忙殺。
ここ最近の状況を一言で表すのであればぴったりの言葉である。
先日起きたオークション会場での出来事、あの後始末だけでなく、その時の不出来を取り戻すかのようにいつもより頑張った代償が来てしまった。
オークション会場の建物の1部を破壊してしまったため、その弁償や交渉。
ブラックショアに向けて黒石を送るための書類の用意やブラックショアへの文面作成。
他にも外部のファミリーと会食、ファミリー内の相談、今後の方針、そういったことをしていた。
カルロッタはシエロファミリーが何故黒石を狙っていたのか、それを知るために独自で動く、ということでしばらく留守にしている。
その彼女の分である
さて、そんな事を2週間繰り返していた。
帰ってきては風呂に入り、寝て、状況次第では徹夜どころか丸1日、珈琲を口の中に流し込んで無理矢理活動することもあった。
やっと、やっと一通り終え、明日はゆっくり出来る1日になる。
そんな事を考えながら自分の寝室へと覚束無い足取りで戻ってくる。
コートを脱ぎ、そのコートはソファーの背もたれに放り投げた後、そのままソファーに倒れ込むように横になる。
横になった衝撃でソファーによる反発で少し体が浮いたあと、コートがばさっ、と音を立てて床に落ちてしまう。
コートが皺になってしまうが…立ち上がる気力も起きない。
ソファーに横になって足を伸ばし、そして脱いだコートは地面に落ちたまま放置。
流石に行儀が悪いが今だけは許して欲しい、そんな誰に謝罪しているのか分からない言葉を胸の中で唱えた。
体は汚れているため、ベッドで寝たいとは思えず、とはいえお風呂に入る気も起きない。
今この状態でお風呂に入ればそれも極上の気持ちよさになるだろう。
しかし、その気持ちよさゆえに目を瞑り、浴槽の中で溺れてしまう未来も見えてしまう。
代わりにタブドッグを呼んで、入ることも可能だが、それもそれで疲れによりそのまま眠った後に溺れる未来が見える。
タブドッグがわんわん、鳴いて走り回り、焦る未来も併せて見えるため、さすがに可哀想である。
明日からはゆっくり休める時間が取れる。
何をしようか、そんなことを考えてソファーの柔らかさを頬に感じていると少しずつ瞼が下がり始める。
死んだように眠る、とはよく言ったものだ。
ソファーといえどこのまま眠れば忽ち極上のものだろう。
しかし、ソファーで眠るのは行儀が悪い。
しかもこうやって寝転がっているのは余計にそう感じてしまう。
誰かが部屋に入ってきてしまえばこのだらしない恰好を見られてしまう。
モンテリファミリーの人間としてそのような姿を見せるわけにはいかない。
せめてシャワーだけでも浴びねば。
そう脳内で考え、身体に起き上がる信号を送って実行に移そうとするも体は全く動かない。
レビンは静かに降りてくる瞼に逆らえず、寝息を立てて寝てしまった。
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しまった。
一体今は何時だろうか。
結局寝てしまった自分に少しだけ辟易してしまう。
体を起こしてお風呂に入って、それから――――――――
さっきから後頭部に当たる柔らかい感触はなんだ?
それに鼻腔を擽る良い匂い。
これはカルロッタが良くつけているものだろうか、それと同じ匂いがする。
目を開けるのが怖い。
いや、これは怖いというよりもし予想が当たっていたなら――――――
彼女が本当に
確信はないが何故かそう思ってしまう。
しかし、なにを考えたのだろうか、そこで目を開けてしまう自分がいた。
目の前でカルロッタは本を片手に読んでおり、もう片手は彼女の口元に持ってきて本の世界に耽っているように見えた。
本のタイトルの題名が見える。
「ラグーナ・テアトロ」
裏表紙に書かれている説明が目に入る。
どうやらラグーナにおける演劇をまとめた本のようだ。
彼女の瞳が本から此方に向き、少しだけ瞳孔が開いた後に、口元を緩める。
彼女が本を少し横に動かせば、顔全体が見えるようになり、自然と視線も合う。
「あら、おはよう、寝坊助さん」
「お、おはよう…これは…どういう状況だ…?」
「そんなに怯えなくていいのに」
ふふっ、と面白そうに彼女は微笑む。
今は何時だろうか、そもそもここは自分の部屋で誰もいないのだろうか。
そんなことが気になってしまう。
彼女は手に持っていた本をテーブルの上に置いた後は、此方を見つめる。
その瞳はまるで聖母が小さな子を慈しむような瞳である。
余計にそれが恐ろしく感じてしまう。
わざわざ彼女がこのような事をしてくるのだ、何か考えがあってしているのだろう。
しかし、レビンはその考えが読めなかった。
「ええっと…カルロッタ…?これはその…なんで膝枕を…?」
「あら?喜ぶと思いましたが…ご不満でした?」
「い、いや、不満なんてないです…」
思わず敬語になってしまう。
彼女がこんな事をするのは初めてのことである。
この状態を誰かに見られてしまえばまずい、変な噂が立つどころか、カルロッタにも迷惑をかけてしまう。
身体を起こして立ち上がろうとする。
「何処へ行くおつもりで?」
彼女が此方のお腹に片手、もう片手を胸元に置いては起き上がれないように力を入れる。
「うっ…カ、カルロッタ…?」
「そんな焦る必要はございませんわ。」
「普通は焦ると思うんだが…?」
彼女は笑みを浮かべ続け、膝枕状態を強要してくる。
焦る必要はない、そう言われてもこの状況を誰かに見られてしまうことが良くないのである。
この状況で焦らない方がおかしいだろう。
彼女が此方を見つめているのがなんだか気恥ずかしさを感じ、顔を逸らす。
その逸らしたついでに周りを少しだけ確認をする。
壁時計が目に入る。
今の時刻は午前3時。
ソファーに倒れ、そのまま3時間ほど眠ってしまったのか。
今見えている範囲では他に誰かがいる気配はない。
ほっ、とレビンは胸を撫でおろしたのも束の間、彼女に両手で頬を挟まれてしまい、無理矢理視線を天井、カルロッタの視線に合うようにさせられてしまう。
「どこを見ていらっしゃるの?」
少しだけ彼女の目つきが細く、鋭くなる。
その目つきはまるで獲物を狙っているように見えてしまった。
どくん、と心臓の鼓動が跳ねる。
彼女に頬を両手で挟まれたせいなのか、それともその目つきによるものなのかは定かではないが心中穏やかではない。
彼女の目つき、口元、鼻、瞳、全てが視界に入ってくる。
綺麗なオパール色の瞳、その瞳を見てしまうだけで吸い込まれてしまい、
自分が自分でなくなってしまいそうな、そんな錯覚を覚えてしまう。
彼女の手は既に頬から離れているため、顔を動かせる状況ではあるが、動かせない。
まるでその瞳に虜にされてしまうように、溺れてしまうように彼女の瞳を見つめてしまう。
少しした後にはっ、とレビンは瞳を見つめ続けていたことに気づく。
再び顔を逸らしてこの気まずい状況からなんとか逃れようとする。
その視線を逸らした束の間、自分の視界に白くきらきらとした美しい繊維が垂れて入ってくる。
逃れようとした視線の先はその繊維によって外界から隔たれる。
白い繊維、これはカルロッタの髪だ。
視線を彼女の方に向けると柔らかく笑みを浮かべ、顔を此方に少し近づけた状態になっている。
髪をすべてレビンの方に垂らし、所謂髪カーテン状態である。
彼女は少し、眉を下げて、どこか物寂しそうな表情を浮かべながら
「そんなに嫌…ですの?」
と普段見せない表情を見せてくる。
それは卑怯だろう、そんな表情を見せられてしまえばこの状況から逃れようとするレビンの方が腰抜けと思われてしまう。
「嫌じゃ、ない。むしろ嬉しいんだが、こんなことカルロッタにされるのは初めてだから―――」
「緊張、したと?」
こくり、と膝の上でレビンは頷く。
その行動を見たカルロッタはくすり、と面白そうに笑って
「可愛らしい所もあるんですわね、レビンにも」
と告げる。
正直なところを挙げれば照れている。
もしかしたら自分の頬はりんごのように真っ赤になっているかもしれない。
鏡が無く、本当の所は分からない。
だがレビンはその照れを隠すように自分の右手を口元に持ってきて、顔の下半分を覆い隠した。
視線を動かすとレビンの顔の周囲にカルロッタの髪で覆われており、そのカーテン内の出来事で何かあったとしても、外から見ている人物は分からないだろう。
彼女は此方を見つめ続けている。
「それでご感想は?」
「感想って…なんのだ?」
「あら、寝坊助なだけではなく朴念仁ですの?」
むっ、と少しだけレビンは眉をひそめる。
さすがにそこまで言われてしまう道理はない。
レビンが表情を変えるとカルロッタはそれを見て更に言葉を紡いでいく。
「冗談ですわ。ですが――――――女性に言わせるのは酷ではなくて?」
「まさか…膝枕をされた感想は、なんて言わないよな…?」
「ご名答ですわ」
嘘だろ、そうレビンは心の中で唱えてしまう。
この淑女様に膝枕の感想を伝える、と。
しかも本人の目の前でかつ膝枕をされた状態で、だ。
素直に彼女にその感想を伝えるほどの度胸をレビンは持ち合わせていなかった。
レビンの出した答えは「あー…その…」と歯切れが悪く、当の淑女様はむすり、と不満そうな表情を浮かべて
「あぁ、そうなのですね。そこまで良くないということでしたら―――」
「あー!凄く良いです!このまま暫くお願いしたいかなっ!」
レビンは半ばやけくそで答えていき、その答えに淑女様は笑みを浮かべて満足そうにしている。
この淑女様は小悪魔だ、それも中々性悪な小悪魔である。
やけくそに凄く良い、と答えたレビンであるが実のところそれは
後頭部に伝わってくる柔らかな感触、カルロッタの髪から仄かに香ってくる香油の匂い。
その髪によって周囲の環境から隔たれ、カーテンの中では二人だけの空間、というのがいけないことをしているような背徳感を感じてしまう。
背徳感といえば、そもそもカルロッタに膝枕をされていること自体も正に感じている要因だろう。
彼女に膝枕をされている、つまり彼女が普段しないことをしてもらっているというのが堪らない。
更にはカルロッタの顔の良さ。
キリっとした目つきではあり、美人系の顔立ちではあるが、どこか幼さを感じる部分もある。
この美形かつ幼さを感じる女性に膝枕をされていること自体にも背徳感以外に優越感を感じている。
レビンは自分で考えていることに少し気持ち悪さを覚えてしまうが、あまりそのことについては思案しないようにした。
さて、そんなことを考えているレビンだが、突然目の前にいる淑女様から
「では、何が良かったのか教えて頂けます?」
「えっ!?」
嘘だろ、淑女様。
今考えていたことを淑女様に、しかも直接伝えないといけないのか。
どんな罰ゲームなのだろうか。
これを伝えるという事は下手したら彼女にとてつもなく引かれてしまう可能性、いや可能性ではなく確実だろう。
しかし、目の前の淑女様は瞳を細め、その答えを今か今かと待っている。
少しだけレビンの口元はきゅっ、と結ぶように力が入ってしまう。
妙に口の中が乾くのを感じる。
喉が渇いている訳では無い、これは緊張によるものだろう。
ええい、ままよ。このまま他の事を伝えるにも咄嗟には思いつかない。
今思っていることをありのまま伝えてやろう。
「そう…だな、まずはその…カルロッタの太ももは柔らかいなって思ったんだ」
「いきなりの感想ですわね、さすがに恥ずかしいですわ」
「すまん…その、悪い意味じゃないから」
「ふふ、分かっていますわ。良い意味なのであれば、気分は良いものですから」
思っていたより好感触。
もっと顔を顰めたりされるものかと思ったが、これなら大丈夫だろうか。
「あとは…髪から伝わってくる匂いとかだな」
「オーダーメイドのものですわ。身嗜みだけでなくこういったものにも気を仕えてこそ一流ですから。この匂いがお好きなので?」
「好き―――――なのかな。落ち着くというか、そんな感じかな」
「それは何よりですわ。いつでも感じられるように同じものをお渡ししましょうか?」
「さすがにそこまではいらない…」
「残念ですわ」
やれやれ、と少し残念そうにカルロッタは顔を横に振りながらしかめ面。
どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
ここで挽回をせねば。
「他はそうだな――――この髪でされるカーテンとか」
「私の髪、ですか?」
「そう、きらきらして綺麗だし、手入れもされている。男の俺でも少し羨ましいって思うよ」
「毎日手入れしていますからね、レビンの髪も私と同じ髪色でしょう?」
カルロッタがレビンの髪に少し触れていく。
ワックスを付けてオールバックにしているが、既に少し崩れており、前髪の一部は額に垂れている。
彼女は触れるだけでなく、その髪を撫でるように触ってくる。
少し擽ったい。
「そうだけど、俺は手入れとかそういうのしないからさ。基本はオールバックにしているし」
「ふふ、それならば今度してあげましょうか?」
「手入れって…カルロッタが?」
「えぇ、勿論」
カルロッタからの提案に思案する。
彼女の香油を貰って常に彼女と同じ匂いがするのは流石に気恥ずかしさが勝るが、手入れに関しては少々気になるところがある。
他のファミリーとの関わり合いもある。
その際にみっともない姿を見せるのはファミリーの品格を落としかねない。
こういうのに詳しいカルロッタに任せればそれなりではなくしっかりした格好にはなるだろう。
「じゃあ、今度お願いするよ」
「本当に?なら、折角ですもの。レビンに合うように色々考えますわね」
「楽しみにしておく。」
彼女が笑顔を浮かべ、嬉しそうな声色で答える。
こういうところは
「他に膝枕をされて良かったことは?」
「そうだな…あとはその、この髪カーテン?されているときって二人きりの空間みたいだろう?」
「えぇ、そうですわね。それが…?」
「なんというか背徳感を感じるんだよ」
「あぁ、はいと――――くかん?」
ピシャリ、と音を立てたように静かな間が流れる。
しまった―――――――カルロッタとのこのなんてことない会話が楽しく、普段見せない彼女の姿に思わず口を滑らせてた。
彼女の表情が先ほどの無垢なものではなく、少しずつ唇がきゅっ、と強く結ばれ、顔も上げて外界との隔たりが解かれてしまう。
頬が少しだけ紅潮しているのが見えた。
明らかに彼女は照れている。
結ばれた唇がゆっくりと開いてはまた閉じてしまう。
「れび―――いえ、その…」
彼女の言葉が紡ごうとしてもすぐに途切れてしまう。
余程動揺しているのか、それとも恥ずかしがっているのか、その両方なのかは定かではない。
これはまずいことをしてしまったかもしれない、レビンはそう思った。
なにせいつもは動揺することなく、それこそ貴婦人の様な振る舞いをし、冷静沈着な彼女が
「い、いや、悪い!違う、変な意味じゃなくて―――」
「変な意味じゃないならなんですの…?」
フォローをしようと言葉を続けたが、余計に墓穴を掘ってしまう。
彼女は眉を下げ、困ったような表情。
その表情はいつものきりっ、としたものではなく、幼げに見えてしまう。
ふとレビンの脳内に過ぎる
仕事以外にも二人でショッピングや食事に行く事はあるが、このような表情は見たことが無い。
だからこそ余計にその表情に惹かれそうになってしまう。
お互いに少し頬を赤らめて何とも気まずい空間である。
これは良くない。
本当に誰かに見られてしまえば恋人同士と思われてしまう。
ファミリー内において恋愛関係を持つことは特に悪い事ではない。
しかし、自分とカルロッタは言わば兄妹のようなものである。
2人の間には共通していることがある。
その大きな共通点として、パドリーノに引き取られていることだ。
パドリーノ、現モンテリファミリーの当主であり、カルロッタとレビンの父親代わり。
カルロッタを引き取り、そしてその3か月後にレビンを引き取り、実の息子と娘のように育て上げた。
カルロッタとは一緒に過ごし、それこそ血の通った姉弟のように振る舞っていた。
血は繋がっておらずとも、その家族のような絆を感じていた。
何をするのも一緒、勿論お互いに年を取り、離れることはあるも時間がある日には一緒に過ごす時間は忘れていなかった。
だからこそ、その妹のような、姉のようなカルロッタに対して家族以外の、それこそ1人の素敵な女性のように見てしまうのは良くないと感じた。
もし、それを意識してしまえば昔のように、今のような関係には戻れなくなってしまう。
お互いに次期当主候補である。
その当主候補の二人が付き合っている、それこそ付き合ってなくても恋愛感情を抱いていることを気づかれてしまえばモンテリファミリー内でも批判が来るだろう。
血が繋がっていなくても兄妹である、2人が恋慕し合うということに。
だからこそ―――――――――――彼女に軽口を叩いて気にしてない風に、いつものように振る舞おうとしていた。
それが今回仇となってしまったわけだが。
2人の間に沈黙が流れる。
カルロッタからの問いにレビンは口を開いて答えようとするも掠れた声しか出なかった。
答えようという意思は彼女との今後の関係を全て違うものに変えてしまう、家族として見ていた彼女への態度が変わってしまうのではないか、その恐れから答えれなかった。
「――――少しからかいすぎましたわね」
「―――――えっ?」
目の前の淑女様がふふっ、と口元を手で隠しながらくすくすと笑い始める。
レビンはその様子に困惑していた。
「からか、え?ど、どういうことだ?」
「レビンがあまりにも真剣でしたので、少しからかいたくなりましたの」
彼女はそれを告げた後楽しそうに笑っている。
彼女の先ほど振る舞っていた態度、表情、雰囲気、それら全ては揶揄うための仮面だというわけである。
その振る舞いはまさに恋愛劇における役者と言っても良い程の名演技である。
呆気に取られるレビン。
レビンの視線がカルロッタを捉えたと思えば今度は何もない天井を捉え、その次は横を向き、忙しなくなってしまう。
半ば本気になりつつあったレビンと元々揶揄うつもりであったカルロッタ。
つまりレビンだけこの状況で彼女のことを本気で考えていたことになる。
自分の頬が熱くなるのを感じる。
口元が少し開いてはまた閉じ、そして
「はぁぁ―――――なんだよ、先に言ってくれよ…」
と何事も無さそうに彼女に告げていく。
「ごめんなさい。でも、まさかレビンがここまで本気になるとは思わなかったので、つい。」
「いやまぁ、揶揄いならよかったよ…。そういえば、なんで膝枕をしてくれたんだ?」
「あら、気になります?」
「そりゃ、まぁ…」
自分だけが膝枕の感想を伝えるのは少し不公平なのでは、そうレビンは思い、今回この行動に至った彼女の真相を尋ねる。
半ば無理矢理だが、彼女の事を本気で家族以外としての目で見てしまいそうになっていた事を悟られないようにするためである。
彼女は少しだけ目元を伏せた後に
「そうですわね、気まぐれ半分、ご褒美半分―――という所でしょうか。」
「ご褒美?」
「えぇ、私がいない間に色々してくれていたのでしょう?そのご褒美ですわ」
「…やけに贅沢なご褒美だな?」
ご褒美にしては膝枕という、気まぐれとしてもさすがにカルロッタにしては珍しいものだ。
何かあるのでは、と勘ぐってしまうも彼女は
「贅沢ではございませんわ、ただ本心からしたかったので」
「…それは本音なのか?」
「えぇ、本音です」
そう告げた後にまたふふっ、と笑みを浮かべていく。
これ以上探りを入れようとしても答えてくれないだろうし、仮に本音ならそれはそれで嬉しい、レビンはそう考えた。
まだ少し堪能したいと思うも、カルロッタはレビンの後頭部を両手で支えて持ち上げ、ひょい、と身軽に立ち上がる。
その支えた両手でソファーの上に置けば、
「さて、これでご褒美はおしまいですわ」
と告げて、その後、ソファーの背もたれ側に立って。
レビンは後頭部を支える柔らかなものが別の物へと変わり、少し名残惜しそうに口を尖らせては
「ご褒美も終わりか。中々良かったけど、もう少し堪能したかったな」
「あら、気が向いたらしてあげますわね。寝坊助さん」
カルロッタはソファーの背もたれに前かがみになって凭れ掛かり、レビンを上から膝枕とは違う形で見下ろしていく。
彼女はまた揶揄うように手を伸ばし、レビンの額を指で軽くつついていく。
レビンはされるがままに特に抵抗をしない。
こんな何気ないやりとりが彼女と出来るのは好きなのである。
勿論、この好きは
「さて、私はやることがありますから、これで失礼いたしますわ」
「あぁ、分かった。ありがとうな、カルロッタ」
「お安い御用ですわ」
彼女はソファーの背もたれから離れていき、そのまま扉へと向かっていく。
レビンは体を起こして、ソファーの背もたれに両腕を置いてもたれながら、彼女が去っていくのを視線に捉える。
彼女は扉のノブを右手で掴み、回して扉を開ける途中でレビンの方に振り向く。
「ねぇ、レビン」
「なんだ?」
「――――――――――揶揄いではなく本気といったら?」
「――――――――――えっ?」
「ふふっ、それではおやすみなさい。」
ご機嫌でそして小悪魔な彼女は扉を開けて、そのままひらり、と出番を終えた役者のように部屋から立ち去って行った。
ばたん、と扉が音を立てて静寂が訪れる。
先ほどの言葉、あれは本心なのだろうか。
それとも揶揄いなのだろうか。
レビンの体はソファーに再び倒れていく。
先ほどの柔らかさとは違う、しかし無機質に感じる柔らかさ。
左腕を自分の額に持っていき、そのまま天井を見上げるレビン。
彼女の言葉が脳内で何度も
揶揄いではなく
本気という言葉が繰り返される
もし、ということを考えてしまう。
「参ったな、寝れる気がしない」
膝枕のおかげか、それとも彼女の言葉のせいか上手く寝れそうになかった。
ソファーの上で膝枕をされたときと同じように寝転がり、腕で自分の目元を隠して光が入らないようにする。
寝ようと努力しても脳内で考え事が尽きず、それが終わるまでに時計の長針が一回転後、レビンの脳内は夢の世界へと誘われた。