モンテリたるがゆえに   作:ポンタ4

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1.オークションの流儀

『この子の血には我々と同じ血が流れている』

 

『私と来なさい』

 

『ファミリーはお前を守り』

 

『さらに広い世界を見せるだろう』

 

『お前は』

 

 

―――――――――――真のモンテリだ

 

 

〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●

 

 

夢を見た。

もう何度も見ている夢だ。

 

いつもの様に自分は病室のベッドで横になり、傍に座っている初老の男性に視線を移す。

 

その男性は此方を見ながら小さく、口角を上げて微笑んだ。

 

「真のモンテリ」

 

自分はそう答え、両手を握りしめ、それに力が入る。

 

自分の胸の中にある何かに火が付き、今の俺が生まれた。

 

 

〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●

 

 

「何度見たんだろうなこの夢は…」

「夢、ですか?」

「あぁ…いや、気にしないでくれ。ただの独り言だよ、カルロッタ」

 

モンテリ区に備えられているバー。

そのバーカウンターに備え付けているカウンターチェアに座り、先ほどの独り言を誤魔化すようにグラスを傾けて飲んでいく。

口の中に広がるオレンジの酸味による爽涼感とアルコールで先ほどの思考をかき消す。

 

俺の名前はレビン・モンテリ。

モンテリファミリーの一員であり、カルロッタと同じ執行人(エグゼキューター)である。

黒いスーツで身を包み、その黒いスーツには似合わないカルロッタと同じ白銀の髪色。

威厳を出すためにヘアワックスで髪をたくし上げてはオールバックにしている。

……オールバックが解かれてしまうとどことなく童心を感じさせるような顔つきであるため、その顔つきや雰囲気から舐められないようにするためである。

決して強がっているわけではない―――――――半分ぐらいは。

 

彼女にこのバーに呼ばれ、2人で夜空とバーから見える海を肴にグラスを傾けていく。

彼女(カルロッタ)がここに呼んだという事は何かしらの仕事だろう。

グラスの中身が半分ほどになった後に

 

「それで、今回の仕事の内容は?」

「いえ、ただ私(わたくし)は貴方と飲みたかっただけですわ、レビン」

「はぁ……?」

 

思わず呆けた声を出してしまう。

彼女は何を言っているのだろうか。

そんな中、彼女は口角を上げて笑みを浮かべた後に此方を見ては1枚のチラシを手渡してくる。

 

「ふふ、冗談ですわ。これを見てください。」

 

その彼女から渡されたチラシに目を通していく。

その紙切れにはドゥカートオークションが開催されるというもの。

このリナシータにはアヴェラルド金庫を主催しているドゥカートオークションが時折開かれ、その際にモンテリファミリーだけではなく、フィサリアファミリーや他のファミリー、一般人も参加する。

 

「ドゥカートオークションか、これがどうしたんだ?」

 

出品物もよくある宝石や絵画、宝石で象られたネックレスに指輪といったアクセサリー類である。

きっと何か裏があるのだろうがこれだけでは何も分からない。

 

「えぇ、そうよ。でも…シエロファミリーが出品物の1つに目を付けているの。」

「どれだ?」

「これよ」

 

彼女がチラシに指をさして示してくれる。

青色に澄んだ宝石、サファイアという宝石だ。

 

オークションで出品される絵画や宝石といった美術品を競り落とす、それは審美眼を問われる。

個人として購入するのであればその個人の趣味嗜好である。

 

しかし、ファミリーとして、一族としてそれらを競り落とすのであれば今度は品(・)格(・)が問われる。

値段相応のもの、または値段以上のものであれば審美眼が高く、ファミリー全体の品格も上げられる。

しかし、値段に不相応なものであればファミリー全体の品格を下げることになる。

芸術を理解することができない愚者の集団として後ろ指をさされることになるだろう。

 

レビンはこのサファイアにわざわざ競り落とす価値があるとは思えなかった。

何しろこのサファイアは見た目が不(・)格(・)好(・)なのである。

本来の宝石であれば加工をされ、光を反射させ、見るものを魅了させる。

しかし、この宝石は加工されておらず、それどころか原石に近い状態である。

オークションにそもそも出品するようなものでもない。

仮に出品したところで競り落とすものがいるとでも思えない、そうレビンは考えた。

 

「その…いや、悪い。カルロッタの情報を疑ってるわけじゃないんだ。」

「言いたいことは分かりますわ。なぜ、でしょう?」

「あぁ、そうだ。」

「では…その、なぜ、に答えましょう」

 

カルロッタは少しだけ体を此方に寄せ、前かがみになってゆっくりと口を開く。

 

 

「どうやら…反響エナジーを蓄えた宝石らしいの。」

「黒石…ってことか?」

「えぇ、おそらくね。」

 

 

黒石、海蝕現象(かいしょくげんしょう)という通常では起こりえない現象があり、その産物のことを黒石、と言うらしい。

この黒石を加工することによって共鳴者が扱う武器となり、残像に対して有効打を与えられる…らしい。

あくまで人づてに聞いただけであるため、本当かは不明だ。

 

「…シエロファミリーが黒石を欲しがっているのか?」

「情報が正しければ、ね。」

 

手に持っていたグラスをバーカウンターの上に置き、その手を自分の口元に持って思考していく。

オークションで芸術品をファミリーとして購入するのは品格が問われる。

だからこそ不可解なのである。

宝石の原石を購入する、それはまだ100歩譲って分かるが何故黒石を競り落とすのかが不明である。

 

 

――――――――――思案しても思いつかない。

またバーカウンターにおいた自分のグラスを手に取り、中身を飲み干していく。

 

 

「それで…そのオークションは参加するのか?」

「勿論よ。競り落として彼らには渡さない。どんな理由があるのかは分からないけど…いくら何でも不自然すぎるわ。」

「わかった。俺は護衛でもすればいいか?」

「えぇ、それでお願いね」

「オークションの開催日は?」

 

 

「3日後よ」

 

 

〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●

 

 

「ようこそ、お越しくださいました。」

 

 

オークション会場のエントランスホールにレビンとカルロッタが足を踏み入れると白いスーツに身を包んだ若い男性が出迎え、その男性は左手腹部に、右手を背に回して会釈をする。

カルロッタはその男性に少しだけ手を挙げて挨拶をし、俺もそれに続くように軽く手を挙げて挨拶をする。

 

カルロッタは赤を基調とし、白色の星が散りばめられ、眉間部分にアパタイトの宝石が埋め込まれ煌めいた仮面を付けている。

俺は薄紫を基調とし、白色のボーダーが等間隔に並んでいる。眉間にはガーネットの宝石を埋め込まれた仮面を付けている。

 

2人でエントランスホールを歩いてはそのままオークションが行われる大きなホールへと向かっていく。

既にホールでは大勢の人が椅子に座って待機している。

ホール前で先ほどと同じ白いスーツを着た初老の男性が券を配っている。

オークションに参加する際には公平性を保つためにランダムに、更には当日に席の割り振りがされる。

その券を受け取ってはお互いに確認する。

カルロッタは13番、俺は178番。

お互いに席が離れており、ホールの左奥と右奥の席に座ることになった。

 

「また後でな、オパール」

「えぇ、また後で、ヴ(・)ァ(・)イ(・)オ(・)レ(・)ッ(・)ト(・)」

 

お互いに仮面を付けているため、一応身分を隠している。

そのため、モンテリファミリーの一員としてばれないように変装をしてお互いにコードネームで呼び合う。

カルロッタの服装もいつもの赤色のドレスではなくモノクロを基調とした色合いに薄い赤色の線が入ったドレスに身を包んでいる。

俺はいつも通り黒いスーツの上にコートを羽織っている。

というか大体男性はこういう場ではスーツだから仕方ないのだが…。

 

指定された席へと向かい、ホール全体を見まわす。

円状に椅子が配置されており、ホール真ん中にあるステージの部分を囲むようになっている。

そのステージにはまだ品は配置されていない。

視線を正面に向ければカルロッタは足を組んで座り、手を膝の上に置いて目を瞑っている。

その佇まいは優雅という言葉がまさに似合うだろう。

 

15分後、ホールの扉がすべて閉められ、会場内を照らしていた電気もすべて消されては会場内は闇に包まれる。

その後、ライトを付ける大きな音と共にステージに光が集められる。

集まった光の中央にはモノクロの仮面を付けた若い女性が会釈をして立っている。

 

その姿にオークション参加者全員の視線を向けられ、笑顔を浮かべながらその女性は顔を上げる。

 

「本日もお集り頂き誠にありがとうございます。オークション会場にてこれから様々な――――」

 

その女性はオークション会場のルールについて説明を始めていく。

一般人も参加するという事は普段参加しない人もこのオークションに訪れる。

ファミリーは何度も参加しているため、このオークションの説明に関しては皆聞き流すことが多い。

その説明中、俺は目を瞑りカルロッタと今回のオークションの動きについて振り返っていく。

 

 

〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●

 

 

「護衛は競り落としたあと、だよな?」

「えぇ、勿論よ。私(わたくし)が競り落とせば今度は強奪に来るでしょう。おそらく、ですが。」

 

ソファーでお互いに向き合い、コーヒーを嗜みながら二人で話を進めていく。

モンテリ区にある部屋の一角、そこはレビンとカルロッタによる秘密の作戦会議をするときに使用される。

二つのソファーに挟まれるようにテーブルがあり、部屋には窓が付いていない。

外から監視されたりしないようにするためだ。

後は作業用の机と本棚、仕事道具をしまう為のチェスト。

キッチンクローゼットもあるため、簡単な料理や嗜好品をしまっている。

 

「しかしまぁ…謎だな…考えても仕方ないことは確かなんだけどさ。」

「そう、そこが分からないんですの。」

 

カップを手に持っては二人とも同じタイミングで飲んでいく。

独特な風味と舌先に伝わる苦味や味わいが喉元を通っていき、口からカップを離してテーブルに置き思案する。

 

 

疑問が残る。

シエロファミリー、リナシータにあるファミリーの一つである。

規模は小さく、ファミリー全体で見てもそこまで大きな力はない。

リナシータではモンテリとフィサリアが二大ファミリーとして名を馳せている。

その他にもファミリーは存在しているが、それらの力は二大ファミリーと比べてしまえば差は歴然である。

 

だからこそより疑問が残ってしまう。

何故その力も大きく持っていないファミリーが黒石を欲しがるのか。

黒石は共鳴者の武器を作る材料の一つである。

その材料を手に入れたところでファミリーが力を持つとは思えない。

 

 

―――――――――――――だからこそ余計に勘ぐってしまう。

 

 

何故黒石を必要とするのか?

黒石で武器を作って武力で訴えるにしても力の差は歴然。

黒石を使用した武器は他の国から輸入して手に入れることも可能であるため、どうしても欲しいならその手段を取ればいい。

 

では黒石はファミリーの品格を高めるのか?

いや高めないだろう。

品格を高めたいなら美術品を競り落とした方が早い。

 

なぜ、を繰り返しても疑問を繰り返してもその不安が拭えなかったから彼女はその黒石を競り落とそうと考えたのだろう。

レビン自身もその考えには賛同した。

 

「それで…俺が護衛するのは気持ち悪さを振り払うためでもあるんだな?」

「えぇ、私だけでも問題ないと思いますけど…万が一が考えられますので。」

「カルロッタが負けるとは思えないんだが…」

「勿論、負ける気は一切ございませんわ」

 

ふふ、と彼女は笑みを浮かべカップをテーブルの上に置く。

彼女のこの強気な態度はレビンにとっては心強く感じた。

レビン自身も彼女の笑みに釣られ、少しだけ表情を柔らかくした。

 

 

〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●

 

 

「では、最初の品【悠然なる愚者】となります!」

 

 

オークションが始まった。

いつの間にかオークションの説明も終わったようだ。

レビンは瞑っていた瞳を開けて、始まったオークションの品を見ていく。

最初の品は絵画だ。

キャンバスに描かれた一人の男が平原で佇んでいる絵画だ。

 

目的の品は先ほどの絵画から3点進めば出品される。

暇だ、レビンはそう考えてしまう。

如何せん美術品というものにはレビンは疎い。

この絵画の手法は―――、この絵のタッチは―――と言われてもレビン自身はそういう事は分からない。

なにせカルロッタの方がその審美眼については優れており、レビンも勉強をしたり、様々な絵画を見たりしたがその良さが上手く理解できなかった。

直観的でレビンの心の赴くままに良い、というのであれば判断はできるが直観である。

カルロッタからは「その直感は大事ですわ」とフォローもされているため、自分(レビン)の審美眼は劣っているのだろう。

 

ふと視線をカルロッタの方に向ける。

オークション会場はステージに光が集まっており、彼女の席は薄暗く、輪郭程度でしか確認できない。

その輪郭では椅子に座り、足を組んで両手を膝の上に置いているのだろうか。

彼女の所作1つ1つにはまさに優雅、という言葉が似合う。

彼女をモデルにして絵画を描けば注目を浴びるといっても過言ではないのかもしれない。

ただの身内贔屓かもしれないが。

 

オークション会場内では札を挙げて入札をしていくのが見える。

 

 

「63番ビッダー、1万モネ」

 

 

オークション会場で淡々とした女性の声が番号と入札値段を告げていく。

 

「1万モネ、1回目」

 

どうやら他に札を挙げたものがいなかったらしい。

 

「1万モネ、2回目」

 

「1万モネ、3回目」

 

「落札となります」

 

先ほどの絵画は落札されたらしい。

落札された品はそのままオークション会場のステージ裏に運ばれ、入れ替わりで次の品が出てくる。

今度はネックレスだ。

光に照らされ、宝石を埋め込まれたそのネックレスは光を反射して煌めいている。

 

「次の品物は―――――――――――――」

 

次の品物について話しているが、レビンからすれば興味のない事である。

オークション自体の参加も久しぶりであり、たまには参加したら面白いかも、と考えたのが浅知恵であった。

こういう芸術品は分かる人が参加すれば楽しかったり、驚きがあるのだろうがレビン自身は理解できなかった。

 

欠伸をしてしまいそうになり、それを嚙み殺していく。

いくらつまらないと思っているとはいえ、相応しくないことをすればカルロッタに呆られてしまうだろう。

 

 

 

―――――いや、視線を感じる。

なんとなくの輪郭しか見えないが、彼女が見ている。

心なしか笑っている気がする。

これは……怒られるやつだな?

 

 

「次の品物は【ブルーシー】となります。」

 

 

品物の名前が告げられ、オークションが始まる。

ステージの上に青い宝石が光を浴び、少しだけだがその光を反射させている。

どうやら目的の品物が出てきたようだ。

 

「81番ビッダー、3000モネ」

 

真ん中の出入り口から下った席に座っており、紺色のスーツを着て黒色の仮面を装着している人物。

札を今挙げたあの人物がシエロファミリーの一員なのだろう。

 

「13番ビッダー、5000モネ」

 

カルロッタが札を挙げて入札をする。

周りにいる参加者は少し驚いた声をあげて彼女を見つめる。

それもそのはず。

普段なら競りにすらならないものが競り合いになっているのだから。

 

「81番ビッダー、7000モネ」

 

「13番ビッダー、1万モネ」

 

「81番ビッダー、1万2000モネ」

 

「13番ビッダー、2万モネ!」

 

一気にカルロッタが値段を釣り上げた。

オークション会場内でも少しずつどよめき始める。

只の原石程度に2万モネ、ファミリーとしては安くない金額である。

どよめくのも当然だろう。

 

シエロファミリーと思われる人物は札を握りしめ、カルロッタを睨む。

当の彼女は目を瞑り、平然とした表情で札を挙げたまま。

 

 

「2万モネ、1回目」

 

 

落札が始まる。

13番の札を持っている人物がゆっくりと札を上げる

 

「81番ビッダー、2万5000モネ」

 

「13番ビッダー、3万モネ」

 

更に会場内がざわめき始める。

 

「3万モネ、1回目」

 

カルロッタは足を組み、瞳を瞑ったまま微動だにしない。

既に彼女にスポットライトを浴びせられており、まるでその様子は舞台劇のようだ。

 

「3万モネ、2回目」

 

「3万モネ、3回目、落札となります!」

 

そのまま流れるように落札されると彼女は席を立ちあがり、出入り口へと足を向ける。

自分もそれに釣られるように立ち上がり、出入り口へと向かっていく。

エントランスホールに戻ると備え付けられているソファーに対面になるように二人で座っていく。

 

「3万モネとは中々奮発したな」

「仕方ないでしょう?競り落とすためですもの、渡すわけにはいきませんわ。」

 

2人でそんな話をしながらオークションが終わるまで待つ。

オークションでは競り落とした際にはかなりの大きいものでない限り、競り落とした当事者によって持ち帰ってもらう決まりとなっている。

またオークションもルールが様々である。

競り落としていいものは最大2つまで、だったり、品物を渡すときは必ずオークション終了後だったり、競り落とした直後だったり…である。

今回は競り落とした直後であるため、2人でこうやってエントランスホールで待っているのである。

 

「13番ビッダー、品物の用意ができたため、3階へお越しください。」

 

エントランスホールで待っているとアナウンスが入る。

2人で向かおうとソファーから立ち上がろうとすると、近づいてくる一人の若く、レビンと同じ黒いスーツを着ている人物が近づいてくる。

胸元には十字架を両翼にて包み込む紋章が描かれたピンバッジを付けている。

 

「失礼いたします、レビン様。レビン様に会わせたい方が。」

「わざわざ仮面を付けているのに本名で呼ぶのは礼儀知らずじゃないか?」

「申し訳ございません、ですが急を要しますので。」

「…行っててくれ、オパール。」

 

 

カルロッタに視線を送り、彼女は頷いてそのままエレベータに乗り込み、上へと向かっていく。

彼女を見送ったあと、その人物に視線を合わせる。

 

「それで合わせたい人物っていうのは?」

「私だよ、レビン」

「……まさか会いたい人物がシエロファミリーのボスとは思いませんでしたよ、ヴォルケさん」

 

シエロファミリーのトップであり、3代目、ヴォルケ・シエロ。

彼は仮面を付けずに此方に歩き、その背後には一人従者が付いている。

向こうからこうやって会いに来るとは余程あの宝石が欲しいとみえる。

 

「まずは…場所を変えようか、ここでは他の者たちに威圧してしまう。」

「分かりました。」

 

ヴォルケとレビン、そしてヴォルケの従者2人と一緒にエントランスホールから出ていき、建物の外へ。

周りから見ればまるで連行されているように見えるだろう。

外に出ると建物の周りを2人ほど、スーツに身を包み、そして皆同じピンバッジを付けている。

レビンは仮面を外し、それをしまって周りを見渡す。

最早名前もバレているからこんな仮面は無用だろう。

 

「従者を合わせて4人とは、話し合いにしては警戒しすぎでは?」

「いやなに、最近物騒だからね。命を取られないために護衛を増やしているんだよ。」

 

建物の外へ出て、そのまま外れへと向かっていく。

建物の横に備え付けられたカフェスペース。

そこにたどり着く。

白い木製の丸テーブルに背もたれが少し高めにされている白い木製の椅子。

普段は他の椅子やテーブル、ガーデンベンチなども備え付けられており、軽食を楽しんだり、散歩をしたりするには良い景色なのである。

色とりどりの花が咲き、そこを歩けば一つのランウェイとなるほどの素晴らしさ。

しかし、今はこの白い丸テーブルと白い椅子2つのみ。

他の人物は誰もおらず、一般の方の憩いの場ではなく、秘密の取引をする場所として様変わりしている。

ヴォルケが椅子に座り、レビンも対面に座っていく。

 

「やけに準備がいいですね。」

「護衛が言っただろう?会いたい、と。よければこのまま世間話でも如何かね?」

 

ヴォルケの後ろに2人、レビンの背後に2人護衛が立っている。

さて、このまま戦うと少々面倒である。

それに、それではあの宝石を欲しがっている理由も分からない。

話を合わせつつ、そして本心を聞こうとしよう。

 

「いいでしょう、世間話でもなんでもしましょうか。」

「素晴らしい!」

 

 

 

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エレベーターで上がっていき、チーンとという機械的な音が聞こえれば、扉が開く。

私はそのエレベーターから降りていくと、目の前に黒いスーツに身を包み、シエロファミリーのピンバッジを付けた人物。

 

「ようこそお越しくださいました、カルロッタ様」

「あら、知っているのですね。」

「有名でございますから。お部屋は此方になります。」

 

その人物に案内されるがままに1つ、2つ、扉を過ぎ、一番最奥の扉を開けられる。

脚を踏み入れるとそこには81番の札を掲げていた人物が深紅のソファーに座っている。

部屋の隅には2人、彼の背後に1人、従者が立っている。

オークションに出ていた人物だが、出入口から出たようには見えなかった。

金を使ったか脅したか、別口の出口からオークション会場を出ていき、そして接触してきた、というとこだろう。

 

 

「座りたまえ」

「レディーに対して礼儀がなってないと思いますわ」

「御託はいい、座りたまえ」

 

 

無礼な人、貧乏ゆすりをして余程余裕が無いと思える態度、カルロッタは心の中で軽蔑と嘲笑を重ねる。

指示されるがままに対面に座り、足を組む。

大理石で出来た机の上にはカルロッタが競り落とした青色に澄んだ宝石、サファイア。

 

「オークションの職員の方はどうされたのです?」

「話し合いをしたいと言って出ていかせたよ。」

「そう…」

「それで、モンテリの淑女様は人と話すときには足を組むのかね?」

「あら、その淑女の扱い方も分からない獣が礼儀を気になさるの?」

 

ぎり、と歯ぎしりをする音が聞こえる。

カルロッタはその姿勢を崩さず、言葉を続ける。

 

「それに…オークションのルールで競り落としたというのに、これはルール違反では?シエロファミリーの名が聞いて呆れますわね」

「ルールとは時に変化するものだよ、カルロッタ。」

「時によって変化するルールは秩序ではなく、混沌を呼び寄せるだけですわ。」

 

カルロッタはブリーフケースからパフュームを取り出す。

薄い赤色のボトルであり、中身は桃色の液体が入っており、そのボトルを手に取りながら眺め、目の前の人物に興味なさそうに振る舞う。

そのボトルから更に液体越しに対面の人物を透過しては、ふふっ、とカルロッタは微笑む。

 

「何がおかしい」

「いえ、なにも。こんな話をするために呼んだわけではないのでしょう?」

「――――単刀直入に言おう、この宝石をよこせ」

「断った場合は?」

「哀れな結末を迎えるだけだ」

 

 

そう、また興味なさそうにカルロッタは返事をしていく。

彼の背後についている従者も苛立ちを見せているのか、眉間に皺を寄せている。

シエロファミリーの一味は見下されている、そう考えているのだろう。

事実ながらカルロッタはこのファミリーを見下しているのだが。

 

「怖いですわ、哀れな結末、だなんて。淑女に対して言う言葉ではなくて?」

「淑女とは程遠いことをしているのによく言うものだな、執行人(エグゼキューター)。」

 

ぴくり、とパフュームを弄る手を止めるカルロッタ。

視線は1度下を向き、その後ゆっくりと相手へと視線を向けていく。

カルロッタの視線は目の前の人物を見据えながら、パフュームを手の中で回してまた弄り始める。

 

「勇敢ですわね、わざわざ本人に向かって。」

 

不敵な笑みを浮かべる男たち。

はぁ、と大きく溜め息を吐く淑女。

淑女はそのパフュームを――――――――放り投げた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「つまり、寝返ろと?」

「そこまでは言ってないよ、協力をして欲しいだけだ。」

 

レビンは膝の上で両手を組んでおり、指を動かしながらシエロファミリーの長、ヴォルケの話に思案する。

カルロッタが競り落とした宝石、あのサファイアはやはり黒石だ。

そして、その黒石をとあるファミリーが欲しがっており、そのファミリーの代わりに競り落とし、黒石と交換に多額のモネを貰う。

しかし、その黒石が何に使うのかはシエロファミリーも分からない。

その多額のモネを契約として既に前金を貰っているため、黒石を貰えないと困るからカルロッタを説得して渡して欲しい、と。

これがこの話の大まかな内容である。

 

「協力って…都合が良い言葉ですね」

「都合が良いほうが何事も良いだろう?」

 

はっはっはっ、と気持ちが良い程高らかにヴォルケは笑う。

つまり今この目の前の男はファミリーの第一の理念である、ファミリーを重視することを軽んじろ、と告げてきた。

 

 

これはファミリーとして、そして俺に対して

 

 

名誉

尊厳

精神

 

 

それらを侮辱したのである。

 

「ヴォルケさん、残念です。同じファミリーとしてそんなことを言うとは思いませんでした」

「ファミリーの理念、とやらかね?」

「えぇ、そうです。」

 

こくり、と頷きながら答えるレビン。

ぎし、と音を立てながら少しだけ椅子の背もたれに体重をかけていく。

本当であれば目の前の男に襲い掛かり、それこそ頭を撃ち抜いてその口を二度と開けなくしたい所ではある。

しかし、ファミリーの長を倒しても次の長が選ばれる。

仮にそのファミリーが潰れると力関係の変化も起きてしまい、場合によってはモンテリファミリーも被害をくらう可能性もある。

 

暴力によって解決することもある。しかし、その暴力によって報いが起きる可能性がある。

侮辱された事に暴力で仕返しをする。

それは器が狭く、言葉での争いに手を出す思慮の浅い人間だと主張するようなものだ。

モンテリファミリーの一員として、そう思われるのは避けたい、そうレビンは考えた。

 

 

 

「それで…回答は?」

「勿論―――――」

 

 

回答を告げようとした瞬間、建物から爆発音が鳴り響く。

更に窓の割れる音が聞こえるとそこから何かが落ちてくる。

その落ちてきたのは人であり、モノクロのドレスを着た女性、カルロッタである。

そのままレビンとヴォルケの間にあるテーブルの上に着地をし、テーブルはカルロッタの着地の衝撃により、ばきっ、と大きな音を立てて真っ二つに破壊される。

 

目の前に落ちてきた少女は両手を広げ、まるで舞っているようだ。

広げた両手にはカルロッタが愛用している銃を握っており、彼女の腰椎にある音痕が光始める。

落ちてきたガラス片がパズルのピースのようにはまっていき、形を作っていく。

ガラス片は結晶へ変わっていき、マスケット銃が2丁空中に浮いて、レビンの背後にいる二人の人物に銃口を突きつける。

更にカルロッタは両手に持っている共鳴能力で作られていない銃を手に持ち、ヴォルケの背後に立つ二人に銃口を向ける。

 

 

「あら、レビン。奇遇ですわね」

 

 

視線を一度此方に向けた後、わざとらしく驚くカルロッタ。

既に引き金に指をかけており、いつでも撃てる準備はできている、とウィンクをして合図をしてくる。

しかし、既にカルロッタに銃口を向けられたヴォルケの従者4人はレビンとカルロッタに銃を突き返している。

さすが従者に選ばれるほどの実力はあるということだ。

 

 

「まぁ、ヴォルケさん。突然ですけど答えはこれってことで。一旦手を引いてくれませんかね?」

「はっはっはっ!なるほど、これは面白いな」

 

 

顔を上げてヴォルケは高笑いをする。

少しした後に視線を此方に向けては

 

 

「その余裕がいつまで持つか楽しみだよ、レビン」

 

 

眉間に少し皺を寄らせ、睨むようにし、ドスの効いた声。

静かではあるが、機嫌を損ねているのは間違いないだろう。

 

静寂。

カルロッタが銃を構え、従者達も引き金に徐々に力が入る。

獣同士が牽制するような睨み合い。

何かのきっかけがあれば爆発してもおかしくはない。

 

5秒。

短くも長い、その時間が経つと先ほどカルロッタが割った窓から1人の人物が顔を出して、大きな声を出す。

 

 

「父上!その女が!」

「やかましいぞ!どういう状況か分からんのか!」

 

 

先ほどカルロッタが話していたと思われる人物がびくり、と体を震わせる。

なるほど、カルロッタが良く使う特製のパフュームを爆発させ、その爆発によって出た煙を目くらましにして逃げたのだろう。

煙たそうに窓から顔を出している男は咳き込んでいる。

 

はぁ、とヴォルケは大きなため息を吐いた。

ヴォルケは手を上に挙げては周りの従者に武器を下ろさせるように指示をしていく。

 

「興が冷めた。すまんな、愚息が。」

「いえ…では我々は失礼させていただきます。」

 

レビンが答えると周りに浮いていたマスケット銃がただのガラス片へと形を変えていく。

ガラス片がそのまま地面へと散らばり、ガラスが落ちる音だけが響いていく。

カルロッタは割れた机の破片に服が引っ掛からないように裾を少しだけ持ち上げ、レビンも椅子から立ち上がる。

2人の執行人(エグゼキューター)はその場から立ち去るように歩いていく。

まるで何事もなかったかのように、一つの日常を終えたかのように平然な顔をしてヴォルケの前から立ち去っていく。

 

庭から立ち去り、オークション会場の建物の前には既に迎えの車が止まっている。

車の前では白い髭を伸ばし、上下真っ黒のスーツを着た初老の男性が一人立っている。

此方を見れば頭を深々と下げていく。

 

「おかえりなさいませ、お怪我はございませんか?」

「えぇ、問題ないわ。ありがとう。」

 

カルロッタが答えると、その男性が扉を開けていく。

カルロッタとレビンは二人とも後部座席に並ぶようにして座っていき、扉が閉まると運転席に初老の男性が座り、エンジン音が響く。

レビンは窓の外を眺め、その視線はどこかに焦点を定めるでもなくただ視線を外に向けたまま口を開いてカルロッタに尋ねる。

 

「黒石、手に入ったか?」

「えぇ、勿論ですわ。」

 

カルロッタがポケットから取り出し、その黒石を親指と人差し指で挟んで眺め始める。

レビンが視線だけその黒石に向け、

 

「見た目だけなら本当に宝石の原石に見えるな。どうするんだ、それ?」

「そうですわね…正直な所持っていても何かに使えるわけでもありませんし。」

「じゃあ…アヴェラルド金庫にでも預けるか?」

 

あの金庫であればまず誰かに取られることは無いだろう。

盗みを働く愚か者がいたとしてもセキュリティは厳重であり、破られることもない。

 

「いえ、預けませんわ」

「え?じゃあどうするんだ?」

「ブラックショアに提供いたしますわ。」

 

ブラックショア、世界各地の悲鳴に対抗するために構成された謎の組織。

レビン自身もその組織については名前だけは聞いたことがあり、書面でやり取りもしたことはある。

とはいえ、そのメンバーをカルロッタやレビンは見たことが無い。

モンテリファミリーで開発している個人デバイスをより良い物にするためにリナシータに招待をして、そのブラックショア独自の技術を教えてもらおう、そう考えたこともあったがいつもやんわりとお断りをされているのが事実である。

 

黒石を提供する、というのはモンテリファミリーからブラックショアに研究対象となるものを提供できる、という意思表示の現れをカルロッタはするつもりなのだろう。

ブラックショアに近づくきっかけが出来ればそこから貿易路を開拓し、モンテリファミリーにとっての利益になる。

なるほど、シエロファミリーが黒石を手にいれるのを止めたいのは確かに理由ではあったが、もう一つ考えているのはさすがカルロッタといったとこだろう。

 

「よく考えているな、カルロッタ」

「あら、褒めてくださるの?」

 

カルロッタが宝石をしまい、体を前かがみにしてレビンの顔を覗き込むようにして微笑む。

なんとなくだが気恥ずかしさが勝ってしまい、顔をまた窓に向けては黙秘で彼女の問いに回答をする。

ふふっ、とカルロッタは面白そうに笑い、背もたれに体を預けると目を閉じてしまう。

 

外に視線を移し続け、オークション会場が離れていくのが見える。

ヴォルケとの会話、この黒石を何に使うかを知ろうとそれとなく聞いたり探ってみたが全く引き出せなかった。

カルロッタは目的を果たした。

だが自分(レビン)はどうだったろうか。

護衛、という彼女から依頼はほとんどできていない。

黒石をシエロファミリーが狙う理由は探れても、その取引相手であるファミリーの相手についても分かっていない

今日の仕事の内容としては正直及第点すら無いだろう。

 

同じファミリーであり同じ執行人(エグゼキューター)である己に辟易してしまうレビン。

無意識ではあるが、彼女と同じ立場・境遇のためか彼女の行動の質を自分を比べてしまう。

レビンの視界はオークション会場から少しずつ、何も捉えずにただ流れていく風景を映すだけの映像となっていった。

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