転生ヒナちゃんVS正論モンスターの仁義なき戦い   作:流星の民(恒南茜)

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長いことお待たせしてしまいごめんなさい。
三章のプロットが完成したため、短いスパンでの投稿を再開できるかと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。


第三章 ダイヤモンドダスト
#21 「偽りの理」


「単刀直入に言うと、ヒナちゃんにはダイダスでボーカルをして欲しいな」

 

ナナさんの目は真っ直ぐに私を、先ほどまではゆるんと垂れ下がっていた唇はきゅっと引き締められていて。彼女が如何に真剣な話をしようとしているかはすぐに理解できた。

連れられるままに入ったダイダスさんの控え室は閑散としていて、ナナさん以外にちっとも人が戻ってくる気配はない。

ライブ後なのにも関わらず、こんなことはそうそうないだろう。

 

「……失礼なことをお聞きしますが、それは他のボーカルにも言っているわけではないですよね?」

 

だからこそ、ナナさんがどれだけ真剣なトーンで話を切り出したところで肩透かしと言うべきか、

どうにも現実味のない言葉に思えてしまって仕方がなかった。

 

「ヒナちゃんしか誘ってないよ。だから、この話は君も真剣に捉えてくれていい」

 

けれど、その表情に変化はない。

ここまで言い切ってしまってもなお、メジャーデビュー寸前のバンドの今後を賭けてまで、こんな話をする──そんなことをする理由はナナさんにはないはずだろう。

 

「……では、なぜ私にこの話をくださったのですか?」

 

だとしたら、これは本当に私に向けたスカウトだったのだろうけど。

それでも、気にかかることはある。

言うなれば、私は初心者だ。音楽経験も浅いどころか、それまでのゴタゴタもあり、ようやく四人でバンドとして始動できたのはつい先程のこと。

ライブには私たちよりも遥かにファンの多いバンドマンが複数いた。その中でわざわざ私を選ぶ理由がわからない。

 

「そうだね……イメージが近いから、かな」

「イメージって、何のですか?」

「モモカンとのね」

「桃香さんと、って……」

 

その言葉に思わず反応してしまう。

私だって以前は仁菜とダイヤモンドダストのファンとして過ごしてきた身だ。

ファンから見た桃香さんのイメージというのは私の中にも確かにある。

それと照らし合わせるのならば、私はちっとも似てなんかいない。

 

「……全然、似てないじゃないですか」

「そうかな? あのライブ……ギターボーカルでバンドを引っ張るカリスマ性に、その歌い方だって、結構似てたような気がするけど」

「だったら仁菜──もう一人のボーカルの方が似ているはずです」

「ああ……確かに似てたね。裏表なくて、情緒的な声でさ。でもね、もう一つ、君にした決め手があるの」

 

そう口にすると、ナナさんはスカートの裾をちんまりとつまんでみせる。

桃香さん引退以前のダイダスがジーパンにTシャツとあんまり衣装には拘っていなかったことを考えると、今のナナさんが身につけているのは可愛げのあるものだ。

やっぱりスカートが慣れないのだろうか、なんて考えてしまう。

 

「アイドル性、みたいなものかな。パフォーマンスの節々でヒナちゃんはファンを意識してた。もう一人の子が自分の好きなように歌うんだとしたら、それが一番違ったかも。つまりさ……」

 

そこでナナさんはふっと口を緩めた。

丸まった口が猫みたいで、それでも、細まった目が鋭かったせいで愛嬌なんてものはない。

 

「包み隠さず、はっきり言っちゃうとさ、ある程度ファンサと楽器ができて、若くて華がある。それでいて、新人バンドマンだから引き抜いてもさして炎上しない……今のダイダスはそんな子を求めてるんだってさ」

 

初めて『空の箱』を聞いた時のことは今でも覚えている。

仁菜に分けてもらったイヤホンを耳にはめた時、ゆっくりと鼓膜を震わせた音像。

震えそうにか細かったギターとボーカルを、幾重もの楽器が取り囲んで少しずつ鼓舞していき、一つの音楽にする。

あの力強さは、間違いなくダイダスが彼女たちだったからできたことなんだろう。

 

「それは、打算的すぎるんじゃ……」

「打算的でいいの。じゃなきゃ、これで食べていくなんて到底無理なんだから」

 

突き放すようなナナさんの一言は、先ほどまでとは打って変わって冷たくて。

到底飲み込みたくないような、耳障りの悪い言葉だったけれど。

 

「みんなと音楽をしていたい……ずっと一緒にいたいって、私は綺麗事だとは思わない。私だってそう思う。でもさ、そこで自分の音楽を続ける……なんてのは、流石に綺麗事だよ」

 

それでも、実感を伴ったその言葉は深々と突き刺さった。

昔とは違う衣装、メンバー、音楽性。そこまで変えてまでバンドを続ける理由なんてナナさんにはそれしかないのだろうから。

 

「つまりね、ヒナちゃんがこれからも音楽で食べていける……今のバンドメンバーと音楽ができるだけの知名度が欲しいっていうのなら、掛け持ちでもいいからさ。少し考えといてよ」

 

◇ ◇ ◇

 

「お疲れ様〜。少しニーナ借りてくね」

「ごめん、ヒナ! 少し帰り遅くなる!」

 

ナナさんから話を聞いてから数日が経ってもなお考えっぱなしだったせいか、すばるちゃんが口にしたことにも上の空だった。

 

「前みたいにあんまり遅くなって、直前で夕飯いらない!ってやつ、やめてよね」

「今日は大丈夫だから……よろしく!」

 

そして、ライブ後のバンド練習というのは余韻があってか、ほんの少し締まらない。

そんな中でナナさんから難しい問題を押し付けられた後だ。そのことばかり考えてしまうに決まっていた。

 

音楽で食べていくことを考えた時に、今のままじゃいつまでもバンドを続けられる保証はない。

考えなしに上京してきて、18才になるまでは音楽を続けていいと親からも許可を貰った。

それは仁菜にしても、ミネさんやすばるちゃんも具体的な期間を設けられていなくたって同じだ。

 

仁菜といるために、私は音楽を選んだ。

彼女を追いかけてここまで来た。

その末に、音楽では到底食べていけないとなって、結果すら残せなくて。

そうなってしまったら、私はこの楽器を手放さなければならないのだろうか。

仁菜ともまた別々の道を歩まなければいけなくなるのだろうか。

 

ナナさんの言う通り、ダイダスの新ボーカルともなれば注目度は高い。

今よりもずっと、バンドで生きていける可能性は増えるだろう。

だからこそ、ナナさんの誘いを受けることはバンド活動の延命としては間違っていないのかもしれなかったけれど……どうにも腑に落ちない。

 

「ヒナちゃんさ、何か困ってることでもあった?」

 

その時、不意に聞こえた声に思いっきり肩が跳ねてしまう。

私たちのやり取りを先ほどまでニコニコとしながら見ていたミネさんが、ちょうど私の真正面に立っていた。

 

「今日の練習、結構ズレてたでしょ。何でも聞くよ?」

「……いえ。何というか、ちょっと調子が悪いだけというか……」

 

他のバンドとの掛け持ちを考えているだなんて、とてもじゃないけれど今のバンドメンバーに言えるわけがない。

あまりにも気まずいからこれは伏せておくべきことだ。

 

「ちっちゃな隠し事でバンド内不和は起きちゃう。ヒナちゃんはもう知ってるでしょ?」

「……そう、でしたね」

 

この間のすばるちゃんの一件は確かに小さな隠し事から起きたことだった。

もう一度あんなことが起きるリスクを考えると……確かに、黙りっぱなしでいるのはよくない。

それに仁菜は隠し事が嫌いな子だし、また揉めてしまうのは望むところじゃない。

 

「……ダイダスのナナさんから、ボーカルとしての勧誘を受けたんです」

「ナナちゃん、ね……」

「ミネさんもご存知なんですか?」

 

どこか懐かしそうに微笑んでみせながらもミネさんは頷いてみせる。

桃香さんの話をしていた時みたいに寂しそうなのに、目だけは笑っていて、楽しげで。

 

「もちろん。いつもモモにくっついている子って感じだったかな。一見しっかりもので、モモへのツッコミ役って感じだったんだけどさ。いざという時にはモモはできちゃう子だから、結局は甘えっぱなしになっちゃう……って愚痴ったりしててさ」

 

ミネさんから聞く話は、私自身が会ったナナさんの印象とはどうにもかけ離れたものだった。

打算的で、先のことまで考えて私を勧誘したりして……つまり、バンドのために真っ先に動ける冷静なリーダーみたいな人。甘えていたなんて、とんでもない。

 

「で、ヒナちゃんはどうしたいの?」

「……いえ。掛け持ちでもいいと言われていたので迷っていて。何というか、思っちゃったんです」

 

そんな人の言うことではあったから、きっと実感のこもった言葉ではあったから。

私もナナさんに当てられてしまった部分はあったんだと思う。

 

「……私は仁菜といたい。いつまでも、バンドをしていたい。そのためなら、悪い提案ではないんじゃないかなって」

「なるほどね。確かに一利ある。じゃあ、考えてみようか。メジャーデビューのゴタゴタは抜きにして、一番大事な、たった一つで」

 

そこまででこんがらがってしまった私の頭を解きほぐすようにミネさんの声音は優しい。

難しく考えるなと、核心だけを拾えと彼女は言っていた。

 

「それで、ヒナちゃんは楽しいか。掛け持ちしたせいで、こっちは全力を尽くせないなんてこともあるのかもしれない。色々見てきたよ、バンドを続けるのが義務になっちゃってる子とかさ」

 

私の顔を覗き込むミネさんの瞳は、きっと散々この世界が上手く行かないことばかりであることを捉えてきたはず。

それでも、まだ輝きは失わずに奥には爛々とした瞳が灯っている。それに見つめられると、思わず私も閉口してしまう。

 

「分岐点に立ったときほど、より強く考えてみるんだ。バンドで食べていくことが目的になる以前、何で私はこれをやっているのか──って」

 

確かに、私が音楽を始めた理由は仁菜にある。

仁菜が学校を辞めてしまうというから、彼女を繋ぎ止めるための鎖として私は彼女をバンドで絡め取った。

それが、掛け持ちとなってしまったらどうなるだろう。

確かにバンドを続けられる可能性は、表向きに仁菜といられる時間は増えるかもしれない。

けれど、それが全力を欠いた上での空虚な時間だとしたら……少なくとも、仁菜はそれを許してはくれやしないだろう。

 

『この際だから言うけど……私にとっても他人事じゃない! ミネさんと、仁菜ちゃんと、ヒナちゃんと──私だって頑張ったんだ! ()()が好きになりたいんだ!』

『すばるちゃん。私は本気だよ』

 

でなければ、仁菜とすばるちゃんがぶつかり合うことはなかった。

何より、私自身がそれを良しとしてしまうような人間であったとするのならば──。

 

潔白で、正直で、バカが付くほど真っ直ぐで、眩しい──なんて。

仁菜のことをそう思えなかったはずだ。

彼女の本気に身を焼かれて、互いを削り合うようにあそこまで強くピックを叩きつけることはなかったはずだ。

 

「──ですから、ごめんなさい。今回のお話はなかったことにさせていただければ幸いです」

 

だからこそ、ナナさんに答えを告げる日。

待ち合わせのカフェで彼女の姿を見つけるなり、私が口にする言葉は決まっていた。

 

「……なるほど。うん、ヒナちゃんの考えはよくわかったよ」

「い、いえ。わざわざ私なんかに目をかけてくれてありがとうございました」

「ううん。こちらこそ。むしろ時間をくれてありがとね。そっちもバンドで大変だろうにさ」

 

早々に話がついてしまったからか、ナナさんは立ち上がって伝票をつまみ上げようとする。

きっとメジャー間近で忙しいのだろう。このまま立ち去らねばならない理由はわかる……けれど。

その前にあと一つだけ、聞いておきたいことがあった。

ダイダスのファンとしても、ミネさんの弟子としても、仁菜の親友としても。

 

「あの……本当に、桃香さんは戻ってこないんですか?」

「……ああ、そのこと? もしかして、ファンの子だった?」

 

聞かれたままにこくりと頷く。

ナナさんは少し考え込むような仕草を見せながらも、ぽつりと口にした。

何でもないように、ごくあっさりと。

 

「私は、もう──諦めちゃったんだ。モモカンをさ」

 

声音の奥にある震えを、隠しきれないままに。




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