東京ブレイド初日公演延期
劇団ララライ内で起きた事故により、刀鬼役の星野アクア(16)が、つるぎ役の有馬かなを庇い重症を負った。当初は代役を立てる予定だったが、原作者の鮫島アビ子先生によるNGとお役所関連の方々が「事故があったのに予定通り公演って、舐めているんですか?」のキレ芸を披露し、初日公演は延期となり本番で使う劇場は先の予定が埋まっていたので、公演期間を短縮することを決定した。なお予約チケットはキャンセル扱いとなり、もう1度予約を行う措置が取られた。金田一と雷田は事故からの対応で関係各所に謝罪行脚を行い、頭の下げ過ぎで腰を痛め、靴底も2センチ擦り減ってしまった。なお重症を負ったアクアは
「アクアっギブだ、ギブ」
「ギブってなにをくれるんだ?」
稽古場でメルトにパロスペシャルを仕掛けていた。
アクアは5日で退院し、スグに稽古に復帰しようとしたが苺プロの面々に止められ、本人はそれを振り切って行く予定だったが、MEMの「アクアさん、駄目です」の泣き落としにより、『見に行くだけ』という折衷案に収まった。【絶対に約束は守らない】と思ったミヤコたちは、有馬とルビーを監視役に命じた。なお医者からは「こんなの絶対に有り得ない」と言ったが「鍛えてますから」と返していた。
「い~い?絶対に何もしないでね」
有馬は隣に座るアクアに注意をするが
「もう、分かってるって、何回言えば気が済むんだよ」
「あんたがバカだからよ」
ごもっともなツッコミである。
「俺は割と約束を守るって知っているだろ?」
「じゃあ破ったらどうする?」
「かなの言うこと、1つだけですが何でも聞きます」
「ルビー録音した?」
「バッチリです。先輩」
助手席から後ろを向いて敬礼をするルビーが、録音アプリを再生していた。
「ったく、まぁいいよ稽古を見るだけだし」
当の本人は楽観視していたが、大丈夫なのだろうか?
本部に到着したアクア達は稽古場に向かいドアを開けた。既に姫川やメルトから退院していることを聞いていた演者たちは彼を見て集まり復帰を祝った。アクアは辺りを見回し端の方で座っている黒川の所へ足を運んだ。
「よっ、隣いいか?」
「うん」
「そっちは怪我、無かったよな?」
「うん」
「なら、安心だ」
アクアは壁に背中を預け、黒川の方に顔を向けた
「ねぇ」
「ん?」
「なんで助けたの?」
「言ってる意味が分からんな、理由が欲しいのか?」
「だって、死んじゃうかもしれないんだよ」
涙目の黒川はアクアの目を見つめていた
「じゃあ、それまでだ」
「え?」
「俺の人生は、生きるも死ぬも俺次第だ。そして今生きているこの瞬間を悔いなく生きるようにしている」
「狂ってるよ、そんなの」
「確かに狂っているよ、俺が死んで、残されて悲しむ人もいる。その人の為に生きるのも答えだ」
「そうだけど、だって」
「俺を想ってくれる人がいる。だが死に対していつまでも囚われてほしくない。まぁ、まだ俺自身の夢が叶っていないから当分死ぬつもりはない、と言うか人生ギリギリまで生き続けないと俺の夢は叶うことはない」
彼は立ち上がり、黒川に手を差し出した。
「止まっている暇はないよ、あかねの足は飾りか?」
「アクア、カッコイイ台詞だけど、ズボンのチャック開いてるよ」
黒川はアクアのズボンを指差し、顔を赤らめていた。
「せっかく決めたのに、締まらないな、だからチャック全開か」
このやり取りを見ていた面々も笑い、アクアが戻ってきたことを実感した。
「星野って、凄いな」
「どうしてですか?」
遠くから様子を見ていた姫川にメルトが質問した
「意気消沈していた黒川を慰めて場の空気も明るくする。並大抵のことじゃ出来ないよ」
「アクアって基本はお笑い寄りですからね、女装もしますし」
「女装?そんなことやってるのか?」
「結構前に雑誌の企画でやりましたけど、アクア以外が最悪で流れちゃいましたが、確かYouTubeにもアクアの女装ありますよ」
メルトはスマホを取り出し、MAYちょのチャンネルにあった【星野マリン】動画を見せた
「なぁ、この娘紹介してくれるか?」
「だから、これアクアですよ」
姫川はメルトからスマホを借りて、アクアの所へ足を運び
「なぁ星野、これ本当にお前なのか?」
「誰が教えました?」
姫川は後ろを振り返り、メルトに向けて指をさした。アクアは彼に向かってニッコリ笑いながら近づき、雰囲気で気圧され金縛り状態のメルトに
「メルト、お前は覚悟が出来てる人だ」
「え?それってどう・」
メルトが続きの言葉を紡ぐ瞬間に
「セイッ!」
彼の腹に正拳突きを与え、くの字に曲がったメルトの背後に周り、両足を内側から引っ掛け、両手をチキンウイングで絞りあげていた。
「痛い、イタタタタ、アクアッ!ギブだギブ」
「ギブって、なにをくれるのメルト君」
人の過去を蒸し返したり、安易に弄るのはやめよう。特にアクアに対してはやってはいけないと思う。演者たちであった。
しばらくして、金田一と雷田が入室し、疲れた顔をしていたが今後のことについて伝えてきた。結局公演期間は短縮となり、1月中旬の日曜だけの1日間開催で、8月に代替公演を行うことになった。また今回に限りアクアのアクションシーンは極力抑える方向となり、脚本の修正を行うことが決定された。現在GOAと鮫島先生が急ピッチで仕上げているが、彼女にアクアの事故を伝えると「私のご飯、誰が作ってくれるんですか?」と大激怒していた。
結局、今日は刀鬼の居ない場面での稽古が中心となり、アクアは見学となったが金田一から信用されていない彼は、雷田と金田一の間に座らされることになった。
「星野、実際のところどうなんだ?」
「体のことですか?若干の痛みはありますが、日常生活に支障はありません」
「規格外にも程がある。頑丈に産んでくれた親に感謝するんだな」
金田一は両手を頭に回して
「本音を言うと、お前の復帰に関しては反対だ」
「じゃあ、何で代役を立てなかったんですか?」
アクアは金田一の意図が読めなかった
「反対というのは人としての判断だが、演出家として刀鬼をお前以外の役者にやらせることに抵抗があった」
「演出家としての判断ですか?」
「そうだ、重症の役者を使うなんて世間から後ろ指差される鬼畜の所業だ、だが俺はお前の演じる刀鬼が見たい、それを観客たちに伝えたい。今回の件で俺の首が飛んでもいい、その覚悟を伝えたい」
彼の目は真剣で、まるで炎が灯るように輝いていた。
「アクア君、金田一先生がここまで惚れ込むって珍しいよ」
「とりあえず、修正した台本を早くお願いします」
「分かった」
この日は夕方まで、稽古が続けられ各々解散となった。アクアは有馬と壁際で寝ていたルビーを起こし、稽古場を後にして迎えに来たミヤコさんの車に乗り込んだ。しばらくして有馬がアクアに
「アクア、雷田さんたちと何を話してたの?」
「ん?金田一さんが、俺の復帰に関しては反対だって」
「でも、代役は」
「人としては反対、演出家としては賛成なんだと」
「はっ?それって、あの人のワガママじゃん」
有馬の怒りが車内に響くが
「大の大人が自身の半分以下のガキに頭を下げて、俺の演じる刀鬼を見たいって言うんだ。己の進退を賭けたあの人なりのギャンブルだと思う」
「それは、アクアの解釈次第だけど」
「なら、こっちも星野アクアをベットしないとな、この賭けはどう転ぶのか?」
アクアは窓の外に視線を移し、背もたれに体重を預けた
「話は変わるけど、朝の約束覚えているよね」
「あぁもちろん、稽古中じっとしていただろ」
「そうだけど、メルトにやったあれはどうなのかな?アクアくぅ~ん」
「あれはノーカンだろ」
「ルビー、ジャッジは?」
「お兄ちゃんの負けです。抗議は受け付けません」
「ったく、まぁいいよ俺の負けで、流石に無理難題なことはやめれくれ」
「素直でよろしい。いつか使わせてもらうよ」
二日後、苺プロに届けられた台本を読んだアクアは修正された部分のイメージトレーニングを行っていた。彼の脳内では自身の立ち振る舞いと相手の動きを想像し、本番までの時間を1分・1秒でも無駄にしないように真剣に取り組んでいた。
なお台本の最期のページには「いつでも嫁ぎに来てください」というアビ子先生のメッセージが添えられていた。
超が付くほどのご都合主義で東京ブレイドを公演します。
アクア君の怪我もヤバいですが、彼なりのプロ意識で挑みます。流石にリアルでこんな重症で舞台に立つのは無理ですが、筆者は高校時代に両腕と肋骨を2本折った状態で競泳の県大会に出場させられました。(1500自由形)完治するのが2ヶ月伸びました。
なお、原作とは違い、有馬かなの役者としてのメンタルは安定しているので、それほど卑屈にはなっていません。