【鉄は熱いうちに打て】今回はこれが至上命題である。どんな物事も時が過ぎれば忘れ去られてしまう。アクア達に与えられた時間は多くないが、1つ大きな問題が発生している。
「ギャーー―終わらないよーー」
MAYちょの絶叫が部屋に響いている。既にアクアからコンテを貰っていたので写真を切り抜き、動画やBGMも挿入しているのだが、動画製作のスキルを持っているのは彼女しかいない。他のメンバーも手伝いたいが、素人が手を出してしまうと最悪PCが、お陀仏になる可能性もある。
「アクたんは、どこにいるの~?」
なお首謀者のアクアも部屋に居ない、データを届けにきた鷲見ゆきは「助っ人を連れてくる」と言っていたが、まだ来ていない。
“ピンポーン”
今回戦力にはならないダンサーのノブユキは雑用係として、食料の買い出しに従事してもらっていたので帰って来たと思い、ゆきがドアを開けると、アクアと一人の女性が入ってきた。
「すまない、助っ人の説得に時間が掛かってね」
彼は隣にいる女性をみんな(ノブユキ以外)に紹介した。
「よろしくお願いします」
「MEMさんは動画編集のアルバイトの経験があるから戦力になる」
「子供のみんなが頑張っているのに、大人が指をくわえているのは恥ずかしいです」
「MEMさんって何歳なんですか?」
ゆきが代表になって聞くと
「23歳です。それよりも早くやりましょう。時間が迫っているんですよね?」
MEMは背負ったリュックからPCを取り出し起動した。彼女とアクアは隣に座り、彼の指示で次々と動画の編集作業を進めていく、MAYちょも負けじと残っている部分を片付け、自身のアイデアが使えないかアクアに質問しながら作っていく、
PCを扱えない面々は、ただ見ているだけではなく、膨大な写真や映像データから使えそうなモノをピックアップして、製作者の二人に提供していった。なおノブユキは料理の配膳係として貢献してくれた。多分貢献していると思う。
動画を作り始めて約60時間が経過していた。ゆき・ケンゴ・ノブユキは床で倒れるように寝てしまい、アクア達もギリギリの状態で耐えていた。辺り一面には栄養ドリンクやエナジードリンクが散乱し、コンビニのポリ袋も落ちていた。そして
「よし完成だ、みんな起きろ」
各々が復活したゾンビのように起き上がり、MAYちょのPCの前に集まる。
「とりあえず、最初の1分で100リツイートは欲しいね、そうすれば最終的には大きなバズになるはずだけど」
「今回は突貫で進めた部分もあるから粗もあるが、逆にそれが俺達の作った動画として評価されるなら、悪くないはずだ」
MAYちょの操作するマウスのカーソルの先には作り上げた動画と
【いつも「今ガチ」を見てくださっているみなさんへ、メンバー全員で動画を作りました☆これが僕たち 私たちの「今ガチ」 ぜひ見てほしいです】
の一文と共に投稿された。
4.13.22.39.52、リツイートの数がどんどん増えていく
「イケる、イケる」
78.87.99.105.143.177
あっという間にカウントは100を超え、それ以上の数字を叩き出した。
「よっしゃー!」
達成感と疲労感に襲われるも、みんなで歓喜した。当然このことは黒川あかねも自宅のスマホで見ていて涙を流していた。結局この動画は24時間後に8万3千リツイートを記録し、黒川あかねのイメージを変えることに成功し、今ガチの人気を決定させることが出来た。
「じゃあ、みんなで祝勝会しようか?」
「悪いなノブユキ、流石にきつくてな、それにMEMさんもお疲れだ、彼女を帰してくるから会は、あかねが戻って来た時にやろう」
アクアは、うとうとしているMEMを背負って、部屋を後にした
「珍しいな、アクアがあんなこと言うなんて」
「休ませてあげなよ、アクたんは殆ど寝ずに構図や文面を考えて、編集をやってくれたんだから、それに私たちも結構ヤバいでしょ?」
アクアは途中でタクシーを拾い、苺プロに辿り着き、眠っているMEMをソファーで寝かせ、自身は床に倒れ込むように寝てしまった。なお部屋に訪れたミヤコさんは119番を押しそうになっていたのは言うまでもありません。
炎上騒ぎはある程度沈静化し、世間はお笑い芸人の闇営業問題に注目するようになった。火は完全に消すことは出来なかった。デジタルタトゥーは残り続ける。人はその十字架を背負って生きていくしかない。
しばらくして、黒川あかねが現場に訪れた。近々復帰をするので挨拶の為である。図書室にいたMAYちょ・ゆき・アクアは彼女を出迎え、久々の再会に歓喜した。するとMAYちょが
「あかねも今回のことを踏まえてキャラを作ってみたら?素の状態だとダメージが大きいし」
「キャラ?」
「そう、作り上げたキャラクターが自分を守る盾になるの」
「キャラを作れば、そいつが身代わりになる。素の自分を演じるより痛みは軽減される」
「アクたんも、キャラ作っているもんね」
「おかげで、誰が本物なのか分からなくなるよ」
「でも、どんな役を作ればいいのかな?」
「う~~~ん」
ゆきとMAYちょが悩んで声をあげるが、アクアに近づいてきて
「ねぇアクたんは、どんな女性が好み?」
「なぜ、俺に聞く」
「今、ここにいる男ってアクア君だけだし」
「(好みの女性ねぇ~、考えたことも無かった。向こうにいた時は好きなアイドルやタレントはいたけど、情熱的になるほど惚れ込んだ女性っていないな)」
「アクたん、ガチ悩みしないでよ」
「いや、そういったことを考えたことが無いんだ」
「まぁ確かにアクたんの周りには美人が多いから、憧れの対象って中々いないよね?」
「その質問を言われた時に、真っ先に思い浮かんだのが人物というよりも【ただいま】って言ったら【お帰り】を返してくれる女性だからな」
「つまり、アクたんは家庭的な女性が好みってこと?」
「大きな括りで答えるならそうなるな、それに俺は人を愛する資格があるのかな?」
「何、いきなり哲学を語りだしてるの?」
「昔、副社長にいわれたんだ「あなたは人の幸せの為に動くけど、自分の幸せについて二の次にしてるでしょ、自分なんかが幸せになるより、他人の笑顔を優先している」ってね」
「なに、それ」
「多分、心に行動が刻まれている。どんなに上書きしても出てくる、厄介な性格だな」
アクアがケラケラ笑いながら、おどけていると、突然あかねが彼を包み込むように抱きしめ
「そんなこと言わないで、私はアクア君のおかげで今ここに居れるの、悲しいこと言わないで」
「あかね」
「ひゅーひゅー、お熱いですね」
「黙れ小僧」
「誰が小僧だ」
アクアは、あかねを離し
「なぁ、あかね、何かを作って演じるじゃなくて、本当の【黒川あかね】を見せてくれないか?打算や空気も読まなくていい、自分がやりたい【黒川あかね】を見てみたいんだ」
「分かったやってみる」
そう言って黒川あかねは現場をあとにした。
「ねぇ黒川あかね、大変だったわね?大丈夫そう?」
事務所で有馬から問いかけられた。
「あぁ大丈夫だ、もうすぐ復帰する」
「そう、あのままリタイアしてくれれば良かったのに」
「かなさん、その言葉、本音なら今ここであなたを軽蔑しますが」
「違うって、あ~もう日本語って難しいね、商売敵なの黒川あかねは」
「テレビと舞台じゃ畑が違うのに?」
「住む世界が違っても同年代の役者は比較されるの、元天才子役と劇団ララライの天才女優の構図は嫌でも目に入るの」
かなさん、あなたの食べているアルフォートはアイのおやつだけど大丈夫?
~黒川あかね撮影復帰日~
「黒川あかねさん、今日から復帰します」
スタッフからの紹介で教室に入り頭を下げる。みんなに挨拶し意気込みを語り、本番を迎える。
「さぁ黒川あかねのリスタートだ、いけるな?」
「うん、そうだねアクア、私の輝くところ一緒にみてくれるね」
そこには今まで見たことなかった黒川あかねがいた。
原作のアクアと違い、彼は五反田監督に映像技術者としての弟子入りはしていなので、編集スキルは持ち合わせていません。なのでMEMさんに助っ人を頼む形で動画を作成することになりました。
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