さよならは突然に
宮崎旅行から翌日、アクアは黒川あかねに呼び出された。当の本人は土産話を聞かされるのかと思っていたが、15分前行動をするアクアよりも早く席についていた彼女の表情を見て、違うことに気付いた。
「ごめんね急に呼び出して」
「別にいいよ、ただ土産話を言いに来たという訳では無さそうだな」
「やっぱ分かっちゃう?」
「あかねのことを近くで見てきたからね」
アクアの返答に心を決めた彼女は意を決して口を開け
「私たちの関係を終わりにしましょう!」
突然の言葉に驚き、アクアは今までしたことのない表情をしていた。
「エイプリルフールはもう少し先だが」
「ううん、そうじゃない本気なの」
「俺が原因?」
彼は目の前の彼女に尋ねると
「正解でもあり不正解」
「どういうことだ?」
「実は金田一さんから、留学の話を持ちかけられたの、今ララライは休業中で金田一さんも謹慎しててね」
「それで?」
「うん、それでね活動の場を失ったメンバーを見て、色んな所に働きかけてくれたの」
アクアは数日前に出会った彼のことを思い出した
「なるほど、みたさんがモデル撮影の現場に居た訳だ」
「金田一さんが、私に『大事な時期にお前の足を止める訳にはいかない、他のメンバーと一緒に海外へ行ってみないか?』って」
「その為に?」
「当然、長く滞在すると思う」
「じゃあ待・・」
「いいの待たなくて」
「え?」
黒川はアクアの顔を真っ直ぐ見据えて
「アクアは優しいから、『帰ってくるまで待つ』って言ってくれる。私もその言葉を期待してた。でも思ったの」
「何を?」
「アクアに甘えてはいけない、縛り付けてはいけないって」
「おい!」
「アクアなら『甘えてもいい』って言う、でもそれじゃ駄目なの、私が止まってしまって成長出来ない。だからこれは私自身のケジメなの」
「何を言っても決意は揺るがないか」
「ゴメンね」
「何を謝る。あかねは次のステージに向かうだけ、そこに俺がいないだけだ」
「最後まで優しいんだね、罵倒してもいいのに」
「あいにく、女の子を罵る言葉は俺の辞書には無いんでね、それでいつから?」
「2月末までには向かうつもり」
「分かった。世間に向けての謝罪文は俺が」
「それは、私が書いて苺プロに送るわ」
黒川は更に続けて
「アクアなら、絶対自分に非のある書き方をする。そんなことは絶対にさせない!」
「ならその辺は任せるよ」
「あと見送りにも来ないで、来たら絶対に未練が残る」
「強くなったな」
「アクアが強くしてくれたの」
そう言って黒川は離れていった。今生の別れという訳では無いがアクアにとって初めての別れ、彼の心に大きな影を落としたのであった。
「なに勝手にモノローグをつけてやがる、ザイガス」
「おや、気付いていたのかい?」
アクアは後ろの席に座るロリッ娘に対して顔を向けずに言い返した。
「忠告しただろ?これはお前の優しさが招いた罪だと」
「なら、その咎を受け入れるだけさ」
「なんだ、失恋して傷心していると思ったが」
「人は出会いと別れを繰り返して生きていく、それだけだ」
アクアも席を離れて自宅へ向けて歩を進めていく、残ったザイガスは、カップに残った紅茶を飲み干そうとした瞬間
「ボフッ」
彼女の顔面に黒いサッカーボールが直撃し倒れてしまった。ボールを取りに来た色黒の少年は坊主頭と一緒に、何処かへ行ってしまった。
お知らせ
『番組をきっかけに星野アクア氏と、お付き合いさせていただきましたが、演劇の勉強の為に海外留学する為に彼との関係を解消することを決めました。彼は「待ってくれる」と言いましたが、それでは私の覚悟が鈍ってしまい、逃げ道を用意してしまうことで本気で夢に取り組めず、中途半端になると思い、申し出を断りました。彼と付き合い貰った勇気を心に込めて、私は次のステージに旅立ちます。
黒川あかね』
『彼女の意志を尊重する為に、彼女の夢の為に関係を解消しますが、遠い地で頑張る彼女を応援していきます。突然の報告となって申し訳ございません。
星野アクア』
翌日に上記の文章が所属する事務所のホームページに記載され、世間に二人の関係が解消されたことが発表された。アクアに関しては【今ガチ】のメンバーから問い合わされたが、『互いに決めたこと、俺は黒川あかねの意志を尊重する』と言って通話を切った。苺プロでも問い詰められたが、母のアイが
「アクアたちの決めたことに、周りがとやかく言うことでは無い」
と言い切り、それ以降話題になることは無かった。
~陽東高校~
「それにしてもビックリやわ、あの二人が破局やなんて」
教室内で寿みなみは隣にいる星野ルビーに話し掛け
「まぁお兄ちゃんたちが、決めたことだからしょうがないけど」
「人は出会いと別れを繰り返すの生き物なの、それにアクアの文章を読む限り、喧嘩別れという訳ではなさそう」
この会話に不知火フリルも参加してきた。
「やっぱ、お兄さん意気消沈してた?」
「う~ん、別れた直後は大丈夫だったんだけど、しばらくしてからテンションがおかしいというか、情緒不安定というか」
「やっぱお兄さんも人の子やね」
「アクアにも人間らしい所があったのね」
「二人して、お兄ちゃんをなんだと思っているの?」
ルビーのツッコミが入り、フリルが「究極生命体でしょ?」と返答し、みなみが「なにも考えてなさそうやもんね」と言っていた。
「ところでみなみさん、あなたの所にも来ましたか?」
「やっぱフリルちゃんの所にも?」
「えっ?二人ともなんの話?」
疎外感を感じるルビーは話に混ざりたくて問いかけると
「あんな、ルビーちゃんの前で言いにくいんやけど」
「まぁ身内には言いにくいことね」
「どうゆうこと?」
「あんな、アクアはんにアタックする女の子が多いってことなんよ」
「?」
ルビーは頭にクエスチョンマークを浮かべていた
「みなみさん、多分理解してないと思うから1から説明した方がよろしくて」
「そうやね、お兄さんが破局したことでフリーになったやろ、つまり彼女さんがおらんということは、お兄さんの隣が、がら空きということなんよ」
「しかも、破局直後だから傷心のアクアを慰めてしまえば、ゴールインすることも可能よ」
「それを狙って、まずはうちらからコンタクトを取って、お近づきになろうという算段を企てる女の子が多いという訳よ」
二人の説明を聞いて、妹はようやく納得したが
「お兄ちゃんって、そんなにモテるの?」
ありきたりな質問を返した。
「あ~これあれだ、近くにいるから分からないやつ」
「ルビーちゃん、お兄さんのこと知らなすぎやで」
「金髪のイケメンで女性にも優しい、料理も出来て、ノリが良くて、頭も切れる。しかも番組公認の彼女との関係解消で阻む壁は崩壊している」
「たぶん普通科の人たちも、狙ってはると思います」
「そうなんだ」
「アクア!出てきなさい!」
突如、教室の出入口に有馬が登場し、大声でアクアのことを叫び
「どうしたんですか先輩、そんな大声出して」
「どうもこうもあるか、あの二人が破局してから『有馬さんって星野さんと同じ事務所だよね?合わせてくれない?』って何回も聞かれるのよ、私は仲介業者じゃないのよ!」
「お兄ちゃんは今日サボりです」
「はぁ!?」
有馬の気の抜けた声に、フリルはみなみは『やれやれ』といった表情をしていた。
アクアは学校をサボり、あてもなく散策していた。目的地を決めず適当に入った喫茶店でコーヒーを飲みながら読書をしていると
「ここに居たのか?」
「何の用ですか、姫川さん」
劇団ララライの看板俳優でギャンブラーの姫川大輝がやってきて隣に座った
「黒川のことはいいのか?」
「彼女の決めたことです。なら俺は尊重するべきです」
「だが」
「多分、あいつはキッカケがほしかった。それが今回の留学の話を言い訳にして別れる口実にしたかった。知ってます?あいつ嘘をつく時に左手が若干震えるんですよ」
「お前、そこまで知ってて」
「女の嘘に騙されるのも男の役目です」
アクアは姫川から視線を逸らし、青空に浮かぶ飛行機を見つめ、これまでの思い出を消し去るようにしていた。薄情と思えるがいつまでも黒川あかねの幻影に囚われるようにしてはいけない。彼女が自分から離れ新たな道に立つように、アクアも彼女と別の道へ歩を進める。
「分かった。あと1つ連絡というか厄介なことがある」
「またギャンブルでオケラになったんですか?」
「違う、夏の東京ブレイドについてだ!」
姫川は目の前のコーヒーを一気飲みしてから
「まずキャスト陣に大幅な変更がある。お前の刀鬼やメルトはそのままだが、鞘姫役には女優の片寄に決まりそうだ」
「片寄って、片寄ゆらですか?」
アクアの質問に姫川は首を縦に振り
「あと、俺も撮影スケジュールが詰まっていて、舞台に立てない日もある。それに関してはダブルキャストにすると思うが代役が見つかっていない。もしかすると星野お前をブレイドにする案も出ている」
「今回は8月なんですよね。実は特撮映画の撮影が入ってまして、こっちも出れない日があると思います。下手すると高知と東京を毎日行ったり来たりする可能性も」
「星野、お互いのスケジュールを早めに出しておいた方がいいぞ、ギリギリになると1月みたいにマズイことが起きる」
「やるしかないですよ、それが現場に立つ人間の役目です」
出会いと別れ春になれば訪れる。アクアは黒川あかねとの別れを経験し、新たな道へ足を向ける。幸せの形とは人それぞれ、他人からみて不幸と思えても本人が幸せなら関係ない。新年度を迎える若者たちには、どんな未来が待っているのか誰も知らない。
黒川あかねとの破局になります。この作品を立ち上げた時は黒川あかねとのハッピーエンドを考えましたが、物語を進めていくとマクロスにおける『リンミンメイ』になってしまいます。ベタな展開なら空港にアクアが現れて、抱き合って「待っているから」が最適なんですが・・・
なお姫川との会話で発したキッカケですが、元ネタは伊集院光さんのエピソードからの拝借で、ゲストに来た立川談志師匠に「談志師匠の落語を聞いて落語家を辞める決意が出来た」と言いましたが「それは違うだろ、お前さんは辞めたいと思ってた。そしてたまたま聞いたの俺の落語で、それを理由にすれば建て前になる」から使わせてもらいました。
次は番外編を2本ほど書いていきます。感想を書いていただき本当に感謝しています。執筆活動の励みになります。