秘密兵器は秘密のまま終わらない
苺プロ社長の斉藤壱護の悩みの種
事務所の運営は順調で、星野アイのタレント活動と覆面系筋トレYouTuberぴえヨンの動画配信が主軸だが、星野アクアがモデルの世界から役者業に転身したことも大きい、当初は端役から徐々に知名度を上げていこうと画策していたが、今ガチの効果は絶大で、アクアへのオファーが複数来ている。ドラマや映画、何故かブライダルモデルの撮影まである。無論全部を受ける訳ではないが、アクアのイメージを損なわないよう選ばないといけない。
またルビー達が活動予定する新生B小町のメンバー選びもある。しばらく夜のお酒は控えて頑張る必要がありそうだ。
有馬かなは、朝から不機嫌だった。無論役者なので顔には出ていないが雰囲気だけで怒っているのが目に判る。役者のオファーや新生B小町としての仕事が無いからではなく、今ガチ最終回を見てからずっと眉間に皺が寄っている。周りのクラスメイトは有馬をチラチラ見ながら、小声で話しているが気にする様子は無い。
「(なんで、あいつと黒川あかねのキスシーンで胸がざわつくの?私がアクアに好意を持っている?そんなわけ、そんなわけ)」
有馬かなの頭は何度も当時の光景を思い出す。アクアを押し倒し顔を掴んでのディープキス、しかも彼の太股に跨って密着していた。無論初めての見るモノではなく撮影の現場にいれば目撃することもある。なのにアクアのキスシーンを思い返す度に心に黒いモヤモヤが発生する。
「(あいつとは事務所の先輩・後輩、それに私のことを好意ではなく尊敬の目で見ている。役者において頼れる先輩と思ってくれている)」
なおこの思考を最終回直後からしているので、脳内には次の文字がスタンバイしている。
「(じゃあなんで、こんなにも感情が揺さぶられる?おかしいでしょ?LIKEはあってもLOVEではない。それに私の夢は女優として、私の演技を皆に見てもらう事、でも皆の中にあいつは、アクアは入っているの?)」
彼女の脳が、同じことを連続で考えるから疲れたのか、神が起こした奇跡なのか知らないが、脳内に存在しない記憶が堰をきってあふれ出す。
【夕暮れの教室、ポツンと残された有馬は彼を待っていた。ドアが開いて彼が有馬を見つけると、ゆっくり歩きながら近づいてきた。「もう、女の子をいつまで待たせるつもり」と批判するが、アクアは片膝で跪いて頭を下げた。彼の殊勝な態度に心を許した彼女は謝罪を要求し、目を瞑り唇を彼に向けた。夕暮れに照らされた影がゆっくり、長く1つになった】
「え?」
【高熱で倒れた有馬を見舞いに来た彼、ここに来る途中でスーパーに寄って来たのか、ビニール袋と学校のカバンを置いて近寄って来る。彼は慣れた手付きで汗を拭いて着換えも手伝ってもらった。エプロン姿のアクアは、お粥を作って持って来てくれた。口で「ふーふー」と冷ましてくれるが少し熱い、彼女がそんなことを言うので、アクアはお粥を口に含んで、かなの背中に手をまわして抱き寄せて口へ流し込む、食べ終えて眠るときアクアはずっと近くにいて手を握ってくれた。】
「まって?」
【そこには子供の頃のアクアと有馬がいた。誰もいない小さな教会でお互いに作った、折り紙の指輪を嵌めあい「大人になったら、同じ場所で交換しましょう」と言うと、いきなり場面が変わり、白いドレスを着た自分に今のアクアが指輪を嵌めてくれた「約束したでしょ」言い、自分の手にあった折り紙の指輪が本物に変化しアクアの指に嵌めた。誓いのキスをすると、みんなから祝福された】
「ちがう!!」
有馬は立ち上がり、机を叩き絶叫した
「有馬さん、何が違うのでしょうか?」
「え?」
現在は歴史の授業中で、有馬の机には教科書やノートの類は出ていない。
「いえ、なんでもありません」
「具合が悪いなら、保健室や早退しても構いませんよ」
「大丈夫です」
結局、有馬は最後まで授業を受け、放課後そそくさと下校し事務所に向かった。とりあえずアクアを殴ってムシャクシャを静めようと考えていた。何も悪くないアクアにご愁傷様。
苺プロ内でも、ある問題が発生していた。新生B小町の存在が鏑木勝也に露呈してしまったことである。無論情報が漏れたのではなく、彼のリサーチ力と推理によって導き出されたモノであり、苺プロ側も否定することが出来る内容だった。彼曰く「アイドル活動をするなら、この先に行われるジャパンアイドルフェスに新生B小町をねじ込むことが出来る」ということでデビューすらしていないユニットに、破格の条件が提示されていた。
斉藤夫婦・アイ・アクア・ルビーが部屋に揃い会議となっていた。ルビーは絶対出るという意志を表明していたが、彼女以外の面々が首を縦に振らない。プロモーションもあるが、有馬とルビーの二人組ではインパクトに欠ける。せめてもう1人欲しいのが実情である。
「なら、お兄ちゃんを・・・ぎゃふん」
ルビーが二の句を言う前にアクアの裏拳が彼女の鳩尾にヒットし倒れる
「鏑木の出してきた条件は確かに最高だ、アクアが出演した今ガチのヒットの恩を返す意味だと思う。だがここで新生B小町を世に出しても『名前だけを借りた紛い物』扱いになる。それに妥協でメンバーを選べば絶対に後悔する」
経営者として、まともな言い分である。
「それに、一定以上の歌唱力とダンス能力が必要になる。今からオーディションを行っても、出てくるとは思えない。1等の宝くじを当てるより難しいことだ」
壱護社長の言っていることは正論であり事実である。アクアも唸りながら頭を悩ませていた。そこに
「みなさん、お茶とお菓子です。1回休憩しましょう」
事務員アルバイトのMEMさんが入ってきて、彼女の入れたお茶を飲もうとした瞬間、アクアに電流が走る。
「(MEMさんの前職って声優だよな?ってことは!!)」
「MEMさん!」
「はい?どうしたんですかアクアさん?」
「確か、声優って歌唱レッスンってありましたよね?」
「はい、劇中で歌う役に選ばれたら歌います。私はスタートラインにすら立てませんでしたが」
「あと、ダンスレッスンもありますよね?」
「ありましたよ、私のときは頭にゾウさんのじょうろを乗せた人が来ました」
「ミヤコさん、すぐにテストの準備をお願いします」
「え?分かったわ」
アクアの指揮の下でMEMの歌唱力・ダンスのテストが急遽行われた。ダンスについては及第点だが歌唱力はルビー以上で問題無く、上手い部類に入る。
彼女をメンバーに入れよう、しかしその言葉を口にしようとした瞬間
「私には無理です」
彼女は自分を否定した。
「私はアイさんを目指していました。でもアイドルにはなれなくて、声優になってアイドルのキャラクターの子に自分の声を乗せて伝えたいと思いました。でもその夢も叶わなくて途方に暮れていた時に、アクアさん出会えた。ここを紹介してくれて灰色の世界に色を塗ってくれました。それだけでも幸運なのに、もう1度アイドルなれるチャンスを享受できるなんて」
彼女は自分がこれ以上、幸せになることに対して受け入れることが出来なかった。今までの経験が貪欲になることについて蓋をしてしまった。
「MEMさん」
アクアも自身がアイに言われたこともあり、強く言えることが出来なかった。
「ねぇMEMちゃん」
「はい」
ここまで沈黙を貫いていたアイが彼女の目の前に立ち
「幸せってね積み重ねていくの、でも積み重ねていくと段々周りが見えなくなって自分が独りぼっちに感じちゃうの、なら自分の得た幸せを皆に配って同じ高さまで戻るのを繰り返す。今度は積み上げる場所を変えて、また配るの、そうやって幸せって伝播していくの」
「だからMEMちゃんが得た幸せを、今度は皆に振りまいてほしい」
アイドルとして酸いも甘いも経験したアイだからいえることである。彼女はアイの瞳を見て強く頷き
「アクアさん、私やります。ですが1つお願いがあります」
「なんですか?」
「私をアイドルとしてスカウトしてください」
彼女の言葉を受け取り、アクアはMEMの前に立ち
「MEMさん、貴女の夢を叶えるのを一緒に見させてください!」
「はい、こちらこそお願いします!」
こうして、新生B小町に元声優の「MEM」が加入しました。しかしジャパンアイドルフェスまで時間がありません。困難な道のりですが彼女たちならやってくれるでしょう。
有馬かなちゃんの妄想ですが、もう5つぐらい出来てしまったのですが、3つにしました。呪術の東堂のアレです。
MEMちょをMEMさんにして職業を声優にしていたのは、歌とダンスをすぐに習得させる為です。YouTuberより声優ならプロのレッスンを受けているので違和感は無いはずです。
追記
有馬かなちゃんの妄想に更に肉付きさせて、番外編という形で短編にしてもいいですか?特に2番目のは書きたい
感想でも言われましたが、ヒロイン未定から【ヒロインはアクア】って入れようか迷います(笑)
評価や感想を入れてくださり誠に感謝しています。