女性向け恋愛ゲームの学園長は、悪役令嬢から逃げ切れるか 作:姫川琴
嘗ての王は云った。
「往々にして、弱者は救いたくなる存在ではない。当然の様に己を善として扱いながら助けを求め、助けた所で花も実も付けない草に過ぎない」と。
第一の臣下は王に問うた。
「それでは、その草が白銀ならば?」
王答えて曰く、「ならば救うのは当然であろう」と。
臣下は更に問うた。
「もし、黄金の卵を産む鳥がいれば、陛下はお救いになられますか?」
王は間髪入れずに応えた。
「黄金の卵を産む鳥の為ならば、青銅の虫を幾ら喰わせて育てても惜しくは無い」と。
言うまでもないが、雲雀とはゴルドラーク王国のシンボルである。
即ち、この黄金こそが白銀を率いて王国を繁栄させるのだ。
これは、王立アルストロメリア学園に入学した者達が最初にその時代の校長から聞かされる、開校の歴史。
ああ、つまりは今先ほど
この国は王政にして貴族制が存在する故に血統主義だが、実力主義だ。
領土持ちの貴族であれば、財産として親から土地の支配権の相続を得るものの、彼等であってもゴルドラーク大学に進まなくては官職を得る事が出来ない。
即ち、宰相や大臣を始めとする
官職の報酬は莫大だ。
金目当ての努力で結構。
金目当てじゃなく官職を承ろうとする者は、官職そのもので金を稼ぐつもりか、意識だけ高くて能力がないか、端からなれないからもしもで話しているだけだ。
大学を卒業したかどうかで人間の価値が大きく変わる。
大学を卒業した者はそうでない者と比べ、統計的に能力が高いということもあるが、そんな単純な話だけではない。
勿論、最もシンプルな話こそ一番大きな要素ではある。
だが、それ以上に、
大学を卒業しなければ、世襲では官職には就けない。
最近では大商会に限らずそこそこの会社の役員や、その配偶者候補でも大学卒業が求められるそうだが、それらも国家として率先して大学卒業の肩書を持たなければ、官職を与えないという鉄の掟があることが始まりとしてある。
これは別に世襲アレルギーな平民達に国が従った訳では無い。
八百屋だって農園だって世襲制だし、そもそもこの国は王政であり、支配者が世襲制だ。
単純に全ての官職は、国家の持ち主である王の持ち物である故に、王の許可無く引き継ぐ事を許されないというだけである。
そしてゴルドラーク大学に進めるのは、アルストロメリア学園で最も優秀な黄金クラスで卒業した者達だけ。
ベルクラスター幼等学校からアルストロメリア学園に上がる時の様な、試験による外部枠など無い。
とはいえ、貴族や豪商の子弟の多くは幼等学校に入る前からの教育期間がある為、お釣りによるスタートダッシュが切れる。
だがそれでもそれは、フライングによってスタート位置が前方にあるだけに過ぎず、結局は速度の速い者が先に立つ事になる。
努力や環境や準備は、進む時間を早めてスタート位置を進めるだけのものであり、
それがゴルドラーク大学迄という長いゴールであれば、確実に。
私は第四十代校長にあたるレルーン・ヘルクラフト。
我が家は代々アルストロメリア学園の校長を担っており、この学園が存在する地域の地主であり、
そしてヘルクラフト家のシンボルは青銅の蟲。
羽化しない永遠の幼虫だ。
対して黄金の雲雀は王家のシンボル。
…つまり、嘗ての王は、
実際に、平民を含めた全体において、そこそこ優秀程度でしかない青銅クラスの卒業生は我が領土で生活基盤を作り、黄金クラスの卒業生は大学卒業後は王都フェザーカヴァードの一等区に生活基盤を作る。
また、白銀クラスの卒業生は、王都郊外住んでは黄金クラスの元同期生に仕える事となる。
特に栄えあるのは、北の園と呼ばれるシルヴァガーデン領だ。
学園と王都を繋ぐ大街道の中央程にあり、アクセスが非常に良い。
オマケに、現党首も
イグドレシア・シルヴァガーデンは、我が同期、第390の華だった。
彼女は誰よりも聡明で、誰よりも香り高く、誰よりも眩かった。
…あの黄金の血筋よりも。
王も王子も彼女を欲した。
だが、彼女は堂々としていた。
花が鳥や虫に運ばれる事はあっても、実を結ぶ相手は花だけなのだと。
彼女は次期領主として、その人生を全うすることを宣言した。
誰かの家に入る気は無いと。
勿論、
ドミニオンズの筆頭同士の結び付きというのは、王党派に対する貴族派の反逆の起点になりかねない。
だから分かってはいた。
…だから、きっとアレは冗談だ。
私に「
きっと冗談だ。
だから私も冗談でこう言ったのだ。
「私は既に
ほぼ全ての官職は、国内唯一の大学ゴルドラークの卒業生に与えられる。
ほぼ全てと言ったのは、例外的にとある一族に与えられ続ける役職が存在するからだ。
それが学校長。
つまり、
例え大学を卒業していなかったとしても、学校長にさせられる。
それは私にとっても、父にとっても、祖父にとってさえ呪いでしかなかった。
努力したけれど、
だからこそ、黄金クラスで卒業する事は他の貴族達以上の重みで義務であった。
だからこそ、黄金クラスを卒業出来る子供を産める相手を妻に選び続け、生まれた子供達を選別し続け、拷問とも思えた義務感と教育を押し付けて来た。
スペアとされた従姉の家では自殺未遂もあった。
結果として、早期に私が後を継ぐ事がほぼ確定になった為、従姉や私の弟達への教育もやや落ち着く事となったが、それら全てを含めて熾烈な教育は、残酷な必要だった。
この国は、強者になれる弱者は救う。
弱者のままでしかあれない弱者は救わない。
生まれ持って聡明で美しい者、強い者は全力で助け上げる。
知能が低く醜い者、弱い者は一切助けない。
優勝劣敗を国是としたこの国において、その人生を定める学園の学校長となる者は、他の学園生とは一線を画す過酷さをもってすら生温い。
だからこそ、それは絶対に必要なフライングスタートだった。
才能が足りなくても何とか黄金に至る為に、官職持ちや裕福な商家の子弟が幼等学校に通う間、聡明な庶民が仕事の手伝いの合間に勉強している間、私は地獄を耐え抜いた。
凡百でしかない私には、皆がスタートする前に、休む間に、一切の休みを廃して進み続ける事で、速き者をも征する必要があった。
だからこそ、
かも知れないというのは、嫉妬する時間さえ無駄だと直ぐに気が付いてしまったからだ。
─────いつの日にか、
だから、速さに追い付かれるその日まで、私は早さを積み上げて来た。
私の仕事は、学園の運営の最高決定権者、学園代表としてのパーティーや会議への参加、後は三聖の封印。
入学式の本番は、ヘルクラフト領で行われるパーティーだ。
自分達の子供の入学式を見に来た親御様達との祝賀会だ。
高名な貴族だけでなく、今年は王族も来る。
あの兄妹の末っ子が来ると思うと気が重たい。
正直、お隣の共和国代表の御曹司や、遠方の帝国の皇子よりも余程気が進まない。
兄は爽やかな笑顔の奥で私を敵対視していたし、妹は…まあ、私にはその気は無かったという事で、話は終わる。
本当に気が進まない。
…気が、進まない。
既にパーティー会場に着いて、更には貴賓席に座り終えた後だというのに未だ億劫だ。
周りには視線を向けず前を向くフリをして、瞳には何も映さずに現実から逃避する。
……あぁ、隣の方が座った。
「最後にご紹介致しますのは、この会の主催であり、アルストロメリア学園長並びにヘルクラフト領主、ヘルクラフト公爵様」
司会の紹介と共に立ち上がり、周囲に笑顔を振り撒く。
…出来れば会いたくなかった面々が並んでいる。
「私は君を許さない。そして、君を越えられなかった私を許さない。私が君を下すその時まで。絶対にだ」と言ったソラリス殿下。
後輩キャラをしながら「王国の運営の御興味ありませんか?」と持ち掛けてきたミナス姫殿下。
そして、この私を除けば学園最大の出資者、嘗て憧れた…いや、今も尚麗しき華イグドレシア。
会いたくない人々に限って、あらんばかりと拍手してくれる。
本当に、気が進まない。
「御紹介に預かりましたヘルクラフトです。学園に於いては未来の英傑たる皆様の御子弟が、学園創立から変わらぬ理念の通り、黄金の卵又は白銀の大輪になられる事を願っています。ヘルクラフト領主として、学園長として、初代からの理念その通りに、その
目が合った何名かの顔が引き攣っており、彼等彼女達は私が込めた皮肉の意味を確りと理解したのだろう。
王子なんて、射殺さんばかりの目で此方を睨み付けている。
「ミナス。奴があの卑屈さを棄てるなら、お前の思惑に乗っても良い」
「あら、お兄様。それは素敵な提案だわ。その暁には両手に花という事になるのかしら、イグドレシア先輩?」
「白銀の花も黄金の月も、それぞれを片手で持つのは流石に荷が重いかと」
…何も聞こえない。
主催者よりも権力を持っている三名が険悪な空気を笑顔で作り出しているのは本当に気が重たい。
こういった時は親族に目を向けるのが正解だ。
身内の世界なら、無意味な時間潰しが許される。
従姉夫婦、従兄、従妹、血の繋がった弟達─────どいつもこいつも目を逸らした。
何とかならないかな、と無関係な方を見ると何やら女の子が走って来た。
…もしかしなくても私の方に走って来ている。
今回入学した女子生徒だろう。
小走りではあるが、この場ではややはしたない。
だからといって、この様なハレの場で指摘するのは可哀想だ。
ましてや、学園長という立場の者からそれを指摘してはいけない。
「あのっ、新入生のセノリリア・オーヴムです。
親しい人からはリリアとかリリちゃんって呼ばれてます。
学園長先生ってお若くて格好良くて驚いちゃいました。
学園長っておじいちゃん先生のイメージだったので」
とある理由で彼女の事は知っていたが、こんな子だったとまでは知らなかった。
学園長が老人?
余程の事が無い限りはそんな事は無かったハズだ。
この国において、唯一の学園であるベルクラスターの歴代校長の殆どが二十代で就任して、五十代迄には引退している。
次期領主が大学を卒業次第、先代は如何に早く学園長を押し付けるかという流れがある。
私でも待ってもらった方で、父は祖父に大学の卒業中の来賓祝辞で当主にさせられた。
母が何時も笑い話にしていた鉄板ネタで、他の貴族にもウケが良い。
何処で学園長が老人であるイメージを持ったのだろうか。
外部受験する平民が牧師等から教育を受ける例があるので、平民であればそういったイメージを持ったのかも知れない。
若しくは歴代の中に老け顔の当主が────ここ五十年はいなさそうだ。
まあ良い。
そこを考える必要もない。
それよりは、押し掛けて来た生徒を睨む彼女達が心配だ。
ソラリス王子でさえ、良い感情を彼女に向けていない。
「学園長ともあろうものが、平民の生徒には返事もしないのかっ!! この学園は誰もが平等であるハズだ!! そっちがそうなら俺も王子としての立場を持ち出して話をさせて貰うことになるが良いのか公爵!!」
「もーやめてよ、スティラ君。大丈夫だから。ねっ、学園長?」
あっ、ソラリス殿下とミナス殿下の視線が氷点下だ。
滅茶苦茶優秀な貴方達からすれば不出来な異母弟なんでしょうが、一応王子様相手なんだよ。
派閥抗争を此処で始められるのは、その…大変に困る。
「スティラ、弁えよ。
愚かであったのは、人の法の理を知らぬ聖女とお前だ」
それは次に王となるに相応しい威圧感であったのだろう。
その証拠に、ミナス殿下とイグドレシア、後は先程の女生徒以外は硬直している。
私は何とかなりそうだと踵を返そうとしていた。
「あ、兄上達は、正義を求めないのですか!!
弱きを救おうとはしないのですか!!
姉上もそうだ!! 貴方達は何時も強者ばかりを取り巻きにしている!!」
この瞬間、新入生代表であった少年への評価は著しく低下した。
だが彼への評価が元々低かったとしてもやはり彼は新入生代表だったであろう。
それは彼が今期唯一の自国の直系王族だからだ。
彼もまた、能力に関わらず進むべき道を決められている。
私は彼に同情していた。
凡百の才能でありながら、強制的に役割を与えられた少年に。
だが、この国において“弱きを助け、強きを挫く”は完全な誤りだ。
まだ、“正しきを助け、悪しきを挫く”なら考慮の余地があった。
だが、弱い事それそのものは、この国では悪に近い。
少なくとも、弱いから正しいとも優遇されるべきともならない。
それは国是に反し、そして校是に反する。
「スティラ、貴方は私達に選ばれなかった者は手に入れられても、私達が手に入れられなかった者は手にする事は出来ないわ。私がさせない。絶対にね」
この王女様、歳上相手には後輩キャラなのだが、歳下相手の時の目付きは兄殿下そっくりなのだ。
ミナス殿下は女生徒については、遂に視線にも入れなくなった。
そして、半分は血の繋がった弟に軽蔑そのものの視線を向けた。
ミナス殿下の言う事は尤もだが、一応青銅クラスの卒業生が多く在留するのがヘルクラフト領というのは考慮して発言……はして貰えませんね。
彼女も、「貴方はもっと優れた人々を従えるべき」勢ではあるので。
「大丈夫です殿下。私は悪役令嬢達には負けませんから!!」
スティラ殿下の腕を取りながら、意味不明の宣戦布告をした女生徒の視線の先にいるのは──────イグドレシア?
イグドレシアって何かの悪役だったりするのだろうか。
私はこれ迄に詰め込んたシルヴァガーデンの歴史とイグドレシアを含めた当主一族の汎ゆる利害関係を三百年程遡ってみたが、結局目の前にいるソラリス殿下が聖女と呼ぶ女子生徒オーヴム……新興の男爵家との繋がりが出て来ない。
ならば、オーヴムの背後にいる可能性が高い勢力を仮定上でピッグアップして、十二通り程の可能性の中から、比較的可能性が高い三通りまで絞る。
聖女が入ったという話は聞いていたし、特別扱いしろという教会勢力の動きもある程度抑えた。
オーヴムの友人という聖教会の司祭の娘、それも何処からか拾って来た
まあ、最終的には全国民が平等の権利を持てば、権利上では弱者の数だけで押し切れる様になり、税金を安くするだとか強者による税金の無駄遣いは許さないとか甘言を使い、この国を乗っ取ろうとする教会勢力と裏で繋がる共和国の資産が黒幕なのだと思う。
彼女が本物の聖女であった場合、やはり彼女も能力に分不相応な道筋を強制された一種の被害者ではあるのだろう。
可哀想だとは思う。
だが、被害者であり続けるを良しとする者には、私は心を動かされない。
だからこそ、私は私自身に心を動かされる事がない。
時折億劫だとか、気が進まないなど嘯いた所で、結局必要な事は必要であり、不要な事は不要と割り切ってしまえるのだ。
だからこそ、私はヘルクラフトの人間たり得る。
三名の殿下も教会勢力も、そして彼女も、その全てを動かして最良若しくは最悪ではない成果を取りに行く。
「すまない。不甲斐無い私には1日で全ての新入生の顔を覚えるのは難しくてね。必死に思い出していたところなんだ。
オーヴム君だったかな」
「はい」
スティラ殿下には悪いが、仕方がない。
彼は次期国王のスペアに過ぎないが、それでも次期国王のスペアである。
同じスペアと言っても、私の
「今期の入学生には聖女の力を持つ子がいるとは聞いていたが、君なのか?」
「そうです。驚きましたか学園長」
小さなガッツポーズは、それでいて隠す気も無さそうな様子だ。
大人組の視線には、最早気付いていないと見て良いだろう。
若しくは気にもしていないか。
「そうだね、驚いたよ。
…いや、それは
オーヴム君。この場で見せられる、分かりやすい力の発露は可能かな」
大人組三名は、私の意図を理解した様だ。
一つは、嘗て同期生であった偽聖女と聖女を重ねている件。
この時も背後には教会勢力がいた。
次に、スペアにはスペアなりの使い方があるという点。
最後に、私がスペアと聖女を御し得る証拠を見せようという点だ。
「お任せあれです!!
光の裁き…あーコレは流石に此処じゃヤバいかも。
天の祝福を受けし身に於いて祈る。御使いよ願いに応えて顕れん。第一空第二天大天使降臨!!」
成る程、召喚術式か。
彼女の力は聖女にしか使えないものなのだろう。
それは属性や性質に拠る所が大きい。
だが、彼女自身は人間であり、人間でしかない。
取り敢えず発現する迄の魔力の揺らぎは確保出来た。
後は逆算すれば、私には使えない術式だけは手に入る。
並行して、女生徒の魔力を発動前に奪う。
それも直接ではなく幾つもの仮想アストラル座標を介して。
その仮想アストラル座標の最終地点はスティラ殿下であり、其処を起点にして発動術式にバックドアを挟む。
結果、召喚は失敗した。
代わりに、スティラ殿下が輝き始めた。
「ふむ、これはこれは…。
もしや、殿下に天使様の御力が宿ったということかな。
専門外の私には良くわからないが、オーヴム君の見解はどうだろうか」
「えっ、アレッ? そう、なのかな…。
そう、なの…かも…?」
大人組の三人は、私がやった事に概ね気が付いた様だ。
嘗て私が殿下との決闘の際にやった手口であり、その結果私は上手く負けたのだから。
「ほう、やったな」
「ええ、やりましたね」
「成る程…? あぁ、流石です」
う〜ん、ソラリス殿下の顔は見たくないなぁ…。
まぁ、仕方無い事です。
私としても心苦しくはあるのだ。
何せ、仮にも学生に虚飾の路を強制するなんて事は。
「皆様、ご覧下さい。
スティラ殿下が聖女様の御力により、天使様を宿されました!!」
聖女とスティラ殿下をニコイチに纒めて売り出してしまえ。
私の結論はそれだった。
有象無象の御来客の方々が溜息や歓声をあげる。
一部困惑や苦悩の表情もあるが、それはそれで良い。
物事には目的と現状の理解が必要だ。
現状はスティラ殿下は王位継承選の候補者として名前があるだけで、実質的にステージに上がれていない。
聖女もまた、この国に於いては聖法国程の権力を持たない。
それでも聖女の権力というのはバカには出来ず、ソラリス殿下の婚約者の有力候補と成り得る。
すると本来ソラリス殿下がいたポジションにスティラ殿下が居座り、イグドレシアと結び付く可能性も出て来る。
しかし、コレで全てがおしまいだ。
聖女の相手はスティラ殿下以外にはあり得ず、聖女もまたスティラ殿下以外を選ぶ事は難しくなる。
また他の者達にも天使の力を宿せば、聖女に限りその限りではないが、少なくともスティラ殿下側の婚約者はコレで決まった様なものだ。
さて、今回に於ける最大のメリットはと云えば、ソラリス殿下とミナス殿下の争いに巻き込まれる事だけを恐れてスティラ殿下に付くフリをした臆病者達と教会勢力を争いの場に無理矢理引き出して叩き潰せる両殿下達、ひいては現国王陛下だ。
そして最大の犠牲者は、これ迄は歯牙にも掛けられなかったのに、候補者の目が現実風味になってきたスティラ殿下。
この犠牲者が最大の犠牲者である所以は、御本人がそれに気付かれていない事だ。
…流石に可哀想なので、学園長として学生を支援してあげるのも吝かではない。
「またお前と競えるとは、私は嬉しい。実にだ」
「夢かしら。あの先輩が私を本気で潰しに来てくれるの? これこそ愛だわっ!! あぁ幸せが過ぎて信じられない」
似たもの王族兄妹の方は向きたくないが、「リリアッ!! 君のおかげで俺もっ…!!」と涙ぐむ、迷える仔羊を眺めるのも精神衛生上良くはない。
まだ、「スティラ殿下の可能性、あり得るか!?」「この
此処ぞとばかりに暗殺者やスパイの様な身の熟しをした、前髪で顔を隠して俯き気味の女性が、その姿勢てどうやったらそんな声が出るのかという音量で、「オーヴム聖女万歳!!スティラ殿下万歳!!」と言っているが、それはそれで一興である。
私としては別に国を割るまで行き着くつもりはないのだが、学生がやりたい事を応援してやる事自体は、責められる事ではないだろう。
最終的には王陛下が望む結果をくれてやれば良い。
…後ろで私にだけ聴こえる様に、「ねぇキングメイカー。新王を興して廃したその後は?」と言ってくる女性に対しては黙秘しか無いが、それはそれというもの。
さて、スティラ殿下、そしてオーヴム聖女。
私は君達を寿ごう。
「二人とも、改めて入学おめでとう」