貞操逆転世界で女装する男の話   作:あべこべ好き

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きっかけ

「そうだ。矢吹さん、ライン交換しようよ」

「え、いいの?」

「……?良いに決まってるでしょ?その感じ、クラスラインもまだ入ってなかったりする?」

「あー……。うん。まだクラスライン入ってないんだよね」

「分かった。任せて、私が招待しておくよ!」

 

 そうして、お互いのスマホを見せ合いQRコードを読み取る。これであとは追加すればオッケーだ。一番の問題だったクラスラインに入るというミッションは、星野さんのおかげでクリアできた。

 

 僕にとって、この世界で初めて交換した異性の連絡先。

 

 これは、思った以上にテンションが上がる。社会から離れていなかったんだという安心感と、僕と友達になってくれるという人がいるだけで、心が温まる。

 

「どうしたの?」

 

 追加された星野さんのアカウントをまじまじと眺めていると、不思議に思ったのか星野さんがどうしたのかと問いかけてくる。

 

「ああいや……。連絡先を交換するなんて、初めての経験だったからちょっと感慨深くなっちゃってさ……」

 

 勿論、今世においてと言う枕詞は付くが、この15年間家族以外の誰かと連絡先を交換することなんてなかった。今までそのことに不満を持っていたわけではない。

 友人関係が希薄なのは、何も今世に始まったことではないから。でも、やっぱり誰かと繋がれるのは嬉しいのだ。

 

「僕もようやく、社会の一員になれたのかなって……」

「…………ッ」

 

 ……あれ?なんかとんでもなく重い話みたいになってない?

 いや、別にそこまで深刻な話とかそう言うことじゃなくてね。やっぱり人の温もりも時には大切だよねっていう当たり前のことを再認識しただけっていうか。

 

 なんか変なことを口走った気がして、内心慌てている僕を星野さんの両腕が襲った。

 

 星野さんの両手が僕の両肩を掴む。それに僕は一瞬驚いて彼女の顔を見ると、星野さんは少し真剣な表情を浮かべた。だけどすぐに柔らかく微笑んだ。

 

「もちろんだよ。だって、私とはもう友達だからね!」

「……そっか」

 

 友達か……。

 

 友達かあ!!

 

 やったぜ!これでボッチからは脱却できた。今まで友達がいなかったという悲しき人生からおさらばよ。今日から僕は高校デビューを成功させた新生矢吹時雨!

 

 これから高校生活目一杯楽しんでやるからな!覚悟してろ!

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 私は、昔から人見知りが激しかった。

 

 物心ついたときには既にお母さんの足の後ろに隠れて、知らない人からの視線に耐えてきた。まあ、これはちょっと極端な話だけれど、それでも初対面の人と話すのは苦手なのだ。

 

 年を重ねて少しずつ、ほんの僅かだけど人との接し方が分かってきていたけど、それでもやっぱり人と話そうとすると声が上擦ってまともに喋れない。

 

 そんな私だから、小学校時代は休み時間に一人図書室で本を読んで過ごしていた。

 

 誰も声を上げず、静かに一人の時間を過ごすことができるあの部屋が、私が唯一安心できる場所だった。

 

 そんな生活を続けて、やがて私は中学生になった。学校が変わったから何か変化が起きるのかなって期待していた気持ちとは裏腹に、中学生になっても碌に人見知りを解消できていなかった私は、やっぱり教室や図書室の隅で大人しく本を読むことしかしなかった。

 

 周りは数少ない男子にどれだけ近寄れるかとか、どうしたら付き合えるかなんて色恋の話題が盛んになっている中で、私は一人孤独に過ごしていた。

 

 そんな生活が嫌だったわけではない。私は私らしく静かで有意義な生活を送っていた。

 

 でも、心のどこかではクラスメイトと賑やかに過ごす学校生活に憧れを抱いていた。

 

 そんな中、ある日私が一人ポツンと図書室で本を読んでいると一人の男の子がふらりと図書室にやってきた。

 こんな閑散とした教室だけど、私を含めて数名の女子生徒が利用していた図書室は唐突に現れた男子生徒に目を奪われ、少し張り詰めた空気になったのを覚えている。

 

 でもやっぱり、普段から図書室で休み時間を過ごしていた私たちが唐突にやってきた男子生徒に話かけるなんてことはできないし、精々目で追うことが精いっぱいだった。

 

 人見知りが激しい私にとって、同じ空間に男の人がいるというただそれだけでもソワソワしてしまうのに、私が普段陣取っていた座席は図書室をほとんど視界に収めることができる場所だった。

 

 だから、視界に男の人を入れている状況に訳もなく気まずくなった私は居ても立ってもいられずに席を立った。他の本を探すフリをしながら、できるだけ視界を防ぐことができる本棚が並んだ場所へと移動する。

 

 これなら私の心のざわつきを抑えることができる。そう思って席を立ったのに、私はついいつもの癖で気になる本を自然と探していた。

 

 脳裏にチラつくあの男の子。目鼻立ちは綺麗に整っていて、まるで女の人みたいな綺麗な人だった。そんなことを考えていたからか、私は偶然目にした一冊の本に意識を向けられた。

 

『異性との恋愛の仕方』

 

 そう書かれたタイトルの本に、私は自然と手を伸ばしていた。きっと、男の人を見たばかりだったからそういう気持ちになっていたのだろう。

 

 ゆっくりと一冊の本に手が伸びて、いよいよ背表紙に手がかかるというその時だった。

 

 運が良いのか悪いのか、いつの間にかあの男の子が目の前にいてしかも同じ本を同時に取ろうという、今時見ないほどにテンプレなラブコメ漫画のワンシーンのような状況になっていた。

 

 人見知りが激しく、まともに会話することすら困難だった私は突然の異性との触れ合いに脳がショートして、自分でも何を言っているのか分からないほどに意味不明な音の羅列を発していたと思う。

 

「あ、あのその私はえっとこのそのあれそれ……」

「どうどう、落ち着いて。まずは一度深呼吸」

 

 そう言われて、私は言葉の通りに深呼吸をした。今思うと、あんな変な言動の私に優しく接してくれた彼は紛れもない聖人だったと思う。

 

「はい。この本が欲しかったんでしょ?」

 

 私を落ち着かせてくれた彼は、次に私が取ろうとしてくれた本を私に差し出してくれた。

 

「……え?」

「僕はただちょっと気になったから流し読みしようかなって思っただけだから大丈夫。手、触っちゃってごめんね?」

 

 そうして、人見知りで何も言葉を発することができない私に丁寧に接してくれた彼は、何か一冊の本を手にしてそのまま貸し出しをして帰って行った。

 

 それが、私の初恋だった。

 

 そうして私は彼が譲ってくれた『異性との恋愛の仕方』という本を読み、中学三年間を費やして、ぼさぼさだった髪の毛を手入れし、眼鏡からコンタクトへと勇気を振り絞って変えて、人との接し方も練習した。

 

 そうして、自分に自信が持てるようになった時には既に中学は終わりを迎えていた。

 

 あれ以降、彼とは一切接することは無かった。一体どこのクラスだったのか、先輩だったのか後輩だったのかも分からずに、中学は卒業してしまった。私の初恋はほろ苦い味がした。

 

 高校入学の時が来た。

 

 中学時代に人見知りだった過去を捨て、私は今の私を高校デビューとしてぶつけようと意気込んでいた。未だ人とのコミュニケーションは怖い。

 中学時代は三年かけてゆっくりと自分磨きに費やしてきたから、実地投入はこれが初めての経験だった。

 

 そんな中、私は高校に入学した。クラスメイトは一人を除いてみんな女子生徒。中学時代と比べるとかなり男子生徒の数が減ったなと考えながら、私は一人緊張していた。

 

 人と話すのってどうするんだっけ。私から話し掛けてもいいんだっけ。

 

「ねえ、ライン交換しよ?」

「は、はい!」

 

 唐突に隣の席の人に話し掛けられて、あれよこれよという間にラインは交換し終えていて、私はクラスラインに招待されていた。正直、あの時のことは全く覚えていない。

 

 これからよろしくなんて言われた気がするけど、そこで私に話しかけてくれた子は別の友達の所へと行ってしまった。

 

 唐突に話し掛けられて、初めてラインを交換した私はまるで台風に襲われた後みたいに放心していた。

 

 そして意識を取り戻した後は、ひたすら心の中での反省会。

 今キモイって思われなかった!?初対面の人との接し方ってこれでいいんだっけ!?

 

 そんなこんなで再び心臓が口から飛び出そうになっていた私の目の端に、一人の女の子が映った。

 

 窓際の席で、一人憂鬱気に空を見上げている。窓から流れてくる風に靡くカーテンと、彼女の背景となっているどこまでも青く広がる快晴。

 

 何よりも、その子があまりにも綺麗で、そして私の初恋の彼の面影がなぜかどことなく感じられて、目を奪われた。

 

 そうして少し呆気に取られていると、彼女は一つため息を吐いた。どうしたのだろうと思ってよく見てみると、その表情は少し寂しそうにも見えて。

 

 古い鏡を見ているような、そんな感覚に苛まれた私は自然と席を立っていた。

 

 丁度、百橋君のことを見ているようだったし、話のきっかけはこれにしよう。

 

「――彼のことが気になるの?」

 

 そうして私は、人見知りを克服した。

 

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