【完結】途中から星野アクアになりました。   作:大気圏突破

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 今日も頑張って投稿していきます。

3月25日 17時31分 アクアの台詞に1文追加しました。


晴れのち所々大雨からの晴れ

 

 

 

 稽古中に倒れたアクアは二日後には復帰した。金田一や他の演者たちも心配していたが、彼の顔がその心配を吹き飛ばすように晴れやかに輝いていた。当の本人も「倒れたおかげで切っ掛けが掴めた」と豪語し、みたのりお氏に医務室まで運んでくれたことに対して感謝の意を述べると、彼はメガネの奥からキラリと光るモノを流していた。

 

 

「アクア」

 

 ただ彼女だけ違った。

 

「あかね、俺の過去を聞いたんだな」

「うん」

 

 黒川はアクアの隣に座って、更に口を開いた

 

「どうして教えてくれなかったの?事故や記憶のこと、私はアクアの彼女なのに」

「俺自身が過去そのものに決別してるからな、記憶にないことを憂いでも、今を生きる俺にとっては些末な問題に過ぎない」

「じゃあ何で、かなちゃんには教えたの?」

「聞かれたから、答えただけ」

 

 アクアは黒川の目を真っ直ぐに見ていた

 

「じゃあ、私がアクアの過去を尋ねたら、答えてくれたの?」

「あぁ、もちろん。結局あかねは俺の過去を求めないで、今の俺を見てくれたんだろ」

「そうだけど、でも」

「この話はここまでだ、今日は舞台に立っての通し稽古だ、いくぞ」

 

 アクアは先に立ち上がり、彼女に向けて手を差し出した。

 

 

 

 劇団ララライの練習用の舞台は広く作られているが、実際に演じる所とは違い、ワイヤーアクションなどは出来ない。今回はアクロバティックなアクションは無しで行われる。

 

 

「アクアもう大丈夫なのか?」

「何度も聞くと嫌になるぞ」

 

 メルトと一緒に舞台袖に来ていたアクアは辟易していた。

 

「しかし実際に立つと、広く感じるなここは」

「えぇ凄いでしょ、稽古でも本番のように動くことが出来るのはララライの強みです」

 

 彼らの後ろに立っていた。みたのりおが自慢するように喋り

 

「じゃあ、あの天井にあるのは?」

「あれは舞台の上に置けなくなった備品ですね。本来は専用の倉庫に保管するのですが、生憎いっぱいでして、天井のスペースに鎮座させているのです。安全の観点で言えば、重量のあるモノを置くのはあまりよろしくない行為ですね」

「ふ~ん、安全ねぇ」

 

 

 全体稽古は特段大きなミスもなく行われ、金田一による細かい指導もあったが積み重ねてきたことを発揮し、演者たちも心地良い疲労感で溢れていた。

 

「星野、ここの演技だが、脚本通りに動くと少し早くなるな」

「そうですね。アクション込みで考えると妥当かもしれませんが」

 

 アクアと姫川は袖から自身たちが対峙するシーンについて検討している。舞台上では鞘姫役の黒川と敵対関係となる有馬のつるぎが戦うシーンだった。本番では彼女たちがセンターを陣取るので肝と言える場面である。剣劇のアクションは互いの呼吸を合わせて行うので、ダンスに近いと言われている。片方が先走ってしまえばバランスを崩し、見栄えも悪くなる。

 

 

 黒川と有馬はある意味、互いのことを知り尽くす関係であり、なんとなくだが相手がどんな手を打ってくるのかが予想出来る。彼女たちのアクションを見ていた金田一も満足気に見ていたが、その瞬間

 

“ズドーーーーーーーーーン!!”

 

 天井に置かれていた多くの備品が彼女たちめがけて落ちてきた。大きな衝撃に殆どの面々が目を瞑り、目の前の惨状を目撃することが出来なかった。やがて舞い上がった砂埃が落ちてきて舞台を写し出した。中心にいた黒川は無事だったが、有馬の姿が見えない。全員が最悪の事態を想像したが

 

「早く来て!」

 

 有馬の声がして一同は、ホッとしたがおかしいと感じた。「早く」ってどうゆうことだ?無事なら違う言葉のはずでは?他に巻き込まれた人がいるのか?でも舞台上には二人しかいなかった。

 

 

「早くして、アクアがアクアが死んじゃう」

 

 

 時を少し戻そう。二人が舞台上でアクションをしている時、アクアは奇妙な音を耳にした。しかしどこから聞こえるのか分からない。姫川に尋ねても「分からん」と答えていたが、耳を澄ませると上の方から聞こえた。顔を上げると鎮座されていた備品たちが今にも落ちそうになり、下には有馬たちがいた。アクアは台本を投げ捨て駆けだした。備品が彼女たちに直撃する前に、黒川を射程外に弾き飛ばしたが、有馬のところまで距離があった。覚悟を決めたアクアは彼女を守るように抱き着き、上から降ってくる衝撃を全て、その身で受けた。

 

「星野!」

「嫌ーーーアクアーー」

「早く救急車、あとAED持ってこい!」

「備品どけるの手伝え、早くしろ!!」

 

 姫川たちが総出で掘り起こし、数分後に二人を見つけ出すことが出来た。有馬は多少の怪我を負っていたが無事だったが

 

「おい、星野しっかりしろ、さっさと目を開けろ」

「AED使うから、服を脱がすぞ」

「頭を動かすな!」

「アクア、お願い目を覚まして」

「邪魔だ黒川、どけ」

「救急車が来ました。こっちです」

 

 救急隊員が駆けつけて、担架にアクアを乗せた瞬間

 

「だい・・・じょうぶか・」

 

 彼が目を覚ました

 

「アクア、大丈夫、私はだいじょうぶだから」

「よかっ・・た・・・かながぶ・・じで」

「喋らなくていい、だから死なないで」

「だい・・・・じょ・・・・・お・れ」

 

 再び彼は目を閉じた。

 

 

 

 

 斉藤ミヤコは事務所内で今後のことを考えていた。B小町はセンターを務める有馬が舞台公演を終えてから本格的な活動を開始する。既に彼女たちの新曲製作についてはオファーを出してある。アクアも今回の舞台を足掛かりに役者として売り込んでいくが、彼は自分たちの予想を良い意味で裏切るので扱いが難しい。思案していると

 

「ミヤコさん、コーヒーが入りましたよ」

 

 MEMが彼女にカップを渡そうとした瞬間、持ち手の部分が破損してしまい中身が床に散乱してしまった

 

「すいません。大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、汚れたのは床だけだし、モップと雑巾持って来て」

「はい、スグに」

 

 

 ミヤコが部屋を出ていくMEMを見送り、新聞か廃棄用の書類で床のコーヒーを拭こうとしたとき、彼女のスマホが震え、電話越しから聞こえる言葉を耳にした瞬間、彼女の手からスマホが落ちてコーヒーに沈んだ。

 

 

 

 ルビーは授業中だったが、彼女の意識は夢の中にあった。武道館のステージで自分の名前がコールされ、目の前には雨宮先生がサイリウムを振っている。最高の時間がそこにはあったが

 

「ルビーちゃん起きて、ルビーちゃん」

 

 隣にいる寿みなみに起こされた。心地良い夢から起こされ不機嫌だったが、駆け足で教室に入ってきた先生の話を聞いた瞬間、寝ぼけていた頭は完全に叩き起こされた。

 

 

 

 タクシーの中にいたアイは壱護から、アクアの事故について聞いていた。自宅から病院まで1時間も掛からない距離だが、それ以上に遠く感じられた。息子の危機になにも出来ない自分が虚しく思える。代われるのなら代わってあげたい。神はアクアにどれだけの試練を与え苦しめるの?悪いことばかりが脳裏に浮かぶ、彼女を乗せたタクシーは病院の門をくぐった。

 

 

 

 

 アクアの処置はスグに行われ、姫川をはじめとしたメンバーの迅速な対応により最悪は脱していた。治療が終わり既に個室に移されていたが、ドアには『面会謝絶』の札が掛けられ、廊下には、金田一・姫川・有馬・メルトがいた。稽古は中止となり現場の対応は雷田・GOA・みたの年長者に任せ、黒川は精神的なショックが大きくララライの女性陣に付き添われ自宅に帰らされた。

 

 

「星野・・・」

 

 姫川が力なく彼の名前を呼ぶ、競馬場に連れて行ったり、夜中まで互いの好きなことを語り合い、数時間前まで隣で話していたアクアが今はいない。

 

「アクア」

 

 彼に助けられた有馬の顔が暗く、いつもの輝きは失われていた。稽古初日のとき黒川から『アクアを利用している』と言われた時は反論できたが、今の自分は彼のお陰で五体満足で無事である。なんで私を助けたの?目が覚めたら問いただしたいが、彼の目はいつ開くのだろうか?

 

 

 

 連絡を受けた3人がやってきて金田一から事情を聞いた。天井から落下した備品から彼女たちを助けるためにアクアが身を挺して守ったこと、未だに意識不明で面会謝絶であること、事情を知ったアイは崩れ落ち、ミヤコは叫ぶルビーを抱き寄せた。

 

 

 

 個室のドアが開き、中から出てきた医者から伝えられたのは

 

・初期処置が的確に行われたおかげで命の危機は脱している

・頭部へのダメージはなく、脳波も異常は見当たらない

・肋骨が3本骨折、腕と両足にヒビが入り、落下の衝撃で内出血や筋肉に大きな損傷がある

・落ちてきた備品によって気道が圧迫され、呼吸が出来なかった

 

 

 

 面会謝絶の札は取り外され、全員入ることが出来ないのでアイ・姫川・有馬が選ばれて入室した。点滴と呼吸器に繋がれたアクアの顔は穏やかだが、いつ目を開けるのか分からない。彼を見た有馬がベッドに近づき

 

「起きてよアクア、ねぇ起きてってば、私あんたに助けられてばかりで言いたいこと何も言えてないの」

「有馬落ち着け」

 

 姫川が有馬の肩を掴もうとするが、ふり解かれ

 

「勝手にいかないでよ、私をおいていかないでよ、戻ってきてアクア」

「オイ、有馬」

 

「あんたが死んだら、私は誰に好きを伝えればいいの、教えてよねぇ、起きてよアクアッ!!」

 

 彼女の悲痛な叫びが個室に響き、姫川も彼女を抑えることが出来なかった。

 

 

「ねぇ起きてよ、私の気持ちをあんたに伝えさせてよ、もう1度『かな』って呼んでよ、ねぇアクア!!」

 

 アイが彼女を抱き寄せようとした瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせえーーーーーーー!」

 

 

 突如、目を開けたアクアが上半身を起こし、呼吸器を外して叫んだ

 

「アクア?」

 

「たく、デケェ声出しやがって目が覚めちまっただろうが」

 

 

 その場にいた3人は突然の出来事に固まってしまった。さっきまで呼吸器に繋がれていたアクアが復活している。これは夢なのか?辛い現実から目を背けた幻想なのでは?しかし目の前にいるアクアは生きて動いている。姫川はスグにナースコールを押し、外にいる面々に彼が目を覚ましたことを伝えた。

 

 

 やって来た担当医に診察してもらい、アクアが無事であることのお墨付きを貰った。『安静にするように』という注意を受けたのは言うまでもない。

 

 

「星野、お前」

「どうしました?ハトがガトリングを受けたような顔をして」

「どんな顔だよ」

 

 いつもの彼の言い回しに安心する姫川たちであった。

 

 

 金田一から今回の件で謝罪を受けたアクアは、今までの言われたことに対する嫌味の復讐としてネチネチと安全対策に関することを喋り続けた。なお彼は事故の件で警察からも呼ばれていたので部屋を後にした。

 

 

「アクア「お兄ちゃん」」

 

 

 アイとルビーから声を掛けられた彼は

 

「ごめん、心配かけて」

 

 謝罪をしたが

 

「バカ、謝らないで」

「お兄ちゃんらしいけど、残される方の気持ちを考えてよね」

 

 二人とも感情のコントロールが出来ず、伝えたい言葉を伝えることが出来なかった。彼は隣にいる彼女に目を向けて

 

「有馬、大丈夫そうだな」

「ったく、自分のことよりも私の心配をするなんて、あんたどんだけお人好しなの?」

「さぁ?生まれた頃からかな?」

「あと、もう名字で呼ばないで、あの時みたいに『かな』って呼んで」

「分かった。それで俺に何を伝えたいんだ?耳元でギャーギャー騒ぐから、ちゃんと聞こえなくてね」

「1回殴って忘れさせようか?」

「止めてください。かな様~」

 

 二人の寸劇で個室内は笑いに包まれた。なおアクアは点滴を外し帰ろうとしたが、全員に押さえつけられベッドに拘束されてしまった。本人は「ちょっと痛いけど大丈夫だって」っと豪語するが、流石に彼らの圧に負けてしまい病院で一夜を明かすこととなった。

 

 

 消灯前にアクアのスマホが震え、画面に写る文字は有馬からだった。彼は個室を出て電話用の専用スペースまで向かい通話ボタンを押した。

 

「ねぇ、今大丈夫?」

「そういうこと1回LINEで聞かない?」

「もう、そこまで頭が回らなかったの」

 

 有馬の怒る声が聞こえたが、本気ではなかった

 

「んで、何の用?」

「ねぇ、なんであのとき助けてくれたの?」

「さぁ、なんでだろうね?」

「はぐらかさないで、こっちは真剣なんだから」

 

 アクアは有馬の反応を楽しんでいるが、相手からしては気が気でない

 

「体が勝手に動いたって感じかな」

「え?それだけで、あんなことを?バカなのあんた」

「そんなバカに助けられた、女の子はどこの『かな』でしょうか?」

「言ってくれるわね」

「そうだな、あともう1つ理由がある」

「なによ、ふざけた内容ならキレるよ」

 

「女の子を助けるのに理由なんて要らない」

「え?」

「あともう1つ伝えたいことがある」

「なによ」

「俺に怪我をさせたことに負い目を感じるな」

 

「じゃあ、もう切るぞ、隣で看護師さんが鬼のような形相で睨んでいるから、おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

 

 有馬はスマホをベッドに投げつけ、自身も倒れた。

 

「あのバカを好きな私も、相当なバカ者だね」

 

 




 アクア君の「デケェ声」からの台詞は某アニメで石川英郎さんの発した言葉です。分かる人いるかな?20年前の作品だし


 1つ気になるのが事故を起こして、スグに演劇の公演って出来るのかな?作中内ではご都合主義を通しますが、自身の勤める会社では下請けの工場が爆発事故を起こし復帰するまで約10日間掛かってました。



 感想や評価を入れてくださり、誠に感謝しています。書いている側としても励みになります。



追記

感想で「有馬」名字呼びに違和感を感じるというのがあったので、夏祭りのシーン以降、極力名字呼びを控え、ここで名前呼びに切り替えさせてもらいました。
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