重要人物が完全にフェードアウトになります。
不知火フリル
新時代の女優・誰もが知る国民的美少女・歌って踊れるマルチタレントなど、様々な文言で囃し立てるが、彼女はまだ高校1年生の乙女である。休みの日や放課後にクラスメイトと共に遊びたい年頃でもあるが、環境が許してくれなかった。無論自分で飛び込んだ世界だから不平不満を言うのは罰が当たってしまう、そのせいで彼女と会う人は【不知火フリル】という個人を見てくれず、肩書きのフィルターを通してしまう。そんな人生に辟易していた頃、彼女は一人の男性と遭遇する。
きっかけはフリルが財布を落としてしまい、バスを下車することが出来なかった。両親やマネージャーに電話をしようとした矢先、後ろにいた金髪の男の子がバス代を立て替えてくれた。「(私に恩を売って、話の種にするつもり?)」先に降りた彼を問い詰めてようと呼び止めて理由を聞いたら
「今日の俺は、とても機嫌が良いんでね。幸せを独り占めにするのはガラじゃないから、お裾分けってことだ」
彼はあっけらかんとした態度で理由を話、「チャオ」と言って華麗に去って行った。
しばらくして、ネット界隈でざわついた【今日は甘口で】を視聴した。同じ現場にいる役者も「最終回だけは見た方がいい」と言っていたので、2倍速で垂れ流していたら、あの人と似ている男性がストーカー役として出演していた。
「星野アクア?」
すぐに彼のことを調べた。私と同い年で、伝説のアイドル星野アイと同じ苺プロ所属で幼少期に表舞台から消えた後、モデルとして復帰、モデル活動をしている他事務所の人に話を聞くと「イケメンで性格も良いし、相手を立ててくれるから現場の雰囲気も悪くならない、性犯罪という罪がこの世に存在しなければ襲っていたと思う」と返された。彼女のカミングアウトは置いておくとして、多分この人がバス代の人だと思った。この業界にいるということは進学先は同じ陽東高校になると思う、もし出会うことが出来たら、お礼を言おう。
そして私は星野アクアと再会することが出来た。担任の話を聞き終えた後、彼は近くの女の子たちと談笑していて、割って入る形となったが、私の答え合わせは正解していた。彼は私のことを「さん」付けしていたので、互いに名前で呼び合うように約束させた。戸惑うアクアは見ていて可愛い。
仕事の都合もあり、毎日登校することは出来ないが、私は彼を知ろうとした。話していてアクアは他の人と違って、私の肩書きではなく、一人の女の子として見てくれている。それだけで嬉しかった。私自身を見てくれる人が近くにいるなんて、もっと知りたい、アクアのことを知りたい。
「そういえばアクアって、なんで助けてくれたの?幸せのお裾分けって何?」
1番気になっていたことだ
「ん?出先でこの本を見つけてね、好きな作家なんだけど電子化されてないから購入出来た時、【今の自分は幸せだ】って感じてね、事務所の先輩の受け売りなんだけど『幸せって独り占めするよりも、皆で感じた方がもっと嬉しいでしょ】って言うから実践してるだけ」
「それって無理にやってるの?」
「いや、共感してるから、別に人類全員を救おうとは思ってないが、手の届く範囲でやれることをやってるだけ、それに・・・」
「それに?」
「女の子を助けて悪い気はしないからね」
彼は優しい、妹のルビーさんには時折辛辣な態度になるが、大概は彼女の方に原因がある時だ、でも彼の優しさを悪用する人だって出てくる。その時傷ついたアクアを誰が助けるの?あなたは私を救ったヒーローだけど、あなたのヒーローは誰なの?
「ねぇアクア、これ見て」
「なになに、『宮崎県の高千穂の山中にて身元不明の白骨死体が発見された。警察は事件・事故の両方から捜査するため、人物の特定を急いでいるが、腐敗による劣化や野生動物による損傷が酷く、DNA鑑定を用いての身元の特定については困難を極める』なにこれ?」
「その下よ」
「ん?え?噓マジ!?藤沢先生の新刊が出るの?しかも今日」
アクアの顔がまるでオモチャを見つけた子供のようにキラキラしていて
「この作者の作品いつも読んでいるでしょ、もう知ってるかと思ったけど」
「ちょっと立て込んでいたから、ありがとうフリル」
普段の彼は同年代の子たちより大人に感じるのに、子供っぽい時もある。そのギャップに惹かれて私も彼に興味を持った。そんなアクアが【今ガチ】に出演すると聞いた時は心に針が刺さったようにチクッとした。
番組内でのアクアは普段通りと言うべきか、MAYちょと一緒に盛り上げ役に徹していた。作中で時折見せる初心な表情は、演技というのは簡単に見抜けた。でもMAYちょに抱き着かれた時やはり心に痛みを感じた。彼はSNSでも話題になっていた『黒川あかねの空気化』問題に頭を悩ませていた。放っておけばいいのに優しい貴方は手を差し伸ばして助けようとした。
その結果、追い込まれた黒川あかねは自殺未遂を引き起こしたが、アクアが発起人となって彼女のイメージ回復に奔走した。彼女を除く【今ガチ】メンバーで作った動画は、黒川あかねの悪評をほぼ打ち消すことが出来た。誰も知らない、彼女の為にボロボロになるまで立ち向ったヒーローがいることに、ねぇなんで貴方はそこまで頑張るの?貴方の幸せは誰が叶えてくれるの?
彼女の復帰以降、黒川あかねはアクアと絡むようになり、世間やSNSではこの二人の動向に注目していた。今まで見たことのない表情は新鮮だったけど、私には見せてくれなかった知らないアクアの顔だった。
最終回、見たくはなかったけどチャンネルを合わせてしまった。他の2組がカップル不成立となった時、嫌な予感がしたが、的中してしまった。彼女に押し倒されたアクアは尻餅をついて顔を上げた時、彼の唇は彼女のと重なった。その瞬間手に持っていたグラスを握り潰していた。痛みなんてなかった、床に血が滴っても気にしなかった。
『アクアは優しいから彼女を傷付けないように、受け入れただけ』そう思い込むようにして、黒い感情に蓋をした。学校へ行けば彼から答えを聞けるが怖くて尋ねられなかった。後日ルビーさんから聞いた話でも苺プロでは大惨事だったみたいだ。
【今ガチ】終了後、アクアとの関係が大きく変化することは無かった。いつも通りに過ごし、ボケた私に的確な返しをしてくれる。手のことを尋ねられた時も「女の子が自分で体をキズモノにしちゃ駄目でしょ」って怒られた。アクアにならキズモノにサレテイイノニ
新生B小町が結成されMAYちょのYouTubeに出演していた時、メンバーのMEMが「アクアさんは魔法使い」の発言をした時、怒りがこみ上げてしまった『その魔法使いが、どんなボロボロなのか分かってるの?』このことを話すと彼は笑っていた。『ねぇそれは本心なの?辛くないの?貴方が倒れて悲しむ人がここにいるのに』
しばらくして私にブライダルモデルの仕事が舞い込んだ。マネージャーの話では各事務所に依頼が届いていることを耳にした、と言ってたので苺プロにも来ているはずと思い聞いてみた。彼の所にも話があり、誘う形で引き受けてもらった。
タキシード姿のアクアは普段とは違う雰囲気を醸し出し、子供の頃、親と一緒に見た映画に出て来る、銀幕のスターのように見えて惚れそうになった。近寄ってきた彼は私のドレス姿を褒めてくれた。彼がおじさんみたいなことを言うから
「じゃあ、アクアが貰ってくれる?」
「法が許してくれないよ」
「(そう、法が許してくれるなら私を貰ってくれるのね)」
今日が新生B小町のお披露目ライブというのも知ってる。彼が行きたいのも理解している。撮影時間が押して焦る彼を見るのも新鮮だけどアクアを困らせるのはヒロインのすることではない、なら私のすることは1つだった。
写真撮影では彼と一緒に腕を組んだり、お姫様抱っこまでしてもらった。アクアに抱きついた時、もっと彼の温もりを堪能したかった。私の匂いをつけておきたかった。【欲張りは身を亡ぼす】そう言い聞かせて撮影を終えた。
その後、私たちの車に乗せてアクアをライブ会場手前まで運ぶことが出来た。でもあの時、彼を檻の中に閉じ込めることも可能だった。それをしなかったのはまだ私に良心が残っていたのだと思う。急いで車を降りる彼に抱きついたのは、私のアクアということを知らしめる行為だった。
「ねぇアクア、イツ私のことモラッテクレル?」
~クレープ店~
アクアと黒川あかねはデート中だった。【今ガチ】で成立したカップルは付き合っていることを定期的にアピールすることが義務付けられている。無論あかねは義務ではないと思っている。インスタ用の写真を撮り終えたあと、互いに持っているクレープを食べさせあっていた。おかしいなブラックコーヒーが甘く感じる。
「B小町のライブ、アクアが話題になってたね」
「掘り返さないでください」
はて、彼女たちのライブなのに彼が話題になるのは、おかしいのでは?と思うが、タキシード姿のアクアが全力疾走で会場に向かい、観客と一緒にライブパフォーマンスをしていたことが、SNSで拡散され話題になり、トレンド3位を記録、その後ライブ衣装を着たB小町との写真がアップされ、彼女たちの知名度向上にも貢献した。
更に嬉しい誤算が続いた。アクアの行動がチャペルの宣伝効果にも繋がり、総支配人の檀黎斗氏がお礼を兼ねて、苺プロに訪れ、贈答品のお菓子とカタログギフトを差し入れてくれた。
「もしアクア君に挙式を上げる予定があれば、定価の2割引きで引き受けよう」
と男らしい台詞を残して去っていったが、せめて上半身だけでもいいので服を着てほしかった。
「お菓子はB小町の面々や社長達のおやつになって、カタログギフトはルビーが『絶対にお肉、お肉以外は邪道』ってことで、俺の意見が通る間もなく注文されたよ」
なお届いた肉を取り合う、「苺プロすき焼き戦争」の勝者は星野アイになる話は書きません。
「ねぇアクア、もし式を挙げるならどんな風にしたい?」
「和風以外でやりたいね」
「どうして?」
「俺が和装すると、この髪色も相まって、成人式に暴れるバカみたいに見える」
「それなら、姫川さんもなりそう」
「姫川さんって、役者の姫川大輝?」
「そう、劇団の先輩で、稽古中は気が抜けてるんだけど、本場になると役者スイッチが入って、場の空気が変わるの。でも気さくな人だから案外アクアと気が合うかもしれないよ」
アクアも今後の役者人生について考えると、一流と呼ばれる人達と交友を結ぶのは、やりたいことだった。無論打算的なことではなく、生で彼等の演技を見ることで得られることもあるからだ。チャンスがあるなら、あかねを通じて紹介してもらうのもアリだと思った矢先
「あんたらねぇ」
「かなさん?」
突然、有馬が二人の目の前に現れた。
「リアルタイムの投稿はやめなさい。これが原因で悪質なストーカーに追いかけられた事件が、国内外であったのを知らないの?外での写真は予約投稿が基本、また変なトラブルでアクアに迷惑を掛ける気?黒川あかね」
他人から見れば、芸能人として意識の薄い二人に注意する、先輩役者に見えるが内側では違った。
「久しぶりだね、かなちゃん、最近は表舞台で全然見ないから、てっきり辞めたかと思ったよ、今はアイドルだっけ?なりふり構わずで大変だね」
「あかね?」
「ずっと、板の上で自己満足の演技をしてて、時間を浪費するのって人生の無駄じゃない?そういえば最近、恋愛リアリティショーに出てたんだっけ?役者が私生活を切り売りするなんて、無様だねぇ」
「かなさん?」
「ねぇアクア、少し待ってて」
あかねは、有馬を連れて席を外した。
「何しに来たの?デートの邪魔をしないでほしいな」
「番組で繋がった縁なんて、簡単に切れるわよ」
「私とアクアはそんなことない」
「それは、あんたがそう思いたいだけ、アクアは優しいから傷つけない為の配慮かもね」
「彼の名前を呼ばないで」
「別にあんただけのアクアじゃないでしょ?」
口喧嘩では、有馬に勝てないと思った黒川だったが
「お一人様の妄言に付き合いつもりはないよ」
「そうね、出過ぎた真似だったわ、これに関しては謝罪するわ」
意外にあっさりと引き下がる有馬を見て、おかしい?と思う黒川だったが、すれ違いざまに
「アクアの腕の中って温かいね、気持ちよくて癖になりそう」
ハイライトの無い目でささやき、特大の爆弾を置いて、去っていった。
雨宮先生が原作よりも早く発見されたのは理由があります。その辺は宮崎編が終わる頃に記載します。DNA鑑定が不可能ということで彼の遺骨は無縁仏として供養されました。
東京ブレイド編に入る前に数話オリジナルを入れます。