アニメ3期が発表されましたが、どこまでやるんだろう?
5000万部の恐ろしさ
東京ブレイド
漫画家、鮫島アビ子先生が手掛けるバトルアクション作品であり、東京を舞台に21本の伝説の刀を巡って新宿クラスタと渋谷クラスタの2大勢力がバトルを繰り広げられる少年漫画であり、現在14巻まで発売され発行部数は5000万部を超えている。
なおアクアは未読で、ルビーから「鬼が刀を持って戦うの」という大雑把な説明を受けて、河原でケツを出して倒れている斬鬼さんを思い出していた。
星野アクアは学校の教室で漫画を読みながら、ノートにペンを走らせていた。その表情は鬼気迫るもので、独り言をブツブツ言いながら作業をしているので誰も近寄らないが、一人だけ例外がいて、後ろから近づいてきた。
「なんの用だフリル?」
「あら、足音は消したつもりだけど」
「感覚で分かる。特に大女優様のオーラと魅力は常に溢れ出てるよ」
国民的美少女、不知火フリルに軽口を叩けるのは彼だけだと思う。フリルは彼の前の席に座り、話を続けた。
「それ、アクアが出演する舞台の原作でしょ、いったい何をやってるの?」
「あ~これ?漫画で気になったシーンや、台本と見比べて感じた違和感をノートに書き出しているんだ、今度、出演者が揃っての顔見せもあるし、頭の整理も兼ねてる」
「台本なんてどこにも無いわよ」
フリルは彼の机を見るが、ノートと漫画しか置かれていない。
「台本は全部覚えた。それに学校に持って来て紛失や盗難にでもなったら、関係者に顔向けが出来ない」
「流石のプロ意識ね」
「褒めても何もないぞ」
「キスぐらいしても罰は当たらないわよ」
「勝手にどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「させねぇよ!」
この二人の掛け合いはクラスの名物にもなっていて、周囲の生徒たちもピリピリとした空気から解放されホッとしている。
「でも、珍しいわね」
「何が?」
「アクアって小説や小難しい本を読んでいるイメージだから」
「別に、興味がある作品なら読むよ」
「今まで読まなかった理由があると」
名探偵フリルは彼のパーソナルの部分を調べようと質問を繰り出した。
「『面白くない』と言えば簡単に済んでしまうが、常に伏線を考えてしまうんだ」
「どうゆうこと?」
「最近の漫画って展開が複雑過ぎて、娯楽の為に読んでいるのに、裏を読み取ろうとして疲れるんだ」
「なるほど、アクアは王道が好きだと?」
「好きだね、王道は常識で先が読みやすい。それに誰もが『次はこうなるだろうな?』と予測した時に、全く考えていなかった展開になると、「あぁこれが、あったか」という楽しみ方が出来てお得だ」
「漫画を損得で読むのって、アクアぐらいだと思うわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
彼は漫画とノートを閉じて、作業を中断させた。
「ごめん、邪魔だった?」
「いいよ、息抜きだって必要だ」
アクアが背もたれに体重を預け、曲がった背骨を正すように鳴らしていた。
「劇団ララライが2.5次元をやるなんて珍しいわね」
「そうなの?」
「アクアは知らないと思うけど、あそこは硬派路線だから、客に媚びるようなことはしないの」
「新規の獲得か、路線変更か、大人の考える世界だ想像するだけで野暮だよ」
「主演に姫川大輝ねぇ」
「共演したことあるのか?」
「えぇ、アクア1つだけ芸能界の先輩として言わせて」
正面からアクアの肩を両手でガッシリ掴み
「あんな人間になっては駄目よ、反面教師にしなさい」
「どんだけヤバいんだよ、姫川さんは」
学校が終わり、アクアは一人で事務所までの道のりを歩いていた。妹のルビーは「今日は、みなみちゃんと女子会だから」と言って、彼女を連れて足早に教室を後にしていた。
「(俺の役は、主人公達と敵対するクラスタの中心人物の刀鬼、あかねが演じる鞘姫の許嫁だけど読み進めると、つるぎと関係が深くなる。逆に鞘姫との絡みが薄くなるのが変だよな)」
彼は自身の役どころを考えながら思考に没頭してた
「(役のイメージは何だ?)」
台本や原作を読み込んでいたが、アクアは役のイメージを掴めていなかった。彼の脳内には生前から享受していた特撮・アニメ・漫画、実在する人物から刀鬼の核を作り上げようとしていたが『これだ』という明確な答えが見つからなかった。
事務所に入ると、社長の壱護は来客の対応で席を外していた。アクアは今後のスケジュールの確認のため、ミヤコさんの所へ足を運んだ
「おかえりなさい」
「ただいま、ミヤコさん」
部屋の主には悪いが、アクアにとってここが自室以外で1番落ち着けるスペースだ
「大分お疲れのようね、やっぱ舞台のこと?」
「そう、どうも刀鬼のイメージが構築出来なくて」
「漫画のままじゃ駄目なの?」
「それだと、原作をなぞるだけのロボットだし、これを舞台化するってことは内面の部分を作らないと意味が無い」
「難しく考え過ぎよ、もっと肩の力を抜きなさい。今からそれじゃあガス欠するわよ」
苺プロ内で2番目に人生経験が豊富な彼女にとって、悩むアクアを手助けしてあげたいが彼はそれを望まない。アイとのデート以降、多少マシになっているが根幹の部分は昔のままである。なら大人として何をするべきか彼女もまた悩んでいる。
「アクアさん、コーヒーが入りましたよ」
「ありがとうMEMさん」
アイドルでレッスンが無いときは事務員として働く彼女に促され、ソファーに腰を掛けた
「東京ブレイドですか」
「えぇ」
「弟もファンなんですよ、『刀鬼みたいなお兄ちゃんがほしい』って、アクアさん、もし鮫島先生と会えたらサイン貰ってきてくれますか?」
「いいですよ、稽古の現場に来るかもしれませんし」
「ありがとうございます」
彼女の淹れたコーヒーを飲もうとした瞬間、何かがアクアの中で弾けた気がした。
「MEMさん今なんて言いました?」
「ふぇっ?サインを貰ってですか?」
「いや、その前」
「刀鬼みたいなお兄ちゃんですか?」
「それだ、そうだよ、これは盲点だった。誰だって鞘姫が年上だと思う、クラスタを率いる頭なら最年長だと勘違いする。MEMさんありがとう」
立ち尽くす彼女にお礼を言ってアクアは部屋をあとにした。
「私、変なこと言いました?」
「いや、多分アクアの目にはMEMが女神に見えたと思うわ」
「女神だなんて」
彼女は両手を頬に当てて恥ずかしがっていた。
アクアは自室に駆け込み、台本・漫画・ノートを取り出し『刀鬼を兄に見立て』考察を始めた。それは今まで解けなかったパズルが組み合わされるように、思考の空白部分をどんどん埋めていった。
「(リーダータイプという訳ではないが、組織の上官として指揮を任されている。X4のカーネルは妹のアイリスがいるが性格が違う。『マコト兄ちゃん』は論外あれはただのシスコン、大切な人を守る兄・・・朽木白哉だ、でも原作の先の展開を見ると鞘姫が空気になって、敵対してた『つるぎ』との関わりが多くなる。なんだこの違和感は?確かに今回の舞台で鞘姫の性格が改変されているのは、台本を読んだ時点で変に思ったが、尺の都合か?)」
彼は机の上にあったノート類を片付け、頭を休めた。アクアにとって今回の舞台は役者として、初めて大きな仕事である。準備は大切だが、過剰な準備は固定観念を作りあげてしまう。状況に応じて頭の中ある、引き出しから最適解を取り出す。日常生活においてもアクアが得意とする手法である。刀鬼のイメージさえ作り上げれば、普段からお兄ちゃんをやっているアクアにとって自然体で挑める。
~東京ブレイド 出演者・スタッフ初顔合わせ~
アクアと有馬はミヤコさんの運転する車で、劇団ララライ本社に向かっていた。ただ車内のアクアはドアにもたれかかり、顔を青くしていた。
「あんたねぇ、人には散々『体調管理を疎かにするな』って言うのに、言ってる本人が調子悪くして、ギャグにしては最悪よ」
「面目ありません。あと大きな声はやめてください。頭に響く」
「自業自得よ」
アクアが絶賛体調不良だった。別段季節の変わり目で崩したのではなく、電話で黒川あかねと早朝まで舞台についての討論となり、結論が出た時には朝日が昇っていた。
「ったく世話の焼ける後輩ね」
「え?」
有馬はドアにもたれかかるアクアを引き寄せ、自身の膝の上に頭を乗せた。
「あの、これは?」
「天才子役の膝枕よ、現場に着くまでだから堪能しなさい」
突然の膝枕に戸惑うアクアを、ハンドル持つミヤコは少し前にアイに聞かされた「有馬ちゃんがアクアのことを狙っている」ことを思い出していた。恋愛NGを声高々に宣言はしてないが色恋沙汰はご法度、スキャンダルで先の人生を棒に振るアーティストを見てきたミヤコにとって、頭痛の種になっている。アイの時でさえ胃に穴が開くレベルのストレスを負っていた彼女は胃薬を準備しようか迷っていた。
ミヤコの苦労など露知らず、アクアに膝枕をする有馬は、彼の頭や体を撫でながら、現場に着くのが遅れればいいと思っていた。
当のアクアは目を閉じて彼女の温もりを感じ取り、夢の中へ落ちていった。
フリルちゃんを動かすのは楽しいです。