙っとれい!
うん……とはいえ、高校生活ぼっちコースがほぼほぼ確定しているのが現状だ。肩を落として帰る準備を整え、教室を出たそのときだった。
「――ねぇ、ちょっとアンタ」
不意に横から女性の声がした。別に俺に対しての言葉ではないだろうから気に留めない。
「無視するんじゃないわよ、ぶっ飛ばすわよ」
何やら物騒な声が聞こえたが、俺の近くに無視をするようなヤツがいるのだろうか。暴力沙汰になる前に応えてやって欲しいものだ。
「ふーん、久しぶりに再会した知人に対して随分と冷たいのね」
そこで俺はようやく横を見た。もしかしたら俺に向けて言っているのではないかと考えたからだ。
そして、それは合っていた。
隣にはツーサイドアップに結った撫子のような桃色髪とキリッとした目つきの紅玉色の瞳が特徴的な少女が、仏頂面でこちらを睨みつけていた。
その整った容姿と髪に、俺はすぐに彼女の名前を思い出す。
以前、語った小学校時代に関係を築いた『よっ友(友達にあらず)』になってくれそうな三人の少女の一人だ。
そう。マホはアカツキに襲来するモンスターを退治する政府公認の対魔物機関『セイクリッド』所属の『
そんな彼女はクールで合理的かつ完璧主義だが、特筆すべきはその――毒舌ぶりである。その切れ味たるや、小学校時代の俺が何度も枕に涙をこぼし、その証がシミとして刻まれたほどだ。おのれ黎明院マホ!
俺と彼女は向き合う形になったのだが、お互いにしゃべらない静寂の空気が流れた。
そんな無駄な時間にイラついたのか、マホが話を切り出す。
「……何か言うことはないの」
ふむ……何かとは何だろう?
《知ってた》
うるさい。
彼女の言葉に、何と返せばいいのか分からないコミュニケーション能力ゼロの俺は、とりあえず頭を下げた。
「返事が遅れて申し訳ない」
「違う、そうじゃないわよ。久しぶりに会ったんだから何か話すことはあるんじゃないのって言いたいの」
あ、そういうことか。
俺は何を言おうかと頭を回転させて、窓の外の景色を見て。考えて、さらに考えて……
「いい天気ですね」
「なんでそうなるのよ」
マホのテンションが目に見えるほど下がっている。ついでに、ため息を吐いて呆れる様子を見せた。
「ふん、相変わらずね。変わりないようで安心したわ」
「…………」
マホは俺の全身をジロジロと観察するかのように視線を動かしていた。小学生時代よりも高校生になって体が大きくなったから、違和感でも覚えているんだろうか。
まぁ、俺から見てもマホの体つきが小学生の時とは大きく異なっていて、成長したんだなぁという親戚のおじさんみたいな感想を抱いている……主に、昔はまったくなかった胸の部分が。
《割と最低なことを考えていること理解してます?》
内心の独り言だからいいんだよ!
「もういいわ。連絡先を交換しましょ」
そう言ってマホはスマホを取り出して電話とメッセージ兼用のアプリを起動し、QRコードを俺に差し出した。
予想外の展開に、思考が一瞬止まる。どういう風の吹き回しだろうか。なぜマホがこんなことを言い出したのかまったく見当がつかない。
俺はただ呆然とその画面を見つめてしまう。
「……何やってるの? アンタも出しなさいよ」
あ、そっか。俺が読み取らなきゃいけないのか。
色々と気になることがあるが、とりあえずマホの言う通りにする。
《さすがは連絡先が家族以外いない男。アプリを開いたら右上のボタンを押してください》
余計な一言つきだが、教えてくれてありがとう。
俺がスマホを親からもらったのは中学生になってからである。なお、中学時代は誰とも連絡先を交換することはなかった。そんな俺の悲しみがあふれたコミュニケーションアプリにマホの名前が載る。
マホはもう用は済んだとばかりに俺に背を向けた。
「じゃあ、あたし、もう戻るから」
「そうか」
彼女はそう言うと、振り返って歩き出した。しかし、数歩進んだところでふと立ち止まり、俺の方を振り向く。
「あ、そうだ」
歩みだしていたマホが、唐突に何か思い出したかのように俺の方を振り向く。
「今日の夜、電話するから時間空けときなさい」
「は?」
「もし電話に出なかったら、アンタがあたしの胸を凝視してたこと学園中に広めてやるから、この変態」
「…………」
待って。してない。凝視はしてない。
《あーあ、言わんこっちゃないですね》
マホが俺のことジロジロ見てたから俺も見返してただけなんだ。それでたまたま胸に目がいっただけで。
《それ口に出して言ってみたらどうです?》
言えるわけがないだろ! 言い訳以外の何ものでもねえじゃねえか!
しかし、マホはそれ以上何も言わず、軽く手を振って去っていく。
「じゃあね、アオハル」
そう言って彼女は『1年B組』の教室へと戻っていく。
俺は彼女の強気な態度と毒舌に懐かしさを感じていた。しかし、その一方で彼女の態度にどこか違和感があった。
……マホの毒舌はもっと鋭かった気がするのだが。 思い出補正か?
《ドM乙》
うるさい。