「どうしたのアクア?そんなに見つめちゃって、私の制服姿がそんなに珍しい?」
アイの問いかけに思考を放棄していたアクアは、意識を現実に引き戻し、脳の再起動を始めていた。学校をサボることに関しては問題無い、サボってデートに行くのも許容範囲だ、だがその相手が妹の制服を着た母親は完全にアウトだ
「ハイハイ珍しいですよ」
どうやら彼の頭は完全に復旧していなかった。
「で?何処に行こうとしてるの?結構離れた所に向かっているけど?」
「内緒」
彼らは電車に乗っていた。しかも滅多に使わない路線で、アクアも行き先の検討がつかない。多少冷静さを取り戻した彼は、改めてアイを見つめてみた。肌は透き通るように綺麗で髪の毛も手入れされている。アイがアクアのクラスに転校生として現れても違和感は無いと思う。
「こら、ジロジロ見ないの」
アクアの視線に気づいたアイは照れるように口にするが、続けて
「そんなに見惚れるなら、ルビーの代わりに登校しちゃおうかしら?」
止めてくださいアクアの胃が完全に死にます。息子にカウンターを与えたアイはニヤニヤ笑いながら
「さぁ次の駅で降りるよ、準備して」
二人は駅を降りて、しばらく歩いた。なおアイがアクアの腕に絡み付くように組んでいるので、遠くから見れば恋人のように見える。
「歩きにくいって、離れてよ」
「え〜いいの?制服を着た母親と腕を組むなんて二度と出来ない経験だよ」
「今後起きてほしくない経験だ」
「照れちゃって、あっそこの角を右に行って、突き当たりが目的地よ」
アイに促されて歩を進めた先にあったのは、プラネタリウムの施設だった。かなり年季の入った建物で外壁が崩れている。彼女は受付に「大人2枚」と告げて、アクアの手を取って入店した。指定された椅子に座って母に尋ねるアクアの頭には「?」しかなかった。
「なにここ?」
「なにって、プラネタリウムだけど」
質問の回答が求めているものではなかった。
「だから、なんでここに来たの?わざわざ電車も使って」
「ここがね、私の思い出の場所なんだ。ほら、そろそろ始まるよ」
辺り一面が暗くなり、天井に星々が映し出されるがナレーションが無い。
「まだ、アクア達が生まれる前に、歌うのが嫌になって逃げ出したことがあるの。今のアクアより小さい頃だったから、お金もちょっとしか無くてね、行くあてもなくて最悪なことに大雨も降ってきて、雨宿りでここに入ったの」
知らなかった母の過去、アイは続けて
「星になんて興味無かったし、『これからどうしよう』って考えていたら、隣に女の子が座ってね。この子が『君も逃げてきたの?』って聞いてきたの、その質問に頷いたら、『同じだね、私も逃げてきたんだ』」
「『何に』って聞いたら、なんて言ったと思う」
「その話、長くなる?」
「茶々を入れないの」
「女の子の口から『生きることから』って言われたの」
「怖い話じゃないよね?」
「違うって、その子は治る見込みの無い病気で、余命宣告されてて、ヤケになって病院を抜け出して、思い出の地を巡っていて、最後がここだったの」
「彼女は、『もっと生きたい。生きて色んなことをやりたい。好きな人と結婚して、子供を作って、成長を見守りながら最後は笑って旅立ちたい』『でも何も出来ない。なに1つ出来ないのが悔しい』って、その時に、今の自分の置かれている境遇が幸せなんだ、生きているだけで可能性に満ち溢れているって感じてね。だからここが私のスタートラインなんだ」
「ここが母さんの原点?」
「まだルビーにも教えてないからね」
「ねぇアクア、今の仕事楽しい?」
「楽しい楽しくない、というより刺激的だね」
「そう、お母さんねアクアに甘えていたの」
「どうゆうこと?」
「家に居ると、ルビーが私に甘えてくるでしょ?でもアクアは甘えることなく育って、掃除や洗濯を率先してやってくれたでしょ」
「まぁ一般の家庭とは違うからね、親を手伝うのは当たり前だよ」
「私も、自慢の息子って思ったし鼻も高かった。アクアが家に居てくれるから私も頑張れる。でもそこで考えるのを止めちゃったの」
「アクアもルビーみたいに甘えたい時もあった。家事に時間を潰されてやりたいことが出来ない。でもアクアは強いから、SOSを口に出さない、家族や周りの顔が悲しむのなら自分が犠牲になればいい」
「言わないで」
「ミヤコさんが言ってたの『アクアの好きな女性って人物じゃなくて、ただいまを言ったら【お帰り】って返事をしてくれる人』って、社長達が事務所にいたら家に誰も居ないのが、当たり前になっちゃった。寂しいのを我慢した」
「ねぇアクア、いつから貴方はそんなヒーローになったの?誰が望んだの?そんなに私たちが弱く見えるの?」
「ちがう」
「違わない、だってあんな顔、見たこともない」
「俺は」
「言わせて、人が傷つくのを見たくない。苦しい人に手を差し伸べる。アクアがあの子を助ける為に頑張ったことも知ってる。じゃあ誰がアクアを助けるの?頼ってよ、ミヤコさんでも社長でもいい、貴方はまだ子供なの、大人に迷惑かけてもいいの」
「教えてよアクアの叶えたい夢、聞いたことが無いの、何でも言ってよ親子の間に壁なんて作らないで」
それは初めて聞くアイの母の心からの叫びだった。
「俺は夢を願っていいの?」
「当たり前でしょ、言ってみなさい」
「小さい夢だけど、1日が終わって寝るときに溜息を吐かずに、『明日もいいことあるかな』って不安もなく朝を迎えたい」
「叶えればいいじゃん。それなら朝起きた時に家族の顔を見て、頑張ろうって思えるほど幸せになれば」
「ありがとう母さん」
「いいのよ、さて下の喫茶店で何か食べよう。人生の先輩が奢ってあげるから」
~喫茶店~
「ところでアクア、もう意中の子はいるの?」
突然の質問に飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる、アクアだったが寸前で堪えた。
「母さん、いきなり何?」
「だって、アクアの周りには可愛い子が沢山いるでしょ?やっぱり苦難を共に乗り越えた黒川ちゃん?」
「分からない、家族以外で自分にあそこまで愛情を、向けてもらえるのって初めてだから」
「いいのよ初めてで、そうやって成長するの、でもねアクア」
「何?」
「10代で子供は作らないで、30代でおばあちゃんになっちゃうから」
「母さんが言うと生々しさが倍増するんだけど」
「あともう1つ、お父さんに会いたい?」
「会いたくない」
「即答?」
「今もし、『お父さんだよ』って出て来て、俺や家族に手を出してきたら、【この世に生まれたことを後悔させる】」
「そう分かった」
こうして、最初で最後の親子制服デートは幕を閉じた。なおルビーの制服を借りていたので、彼女は学校をサボり、遊んでいた所をMEMさんに見られてしまい、アイ共々にミヤコさんから特大の雷を落とされるのであった。
~今ガチ最終回~
最終回は告白のシーンがメインになるので、収録場所はいつもの学校ではなく屋外である。それぞれが自身の想い人にプロポーズを告げるので割と時間に余裕がある。ベンチに座って時間を潰していたアクアの隣に、あかねが座った。
「今日で終わりだね、アクア君」
「あぁ、あれ?喋り方が戻ってない?」
「実は、あのままで家に帰ったら、お母さんに『あかねがグレちゃった』って泣き出しちゃって、だから今はONモード」
「OFFじゃなくて?」
「そう、アクア君のお陰で今まで被り続けてきた仮面を外すことが出来たの、でも周りからは気味悪がられちゃって、しばらくは手放せそうにないの、でもアクアの前なら私でいられる」
「左様で」
あかねはアクアに肩を寄せて海からの風に身を置き、アクアも彼女の体温を感じて心を休ませていた。
告白シーンの撮影が始まり、トップは番組の本線だった鷲見ゆきと熊野ノブユキの二人で、薔薇の花束を抱えた彼が彼女の前で膝をついて告白したが、なんと振られてしまった。ノブユキは花束を海に投げ入れてしまいダッシュで逃走した。
次に終盤で溢れてしまったMAYちょとケンゴだが秒殺で断られてしまったが、ケンゴの表情に悲壮感は無い。
となると最後に残った二人に注目が集まるのは必然であった。アクアが告白の言葉を脳内で組み立てている時に、あかねが目の前に現れた。
「ねぇアクア、女の子としては好きな男の子から告白されるのが夢なの」
「あぁ」
「でも、それって大多数が決めた一般的なことで、私の夢じゃない」
「だから、私のしたいことをするね」
この時、アクアは『あかねから告白の言葉がある』と錯覚してしまい気を抜いていた。あとは、あかねの言葉に対して返しの言葉を考えようとした矢先、いきなり足を払われ体勢を崩され、更に彼女の両手で胸を押されてしまい後ろのベンチに尻餅をつく形となった。僅かな瞬間、アクアは彼女から目を離してしまい気付いた時には
【アクアは彼女に唇を奪われていた】
アクアは、あかねの唇から抜け出そうとしたが、顔を両手で強くホールドされてしまい、更に彼女の舌が自分の口の中に侵入してきて絡み合ってしまう。あかねはアクアの太股に跨ぐように座ってしまい身動きが取れなくなっていた。長いようで短い時間だったかもしれない。あかねが顔を離し、互いの口から唾液が線のように繋がっていた。
「次にやるときはアクアの方からやってね」
カップル成立のテロップが差し入れられたが、背景がピンクではなく真っ黒だったのは、この先、何を暗示しているのであろう
次話はエピローグを兼ねた日常的な話を入れつつ、アニメ1期終わりに向けて筆を進めていきますが、水曜と木曜が自室のフローリング張替えでパソコンが使えない可能性があるので、続けていた連日投稿が途切れる可能性があります。
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