超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~ 作:蛮野ゲリラ
マホが自分の教室に戻るのを見送っていると、後ろから声がした。
「ね、ねぇ、あなたはもしかしてマホさんのお友達ですか!?」
振り返ると、青みがかった黒髪の少女が立っていた。驚いた表情でこちらを見つめている。
「…………」
「……ぁ、えっと」
しかし、驚いているのはこちらも同じ。悪いが俺には唐突に話しかけられても答える機能は備わっていない。
《自信満々に黙ることを決め込むのはどうかと思いますけど》
そんなことを考えていると、黒髪の少女は何たらオロオロとしだして。
「ご、ごめんなさい! アオハルさま!」
…………『さま』?
名前呼びは全然構わない。この異世界ではファーストネームを呼ぶのが基本だ。だから俺も前世では人のことを苗字でしか呼んだことがなかったが、この異世界では下の名前で呼ばせてもらっている。
しかし、なぜ『さま』付け? というかそもそもあなたさまはどちらさまでしょうか。
「あ、えっと私は川田キラリ。アオハルさまと同じクラスなの」
「そうか」
クラスメイトだったのか。……誰とも話さなかったから顔を覚えてなかった。
「どうして俺とマホの仲を?」
「えっと……マホさんってほら『黎明院』の人だから、なんだか話しかけられなくて……」
ふむふむ。
「私、マホさんと仲良くなりたいんです! それでアオハルさまは小学校の頃からマホさんと一緒にいるところをよく見かけていたので。あ、私、小学生の頃はアオハルさまと一緒のクラスだったんですよ?」
「……そうなのか」
あーそういや、名前だけは聞いたことがあるかも。……顔は覚えていないけど。
彼女は俺の内心を悟ったのか苦笑しながら続けた。
「覚えてないですよね。まぁ、アオハルさまはクラスにいた時間も少なかったですし、私みたいな影の薄い女なんか覚えてなくても仕方ないです」
「そうか」
なんかごめんね。
しかし、なるほど。要するにマホと仲良くしたいから、さっき連絡先を交換してた俺に話しかけたっていうことか。
理由がどうであれ、こうしてクラスメイトから話しかけてもらえるのは初めてのことで少し嬉しい。
ところで彼女の言う『黎明院』とは、マホの姓であるのと同時に、アカツキ共和国の中で最も権威をもつ名家を指している。政治、経済、教育、芸能……アカツキのありとあらゆる分野に影響力を持つ影響力をもつ名家中の名家だ。
その歴史は天魔王が倒された400年前から続いているらしく、今もなお順調にアカツキ及び近隣国に根を張って成長を続けている。最近でいえばマホの父親が商業の天才であったため、それまで繋がりの薄かった経済界でも爆発的に躍進しているとのことだ。
まぁ、そんなバケモノ名家なことから『アカツキで起きるすべての出来事は大元を辿れば黎明院につながる』と言われるほどで、全ての黒幕や元凶的な意味で『フィクサー』とも呼ばれている。あとは名前を出してはいけないあの家とか。
なんと『黎明院』という発音しづらい名字も、すべて黎明院がその正体を隠すためにそうしたという噂まである。俺がぼっちなのもおそらく黎明院のせいである。きたない黎明院さすがきたない。
そして、マホはその黎明院家の現当主の第一子だ。つまり、黎明院家の全権を担う次期当主の最有力候補はあの毒舌少女なのである。あな恐ろしや。
キラリさんがそんな彼女に話しかけるのを躊躇する気持ちも理解できた。
ふむ。しかし、俺とマホの仲か。
彼女との関係はたしか……そう、俺が彼女に勉強を教えてくれと頼んだことがきっかけだった。
ん? なぜ前世の記憶があるのに同年代の小学生に勉強を教えてくれって言ったのかって? それは単純な理由だ。
現実世界の小学校レベルなら余裕だろうとタカをくくっていたら、この世界のカリキュラムは高校レベル――いや、前世では高校に通う前に死んだから正確には分からないが――に匹敵する内容だったからである。完全に想定外だった。
超高性能AIのコッコさんに聞けば全部解決するかと思ったら、コッコさん意地悪だからテストの答えは教えてくれないし、教え方も理論的すぎて全然理解できなかった。
《私はマスターのためを思ってやっていたのにそんなことを言うんですね》
……。そして、八方塞がりの俺はやむなくクラスで成績トップだったマホに助けを求めたわけだ。それが俺たちの関係の始まりだった。
そういえば、あの時は俺の方から話しかけたんだったな……。今となっては考えられないくらいアクティブだったな、小学生時代の俺。
《ええ、今のマスターからはまるで想像できませんね》
ほんとにね。
《皮肉で言ってるんですよ》
わかっとるわい。てかコッコさんこそ超高性能AIなら俺をコミュ強にしてよ!
《私はマスターの身体機能を操作することができるので、お望みであればマスターの前頭葉にショックを与えて強制的に人格を書き換えてあげますよ。――まぁ、失敗して廃人になる可能性もありますが》
……怖いとても怖いです。ウソですごめんなさいでした。
《冗談ですよ。それよりもまずは彼女に答えてあげたらどうですか?》
ん、そうだな。
改めて俺とマホの関係を考える。
つい先ほどマホとは連絡先を交換したが、友達と言えるのか。
――否、そうではないだろう。
小学校時代、俺はマホと勉強を教わるついでに、彼女の仕事に付き合わされていた。その仕事は『魔法少女』関連ではなく『黎明院』のものだ。それはもう悲しいぐらいにこき使われていた。
キラリさんが言っていた『俺がクラスにいた時間も少なかった』とはおそらくこのことを指しているのだろう。
そして、今こうしてマホと連絡先を交換したことで、小学校時代と同じように、高校でも俺をこき使う気満々なのだろう。いや、そうとしか思えない。そして俺は、そんな彼女に逆らうことができない。なぜなら、小学校時代に勉強を教わる代わりに、そうすることを約束してしまったからだ。
つまり、彼女にとって俺は「都合のいい駒」以外の何者でもなく、俺にとってはまさしく「天敵」である。
そんな俺とマホが友達――うん、ないな。
「俺はマホと友達ではない」
「そう……なんですか?」
「? ああ」
俺の返答を聞いたキラリさんの目に、一瞬、強い意志が宿ったように見えた。しかし、その次の瞬間には両手を合わせて、パッと明るい笑顔を浮かべる。
「じゃあアオハルさま、私と連絡先を交換しませんか!?」
「名案!」とでも言いたげな勢いで、手を鳴らしてみせた。
……えっ、どこが『影の薄い女』?
こんなクソぼっちに「連絡先交換しよ」って言えるとか陽キャじゃ。陽キャの化身じゃ……。
「ああ……」
俺は彼女から放たれる太陽のごとき光に目を細めながら、半ば呆然と頷いた。そして、スマホを取り出し、彼女と連絡先を交換したところで
――ガタッ。
『1年A組』の教室から、椅子を引く音が勢いよく響いた。
廊下から教室内を覗き込むと、茶髪の男子生徒が勢いよく立ち上がり、こちらに向かってくる。目には何やら覚悟の色が浮かんでいる。
「う、現実アオハル!」
緊張を滲ませた声で、彼は名前を呼ぶ。
「――オレとも連絡先を交換してくれ!」
また陽キャ……くっ、これも黎明院の陰謀か!
次話は男子生徒の目線。