仕事がバラシになり、みたのりお氏が運転する車に乗ったアクアは窓から見える景色を眺めながら最近の出来事を思い返していた。
「(なんか最近、間が悪いと言うか歯車が噛み合わないな)」
旅行のキャンセルや今回のバラシなど不運が立て続けに起こっている
「(神様がいるとしたら、何もせずに休めって言ってるのかな?)」
思えば役者復帰してから1年が経過し今までのことを纏めると文庫本2冊レベルの内容が詰まっている。全力疾走で駆け巡っていたツケがあったのかもしれない。
「(なら、宮崎には行かせてほしかったね)」
「アクア君どうしました?」
ハンドルを握る彼が沈黙を破り問い掛けてきた
「いえ、最近のことを思い出して、なんか間が悪いなって」
「間ですか?」
「えぇ、みたさんも経験あるんじゃないですか?」
答えた質問を返されたメガネは
「そうですね。ありますが私は考え方を変えますね」
「考え方?」
「そういった不運や失敗は次に向けて力を溜めている状態だと思うようにしてます」
「意外とポジティブですね」
「アクア君のことは黒川さんから聞きました。誰が見ても頑張り過ぎと言えますよ」
少し強い口調だが、怒りなどではなく
「確かに今を悔いなく全力で生きるのは素晴らしいですが限度があります。今は若いから何とかなりますが確実にツケがやって来ます」
「経験者は語るってやつですか?」
「アクア君、一度立ち止まって後ろを振り返ってください。そして自身の命を無駄に扱わないでください。老婆心ではありませんが、あの事故を含め君は自分の命を軽く見ています」
「耳が痛いですね」
「いずれ君も結婚して、妻や子供を持つでしょう。家族を悲しませるのは一番やってはいけないことです」
「ありがとうございます。みたさん」
その後アクアは目的の場所で降ろされ、どこの店にするか迷っていたら
「アクア?」
「ん?フリルじゃん。どうしてここに」
国民的美少女と出くわしてしまった
「それは、こっちの台詞よ、あなた宮崎じゃ?」
「ははは〜、社長が撮影の日程を間違えて、お留守番になりました。ついでにその撮影もさっきバラシになったよ」
アクアはいつものおどけた口調だったが、キレがなく表情も少し暗かった。明るく振る舞っているつもりでも親しい人なら分かる程だ
「ところでフリルは、何でここに?」
「私のオフに興味津々かしら」
「あら?オフでしたか、それなら休みを満喫してきてよ、俺は少し早い昼飯にでもするさ」
アクアは足早にそこから去ろうとするが
「待って!」
彼女は彼の手を掴み
「行きたかった飲食店があるから一緒に行きましょう」
「いいのか?せっかくのオフなのに」
「私がそうしたいの」
そう言って彼の手を握ったまま、その場から離れた。
「なぁ、周りからの視線がヤバいんだが」
「じゃあこうしましょう」
フリルは繋いでいる手を離し、彼と腕を組むようにして密着してきた
「別にクラスメイトが腕を組んではいけない法律なんて、ないわよ」
「左様ですか」
しばらく歩いた二人は彼女の目的とする店の前に辿り着き、ようやく腕を離してくれた。
「ここよ!」
「クスクシエ?何語だ?」
「個室の多国籍料理店なの、しかも毎月フェアが開催されてて今回は和食みたいね」
「因みに先月は?」
「タジキスタン料理よ」
「(どこ?)」
入店した二人は従業員の女性に案内してもらい、少し広めの個室スペースを与えてもらった。
「ここって完全個室だから、芸能人の密会や業界関係者の打ち合わせにも使用されるの」
「へぇ~」
「さぁ頼みましょう。私が誘ったんだからお会計は任せて」
彼女が胸を張って宣言するが
「女の子に払わせるほど鬼畜じゃないんでね、それにフリルにはお世話になっているから、俺が出すよ。社長の財布から少し拝借してるし」
「じゃあ、お言葉に甘えるわ」
アクアは、盛り蕎麦・合鴨焼きに天ぷらと焼きおにぎりのセット、フリルはナポリタンとサラダを頼んでいた
「和食フェアなのに、それを頼むか?」
「あらナポリタンは日本で生まれた料理だから和食でしょ?」
明るく返してくれる彼女を見て、アクアは少し笑いながら、箸で合鴨焼きを持って
「フリル、あ~ん」
彼女も口を開けて彼の好意を受けとった。しばらくしてフリルが
「ねぇアクア、何かあったの?」
「どうした急に」
「なんとなく、いつものアクアと違って見えたから」
要領を得ない言葉選びに彼は少し悩んだが
「独りで食べるより、誰かと一緒に食べるのって、いいなって感じたんだ」
「え?」
「今回俺だけが、ここに残って久々に家で独り飯だったんだけど、作り慣れている飯を食べたのに味を感じなくて、乾いたゴムを噛んでいる感じだった」
「味覚障害じゃないよね?」
「それは無いよ」
アクアは彼女の言葉を否定してから
「そりゃ、今まで独り飯の時があったけど、そんなこと無かったのに、舞台稽古で入院したときに個室で病院食を食べている時に『味が無いな』って思った。そん時は病院食だからって思ったけど違ったんだ」
「アクア」
フリルがハンカチを取り出し
「俺、泣いてるの?」
受け取ったハンカチで目元を拭くと確かに涙がこぼれていた
「最近、変だな俺、いつも通りの星野アクアさんなのに、感情と心が追いつかなくて」
「アクア1つ言わせて」
「何?」
「寂しい時ぐらい強がらず、ちゃんと寂しいって言いなさい!」
「フリル?」
「アクア、あなたは色んな人に光を与えてきた。テレビから出て来たヒーローのように優しくて私やみんなを助けてくれた。じゃあ誰がアクア助けてくれるの?孤高のヒーローなんて寂しいだけよ」
「俺は別にヒーローなんかじゃ」
「いいえ、アクアは私のヒーローなの、それに私のことを肩書きじゃなくて女の子として接してくれる。この前『私と喋ると癒させる』って言ってくれたとき嬉しかった!」
「アクア、いつか
「ありがとうフリル」
彼はそう言って頭を下げた
「ごめんなさい。私も感情的になっちゃって」
「フリル、少し前に聞いてきたよな」
「五反田監督の所で話してくれたこと?」
「好感度ボーナスだ!教えてやるよ、俺の過去を」
そう言ってアクアは自身が事故で記憶を失ったことを彼女に打ち明けた
「そうやっぱり」
「気付いてた?」
「なんとなくね、それに本音を隠すときのアクアって、いつもと違うから」
「そうですか、ってか聞かないんだな?この話をすると『記憶を取り戻したくないの?』ってあるけど」
「聞いたところでアクアは『過去の俺じゃなくて、今の俺を見てくれ』って言うでしょ?」
「よくご存知で、さて外に出るか」
会計を済ませた二人は、腕を組んではいないが近い距離で歩き
「ありがとうなフリル、誘ってくれて」
「いいのよ、アクアの過去も知ることが出来たし。それに意外にも寂しがり屋で可愛いね」
「茶化すなよ」
カップルや夫婦のような会話でアクアの心も晴れやかになる
「ねぇアクア」
「何?」
「ううん、なんでもない。ここでいいわ、後はタクシー捕まえて帰るから」
「じゃあ、また学校で」
「えぇ」
そう言って二人は別れた。アクアはここに来る前にみたのりお氏に言われた言葉を思い出し、今回の不運も次に繋がるステップだと思うようになった。フリルには当分頭が上がらないと思う。
ふらりと立ち寄った書店で適当に書籍を購入し、自宅に戻ると
「無敵要塞か何の用?」
彼女が玄関の前で体育座りをしていた。恰好も昨日と同じシャツだった
「ふく」
「ん?」
「私の服返してよ!」
ザイガスが立ち上がり、アクアに自身の着ていた服を返すように懇願したが
「ごめん、実は洗濯したんだけど、乾燥させたら縮んじゃって」
「多少小さくなるなら、いいわよ別に」
「じゃあ、上がって」
彼女を家に招き入れ、昨日の黒い服を渡したが
「あれ?こんな色だっけ?」
「色落ちも、しちゃったごめん」
アクアは頭を下げて謝った。彼女のことだから罵倒が飛んでくると思ったが
「ばか、これ好きな服だったのに」
泣かせてしまった
「分かった代わりの服を用意するよ、ちょっと待ってな」
その場を離れ、数分後に戻って来たアクアは彼女に紙袋を手渡した。中には昨日ザイガスが着ていた服にそっくりで色はパールホワイトだった
「これは?」
「少し前に、事務所宛てに『これで女装企画の動画をやってください』ってメーカーから届いたんだけど、間違って子供用のが来ちゃって持て余していたんだ」
「じゃあ、なんで昨日は?」
「あれは、俺の趣味だ!」
「悪趣味ね、でもありがとう」
お礼を述べた彼女のお腹から、特大の虫の音が聞こえ
「食っていくか?」
「いいの?」
「いいさ、ぼっち飯するよりも、誰かと食うのがいい」
「寂しがり屋だな、星野アクア」
「言っとけ!ロリータ」
彼は台所に立ち、手早く調理を済ませ、椅子に座る彼女に前に置いた
「これは?」
「お子様ランチだ、お前にピッタリだろザイガス」
食べ終えた彼女は、目の前でコーヒーを飲むアクアに
「1つ聞きたい、お前は何を目指す?」
「目指すって、どうゆうことだ?夢や願望でいいのか?」
「それもあるが、お前の持つ光は他者を魅了し、複数人の異性から好意を持たれている。お前が誰を選ぶのか気になるのでな」
「どうなんだろう?答えを出したいが」
「1つ忠告だ、優しいのはお前の長所だが短所でもある。いつか大きな災いを引き起こす種になるかもしれない」
「心に留めておく」
彼女は、椅子から立ち上がり
「では、去るとしよう。あとこれは昨日の慰謝料として貰っていくぞ」
「あっそれは!」
彼女は机にあった紙袋を持って、家から出て行ってしまった。
帰り道、独りで歩く彼女はアクアのことを考えていた。優しいバカでお人好し、こんな疫病神な私にすら頭を下げて謝るなんて底が見えない奴だ、だからこそ危うい、自身の命すら軽く見てしまう。喜劇か悲劇が彼の行く末を見物するのも面白い。
彼女は袋から取り出した包みを開けると中身は黄色いお菓子だった。甘い香りがして食欲をそそる。一口食べた瞬間
「くそ甘い、なにコレ、口の中がベタベタする」
ブラジルの代表的なお菓子である『キンジン』バターや卵を多く使い、その甘さはバライティ番組の罰ゲームに使われるほど凶悪であり、一度口にしたタレントは二度と食べたくないと豪語している
「おのれ!星野アクア〜〜」
昨日と同様、少女の叫びが響き渡る
フリルちゃんの台詞は某おじさんの台詞から拝借しました。
宮崎編が終わりましたら、日常編を挟みながら完結を目指します。この世界線でスキャンダル編や映画編やっても意味無いですからね
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