ぼっちでダンジョン配信してたら賞金1500億円のデスゲームに巻き込まれたので、のらりくらりと生き残っていきます 作:古野ジョン
「二人とも、よく聞いてくれ」
俺たち三人は車座になった。リュックサックに入れておいたメモ帳から一枚の紙を破り取り、ペンを手に取る。
「結論から言えば、まともに戦って勝つのは無理だ」
「それは承知している」
「ああ? 日本語じゃ分かんねえよ」
「一言でいえばノー・チャンスだ」
「じゃあなんでてめえに協力しないといけねえんだ!」
「いいから、聞いてくれよ」
このまま日英同時に話し続けるのは大変なので、紙に図を書き始めた。俺たちのいる場所、地底湖の様子、そしてデカワニの現在位置。
「デカワニがこれで、恐らくダンジョンの先に続く道がここ。見事に塞がれている」
「やはりあのワニを排除しなければ先へは進めないか……」
「その通りだ、カオリさん。だから――
俺は自分の身につけていたアーマーを展開して、収納していた物を見せてやった。二人はギョッとしたように目を見開く。
「な、なんだこれは!?」
「What the fuck!?(なんだ一体!?)」
「この島で集めた毒物やら薬物やらの集まりだ。効果は保証する」
そう、俺が隠し持っていたのは――大量のアンプルだった。この島独特の動植物からいろいろと採集したもので、たまに獣の狩りなんかに使っていたが、配信ではほとんど見せたことがない。
「Mikeさん、あんたの剣に用がある」
「俺の剣をどうしようってんだ!?」
「いいから、貸してみろ」
Mikeは怒りながらも剣を差し出してくれた。持ってみるとズシリと来るな、こんなのを振り回しているなんてすごい力だ。……などと感心しつつ、俺は「対爬虫類用」と書かれたアンプルの先端を叩き割った。
「な、何をする!?」
「あんたの剣にこれを塗布する」
「バカ、やめろっ!」
制止も聞かず、俺はアンプルに入った液体を剣の上に垂らしていった。さっきまで銀色に光り輝いていたのに、すっかり毒々しい紫色に変わってしまった。
「てめえ、俺の剣になんてことを……!」
「あんたの剣は『錆知らずの剣』だろ? 簡単に劣化したりはしない」
今にもぶん殴ってきそうなMikeを宥めつつ、手袋をはめて毒を塗り広げていく。あの巨大なワニにこんな少量の毒で通用するのかは分からないが、何事も試してみないことには始まらないだろう。
「これで完了だ。Mikeさん、剣を返すよ」
「おお、俺の愛しき剣よ……!」
「言っておくが、塗ってあるのは神経毒だ。むやみに触るなよ」
「ひいっ!?」
涙目で刃にキッスしようとするMikeに警告しつつ、再び紙を手に取ってペンを走らせる。
「タロー殿、それは……?」
「デカワニの皮膚の断面図だ。Mikeさん、あんたにしか出来ないことを頼みたい」
「あ、ああっ!?」
「いいから、見ててくれ」
「……?」
断面図の上にペンをあてがい、剣に見立てる。そしてそれをどんどん下にずらしていくと、首をかしげていたMikeも何かに気が付いたようだ。
「てめえ、まさか……!」
「そう。あんたが口から脱出できたということは、その剣ならデカワニの皮膚を貫けるってことだ」
「だから俺の剣に毒を……」
「予防注射と同じ要領で、皮膚に剣を突き刺してくれ。体内に毒が回って、もしかしたらあのデカワニが倒れてくれるかもしれん」
「……なるほどな」
「ジョンコム一位の配信者がやられっぱなし――ってのは、恰好がつかねえだろうしよ」
「!!」
煽るようにけしかけると、Mikeがハッと顔を上げた。そう、コイツにとっては名誉挽回のチャンスなんだ。となれば引き受けざるを得ないだろう。
これはあくまでデスゲーム。誰よりも早く最下層に到達し、ボスとやらを討伐するのが目的。だがしかし――複数人の協力がなければ、先に進むことはほとんど不可能と言っていいだろう。単に相手を蹴落とすだけでは勝利を掴むことは出来ない。……よく考えられたゲームだ。
「……Soldier boy、てめえは俺を乗せるのがうまいな」
「やってくれるか?」
「もちろんだ!! 仲間の仇、絶対に討ってやるぜ!!」
Mikeは力こぶしを作り、口をニッと結んだ。どうやら引き受けてくれるらしい。
「あの、タロー殿……」
「ん、どうした?」
「部分部分しか分からなかったのだが、その男がワニに突撃するということか?」
「その通りだ」
「しかし、それが出来るなら苦労していない。あんなワニに近づくなど……」
「そこでだ。カオリさんにも協力して欲しい」
「私が?」
二人が見ている中、再びさっきの地図にペンを走らせる。カオリの言う通り、デカワニは容易く接近を許してくれないだろう。Mikeが剣を突き刺すために近づけば、必ず地底湖から現れて食いついてしまうに違いない。
「まず囮になった人間がデカワニをおびき寄せる。出来るだけ左右どちらかのサイドに引きつけられればベストだ」
「タロー殿、それで?」
「そこでカオリさんの出番だ。この時、正面から見れば中央にワニの目が見えているはずだ」
「ああ」
「その片目を、カオリさんの矢で――射貫いてほしい」
「!」
カオリは目を見開いた。俺は地図に弓矢の絵を書き足し、そこからワニの目まで矢印を伸ばす。ワニの目は顔の横についているから、片方を使えなくしてしまえばかなりの範囲が死角になるはずだ。
「Mikeさん、あんたはその隙を突いてとどめを刺してくれ。失敗しても固執するな、必ず離脱して体勢を立て直してくれ」
「あまり指図されるのは好きじゃねえんだが……今回は聞いてやる」
「理解が早くて助かるよ」
「だがな、この囮ってのは誰がやるんだ?」
「えっ?」
「囮が一番食われやすいだろ? 誰がそんな危ない役を引き受けるんだ?」
Mikeは地図上の囮を指さし、両手を広げて疑問を呈していた。その意図を理解したのか、カオリも口に手を当てて考え込んでいる。そう、たしかにこの作戦で最も危険なのは囮だ。だがデカワニを引きつけることが出来なければ、カオリもMikeも出番がない。
「おい、Soldier boy? 聞いてるのか?」
「た、タロー殿……?」
「なあに、簡単な話だ。囮を務めるのは――」