記憶とはタンスのようなモノである。覚えたことをタンスの中に入れることで、一度覚えたことは基本頭に残る。政治家の口癖である「記憶にない」も嘘であり、思い出せないのは、どこに閉まったのか?タンスの鍵を無くしてしまったか?様々である。
~アクア?視点~
「(あれ、俺、なにしてんだ?確か仕事が終わって帰宅していたはずなのに、寝過ごして終点まで行ったのか?なんだ?体が動かない?)」
彼は状況を理解しようと、体を動かそうとしても動かない。
「(腹が痛い?下痢とかの痛みじゃない?外側からだ)」
「(とりあえず、声をあげてみるか、出来るだけ大きく)」
「おーーーーーい、誰かーー」
彼は今出せる最大音量で声をあげた。その瞬間、室内にぞろぞろと白衣を着た人間が入ってきて、驚いた表情を見せている。そこにいた一人が「すぐに親族に連絡しろ」と言っている。
「(え?医者ってことは、病院かここ?親族って父さんか母さんが来るのか?恥ずかしいね、この歳になっても迷惑を掛けるなんて)」
彼は嘆息し、謝罪の言葉を考えようと、手を顔に寄せると変な感覚に陥った。
「(なんだ、俺の手こんなに小さかったか?)」
「(いや待て、体が縮んでないか?どうなってる?)」
近くに立てかけてあった鏡に自分の顔を写すと、そこには誰もがときめく金髪のイケメン少年が写っていた。
「なんじゃこりゃ~~~~~~」
彼は更に大声を上げる。そりゃそうだ今まで見ていた顔から180度、全く違う顔が写っていれば誰だって驚く
「俺は夢でも見てるのか?」
試しに頬を強くつねってみたら
「痛い、現実だよ、ここ」
今の現実を受け止められず、ベッドの上で軽く放心状態になっていると、2人の成人女性と1人の男、そして幼女が駆け込んで入って来た。彼女たちの登場に驚いていると成人女性の1人と幼女が泣きながら抱き着き
「アクア、良かった、生きてるんだね、ちゃんと生きているんだよね?」
「よかったよ~、お兄ちゃん」
後ろにいた男女も泣いて喜んでいた。
「あの~どちら様でしょうか?アクアって俺のことでしょうか?」
彼の発言は、この空間にいる人たちの時間を一瞬止めてしまった。
「何言ってるの?アクアでしょ、アイだよ、星野アイ」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「アクア、流石にその冗談はキツイよ」
3人の女性に非難される形だが、彼の頭は「?」で埋め尽くされている。男性はすぐにナースコールを押して医者を呼んでいた。
呼ばれた医者はすぐに検査を始めた。
「君の名前は?」
「さっきアクアって呼ばれました」
「ここに来る前に、何をやってました?」
「覚えていません」
「9+7は?」
「16」
「この中にお母さんはいますか?」
「いません」
医者からの質問は数多くあり、彼は辟易していたが真面目に答えた。全ての質問に答え、星野アイと他3人が入室してきて、担当した医者に結果を尋ねた。
「アクアは大丈夫なんですよね?」
「先生どうなんですか?」
医者が神妙な顔つきでアイたちの方に向いて
「記憶喪失ですね。ただ知識はあるんですよ」
「どうゆうことですか?」
壱護が尋ねる。
「記憶喪失って、私は誰?ここはどこ?というイメージを持たれていますが、細分化されているんですよ、言ってしまえば特定の記憶だけが抜け落ちることがあるんです」
医者は続けて
「アクア君に複数の質問をしてみました。例えば「ご飯を食べる時の挨拶や計算問題」は答えていますが、ルビーちゃんの写真を見せて、「これは誰ですか?」と質問しても、「知らない」と回答しました。どうやらあなた方との記憶が無くなっています。医者としてはオカルト的なことを言いたくありませんが、アクア君に別の人間が憑依している。というのがしっくりきます。」
「治りますよね?アクアは元に戻りますよね?」
アイがすがるように、尋ねるが
「分かりません」
それは死刑判決を受けるよりも残酷なモノで、アイはそのショックで倒れてしまい、別室へ運ばれた。
「原因としては、お腹を刺された時のショックによるものでしょうか?外からの強い衝撃で記憶が飛ぶというのはボクシングなどのスポーツでも見受けられます」
「どういった治療をすれば」
「漫画やアニメのように頭部に対して強い衝撃を加えるのはNGです。そうですね彼を住んでいた家に戻して、今までの生活をおこなうのが最善です。ただ完全には戻りませんし、今のアクア君が上書きされて、二度と今までのアクア君が戻らない可能性もあります。」
残された3人は続きを聞いていた。
「無いんですか、アクアの記憶を取り戻す方法が?」
「残念ながら、記憶を戻す薬はありません。時間をかけていくしかありません」
「ねぇミヤコさん」
「どうしたのルビー?」
「お兄ちゃんは、お兄ちゃんじゃ無くなっちゃうの?」
ルビーは涙を堪えながら聞いてきた。普通なら希望のある言葉でルビーの気持ちを下げないようにするのが正解だが、「絶対に治る」とは言えない。しかし子供に残酷な現実を伝えることも出来ない。
「ルビー、アクアはアクアのままよ」
「どうゆうこと?」
「例え、アクアの記憶が戻らなくても、アクアはルビーのお兄ちゃんなのは変わりないのよ、あなたが信じてあげないと、アクアは1人がぼっちになっちゃうよ」
「ルビーのお兄ちゃんだもん、信じる」
壱護は再び医者に尋ねる
「先生、アクアはどれぐらい入院しますか?」
「そうですね、実はさっき、アクア君の刺されたお腹を見たんですが、傷が殆ど塞がっていたんですよ」
「え?それって?」
「あり得ないことなんですよ、ナイフによる刺し傷が数日で治るなんて」
「じゃあ、すぐに退院出来ますか?」
「1週間ほど、検査入院という形になりますね。面会も可能です」
「分かりました。本当にありがとうございます」
3人が退出し、アイが横になっている部屋に足を運んだ。彼女も気絶から目覚めていた。
「ねぇアクアはどうしたの?大丈夫だよね」
「アクアの怪我は大丈夫だ、1週間もすれば家に帰れる」
「良かった、あっ記憶は?記憶はどうなるの?」
壱護は首を横に振って答えた。
「分からない。でも医者が言うには、今までの生活をすれば取り戻す可能性があると言ってる」
「じゃあ戻るんだね?」
「いや、最悪は今のアクアが上書きされて、今までのアクアが消えてしまうこともある」
壱護はつらい現実をアイに伝えるが、彼女は違った。
「アクアはアクアだよ、例え記憶が無くても、私たちは家族なんだもん。それにアクアが死んだら私、生きていけないし謝ることも出来ない」
アイがここまで強くなっていることに、今更ながら気づいた壱護は自分の不甲斐なさを心の中で嘆きながら
「そうだ、あいつは家族なんだ、今までの記憶を失っても、アクアはアクアなんだ」
「社長、男の泣き顔は気持ち悪いよ」
「うるさい、ほっとけ」
「じゃあアクアのところ、行ってきていい?」
「今日はもうやめとけ、あいつも色々あって混乱していると思うし、明日また来よう」
「そうだね」
そう言って部屋を出ていくのであった。