超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~ 作:蛮野ゲリラ
キラリとマサムネ(呼び捨てで良いと言われた)と連絡先を交換した後、俺は帰宅せずに校舎をぶらついていた。
そして――人酔いを起こしていた。
前世において極度の人見知りで、今世で多少はマシになったものの、それでもコミュ障なままの俺は、通りがかる生徒たちから向けられる謎の視線に、精神的な疲労を感じずにはいられなかった。……自分が情けなくて涙が出てくるぜ。
そんなわけで人のいない落ち着いた場所を探そうと思った俺は――屋上へと行き着いた。
学校の屋上といえば普通、封鎖されていることが多いが、アカツキ高校では開かれていた。また、校舎が綺麗に保たれているため、金属製の扉も真新しい光沢を放っている。
俺はその扉を開け、屋上に足を踏み入れた。
屋上は一見すると人影がなく、閑散としていた。周囲には転落防止用のフェンスが張られ、特に目を引くものはない。
外に出た瞬間、まず感じたのは太陽光の直射による熱さだった。今日は雲一つない快晴。風もほとんどなく、涼しいという屋上のイメージとはほど遠い。
だが、せっかく見つけた静かな場所だ。涼しそうな場所を探してみることにする。
……そういえば、屋上って入り口の上に貯水タンクがあるんじゃなかったっけ。
俺は給水タンクを影にして涼もうと考えて後ろを振り返る。
思った通り、入り口の横には上へと登るための鉄製のハシゴがかけられており見上げた先には貯水タンクが見えた。
ハシゴに手をかけて登っていく。そして、一番上へと登りつめたとき。
俺はとある光景が目に入った。
――「青と白の縞々パンツ」
じゃなくて……一人の少女だった。
《無口でコミュ症なのにスケベって救いようがありませんね》
思春期真っ盛りの男子なんだから仕方ないだろ! 男の子は女の子のことを覚えるとき、パンツの色と形を記憶に刻むんだよ!
俺が視線を動かすと少女と目が合った。
太陽の光を受けていないにもかかわらず輝いているように見える長い銀色の髪と、丸くつぶらな青玉色の瞳。雪のような白い肌――どこか儚げな雰囲気をまとった少女がタンクに背を預けて座っていた。
彼女の首には、暑い気候にもかかわらず青いマフラーが巻かれている。
そして彼女は体操座りをしており、スラッとした白い太ももと、その奥に見える……下着も無防備に晒していた。
無表情な少女のサファイアのような瞳が、ハシゴに手をかけたまま静止している俺をじっと見つめていた。
――俺は彼女のことを知っている。
「タマネ」
彼女の名前は
マホと同様に小学校時代の知り合いで、俺の『よっ友(友達にあらず)』になってくれそうな三人の少女の一人だ。
タマネは誰もがその美貌を認めるほどに可憐だが、無口で感情の起伏が少なく、何を考えているか分からない。無機質なロボットのような少女だ。
今も下着を見られたというのに、恥じらう素振りすらない。言葉では言い表せない、不思議な雰囲気の女の子だった。
そんな彼女だが、この異世界では俺が自分のペースで話せる唯一の相手である。
俺はハシゴを登りきって、彼女の横まで足を進める。
「隣座っていいか?」
タマネはぼーっと前を眺めたまま小さく頷いた。
俺は拳五つ分ほど間隔を空けて、彼女と同じようにタンクに背をつけて座る。
日差しを遮るタンクの影は、風がないにもかかわらず心地よい涼しさを感じさせた。地についた手にひんやりと冷たさが伝わってくる。緊張が解けた体から力が抜け、息苦しさが薄れていく。
俺は、ちらりと横に目をやると――タマネの整った顔がすぐ近くにあった。
(うおっ!?)
思わず内心で驚きの声を上げてしまうが、タマネは気にする様子もなくじっとこちらを見つめている。いつの間にか拳五つ分ほどあった間隔が、一つ分……いや〇・五個分ほどになっている。
「何か用か?」
「…………、」
タマネは何も答えない。 ……無口なのは分かるが、せめて何か答えてくれ。コミュ症は勇気を出して話した言葉を無視されるのが一番心にキくんだよ。
タマネはしばらくの間じーっとこちらを見つめていると、唐突に小さな声でつぶやいた。
「ハル……久しぶり」
『ハル』とは俺のことだ。この世界での俺の名前『現実アオハル』から取られたあだ名だ。
「ああ。三年ぶりだな」
「……うん」
そう答えると、もう用件は済んだと言わんばかりに、タマネは距離を詰めたまま再び前を見つめ始めた。
「…………」
どうやら三年ぶりの会話はこれで終了らしい。昔のタマネはかなり無口だったが、高校生になった今もその無口っぷりは健在のようだ。
ただ、俺がもうちょっと話したいので付き合ってもらおう――と思ったのだがなんか妙に肌寒い。……なんか背中がぞわぞわする。
「タマネ」
「うん」
『なんか寒くね』と尋ねようとした瞬間、再びタマネの顔がこちらを向いた。
そして――。
「『銃』」
タマネは右手を俺に向けて、丸めた状態から親指と人差し指を中途半端に伸ばし、そう呟く。すると、彼女の手の中に
「『退魔弾』」
……え、何してんのこの子。
唐突な行動に息を詰まらせた俺を無視して、タマネは引き金を引いた。
パシュ――
空気を切るような軽い音が鳴り響くと同時に、銃口から紫色の弾丸が発射される。
紫の閃光は、俺の顔――の真横を通り、すぐ後ろで炸裂音を発した。
「…………」
振り返ると、そこには――
人魂のような青白い炎で形成された腕と体が、宙に浮かんでいる。足はなく、地に足をつける気配すらない。
それはまさにゴーストというべき姿をした『魔物』だった。ただし、頭部は何かで吹き飛ばされたかのように失われている。
タマネが放った紫の弾丸によって、ゴーストは頭部を失い、燃え尽きるように消滅した。
突然の出来事。
俺は思考が完全に停止してしまった。その一瞬の後、タマネに話しかけようとしていたことを思い出す。
表情はどうせいつもの『無』だと思うが、内心はヒエヒエドキドキで、さっきから心臓がバクバクと騒がしい。
「……『異能』を使うなら一言くれ」
「ハルだってゴーストを察知してた」
その言葉に返すべき言葉が見つからず、俺は深くため息を吐いた。
同時に、緊張で強ばっていた体から力が抜けていくのを感じる。
うん――これっぽっちも察知なんてしてませんでしたけど?
「タマネ(なんか寒くね?)」
「うん(近くにモンスターがいる)」