貞操逆転世界で女装する男の話   作:あべこべ好き

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どんちゃん騒ぎ

「ただいまー」

「あ、お姉おかえり」

「……流石に実の妹に姉って言われるのは嫌なんだけど?」

 

 百橋君を送った僕はそのまま帰宅した。玄関のドアを開け、リビングへと向かえばそこには彩夢がいて僕を一目見て今の発言をした。

 

 お姉なんて言われると僕も複雑な気持ちだ。

 

 家族にだけは男として扱われないとアイデンティティが揺らいでしまいかねない。

 僕が比較的真面目に言ったのが伝わったのか、彩夢は笑いながら謝罪する。

 

「ごめんごめん。でも、やっぱ一目じゃ男だって分かんないって。それくらい完成度が高いんだからさ」

「……誉め言葉として受け取っておくよ」

 

 女装の完成度と僕自身の中性的な見た目は比例する。だから喜ぶべきなのか否かが毎回分からなくなる。果たしてこれは男として喜んでいい要素なのか。それともちょっとは筋肉を付けるべきなのか。

 

 まあ、そんなことをしたら女装の意味がなくなるからしないんだけどね。

 

 そんなことを考えながら、僕は台所へと向かった。食器棚からグラスを、冷蔵庫から常備している炭酸飲料を手に取り、グラスに注いで一気に呷る。

 炭酸の清涼感が喉を刺激し、自らが潤っていく感覚に陥る。 

 

「お兄、今日は帰って来るの遅かったね」

「ああ。ちょっと友達とね」

「ふーん。最近できたっていう女の子の友達?」

「まあ、星野さんもそうだけど他にも友達はできたし」

 

 普段よりも帰宅時間が遅いことを彩夢に突っ込まれながら、僕は冷蔵庫にペットボトルを戻した。

 こういう甘い飲み物って、すぐに自制しないと一瞬で飲み干してしまう。健康に良いとは言えないし、気を付けなければならないものだ。

 

 なんて他愛もないことを考えていると、ふと違和感を覚えた。

 

 違和感と言っても大したものではない。僕の返答から一切喋らなくなってしまった彩夢の様子が気になっただけだ。

 流石に気心の知れた妹と雖も相槌もなしに会話をぶつ切りにするのは違和感がある。僕に質問したのなら少しくらい反応しろと。

 

 そう思って、ソファで寝っ転がっているであろう彩夢を見ると彼女は何やら固まっていた。

 

 ソファで寝っ転がりながらスマホをぼんやりと見ていたはずの瞳は丸く開かれており、何かに驚いた様子で僕の方を見ていた。

 

「……おーい?どうしたのさ、一体」

 

 彩夢のこういう反応には何やら既視感があるが、とは言え彩夢が固まっている理由は聞かなければ分からない。

 

「おい。何か反応したらどうだ」

「お、お兄に新しい友達……?」

「またそれか」

 

 薄々察してはいたけど、僕に友達ができるのがそんなに不思議なのだろうか。いや、不思議なんだろうね。だって僕は今まで友達と言える友達がいなかったから。

 

 星野さんと知り合って、数日もしないうちにめるちーとも友達になって、校舎裏で百橋君と知り合って、それから次は日葵とショッピングモールで出会って。

 

 そう考えると交友関係が一気に広がったように見えるけど、今までがいなさ過ぎただけだ。

 ひと月程度で四人の友達は世間的に見ればまあまあな部類なのではないだろうか。

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょ。女装の効果だよ。当初の予定通り」

「だとしても、お兄に友達ができるのはそれだけとんでもないことなんだよ!」

 

 言いすぎだろ。

 

 確かに、男性としての僕に友達ができるという状況ならそれくらい騒ぐ気持ちもわかる。

 この世の男性が学生時代にどれだけ女性の友達がいたのかという話にも直結する話題だからだ。だけど、今の僕は女装姿。

 

 家族ですら女性だと思うくらいのクオリティなのだから、傍から見れば僕は女性と言っても過言ではないし現に星野さんを始めとする三人には女子だと思われているんだ。

 

「女子としての僕なら、友達がいてもおかしくないと思うけど?」

 

 ムキになってそう言ってやれば、彩夢はキョトンとした表情をこちらに向けた。

 

「でもお兄、コミュ障じゃん」

 

 クリティカルヒット!

 

 確かに、女装姿であっても僕は女子とどういう会話をしたらいいのか、どうやって話しかけるべきか分からなかった人間だった。

 入学初日にクラスに馴染めず現実逃避に窓の外を眺めていた人間は伊達ではない。あの時星野さんが話しかけてくれたから、そのまま芋づる式にめるちーが釣れて、日葵にも認識されるようになった。

 

 だから、初対面の人との接し方が分からないという意味で言えば、僕はコミュ障だ。

 

 それは認めよう。だけれども。

 

「言って良いことと悪いことがあるよね?」

「やべ」

 

 満面の笑みを浮かべて彩夢に圧をかける。

 

「もう一度聞こう。僕に友達ができたことがそんなに不思議かな?」

「えーっと……。不思議、かなぁ……」

「よーし。売れられた喧嘩は買うのが矢吹家の流儀だ!そんなに死にてえならお望み通り引導を渡してやらァ!」

 

 僕が圧をかけても前言を撤回しようとしない愚かな妹に引導を渡すべく、僕は彩夢が寝そべっているソファへと飛び込みアイアンクローを仕掛けようと右手を突き出した。

 

 その瞬間だった、彩夢は今まで寝そべっていたとは思えない身のこなしでソファから身を翻すと僕の攻撃を紙一重で躱す。

 

 そして、声を張り上げて何かを叫んだ。

 

「お父さーん!お兄に友達ができたってー!」

 

 彩夢の叫びは二階の自室で悠々自適に過ごしている父さんの耳に届き、彩夢の言葉を聞いた父さんは何やら慌てた様子で部屋を飛び出してくる。その様子は、一階でにらみ合っていた僕たちにも足音として伝わってくるくらいだ。

 

「なんだってー!!」

 

 二階からドタバタと音を立てながら慌てて階段を下りてくる父さん。その慌てようは0歳の時から自我を持っていた僕をして初めて見るようなものだった。

 

 おい見たってこの流れ。

 

 もういいって。これは星野さんと友達になったって伝えた日にやった流れだろ。

 

 そんなことを思いつつ、しかし父さんという第三者を呼ばれてしまえば彩夢を分からせることができない。今日の所は見逃してやると自分を納得させる。

 

 そんなこんなですぐにリビングへとやってきた父さんは、開口一番聞いたことがある台詞を口にした。

 

「友達って男の子?それとも女の子?」

 

 だから見たってこの流れ。

 そんなことを思いながらも、僕はこの質問に対してなんて答えるべきか一瞬悩む。

 

 僕はこのひと月で、めるちーと日葵、百橋君と友人関係を築いているのだ。父さんからの質問である男の子か女の子かという問いには、どちらでもあると答えるしかない。

 

 だが待って欲しい。僕が男の子と友達になったなんて情報を馬鹿正直に伝えれば、そこにいる彩夢は勿論、父さんだって騒ぎ立てるに違いない。そして、仕事から帰ってきた母さんにもそれは伝わり、今日の夕飯時に何やら追及されることになること間違いなしだ。

 

 こういう友人関係とか、家族に説明するのってめんどくさいんだよね。学校で友達と何話してるの?という質問を前世で聞かれたことは何度もある。しかし、そんなことを聞かれても内輪ノリのオンパレードなのでなんて言えばいいのか全く分からない。

 

 ぶっちゃけ放っておいて欲しい。こう考えたことは一度や二度ではない。

 

 だとしても、自分の友人関係を身内に根掘り葉掘り聞かれるのは面倒の一言に尽きる。

 

 そんな可能性が一瞬で脳裏を過り、僕は僅かに答えに詰まった。頭では百橋君について言わない方が良い。そう思っているのに、嘘を吐くという行為に忌避感が伴い感情と理性で相克する。

 

 そのコンマ1秒にも満たない葛藤を父さんと彩夢には見抜かれた。

 

「……もしかして、男の子?」

 

 彩夢のその一言に、これは否定しても意味がないだろうと思い渋々ながら首を縦に振る。

 

 その数秒後に、耳を劈く甲高い声が部屋を埋め尽くした。そして、それは10秒ほど続いた。

 

「えーーーーーーーーー!!?」

「うるせぇ!!」

 

 だから言いたくなかったんだ!こういう反応になるだろうと言うことが分かってたから!

 

 これから色々と追及されるんだろうなと分かり切った未来を想像して憂鬱になる僕をよそに、彩夢は驚きに目を見開いているし、父さんは父さんで感慨深そうに頷いている。

 

「お兄、その人紹介して!」

「するか!」

 

 彩夢にだけは絶対に紹介してなるものか。友人と妹がそう言う関係になったら僕は何を思えばいいのか分からなくなるだろ。

 

「えーなんでよいいじゃーん」

「嫌だ。パートナーは自力で探しだせ。顔はいいんだから相手くらいすぐ見つかるだろ」

「お兄は男だから彼氏探しがどれだけ難しいのか分かっていない!」

 

 母さんの血を引いてるんだから相手くらい見つかるだろ。

 

 ああいや、母さんの血を引いてるからこんなに見境ないのか?

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