宮崎組のPV撮影も問題無く終わり、3日目を迎えた一行は、最後の自由時間を満喫していた。家族へのお土産を購入する二人、適当に散策をする先輩と後輩、答えの見つからない迷路を進む女優と元アイドル、飛行機の時間までには少し余裕がある。
有馬とルビーは集合時間まで旅館近くを適当に歩く当てのない散歩をしていた。二人はPV撮影の思い出や有馬がソロ時代に味わった苦難を肴にして、今自分たちが置かれている状況がとても幸福であることを実感している。
「ルビー、ありがとう」
「どうしたんですか先輩?急にそんな」
「ルビーが『アイドルを目指す』って思ってくれたから、私はここに居れる」
「先輩」
近くのベンチに腰を降ろし、手に持った紅茶で喉を潤した彼女は
「ルビーが夢の為に動いた結果、私の止まっていた時計の針が動き出して、落ちぶれた元天才子役から現役アイドルなんて、タイムマシンを使って1年前の私に言っても信じてもらえないわ」
「先輩の場合、お兄ちゃんと再会出来たのが、大きいんじゃないですか?」
「そうね」
ルビーの言葉に相槌を打ちながら
「神様がいるなら感謝したいね、ルビー達が陽東を受験して同じ日に私もそこにいて、アクアと久しぶりに出会うことが出来た。まぁ映画で共演していたことは忘れていたけどね」
「お兄ちゃんから聞いたんだけど、お兄ちゃんに『かな様に一生の忠誠を誓います』って吹き込もうとしたんですよね?」
「流石に、騙されてはくれなかったけどね」
アクアのように、おどけたように笑っていたが、表情を変え
「アイさんに指導してもらって、フェスで歌って、舞台に立って、役者として『生きている』って実感したの、煌びやかスポットライトを浴びるなんて久しぶりだった」
「それで、お兄ちゃんの布団に潜り込んで、抱きついて、クンクン匂いをかいで、自分の匂いをマーキングして、無防備な唇を奪って」
「そうそうって、まだその時はキスしてないわ!」
「おっ、ノリツッコミ、先輩お笑いの世界でも食べていけますよ。ん?ちょっと待ってください。『まだその時』って?」
有馬は顔を覆い墓穴を掘ったことに顔を赤らめた
「したよキス、あいつと」
「いつやったんですか?」
興味津々に聞いてくるルビーの顔を手で遠ざけて
「東ブレが終わった直後よ、あのバカ本番中に怪我が悪化してたのを隠してたから、痛みが引くまで倉庫にいたの、それを見つけてね」
「身動き出来ないお兄ちゃんを、暗い倉庫で獰猛な先輩が押し倒して『やめてください』って懇願しても、問答無用に唇を奪うって、 凄いシチュエーションですね」
「ルビー、あんたがタバスコを噴き出した瞬間のモザイク無し映像を、今からSNSに上げるけど、いいよね。答えは聞かないけど」
スマホをちらつかせ、既に指を押すだけでSNSの海に送る準備が完了している
「すいません。出過ぎ真似をしてしまい、すいません」
土下座で謝る現役アイドルがいた
「冗談よ」
「せんぱ~い!でもお兄ちゃんのどこに惚れたんですか?そりゃ妹の私から見ても、イケメンで料理が出来て、優しいって、結構な優良物件だな」
「多分、出会った頃から惚れていたんだと思う、でもきっかけは【今ガチ】のキスシーンを見た時ね、あの時に心の中に黒いモヤモヤが出来てね、それがず~っと燻っていて、フェス前に抱きついた時に答えが出た」
「でも、お兄ちゃんには黒川さんが」
「別れるよ!あの二人」
「どうしてですか?」
「女の勘よ!」
二人はその場を後にし、旅館へ戻るのだがSNSに『星野アクアと不知火フリルの2ショット画像』がアップされたのを見て、有馬の血圧は更に上昇するのであった。
MEMとミヤコは家族の為に土産物を物色していたが、カゴの中には何も入っていない。ミヤコとしては反省している旦那に向けてのモノだが安易に酒を選ぶのは避けたかった。
「ミヤコさん決まりましたか?」
「まだね、いつもなら地元の銘酒を選べばよかったんだけど、今回はね」
「難しいですね」
「いっそのこと、向こうに着いてから『人形焼き』でも買おうかしら?」
「それはちょっと」
「冗談よ」
ミヤコは適当に選んだ商品をカゴの中に入れていくが
「MEM、1つ聞きたいけど」
「なんですか?」
「アクアのこと好きなの?」
「好きですよ、でもLOVEじゃなくてLIKEです」
彼女は胸を張って自信満々に答える
「アクアさんが誰と結ばれようが、幸せになってくれれば最高なんです」
「でもあなたの幸せは?」
「私はアクアさんに幸せになる為の魔法を掛けてもらいました。それ以上を望んだら罰が当たってしまいます。だから私が幸せになるところを見ていてほしいんです」
「大人ね」
「これでも弟を持つ、お姉ちゃんですから」
「1つ、お願いしていいかしら?」
「なんですか?」
「もしアクアが困っている時には、傍にいて助けてあげて、あれでも繊細な部分があるの」
「分かってます」
互いに20を超える二人組は会計を済ませ、空港へ向かう準備を始めた。
黒川あかねは旅館近くの公園のベンチに座り悩んでいた。今回の旅行で彼との関係を深めたかったが来られないのでは意味が無い、あの時は強がりで参加すると言ってしまったが残っていれば違った結果があったのかもしれない。
「はぁ」
深いため息を吐いてしまう。初日に言われたことを飲み込むことが出来なかった。【今ガチ】で共演していた頃は年下の役者だったのに、付き合うようになってから次第にアクアの底が見えなくなり、それに比例して光り輝き、直視するのが困難になってきた。稽古に復帰したときも彼の歪さは度を超えていた。自分の命を軽く見積もってしまう。本当に狂っている
「隣いい?」
彼女が顔を上げると、目の前に星野アイが立っていた。本当にこの人は30代なのだろうか?と思うほど綺麗である。
「どうぞ」
「ありがとう」
彼女が腰を降ろし
「黒川ちゃんだっけ?こうやって話すのは初めてだけど」
「そうですね」
「【今ガチ】の最終回見ててビックリしちゃってね、まさかアクアを押し倒してディープキスするんだもん」
「あのアクアとは、どういった関係で?」
「育ての親かな、子役をやっている頃から見てたからね」
「そうですか」
黒川の表情が再び暗くなり、沈黙になってしまう
「悩み事?言ってみなさい。芸能人の先輩として答えてあげるから」
アイは自信満々に胸を張るが
「アクアのことが怖いんです」
「怖いって、まさか暴力とか受けて・・・」
「そうじゃなくて、最初の頃は私のことを助けてくれて、かっこよくて、優しくて、そんな彼に惹かれて告白して付き合うことになったのですが」
彼女に言葉にアイは首を縦に振りながら、相槌をうち
「舞台の時も、夜遅くから陽が昇るまで電話で話し合って、アクアのことを理解しているつもりだった。けど」
「けど?」
「かなちゃんに言われたんです。『アクアのこと利用しているんじゃないの』って、その場では否定したんですが、段々と尾を引くようになって」
「有馬ちゃんも口が悪いね」
「アクアは、あの事故から復帰した時、意気消沈している私を見て励ましてくれたんですが、同時に彼のことが怖くなって」
「どうゆうこと?」
「なんでアクアは人を助けるのに軽々と命を懸けてしまうんですか?自分が死んでしまう可能性だってあるのに」
「そのことは聞いたの?」
アイが神妙そうな顔で尋ねると
「聞きました。アクアは『じゃあ、それまでだ』って、自分は今を悔いなく生きているって」
「アクアらしいと言うべきか、説教するべきか」
「正直なところ、彼の持つ光は強すぎるんです」
「光ねぇ、言い得て妙だね」
「遠くから見るぶんには、暖かくて気持ちいいのに、隣では直視することが出来ないんです」
黒川あかねの心情の吐露にアイは目を細め
「でも、アクアを好きになるってことは、それを含めて愛するってことよ、そこに躊躇いが生じているようじゃ、幸せになんかなれない。仮に黒川ちゃんがアクアの光を我慢し続けるとしても、どこかで無理が生じてしまう」
「私はどうすれば?」
「知らないよ、答えを出すのは黒川ちゃん、あなた本人なのよ、突き放す言い方になるかもしれないけど、今のあなたにアクアを任せることは出来ない。恋愛沙汰に対しては部外者が口を挟むモノじゃないの」
アイは更に語気を強め
「アクアは今後、上を目指していくと思うわ、黒川ちゃんあなたは隣に立つ覚悟はある?」
彼女は答えることが出来ない
「この旅行が終わったら、二人で話し合いなさい。まだ若いの、ここで関係が終わっても誰も咎めないわ」
そう言って元アイドルは去って行った。
「アクア・・・」
黒川はここにいない彼の名前を叫ぶが、呼んでも来ない。しかし1通のメールが届く
「金田一さん?」
女性陣は各々の準備を済ませ飛行機に乗り帰宅した。今回の製作したPVは後に編集され苺プロに送られ、事務所公式YouTubeに上げる予定だ。また新曲のリリースや音楽番組への出演やライブの予定もあり、新年度からは忙しくなる。
「「ただいま~」」
アイとルビーが帰宅し、アクアが出迎える
「お兄ちゃん、留守番ご苦労様」
「楽しかったか?宮崎は?」
「うん、今度は3人で行こうよ、宮崎だけじゃなくて九州1周旅行にして」
ルビーは次の旅行の予定を考えるが
「ねぇアクア、どうしたの?何かあった?」
母が尋ねると
「『待つって寂しいんだな』って、ようやく気付いたかな?入院した時の母さんたちの気持ちが少し分かった気がする」
「アクア・・・あなた?」
「お兄ちゃん変だよ、今から病院行こう」
「ルビーの頭よりは大丈夫だよ」
2日間だけ離れていたが、家族の大切さを理解したアクア、今の彼ならこの先、命を粗末に扱うことはないだろう
数日後、黒川あかねと星野アクアの破局が各所に伝えられた
ザイガスが宮崎に行ってないので、ルビーは雨宮先生の遺体を発見してませんし、既に警察が骨を回収しています。そのため原作のように黒化してません。
あとは完結に向けて執筆を頑張っていきます。
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