星野アイはB小町というアイドルグループのセンターである。彼女の人気は凄まじく、テレビに呼べば視聴率は跳ねあがり、雑誌にモデルとして掲載されれば売り切れ続出である。しかし彼女は子供を身籠ってしまい、隠れて出産した。苺プロの斉藤夫婦は細心の注意を払って、彼女たちを守るために奔走していたが、自宅がバレてストーカーに襲われしまった。幸いアイに怪我は無かったが、アクアが重傷を負い記憶を失った。彼女たちの心に深い傷を残した。しかしアクアが今を必死に生きているのを見て、止まってられないと感じた。
「(なるほど、B小町ね、星野アイを中心としたアイドルユニット、東京ドームライブが決まっていたが、当日に襲われライブは中止となったが、数か月後に代替えライブを行うことに成功した。)」
アクアがこの世界に来て約1年以上が経過していた。怪我による障害もなく元気に過ごしている。あれから彼は時間があれば、テレビやスマホから情報を洗い出して、自分が生きていた世界との齟齬を埋めるようにしていた。
B小町は延期していた東京ドームライブを行い、約5万人以上の人達を熱狂させた。またライブDVDの売り上げも80万枚を超える大盛況で、キャンセル料をペイすることが出来た。星野アイをライブ後も精力的に活動を続け、マルチタレントとしての地位を獲得している。
「(母はアイドルで父親は分からないって、ここはフィクションの世界かよ?)」
彼の言っていることは大正解だが、それに対して答えてくれる人は誰もいなかった。彼は見ていたテレビを消してコーヒーを飲もうとしたが、妙な視線に気づいた。
「(ルビーだよな?なんであんなに距離を取るんだ?)」
妹のルビーはアクアが病院から帰って来てから、ずっとこの調子である。
「(まぁ今まで存在していた人間の中に、別の人間がいるもんだし、気味が悪いよな、しかしこのままじゃ埒があかないし、仕方がない)」
「ルビー、何が飲みたい?」
突然の発言に“ビクッと”するルビーだが、しどろもどろになって答えることが出来ない。それを見てアクアは
「オレンジでいいな」
と言いコップに注いで、テーブルに置く
「取りに来いよ、配膳のサービスなんてしないぞ」
トテトテと足早にやって来るルビーを椅子に座らせた。
「なぁルビー、1つ聞くが、なんで俺を避けてる?」
「別に避けてなんかないもん」
「じゃあ何で、遠くから見ている?言いたいことがあるなら言えばいい、俺は超能力者じゃないぞ」
「だって、だって」
ルビーはアクアの尋問に泣きそうなっている
「(こいつ、まさか?カマをかけてみるか?)」
「なぁルビー、俺の記憶が戻ってほしいか?」
「え?」
「医者が言うには、普段の生活をしていれば戻る可能性があるって言ってた」
「ホントなの?」
彼女は目をキラキラさせて体を乗り出してきた。それを見たアクアは理解した。
「ルビー、じゃあ記憶が戻ったら俺は【要らない】よな?」
「え?」
「そりゃそうだ、星野アクアの体に今まで記憶が戻るってことは、今の俺が必要なくなるってことだろ?そうすれば皆シアワセ、ハッピーエンドだ」
「違う、ちがうよ」
「違わないだろ、星野アクアが元通りになれば誰も悲しまない、誰も不幸にならない。お前も心の底から願っているだろ?」
「いや、言わないで」
ルビーは声が震え、段々と涙目になっていく
「お前は今の俺を見ていない、過去の星野アクアしか見ていない、悲しいね」
「過去に縋るのが悪いとは言わないよ、当たり前のことなんだから」
アクアが一通り言い終えると、しばらくの沈黙が続き、コーヒーも冷めてしまった。
「だって、だって怖かっただもん」
「どうゆうことだ?」
「お兄ちゃんとの思い出が無くなるのが怖かった、一緒にママのライブに行ってサイリウムを振ったり、ママと映画に出たり、楽しかったのに、その思い出が全部無くなっちゃうのが怖いんだもん」
ルビーは涙を流しながら訴える
「私だって分かるよ、記憶を失ったお兄ちゃんが、頑張っているの、でもそれを見ちゃうと今までのお兄ちゃんが居なくなっちゃうと、思っちゃうんだもん」
「ルビー、お前の気持ち分かるが、それは今を生きる俺にとっての侮辱だ、理解してくれなくてもいい、納得してくれなくてもいい、受け入れてくれなくてもいい、でも【今の俺を見ていてくれ】頼む」
そう言ってアクアはルビーに頭を下げた。少し間、何も起きなかったが
「分かった。今のお兄ちゃんを信じる」
「ありがとうルビー」
彼女に近づき、ゆっくりと抱き寄せる。ルビー体は小さいけどポカポカと温かい気持ちを受け取り、アクアはまた一人大切な家族を得ることが出来た。
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだルビー」
「この状況、ママが見たらどうなるかな?」
「多分、「きゃわいい~」って言いながら写真でも撮るんじゃない?」
「じゃあ内緒にしよ、ルビーとお兄ちゃんの秘密にするんだ」
「ありがとうルビー」
そう言ってアイが帰って来るまで、頭を撫で続けるのであった。
次は少し時間を飛ばしていきます。
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