やはり俺達の高校最後の青春一年が、異世界でなんて間違っている。 作:翁月 多々良
ここでは、天之河が八重樫道場に入ったタイミングを勝手に調整してあります。
あの後、夜も遅いため雪ノ下を部屋へと送ろうとした。 しかし……方向音痴な雪ノ下さんは、入り組んだ城内で当然の如く自分の部屋が分からないと言いやがったもんだから軽く焦った。
当然俺も女子の部屋の場所なんぞ分かるわけもなくどうしたもんかと頭を悩ませていると、丁度その時
そうして次の日、早速訓練と座学が始まったのだが……
「やっはろ〜ッ!あたしは由比ヶ浜結衣!好きな動物は犬で、自分でも犬を飼ってるよ〜。サブレっていう名前でねダックスフンドなんだけど〜」
「てか、今更自己紹介とかいるか?」
「そうね、もう既に1日は経過しているのだから、皆ある程度察しているんじゃないかしら?」
「いや、そんなわけ無いから!もぉ〜ゆきのぉ〜ん!」
「はぁ、仕方ないわね」
あの、雪ノ下さん?意見覆すの早すぎません?
「はじめまして、雪ノ下雪乃です。……」
結局、自己紹介はする流れなのね。
「……と言いたいのだけれど、貴方とはお久しぶりと言ったほうが良いのかしら?
「えっ あ、はいッ!お久しぶりです雪ノ下さん」
雪ノ下がそう言うと、似てるわけじゃないんだけど、川……川なんとかさんとなんとなく印象が被る高身長黒髪ポニーテール女子が、何処か上擦った声で答える。
「意外だな、友達いたの?お前」
「わかってて言っているなら、なかなかに性格が悪いわね孤独谷君。」
知ってる。由比ヶ浜以外に友達いないもんね君。しかし意外なのは事実だ。俺の疑問を察してか、雪ノ下は彼女との馴れ初めを話す。
「そうね……彼女とは、昔。剣術や武術を習いに道場に通っていた時期があったのだけれど、そこの道場の娘さんなの。だから関係があるってほど親しいわけではないわ。強いて言えば……顔見知り程度のものかしら?」
なるほどね。だが何処かで「か、顔見知り……、私はライバルだと思ってたのに……」という悲しげな声が聞こえた気がしたが、武士の情けで聞かなかったことにした。
俺がそうやってのほほんとしていると、心底呆れたと言うように雪ノ下からため息が漏れる。
「彼女、それなりに有名なのよ。知らないの?」
いや知らんが?他者との関わりを極力絶ってきた俺が、下級生の事情を知るわけないでしょ。貴方とは違うんですよユキペディアさん。
「えぇ!ヒッキー何で知らないの!?ちょー引くし」
え?何待ってそんなに有名なのこの人。まさか由比ヶ浜まで知っているとは……。少し疲れたように頭に手を当てた雪ノ下は語る。
何でも彼女。八重樫雫は実家が歴史ある剣術道場を営んでおり、彼女自身、小学生の頃から剣道の公式大会で負けなしという猛者でもある。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。
何そいつ、ラノベのキャラかよ。
だがここまで聞いて俺もやっと合点が行く。
八重樫だけでなく、天之河、そして白崎。この3人の名前はなんとなく聞き覚えはあったのだ。それは先ほどの噂を知ってたからというわけではなく、一色を会長に推すときに使った偽の応援アカウント作戦。あれで候補に挙がった名前の中にこの3人のものもあったのだ。
なるほど、それほどのスーパースターであれば当時1年生の身であれだけの支持を集めるのも頷ける。
だが、天之河の支持率が葉山に次いで多かったのは解せない。
「そんな、私なんてまだまだ……。私は結局雪ノ下さんには、一度も勝てたことが無いですし。」
「当時小学生、それも練習試合での話でしょ。今ではどうなるかわからないわ。」
あの雪ノ下がこうも手放しに称賛するのは珍しい。この女子はそれほどの傑物なのだろう。だが、雪ノ下も決して『勝てない』とは口にしないところ流石の負けず嫌いさんである。
「なんで途中でやめたんだ?」
「もともと姉さんがやってたから始めただけで、私に続けるほどの情熱はなかったわ。姉さんが中学に上がるのを期に辞めるのと同時、私も一緒に辞めたのよ。」
「ふーん、そうか」
それは、昔あの人の背を追いかけていた彼女ならではの選択なのだろう。未来の天才剣士を完封する実力、才能を持っていたとしてもその事柄に掛ける思いが無いのなら続けることは難しい。
一つのことをずっと続けていくというのはそれほど辛く、厳しいものなのである。
「雫!俺は雪ノ下先輩がいたなんて知らないぞ!」
「そりゃそうでしょう光輝。雪ノ下先輩が辞めた翌月に貴方が入って来たんだから。」
あっちはあっちで大変そうだなぁ……特に八重樫さん。なんかあの人、苦労人の雰囲気がすんだもん。なんて考えながら眺めていると、横から何かがツンツンと俺の脇腹を突いてくる。ちょ、やめて。俺、脇腹弱いんだから。
「何だよ?」
「次、ヒッキーの番」
俺の脇腹を攻撃していたのは由比ヶ浜だった。全くもって必要性を感じないが、由比ヶ浜と雪ノ下がやった手前俺一人が自己紹介をしないという訳にもいかない。しょうがないと頭をガシガシと掻いて目線を後輩連中に向ける。
「あー俺は━━」
「知ってますよ!ヒキタニ先輩っすよねぇ」
「あ?」
突如俺の名乗りを妨げる耳障りの悪い声が上がる。一瞬まさか戸部か?と思ったが。戸部のはやかましいとか、バカっぽいとか、脳天気とか……もうちょい……親しみのある感じの奴だ。
だがこれは違う。悪意のある、完全に此方を貶める時の感じの声だ。
声のする方を見れば、下卑た笑みを浮かべた四人組が目に留まる。こういうのも暫く無かったから懐かしいな。
俺は特に動揺することもなく、自然と答えを返す。
「それ間違えてるぞ。俺の名前は比企谷八幡だ。」
「別に惚けなくても良いっすよ〜。あれっすよね?去年の文化祭、実行委員長に暴行して泣かせたっていう。あのヒキタニ先輩っすよねぇ?」
随分と話に尾鰭がついてんなぁ〜。
そう、去年の文化祭。当時実行委員長だった相模を泣かせたのは事実だ。暴行云々はただの脚色であるが……。
だがそれは、雪ノ下が引き受けた相模の
『文化祭を経て成長する為の手伝い』という依頼を完遂させるため、相模に委員長としての栄光、挫折、後悔をしっかりと刻みつけるために俺なりのやり方で取った手段にすぎない。その結果、大失態をやらかした相模は責められず、それらのヘイトが代わりに俺に向いたのは、単なる副次効果でしか無い。
……まぁ、今思えば。そこに少しの私怨も無かったと言えば嘘になるかもしれないが。
「まぁ事実だが……どうした?今更そんなネタ持ち出して」
聞かなくてもわかる事を俺は惚けた風に聞いてみる。
「いやぁ~、何て言うんすかね。そんなサイテーな人に、あんな上から偉そうにモノ言われたくないっていうか〜。信用できないんで、そこんとこ弁えてくれないかなぁって思ってぇ~。」
何ぃ〜?そのぉ〜間延びしたぁ?言い方ぁ〜。お前らギャルなのぉ〜?あ、そういや一昔前にぃ〜ギャル男なる文化が存在したらしいですけどぉ〜、そういう奴ですかぁ〜?
なんて、ふざけるのはやめよう……まぁつまりあれだ。
単純にこいつらは俺みたいな陰キャボッチが自分たちの上に立っている風に見える今の状態が気に食わないんだろう。俺自身、別に仕切っている訳じゃないんだが……。それは相手の捉え方次第だからな。
さて、どう収拾をつけようか。最悪本気出して土下座すればドン引きされて少しは留飲が下がるんじゃないかしら?でもそれやったら許さない人たちがいるんだよなぁ
「ヒキタニ……ヒキタニだって!?」
憂鬱な思考に意識を飛ばしていたら、天之河が世界の真実に気づいたと言わんばかりに、椅子をガタッと鳴らし声を上げて立ち上がる。
「お、おう、どうしたよお前」
「うるさいッ!この悪人め!すべて分かったぞ。お前は雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩を脅してるんだろ!!」
・ ・ ・ はい?
急に何言い出してんだこいつ。
ちょっと待って、急に話が飛躍して一瞬思考がフリーズした。俺が雪ノ下と由比ヶ浜を脅す?どうなってそういう話になった?天之河の素っ頓狂な発言に俺だけでなく、雪ノ下と由比ヶ浜もぽかんとした顔で呆けている。
「女子を脅して自分の意のままに操るだけじゃなく、偽の名前を名乗って自分の罪から逃れようとするなんて最低だ!」
「……あ、あ〜いや。名前はまじでそっちが間違えてんだが」
「口答えするな!!」
えぇ〜話全く聞かないじゃん、やだこいつぅ〜。
だが、言いたいことは分かった。コイツが今までどういう生き方をしてきたのかは知らないが、昨日の感じから何不自由無く真に恵まれた奴なのはわかる。
自分のやりたいことが思うように叶う力も、地位も保証され、誰もが自分を褒めそやす。そんな環境で生きた奴が自分の意見を真っ向から否定されたのだ。何かの間違いだと考えるのも理解はできなくはない。
自分が間違っていることを認められず、他に間違いの要因を求めた結果、こんな訳も分からん結論に至ったのだろう。
ホントに言いがかりにもほどがある。だいたい、俺に女子を脅せる程の器も手玉に取るスキルも無ぇよ。逆に女子に脅され、馬車馬のように使われるるまであるからな。自分で言ってて悲しくなるが……。にしても
周りの奴等がざわつき始める。中には俺を嫌悪の目で見てヒソヒソと話す姿も散見する。
凄えな、昨日アレだけ雪ノ下に論破され醜態を晒したというのに尚この影響力。……いや、ここは昨日の出来事よりも俺という人間への嫌悪と不信感が上回ったと見るべきか?
自分が過去に行ったことが遠因となって、巡り巡って現在の俺達に不都合として降りかかる。こういうのを見てると本当に嫌になる。つくづく、俺は間違っていたのだと見せつけられているようで。
「かっちーん……」
今の俺の心情的には少し違うが、いつの日かそうしたように由比ヶ浜はその怒りを、わざわざ音で呟く。
「ねぇ!何?その感じの悪い言い方。君にいちいちそんな事言われる筋合いないから!!」
「ぅっ……そう言うように脅されてるんですよね?もう大丈夫です先輩達。さぁ早く、もうそいつから離れて大丈夫ですから……」
すっげえなコイツ。普通、こんな真正面から拒絶されたら俺は死ねるよ?それを果敢に挑もうとはメンタル超合金なのん?
「確かに、相模さんの件はこの男の自業自得よ。それは否定しないわ」
由比ヶ浜と天之河の間に立つように雪ノ下が一歩前へ出て無い胸を強調するように腕を組んでいる。その雪ノ下の姿に何を思ったのか、天之河の顔に笑みが浮かぶ。
いや、まじでどんな思考回路してんのコイツ?
大方、まるで俺の悪行に対して否定的とも取れる雪ノ下の発言に、『わかってくれたんですね』的な妄想を押し付けているのだろう。
しかしそんなもの、見当違いも甚だしい。
その証拠に、雪ノ下の顔を見た天之河、いや天之河だけじゃない。畑山先生を含めた後輩連中は、喜悦、嫌悪、バラバラだったそれらの表情を恐怖一色に凍りつかせた。
「浅はか……ね。相手を、その人のたった一側面だけで評価して、知った気になって、判った気になって、自分よりも劣っている存在だと勝手に判断すれば直ぐ様こき下ろす。実に愚か……。醜いの一言に尽きるわね。」
声色は穏やかそのものだが、俺にはわかる。今俺には見えていない彼女の顔は、姉と…いや母と同じく狩りをする猫科の猛獣のような冷たい目をしているのだろう。
「貴方や……貴方達程度の人間が、彼にとやかく言う権利はないわ。他人に言う前に貴方達こそ、己が分を弁えなさい。」
雪ノ下にそう吐き捨てられた『貴方達』正確にはさっきの四人組はそのデカい態度は何処へやら、空気の萎んだ風船のように消沈して縮こまっている。眼前で雪ノ下の圧を受けた天之河も力が抜けたように椅子へと腰を落とした。
「そうだよ!ヒッキーちょっと変だけど、いや大分変なんだけど!凄いんだから!去年のクリスマス合同イベントも、バレンタインも、あっ皆去年のプロム覚えてる?2回目にやった海浜総合高校との合同プロムも、ヒッキーが企画したものなんだよ!さっきの文化祭の奴だってヒッキーなりに頑張ってそうなっただけで、本当に本当に凄いんだから!!」
いや、今その話ししても誰も聞いてないでしょ。雪ノ下さんの氷のような圧受けたら誰も直ぐには立ち直れないって。ソースは俺。
だからねガハマさん?誰も聞いてない俺の話を延々とするのやめてね。傍で聞かされてる俺、ちょ~恥ずいからッ!
………………………。
く、空気が……空気が重いッ!!ガハマさんが黙った瞬間。部屋一帯を重苦しい空気が包んでるよ!!
ごめんガハマさん、もっと喋ってぇ!もう内容は何でもいいから、君のポワポワパワーで何とかしてぇ〜!!
そんな俺の祈りが届いたのか、アホっぽい声が木霊する。
「はいはいッ!先輩達に質問!」
焦げ茶色のツインテールをひょこひょこ揺らしながらその小さな体で精一杯の自己主張をする小柄の少女……。
うん、誰?
「はいッどうぞ!……えっとぉ?」
「谷口さんね」
「そうです!谷口鈴です!!」
由比ヶ浜!名前知らないのに答えるな!後すぐ名前出るところは流石のユキペディアいやもうグーグルの下さん!てかいつから質問形式になった?ってえぇぇぇぇいッ!!脳内ツッコミが追いつかん!!
「先輩達って3人とも違うクラスなんですよね?なのになんでそんなに仲良しなんですか?」
「ふっふーん。あたし達は去年から同じ奉仕部っていう部活に入っててね、それで仲良しなんだよ!」
ちびっこツインテール、谷口の質問に由比ヶ浜は得意げに答える。そして俺と雪ノ下の後ろに回りガバッと俺達の腕に抱きつく。
「ゆきのんとヒッキーは、あたしの大切な友達!」
「ッ!!」
「ゆ、由比ヶ浜さん!ち、近い……」
やめてくれません?何度やられても慣れないのよこれ〜。何か良い匂いするし柔らかいの当たってるしで心臓に悪い。
「えっへへ〜」
まぁ、彼女がこんなに過剰なスキンシップを取るのも、先程天之河に否定された俺達の関係をしっかりと見せつけるためのものなのだろう。その得意げの顔はいつも以上に力がこもっている。
「ほ、奉仕部ぅぅううッ!!?な、なんて破廉恥なぁあ!!」
谷口からそんな裏返った、絶叫が上がる。
あの、言わんとしてることは分かるんだけどやめてね。またなんか変な誤解されそうだから……。
「い、一体、どど、どんなご奉仕をしてくれるんでごじゃりましゅるかぁ〜」
うん、これ違うな。恥ずかしがってるとか糾弾してるとかじゃなくてただの変態だわ。幼女の皮をかぶったオッサンだわこの子。なんかハァハァ言ってるんだもの、口の端からよだれ垂れちゃってるんだもの。
「はぁ。何を勘違いしているのか知らないけれど、奉仕部とは、途上国にOADを与えるように、ホームレスに炊き出しを与えるように持つものが持たざるものへと慈悲の心を持って支援、サポートする部活よ。」
同じ事を思ったのかため息を一つついた後、雪ノ下がすかさず説明する。
「要するにッ……ボランティアって奴だな。」
俺は由比ヶ浜の腕から逃れて身なりを整えながら、わざわざ難しい説明をする雪ノ下に代わり補足情報を与える。
「でもね、ただ一方的に助けるわけじゃないよ。えーっとなんて言ったっけゆきのん」
と由比ヶ浜
「飢えた人に魚を与えるのではなく、その取り方を教えて自立を促すの。一方的な奉仕では無く先々を見越した支援。と言い換えてもいいわね。」
と由比ヶ浜の語ったことから足りない要素を埋める雪ノ下。
「なぁ〜んだ。エッチいご奉仕をしてくれるんじゃないんだ。」
「ちょっと鈴ぅ、先輩達に失礼だよぉ」
ホントだよぉ、露骨に残念そうにすんなよ。てか、そんな部活普通あり得ないだろッ!即退部どころの騒ぎじゃないよ!スクープで文春乗っちゃうよ文春。ちゃんと注意しといてよ眼鏡さん。
「じゃあ最後の質問!」
「まだあるのね」
「全然いいよぉ〜どんどん質問してぇ〜!」
「いや、もう良いだろ。今この茶番にどんだけ時間使うつもりだよ。」
そう、本来だと今は訓練ほか座学の時間のはず。当所手短に済ませるはずだった俺達の自己紹介は思いのほか時間を消費していた。恐らく谷口の始めたこの茶番も、また凍りついた空気を和ませようとした気配りからだったのかもしれない。その目的は十分果たされたと見ていい。だからこれ以上は不要だし時間の無駄だ。
「時間も押してるみたいだし、そこで待ってもらってる騎士さん達にも悪いだろ?」
「いや、俺は一行に構わんぞ。お前たちのことは俺も興味があるからな。むしろ普段の激務から解放され、ゆっくりできる時間ができて好都合なまである。若い奴等が楽しそうに騒ぐのは見ていて飽きんからな!」
働けよ騎士!だがその気持ちは十分わかるぞ。仕事とは勤務中でも、どれだけ効率よくかつ、説得力のある名目を持ってサボれるかが重要だからな。
「ヒッキーまたしょうもないこと考えてる。」
「ゲフンゲフンッじゃあ質問を続けてくれぇ〜い。」
「食い気味に話をそらしたわね……」
ええい、じゃかぁああしいッ勘の良い子娘どもめ!
そうして満を持して谷口鈴から最後の質問が繰り出される。
「ヒキタニ先輩に聞きます!」
「おいッヒキタニじゃねぇ比企谷だ。……え、何てか俺?」
「じゃあヒッキー先輩!」
「その呼び方はやめろ」
「え〜、結衣先輩は呼んでるのに?」
「由比ヶ浜のはあれだ。……もうあきらめた。」
「ちょっとヒッキー!!?」
由比ヶ浜のツッコミをスルーして俺は続きを谷口に促す。
「ずばり、ヒッキー先輩は雪ノ下先輩と結衣先輩。
“ どちらかとお付き合いしているんですか ”!?」
「「「ッ!!!?」」」
おいいいいいいいッ!!!!やめてぇ〜ッそれ一番の地雷だから別の質問にしてぇええ
お願いしますぅぅぅッ三百円あげるからああああああッ!!
「も、もう良いだろ。さっさと騎士さん達の説明を聞こうぜ」
三十六計逃げるにしかず、俺は話を有耶無耶にして自席に戻る道を選んだ。
「続けて構わんぞ〜」
おい騎士いいいいいッ仕事さぼんじゃねぇよ!そこ俺達の席だろ!!いい笑顔で頬杖付いて高みの見物決め込んでんじゃねぇぞこの税金泥棒め!!こっちの世界に税金あるのか知らんけど!!
「ヒッキー先ぱぁ〜い逃げちゃいかんよ逃げちゃ〜。騎士さん達もこう言ってることですしぃ〜。だぁい丈夫ですこれで最後の質問なんで。」
こ、コイツぅ〜さっきの気遣い云々は無しだ。純粋に楽しんでんだろ!憎たらしい顔でニタニタしやがって!返して!俺の感心を返して!
羞恥に焦った俺は、後ろを振り返る。
そこには顔を真っ赤にしてモジモジする雪ノ下と……
……何処か、
さみしげに、そして穏やかに微笑む、由比ヶ浜がいた。
「ッ━━」
由比ヶ浜のその顔を見て呆気にとられる俺、次の瞬間
トンッ
と軽い音が響き、俺の胸に雪ノ下がぽすっと収まる。雪ノ下後ろには、両手の平を此方に突き出した由比ヶ浜。
一瞬の静寂の後、由比ヶ浜がいつもと変わらない元気な声音で一言。
「そういう事、はいッ質問終わり〜ッ!!」
そう言ってタッタッタと後ろの席へと駆け上がって行った。
「………あ〜っと」
「フンっ!」
「へぶっ!!」
恐らく、何人かは察しのつくものが居たのだろう。俺たち3人の触れてはならない部分に。
その中には谷口と八重樫もいて、まずったなぁ〜的な声を漏らした谷口に八重樫がすぐさま鉄拳を叩き込んでいた。
もっとやってください。
「雫!なんで鈴を殴ったんだ!!」
「うっさいバカ光輝!あんたも空気読みなさいよ空気ッ!」
天之河は相変わらずである……ほんと懲りないなアイツ。
✕ ✕ ✕
「と、言うわけで、今日からお前たちの教官を務める。この国の騎士団長メルド・ロギンスだ。これから長い付き合いになるが宜しく頼むぞ!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
この場にいる殆どが、さっきの気まずい雰囲気を掻き消すように元気よく挨拶をする。勿論、俺もこのビッグウェーブに肖っている。長いものには巻かれろ精神でな!
しかし、このおっさん騎士団長なのか。そんなお偉いさんが俺達ド素人のガキンチョの世話とは……。
まぁ、俺達も肩書では一応“神の使徒”って奴だ。信仰至上主義の国の連中にとって、下手したら王族よりも尊い存在。この差配も対外内同時の目を意識してのものだろう。
遥かな年上連中に敬語で敬われるのは、下心が透けて見えた欺瞞の塊だ。見てて気持ち悪いったらありゃしないが、このおっさんは、何か違った。
「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」
そう、このおっさんは、等身大というか、年相応に俺たちを扱う。戦友云々は言いたいことがあるが、その取り繕わない態度は他の信者連中よりはマシである。彼の従来の性格、豪放磊落と言うのかとても気さくで変に気を使わなくて済む。とても楽だ。
さて。肝心の授業であるが、まず俺たちには、十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る俺達に、メルド・ロギンスが説明を始める。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
おお、ステータス。異世界あるあるだな。今は何も楽観視できない状況ではあるが、こういうのはオタクとしては気持ちが浮き立ってしまうのは無理もない。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「あーてぃふぁくと?……あっ!アーティスト!」
「違う」
「………」
もうやめて!恥ずかしいから。由比ヶ浜が『それなら分かる!』みたいな顔で大声で言ったもんだから共感性羞恥がエグい。前にもありましたよねこういうの。
こればっかりは世界が違うため、オレから説明はできない。だが確実に歌を歌ったり絵を描いたりする人たちのことではないのは確かだ。
「ハハハッ元気がいいなお前らは。続けるぞ?
アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
メルド団長の言葉に皆なるほどと頷く。
「オーパーツ……いえ、出自がはっきりしているから失われた技術と形容したほうが良いのかしら?」
「あんま難しく考える必要なくね?」
雪ノ下がステータスプレートを裏返したり、まじまじと観察しながらブツブツと呟く。この子もちょっとズレてんだよなぁ
そんな事を思いながら少し躊躇いながらも針で指先をプスッとやって血を魔法陣に擦り付ける。由比ヶ浜はピアスで慣れてるのか俺と雪ノ下と違って抵抗無くプスッとやってた。
そして他の連中同様、俺達もそれぞれ魔法陣が輝く。
俺が深緑、雪ノ下が青銀色、由比ヶ浜が紅梅色と様々だ。
そしてそこに、それぞれ文字が現れる。
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比企谷八幡 17歳 男 レベル:1
天職:探求者
筋力:50
体力:90
耐性:100
敏捷:70
魔力:60
魔耐:100
技能:心透眼・無唱発動・並列思考・風属性適性・毒属性適性・闇属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・縮地・気配遮断・言語理解
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雪ノ下雪乃 17歳 女 レベル:1
天職:指導者
筋力:40
体力:20
耐性:70
敏捷:120
魔力:120
魔耐:120
技能:武芸百般・高速演算・完全記憶・超聴覚・全属性適性・全属性耐性・複合魔法・縮地・言語理解
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由比ヶ浜結衣 17歳 女 レベル:1
天職:狂戦士
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:60
魔力:30
魔耐:30
技能:狂化・超嗅覚・格闘術・縮地・毒属性適性・物理耐性・全属性耐性・言語理解
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ふむ、何を基準に評価すれば良いかわからんから取り敢えず説明の続きを聞く。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
なるほど、このようなゲームみたいな表示だから育成の仕方もレベルの上下でステータスも能力もアップするものと思ったが、そう甘い話じゃないらしい。そこは普通に筋トレやらを欠かさなければ成長しないクソ仕様。魔物を倒したとしても、経験は積めど
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
前半の話はなかなか面白かった。
だが後半の方。それは、お国の為に戦うなら武器や防具は唯で与えるが、そうでなければ……って話ですよね?いやぁ~唯より怖いものは無いとはよく言ったものだ。
「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
才能ねぇ、俺の場合は“探求者”『探し、求める者』か……。求めて探すまではできるが、“見つけられる”保証はない。何とも皮肉が効いている。
雪ノ下の“指導者”は雪ノ下らしいものだが、由比ヶ浜の“狂戦士”はあんま由比ヶ浜らしく無いな。
……バカっぽいからか?
「ヒッキー、なんか失礼なこと考えた?」
「んにゃ別に」
怖ッ!!毎度思うけどなんでわかんだよ人の思考を!お前そういう力持って無ぇーじゃん!!
俺が人知れず戦慄しているとメルド団長は更に続ける。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
ほう、てことは曲がりなりにもやはり俺たちはチート集団であることは確定した。これで万が一のときはこの城から出ても最低限生きていける。
「しっかし雪ノ下、お前は相変わらず体力無いのな。」
こういう本人の個性や特徴を捉えられてる辺り、元の世界の現実のパラメーターがここで反映されている可能性は高い。俺の耐性類が高めなのも、撃たれ強い……いや痛みに慣れているのを数値として表しているのだろう。
さて、それを踏まえて雪ノ下だが、他のステータスと比べると体力はもう殆ど平均レベルである。まぁもともと雀の涙程度の体力が常人の平均スレスレの平均以上になったのだから、一応は恩恵を受けているってことだろう。
「……そうね、これは深刻な問題だわ。」
おっ?素直に受け止めるなんて珍しい事もあるもんだ。でもそうか、安全な場所のないここ、異世界において体力がないというのは致命的だ。
「大丈夫だよゆきのん!疲れたらあたしが背負ってあげるからね!」
「……えぇ、そのときは頼りにしてるわ。」
「うん!」
ウ~ン毎度おなじみ百合ップルの発動中。俺は蚊帳の外ですよ〜。
そうこうしてるうちに、まずは天之河がトップバッターとしてメルド団長の元へステータスの確認を行う。
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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ほう、オール100、技能の数も圧倒的1位。そして、やっぱりコイツが勇者だったか。俺たち3人の尖った構成と違い、隙のないバランスの取れた構成だ。これが円グラフなら綺麗なヘキサゴンを描いていることだろう。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
団長さんの称賛に照れたように頭を掻く天之河。
……あの〜また調子づいちゃうからそんな安易にそいつを褒めないで欲しい。後で絶対面倒なことになる。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、天之河はレベル1で既にオールで三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうである。
もう一個、俺たちが疑問に思ったているところがここ、“レベル”だ。俺や由比ヶ浜がレベル1なのは、まぁ認められるとして、だからこそ、それで雪ノ下までレベルが1なのは納得できない。雪ノ下は俺たちよりも色んな鍛錬を積んでいる。それなのに俺達と同じ練度、これはあまりにも筋が通っていない。同じ理由で八重樫のステータスも遠目で覗けば同じくレベル1。これはいよいよ何かあると俺はそう考える。
にしても、なるほどこれが“心透眼”。誰かのステプレ(ステータスプレートの略)を覗けないかと目をちょっと凝らしたら発動した。そん時その人の心の内とか内臓器官、筋肉、得意戦闘、身長、スリーサイズに至るまで丸々見えてしまった。俺がこの世界に来てやたら敏感だったりしたのはこの目が原因か。危ないなこの目は、使いこなすのに訓練が必要だな。うん。
「……。」
「……。」
「……何だよ?」
「べっつにぃ〜」
ほんと怖いこの人達。貴方達も“心透眼”の使い手なの?由比ヶ浜は怒ったように可愛らしくぷいっとそっぽを向くのに対して、雪ノ下は微笑んではいるが目が全く笑っていない。猫科の猛獣を彷彿とさせる縦長の瞳孔だ。やだなぁ〜怖いなぁ〜。
閑話休題、
俺が思うに、このレベルの不釣り合いの絡繰の答えは俺達唯一の共通点によって導き出される。
それは、異世界から来たと言うこと。何を今更と思うかもしれないが聞いて欲しい。俺達はこの世界にとっては先日生まれたばかりの命。と、見方によってはそう形容できる。
本当は色んな経験を積んできたレベル幾ばくかの人間が、この世界ではまだ何も成してないまっさらな状態。
要するにこの世界にとって俺達は何の履歴、経験も存在しない状態なのだ。これはリセットでは無く、一瞬のバージョンアップと捉えてもいいだろう。
向こうの世界で蓄積したものを、初期スペックとして持ち込めて、此方でまた1から新たに積み重ねていくことができる。
結論として、強くてニューゲーム状態であるから。それが俺達がこの世界の人間よりも優れた力持っているという触れ込みの正体だ。……多分、知らんけど。
さて持論はここまで。思考をメルド団長、彼のへと戻す。
最後に、技能についての説明がされる。
技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外と言えるのが“派生技能”。
これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる“壁を越える”に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。
どれもこれも厨二心をくすぐる設定ばかりだ。くっやめろっ俺はもうあの頃の自分には戻らないのだッ!静まれッ我が見通す眼よッ━━ッっていかんいかん。また新たな黒歴史を生み出すところだった。
こういうときは材木座を思い出そう。あいつ恥ずかしいあいつ恥ずかしい……オーケー。ちょークール。
そうやって俺が精神統一をしていると由比ヶ浜が俺の袖をついついっと引っ張る。
「どうした?」
「ヒッキー、アレ」
由比ヶ浜が指をさす方向を見る。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
あれは、俺の過去の失態を言い触らした四人組と、ゲラゲラと笑うそいつらが囲む中央で絡まれているのは、平凡な見た目の少年。俺と同室の奴だ。
「さぁ、やってみないと分からないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
同室の少年、南雲って言ったか?そいつが愛想笑いを浮かべて離れようとするが、四人組の中のリーダー格っぽい奴が南雲の手からステプレを取り上げる。
その内容を見てリーダー格は爆笑。取り巻きたちにも投げ渡し、それをを見た奴等もまた嘲り笑う。
周囲を見渡せば、その四人組だけじゃない。他の連中、特に男子も南雲って奴に悪意が向いている。
なんなのこのクラス?つくづく程度の低い連中だ。俺達はいわば誘拐または遭難してるようなもんなのに、他人攻撃して悦に浸っている。今そんな事してる場合ではないだろう。まぁ、だからこそ、不安な気持ちを誤魔化すために誰かを攻撃して鬱憤を晴らしたいのだろう。あの四人組は特に、雪ノ下に叱責を受けた後でその苛立ちは限界の筈だ。
しかし、だからといって誰かを攻撃していい理由にはならない。こういう時こそあいつ、お気楽勇者様の出番だろ。イジメとか一番見逃さないタイプに見えるが……。そうやって視線を巡らせて天之河を探す。
しかし、見つけてほとほと呆れる。南雲へと悪意を向けている一人があの天之河なのだ。
……あ~駄目だ。やばいわアイツ。無理だわ、アイツ嫌いだわ。
にしても、ボッチはホントにスタンド使いな気がしてきた。ボッチで、しかも虐められている南雲が俺と同室になるとかどんな確率だよ。いや、違うな。ボッチだったからこそ必然だったのだろう。
俺は同室の好で、普段は上げようとも思わない重い腰を上げる。
「なぁ」
「あ?なんすか?」
俺が声を掛けるとリーダー格の奴が苛立ちに目を向けてくる。
「別に、お前等が何しようが勝手なんだがよ。進行の邪魔なんだよ。やるなら周りの迷惑考えろよ」
この時、下手に被害者側に肩入れしてはいけない。そうする事で、後に被害者が被る被害が拡大する恐れがある。そして一番重要なのは被害者の名誉を守ること。一番惨めな瞬間に助けられれば余計惨めになる。俺は助けられたことなんて無いが、俺の場合助けられたら余計惨めになって鬱になる自信がある。
しかし、こんなイジメなんてする輩が言葉一つで大人しくなるなどはじめから考えてはいない。本番はここからだ。
「うるっせぇんだよ!ヒキタニの分際で!!」
ほーら拳が飛んできた。俺はそれを難なく躱す。当然、俺に武術の心得なんてものは無い。こんな芸当が可能なのもこの目。“心透眼“のお陰である。
今の俺は“心透眼”を発動させているため、相手の攻撃意思が読み取れる他、相手の動きがスローに見える。そして相手の体全体を見て、意識が薄れている場所をも把握する。マジですげぇなチート能力。
「頭に血が上りすぎて足元が疎かだぜ」
そう言って俺が奴の足の爪先をちょんと踏めば奴はバランスを崩して前のめりに倒れてくる。慌てて何かに捕まろうと伸ばした腕を俺は優しく取った後、上へグルンととひねり上げ肩をキメる。
「いでッいででででッ!!」
「まだ、やるか?」
「ひっ」
こういう時俺の目って便利だよな。ちょっと眉間にシワ作るだけで極悪人の顔になる。今は逆光で影になってるのも相まってかなりの迫力だろう。一連の流れも正直、ぶっつけ本番で成功して最初焦ってたからな。かなりこの腐った目もハッタリとして役に立ってくれた。
さて、そろそろ……
「ヒキタニッ!!檜山を離せ!俺の大事なクラスメイトを傷付けるのは許さないぞ!!」
来ると思ったぜ勇者様。いい加減お前を大人しくさせようと思ったところだったからな。
「比企谷だいい加減覚えろ。……にしても随分と介入が遅かったな勇者様?」
「な、何だと?」
天之河は何を言われているのか分からないって顔をしている。
「いや、だってそうだろ?お前はコイツを大事なクラスメイトと言ったが、南雲はそうじゃないのかよ?」
「は?いきなり何の話だ!」
まじかよコイツ。本気で言ってるなら相当ドン引きだぞ。
「いや、お前も見てたろ?南雲がこいつらに絡まれてたのを、お前はアレには何も言わないのに俺には注意をするのか?」
「あ、あれは、檜山達と南雲が戯れてただけだ!そう言うのにいちいち首を突っ込むのは逆に彼奴等に悪いし……」
まぁ、そうだわな。俺だって本来こんなイジメの現場に出くわしたとて何かと理由をつけて無視するだろう。だが……
「それはまた随分と……お前らしくない考えだな?」
「……は?」
天之河は今度こそ真に驚愕したように目を見開く。
「この2日、お前を見ていて確信した。お前はそんな日和った人間じゃない。自分が正しいとそう判断したら絶対に曲げない。そのどうしょうもない真っすぐさのまま突っ走る。相手の真偽なんて全く考慮に入れずにだ。」
「そ、そんな事ッ」
「無いとでも?違うだろ?さっきのこともう忘れたか?」
「ッ……」
そう、こいつはさっき俺を悪だと決めつけ糾弾した。だが、それは間違いだったと証明された。事実としてそういった事例が存在する以上。もう先程の『日和った』という言い訳は通用しない。
「つまりだ。お前は意図的に南雲のいじめを黙認した。そこには一体。どういった真意があるんだろうなぁ?なぁ勇者様?」
俺は陰湿に、粘り気のある悪意に塗れた声で問い質す。俺の腐った目が天之河の綺麗だが、動揺と恐怖に揺れる瞳を見据える。
「なぁ、どうなんだよ答えてくれよ勇者さ━━」
「その辺にしとけよ先輩ッ!」
その時、俺の声に被せるように快活な野太い声が響く。
俺と天之河の間に見上げるほどの巨漢が割って入る。
「これ以上。俺の
「りゅ、龍太郎……。」
そう言うと190以上のゴリマッチョな巨漢。坂上龍太郎は指をゴキゴキ鳴らしながら俺に詰め寄る。その迫力に一瞬ビビるも、未だ由来を知らない完璧過ぎる精神統一が俺を冷静にさせる。
ってかコイツ、本当に高2かよ。1人だけ画風違くない?
俺はまだまだ論破できる用意はあったがここは敢えて見逃す。坂上を見つめながら肩を竦めさせ、俺はその場を離れる。
坂上龍太郎。アイツの心を覗いたが、そこには天之河への絶対の信頼があった。何があっても友の味方をするという強い心情が……。
ひょっとしたらあれが彼奴等にとっての『本物』ってやつなのかもしれない。
だが、その信頼が逆に
これで余計な行動をせずおとなしくしてくれることを祈るが……
まぁ、一筋縄ではいかんだろうな。
長くなるなぁ〜
そして進まないなぁ〜