ぼっちでダンジョン配信してたら賞金1500億円のデスゲームに巻き込まれたので、のらりくらりと生き残っていきます 作:古野ジョン
「いやあモグモグ、誠にかたじけないモグモグ。私は弓矢しかもってこなかったのでモグモグ」
「あの……敬語はいいから。あと話しながら食べないで」
「申し訳ないモグモグ」
カオリは座って乾パンを頬張りながら、感謝の言葉を述べていた。俺の食料にだって限りがあるので、本来は他人に分け与えている場合ではないのだが、コイツは命の恩人だからな。
「ふー。ごちそうさま」
「お粗末様。大丈夫か?」
「ああ。これでまた矢が使える」
「矢?」
そう言って、カオリは腰に下げていた矢筒を見せてくる。そこには、なんと――何も入っていなかった。……えっ?
「な、何も入ってないけど」
「見ててくれ。今から
「生まれるって――」
次の瞬間、無の空間だった矢筒の中に、辛うじて見えるくらい半透明な物体が現れた。その色は少しずつ濃くなっていき、やがてしっかりとした数本の矢が形成される。
「すごっ!!」
「これが私の矢だ。視聴者の皆は『カオリの矢』と呼んでいるが、私は『命食いの矢』と呼んでいる」
「命食い?」
「その名の通り、この矢筒は私の気力を吸い取って矢に変えてくれる。だから『命食い』だ」
「そうか、それで飯を食ったら再生したのか……」
思わず感心してしまった。やはりダンジョンで手に入るアイテムは人類の科学を遥かに上回っているようだ。実質的に矢の補給がいらないってことだもんな。
「そういや、さっき『タロー殿ですか』って聞いてきたよな。なんで俺の名を知ってたんだ?」
「ああ、私はよくタロー殿の配信を観ているからな。だから顔を知っていた」
「え、そうなの?」
「ダンジョン配信を始める前、勉強のために他人の配信をいくつか観ていたら、タロー殿のチャンネルが目に留まった。日本人一人で活動されていたから、ちょうど私と同じだなと思ったのだ。だから今でもよく観ている」
「へえ……それは知らなかったよ」
俺はカオリのことをよく知らなかったのだが、向こうはそうではなかったということか。まあ、配信を観てもらっているというのはありがたいことだ。
「申し訳ない、俺はあまりカオリさんの配信を観たことがなくて……」
「気にしないでくれ。私はただ弓道を極めているだけなのだ」
そう言って、カオリは近くに置いてあった自らの弓に手を掛けた。Mikeから助けてもらった後に少し調べたのだが、たしかチャンネル名は「ダンジョン弓道」とかだったよな。島の獣を弓矢で仕留めている……ということしか知らないが、カオリ本人が美人なこともあって結構な人気があったと思う。
「そういや、あのワニからどうやって逃げたんだ?」
「……お恥ずかしいのだが、私は広場の隅っこでずっと寝ていたのだ」
「はっ?」
「開会式の時も、英語が分からないから何を言われているのか理解できなくて……退屈になったから座って昼寝をしていた」
「えっ、ええっ?」
「後で視聴者に教えてもらったのだが、大きなワニが大暴れしていたようだな。私の矢で仕留めたかった」
「えぇ……」
広場が落っこちたり、地底湖からデカワニが出没したり、同士討ちに略奪にと大騒ぎになったり。とても昼寝が出来る環境ではなかったと思うのだが……運が良いのか、それとも。どちらにせよ、なんだかカオリは只者ではないみたいだ。
「とにかく、このままじゃ俺たち飢え死にだよ。何か策を考えないと」
「……」
「どうした?」
カオリが地底湖の方をじっと見ている。上の大穴から太陽の光が差し込んでいるとはいえ、向こうの方は薄暗い。
「タロー殿、失礼」
「へっ?」
カオリはすっと立ち上がり、弓に矢をつがえた。そうして遠くの方向に照準を合わせる。
「ちょっ、急にどうしたんだよ!?」
「奴が来る。忌々しい奴が」
さっきまで腹をぐうぐうと鳴らしていたとは思えないほどに鋭い視線に、思わず後ずさりしてしまう。カオリは目いっぱい弓を引いて、いつでも放つことの出来るように構えていた。
「あ、あぶねえって! やめろよ!」
「タロー殿の敵、許さない」
「いったい何が――」
その時、向こうの方から大男が歩いてくるのに気が付いた。全身ボロボロの服をまとい、大きな剣を担いでいる。まさか……
「ま、Mike……!?」
デカワニに食われたはずの男が、異様な面持ちで近づいてきた――